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 サキのトマト煮は少し塩気が強かったが、美味しかった。

「思ったより、カットトマトってしょっぱいんだね」
「使う量半分くらいで良かったかもな」

 買ってきたケーキを食べながら、テレビを見る。つけていた番組は当たり障りのない恋愛ドラマで、少し退屈だが話しながら見るにはちょうど良かった。
 両方ともショートケーキにしたが、それで良かったかサキに確認をする。

「私はガトーショコラが好き」
「じゃあ、今度はそれで」
「ショートケーキも好きだけど」
「うん」
「兄さ……あんたは?」

 何故、言い直した。指摘すると怒る気がしたので、気づいていないふりをする。

「僕はケーキなら何でも。強いていうなら生クリームが多いやつが好きだ」
「へー……子供みたい」
「失礼だな」

 抑揚のない単調な会話だが、不思議と楽しさを感じた。
 兄妹なのに、お互いの好みすら知らない。冷めた関係だった。
 テレビの俳優と女優がキスをする。サキが言うには、その女優には一部熱狂的というか狂信的なファンがいることで有名で、「今頃ネットは荒れてるわ」とぼやいた。
 何気なくサキの顔を見ると、同じタイミングで彼女もこちらを見た。顔を見合わせて、笑い合って、キスをした。次第にキスは深くなり、サキをソファに倒す。
 シャツを脱がし、乳房の先にキスをする。パンツを下ろし、ショーツを脱がすと、恥部が当たる部分に染みがあった。すでに湿っているらしい。
 僕も服を脱ぐ。サキの上に覆い被さり、優しく唇を重ねる。頭を撫でると、彼女は目を細めた。

「兄さんって……」
「その呼び方くすぐったい」
「……やめる?」
「いや……好きだよ」

 言って、自分の顔が赤くなるのを感じる。ごまかすために、先を促す。

「で、何?」
「私のこと避けてたのって、お母さんたちのセックス見たからでしょ?」

 ザリッと砂を噛むような不快感を覚える。どうして、このタイミングでそれを言うのだろう。
 それに、知っていたのか。

「お父さんから聞いた」

 僕は今どんな顔をしているだろう。中学生のころ書いた詩を朗読される気分というのはこういうものかもしれない。

「あのね、私がここに来た理由。お母さんのセックスを見たからなんだ」
「いい年して……」

 しかめっ面の中に苦笑いがあった。なぜだか、以前あった嫌悪感はなく、微笑ましさを覚えた。サキと身体を重ね、言葉のない和解をしたからかもしれない。

「まあ、大人の男女なんだし、そういうこともあるだろう。仲がいいってことだ」
「……」

 だが、サキの表情を見て、自分の想像しているものが見当違いのものであることを知る。

「誰としていたんだ、あの女」

 サキは顔をくしゃっとさせた。彼女が泣き出すときの顔。今も変わらない。
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