カソレン

えすけ

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1話

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こんなことを言うと、ジャニーズファンに怒られるかもしれないが、僕は「嵐」 や「NEWS」といった男性アイドルたちの顔を、あまり格好良く思ったことがない。
 あの程度の顔であれば、僕はよく鏡で見ている。それもしつこいように、毎日だ。「もういい加減にしてくれ」と、鏡を拳で殴りつけたいくらいに。
 自分で言うのはどうかと思うが、僕は「イケメン」だ。
 イケメンが「イケてるメンズ」の略であることは今さらなので、説明するまでもないだろう。つまり、僕は「イケてる」のだ。
 自分の顔を事細かに描写するのは恥ずかしいし、あまり意味のあるものとは思えないので割愛したい。
 一般の女性が「イケてる」と思う男性の顔が、つまり僕のそれであると言えば、簡単に理解してもらえるだろう。
 僕は性格もかなり良かった。
 他人の細かい変化には敏感だったし、その場面に適切な気遣いもできた。それほどトークに自信があるつもりはないのだが、僕の言葉にはみんなが微笑みを浮かべる。
 同性や異性の友人も多く、その全てが僕を慕っていると言って良かった。
 勉強も運動も特別得意に感じたことはないが、成績はいつも全教科「十」だ。
「人間偏差値があるとすれば、お前は八十くらいだろうな」とクラスの友人の一人に言われたことがある。彼は僕に「偏差値八十男」という変なあだ名をつけた。確かに僕の名前は「矢藤」なので、そのあだ名はあながち間違ってはいない。ただ、長ったらしいことが原因で、それは定着しなかった。
 もちろん、僕は全てにおいて完璧なわけではない。僕には忘れ癖があり、ときどき教科書を忘れて先生に叱られた。
 しかし、よく分からないが、そういう僕の完璧でないところがさらに魅力を増しているらしい。ちなみに、教科書は全て暗記しているので、忘れても問題はない。
 そんな僕は当然と言ってしまっていいのか、とてもモテた。女性はもちろん、男性に対しても。女性から「矢藤くんの遺伝子が欲しいわ」と言われる一方で、男性から「掘らせてくれ! もしくは掘ってくれ!」と言われるのが、僕の日常だ。
 しかし、僕は自分がモテることにほとほと困っていた。僕は恋愛対象として女性に興味がなかった。もちろん男性にも興味がない。その間の存在は論外である。
 僕は生まれつき「恋愛不能」というやつだった。いわゆる、人を愛することができない残念な人間だ。
 自分が誰かと付き合っている姿が、想像できない。他人の交際話を聞くことはそれなりに面白いが、自分が実際に交際してみた場合を考えると、どうにも面白いものに思えないのだ。
 だから、女性や男性から彼らが胸に抱えている僕への熱い愛について語られても、残念ながらいまいちピンと来なかった。
「君自身があまりに人間としてできすぎているためか、他人に求める理想が高いのだろう」とスクールカウンセラーは僕を診断した。
 それは間違いだと思う。僕は他人に何も求めていない。


