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休日、サキと出かけることにした。
サキの肌が異様に白いと思ったら、普段から学校と塾以外の外出は希なのだという。
「友達いるのか?」
「いるよ、ちゃんと。ネットに」
サキはけろっとしていた。
世代の差なのだろうか。僕の年代からすると、インターネットの付き合いなんて、いかがわしいものしかないという考えが当たり前だ。
「兄さんはいるの?」
「…………」
ともかく、出かけることにした。
場所はサキが行きたい場所。彼女のスマートフォンの案内に従って、そこを目指す。
サキが出不精なのは本当らしく、たどり着いたのは近所の喫茶店だった。
「入ったことある?」
「ない」
「モトカノとも?」
口コミで人気のカフェらしい。
「あいつはもっとお高いところが好きだったから」
「へー」
アヤについての話題を出すとき、サキの顔は乾いている。嫉妬や憎悪という感情の波を感じさせない。
話の種としているだけで、本心では興味がないのかもしれない。僕とサキはお互いのことを何も知らない。だから、仕方なくモトカノについて聞いているのだろう。
僕も、サキのモトカレについて、興味は薄い。互いの過去に興味がない男女というのは、一般的な恋人らしくない。
まあ、僕とサキは兄妹なのだが。
「入ろうよ」
「ああ、うん」
人気なのは本当かもしれない。
外観は民家と変わらない目立たないものだったが、内装が凝っている。薄暗く、オルゴール調の音楽が良い雰囲気を出している。間仕切りが多く席が細かく区切られているから、他の客と顔を合わせることもない。
コーヒーの値段はやや割高だが、場所代込みで考えるといいデートスポットだ。
「ケーキセット二つ。……何がいい?」
「紅茶とチョコ系のケーキ」
「ガトーショコラが好きなんだよな? 紅茶は?」
「さあ、あまり詳しくないし……」
僕も知らない。
「私の好きなもの当ててみて」なんていう恋人的なやり取りもない。僕はそういうものを面倒に思うから、ありがたいのだけど。
家からここに来るまで、手を繋ぐこともしなかった。何度かそれを試みようと、互いの手が触れることはあったが、結ばれることはなかった。
もし、知り合いに合ったら……。そういう気持ちが、外での僕たちの物理的な距離を広げる。
サキにはそれっぽい名前の紅茶を選んで、僕はブレンドとショートケーキを注文する。まもなく出されたトレーを受け取って、席に着く。
上手い作りになっているもので、席同士が死角を作り合っている。
「ここのカフェ、何ていう口コミで有名か分かる?」
「ケーキが美味しい?」
ショートケーキは無難に美味しい。
「キスがしたくなるカフェ――だってさ」
咽せた。
お洒落な音楽と僕の咳が不協和音を奏で、何とか「キスするのか」と真顔で聞くことができた。
「できなさそう」
「何で?」
「だって、エッチしたくなるし」
サキは紅茶の入ったカップを口に持って行く。「甘酸っぱい」と頷いた。
湿ったサキの唇を見る。
サキとのキスを想像すると、必ずそれは色欲にまみれた深いものなのだ。舌を絡ませ、互いの唾液を口の中で混ぜ合わせる。汚らしいものだ。
それは、このカフェには似合わない。
「私たち、恋人ではないよね」
「そうだね」
コーヒーをブラックのまま口をつける。
僕たちは兄妹だ。
だから、外で手を繋ぐのを躊躇うし、愛を確かめ合う唇同士が触れ合うようなキスはできない。
この前、仕事に行くときにサキとのキスを躊躇ったのを思い出す。あのとき、僕がサキにしようとしたものは、そういう「恋人のキス」だった。
「汚い関係よね」
サキは冷めた口調とは対象的に色のある表情を浮かべた。
指で僕のショートケーキのクリームをすくい、僕の口へと持って行く。サキの指を口に含むと、彼女はそれを引き抜いた。
唾液と生クリームが交じった白濁色のものが、サキの指に光る。彼女はそれをキャンディを舐めるようにしゃぶった。