 ある日、僕は下校途中の電車で山田という同じクラスの女子生徒と、一緒になった。僕と山田は帰る方面が一緒のためか、たまにこうして二人で帰ることがある。
 山田との付き合いは、高校二年生のときから。つまり、今年同じクラスになってからで、それまで僕たちは口を聞いたこともなかった。だけれども、僕はその前から彼女のことをそれなりに知っていた。
 山田は下の名前を「華子」という。二つ合わせて「山田華子」。全く持って普通の名前だ。もし、「つまらない名前ランキング」が存在するなら、彼女はかなり上位にいるかもしれない。
 ただ、彼女は美人だった。
 顔の造形は精巧に作られた人形のように美しい。肌は透き通るように白く、とても生きた人間のものとは思えない。腰まで伸びた髪は漆黒で、絹のような艶がある。
 真っ当な男であれば、彼女を一目見た瞬間に襲い掛かりたくなり、二目見た途端、あまりの美しさに性欲を失ってしまうだろう。それは誇張が過ぎる表現だが、それくらい山田は美人なのだ。
 山田は高校に通いながらモデルをやっているらしい。
 しかし、紙媒体で彼女の美しさを全て表現することは、無理であるように僕には思えた。直に見る以外の方法で山田の美貌をそのまま表現するとしたら、現代の科学技術はあまりにも力不足だ。
 山田と僕は学校ではあまり話さないが、帰りの電車ではいくつか会話を交わす。その内容は「雑談」と呼ぶに相応しく、「ら抜き言葉について」「最近の魔法少女ものの方向性」「サンタクロースの捕獲の仕方」「ゴキブリホイホイに引っかかったゴキブリの心情」など様々だ。
 この日の話題は「男女交際について」だった。
 ちょうど新春のオリエンテーションで、お祭りにテンションを上げたある女子生徒が三股を企み、ものの見事に失敗した、という噂が話題となっていたからかもしれない。
「矢藤くんは男女交際について、どう思う?」 
 どうも思わない、と僕は素っ気なく返した。 
「『どうも思わない』」山田は僕の言葉を面白そうに繰り返す。「そんなことないでしょう。大抵の男子高校生は私たちの年になると、猿みたいにセックスのことばかり考えるものじゃないのかしら。もしかして、矢藤くん不能なの?」
「週に三、四回はインターネットで拾ったアダルト画像で自慰をしてるよ」
ため息をつく。
「だけど、僕には恋愛とか、男女交際について興味がないんだ。つまり、僕は『大抵』じゃないんだろう」
「あら、それはどうして?」 
「分からない。一番しっくり来る理由は『めんどい』からかな」
 正直、『もし、現実に僕の隣に恋人がいたら』ということを考えるだけでうんざりした。その理由はどうにも分からないが、僕にとって「恋人」は生理的に受けつけないものらしい。
「奇遇ね。私も恋愛ができないの」
「君の場合は仕事でダメなんだろう? 事務所から『恋人は作るな』って言われてるとかで」
「違うわ。矢藤くんと一緒よ。『めんどい』の」
 山田は優しく微笑んだ。
「矢藤くんって、とってもモテるでしょう?」
「山田も相当モテるんじゃないのか?」
「ええ。先月は三十一人の男女に言い寄られたわ」
「一人負けた。僕は三十人の男と女からラブレターをもらった」
 僕と山田は打ち合わせをしたかのように、同時にため息をつく。
「僕たちにとって『モテる』っていうステータスは何のプラスでもないよね。鬱陶しいだけだし」
「同感よ。誰か代わってくれるなら、今すぐ代わった欲しいくらいよ。どうにかならないかしら……」
 すると突然山田は神妙な表情で僕の顔を見つめ始めた。何かついているのだろうか、と電車の窓ガラスに映った自分の顔を確認するが異常はない。
 いつも通りのイケメン顔だ。
「いっそのこと、私と矢藤くんが付き合うっていうのはどうかしら?」
「何の冗談だ、それは」
 僕は思わず失笑してしまう。山田の提案があまりにも飛躍したものだったからだ。
「そうでもないわよ。モテすぎて困る男女が付き合うことで、周囲を諦めさせるなんてことは、恋愛小説の王道じゃないかしら」
「そういえば、僕もそういう話は何度か読んだことあるな。初めは形だけの付き合いなんだけど、カップルは徐々に本当の愛を知っていくんだろう?」
 僕は山田をまじまじと見た。山田も僕をじっと見た。
 僕たちはそれぞれの頭の中で、二人が実際に付き合うことを想像する。
「ないな」「ないわね」
 すると、山田はむっとしたのか、頬を膨らませた。頬を膨らませるという行為は美人にやらせても、中々可愛らしい。普通の人がやったら、何というか、みっともないけれど。
「何よ。私じゃ不満だって言うの?」
「怒るなよ。今のはお互い様だろう?」
「別に怒ってないわ。ちょっと言ってみただけだし」
 その言葉通り、山田はすでに澄ました顔をしていた。
「でも、矢藤くん。今のはちょっと女心が分かってないわ」
「失礼。山田は飛びっきりの美人だと思うよ。キング・オブ・ビューティだ」
 ものすごく陳腐な物言いだったが、山田は「矢藤くんくらいのイケメンに言われると、悪い気はしないわね」と満更でもなさそうにうなずく。
「たぶん、僕たちはいくら相手の顔が良くて性格が良くても、その人を恋人にしようとは思わないんだろう」
「と言うと?」
「山田は自分自身のことが大好きかい?」
「大好きよ。愛してると言ってもいいわ」
「僕もだよ。つまり、僕たちは自分が好きすぎるあまり、他人を必要以上に寄せ付けるのを嫌うんだろう」
「なるほどね」山田は唇に人差し指を当ててうなずく。「距離の問題かしら。友達までそうでもないけど、恋人となると心も身体もぐっと距離が近づくものね。それが許容できない私たちは、ある種の『人間嫌い』なのかもしれないわ」
「つまるところ、僕たちは一生恋人ができないんだろう」
 別にそれでも何の問題もないけど、と僕は付け加える。
「恋人がいないから寂しい、というのは酷い偏見だと思うの」
「全くだ」
 僕は同意する。
 ただ、モテすぎる今の問題をどうにかして解決するには、やはり恋人を作るのが一番なのかもしれない。そう思うと気が重くて仕方がない。