サキの肌が異様に白いと思ったら、普段から学校と塾以外の外出は希なのだという。
「友達いるのか?」
「いるよ、ちゃんと。ネットに」
サキはけろっとしていた。
世代の差なのだろうか。僕の年代からすると、インターネットの付き合いなんて、いかがわしいものしかないという考えが当たり前だ。
「兄さんはいるの?」
「…………」
ともかく、出かけることにした。
場所はサキが行きたい場所。彼女のスマートフォンの案内に従って、そこを目指す。
サキが出不精なのは本当らしく、たどり着いたのは近所の喫茶店だった。
「入ったことある?」
「ない」
「モトカノとも?」
口コミで人気のカフェらしい。
「あいつはもっとお高いところが好きだったから」
「へー」
アヤについての話題を出すとき、サキの顔は乾いている。嫉妬や憎悪という感情の波を感じさせない。
話の種としているだけで、本心では興味がないのかもしれない。僕とサキはお互いのことを何も知らない。だから、仕方なくモトカノについて聞いているのだろう。
僕も、サキのモトカレについて、興味は薄い。互いの過去に興味がない男女というのは、一般的な恋人らしくない。
まあ、僕とサキは兄妹なのだが。
「入ろうよ」
「ああ、うん」
人気なのは本当かもしれない。
外観は民家と変わらない目立たないものだったが、内装が凝っている。薄暗く、オルゴール調の音楽が良い雰囲気を出している。間仕切りが多く席が細かく区切られているから、他の客と顔を合わせることもない。
コーヒーの値段はやや割高だが、場所代込みで考えるといいデートスポットだ。
「ケーキセット二つ。……何がいい?」
「紅茶とチョコ系のケーキ」
「ガトーショコラが好きなんだよな? 紅茶は?」
「さあ、あまり詳しくないし……」
僕も知らない。
「私の好きなもの当ててみて」なんていう恋人的なやり取りもない。僕はそういうものを面倒に思うから、ありがたいのだけど。
家からここに来るまで、手を繋ぐこともしなかった。何度かそれを試みようと、互いの手が触れることはあったが、結ばれることはなかった。
もし、知り合いに合ったら……。そういう気持ちが、外での僕たちの物理的な距離を広げる。
サキにはそれっぽい名前の紅茶を選んで、僕はブレンドとショートケーキを注文する。まもなく出されたトレーを受け取って、席に着く。
上手い作りになっているもので、席同士が死角を作り合っている。
「ここのカフェ、何ていう口コミで有名か分かる?」
「ケーキが美味しい?」
ショートケーキは無難に美味しい。
「キスがしたくなるカフェ――だってさ」
咽せた。
お洒落な音楽と僕の咳が不協和音を奏で、何とか「キスするのか」と真顔で聞くことができた。
「できなさそう」
「何で?」
「だって、エッチしたくなるし」
サキは紅茶の入ったカップを口に持って行く。「甘酸っぱい」と頷いた。
湿ったサキの唇を見る。
サキとのキスを想像すると、必ずそれは色欲にまみれた深いものなのだ。舌を絡ませ、互いの唾液を口の中で混ぜ合わせる。汚らしいものだ。
それは、このカフェには似合わない。
「私たち、恋人ではないよね」
「そうだね」
コーヒーをブラックのまま口をつける。
僕たちは兄妹だ。
だから、外で手を繋ぐのを躊躇うし、愛を確かめ合う唇同士が触れ合うようなキスはできない。
この前、仕事に行くときにサキとのキスを躊躇ったのを思い出す。あのとき、僕がサキにしようとしたものは、そういう「恋人のキス」だった。
「汚い関係よね」
サキは冷めた口調とは対象的に色のある表情を浮かべた。
指で僕のショートケーキのクリームをすくい、僕の口へと持って行く。サキの指を口に含むと、彼女はそれを引き抜いた。
唾液と生クリームが交じった白濁色のものが、サキの指に光る。彼女はそれをキャンディを舐めるようにしゃぶった。
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