『おっはよう、私のダーリン。ちゅっちゅっ』
 朝、僕は山田のわけの分からない電話で目を覚ました。目覚ましは六時半にセットしているのだが、それよりも三十分早い。
「…………何?」 
 自然と僕の声は不機嫌になる。
 初めは山田にも他の友人のように気配りをして接していたのだが、この一週間でどうでもよくなった。遠慮がなくなったのだろう。
『何って、モーニングコールよ。知らないの?』
「やめてくれ。そんなことされると、僕に恋人ができたみたいじゃないか。寒気がするよ」
 僕は布団の中で本当に身震いをした。
『恋人ができたみたいじゃなくて、できたのよ。まさか忘れたの? ショックだわ。付き合ってることを忘れるなんて』
 確かに僕はよく物忘れをするが、そんな重大なことを忘れるほど愚かではない。手の甲にちゃんとメモもしてある。
 それによると、
「僕と君は付き合っていない」
『付き合ってるわよ。付き合ってないけど、付き合ってるの』
「その通り。僕と君は付き合ってるけど、付き合っていない」
『そうよ。ちゃんと理解できているみたいで安心だわ、矢藤くん。それはそうと、次の日曜日、久しぶりに仕事がオフになったの。その日にデートに行きましょうよ』
「行かない。デートに行くのはルール違反だ」
『分かってるわよ。行くけど、行かないの』
「本当に分かっているのか?」
『もちろん分かってるわよ』
 ふふふ、と山田は笑う。何だか彼女はとても楽しそうだ。僕はというと、山田に元気を吸われたように憂鬱だった。 
『いいわね、カソレンって』 
「本当かよ。僕はちょっと、後悔気味だ」 
『残念。クーリングオフ期間は過ぎたわ』 
 じゃあ、ちゃんとデートの予定立てておいてよね、ばあい、と言って山田は電話を切った。
 僕も夢の国へ、ばあい、と旅立ちたいところだったが、今日も学校である。ガッデム。



 電車で「男女交際」について山田と話したとき、結局僕たちは「付き合う」という結論には至らなかった。
 もし、「矢藤と山田が付き合っている」という嘘を周りにつくとしても、それを工作するために実際にデートをしたりしては本末転倒だからだ。
 だというのに、その一週間後の今、どうして僕は山田にモーニングコールをされるなんて状況になっているのか。そして、日曜日にデートをすることになってしまったのか。
 嘆かわしい事件の発端は、ある校内放送だった。


『二年C組の矢藤くん。至急、「倉山部」部室に来てください』
 次の日の放課後、教室でクラスメイトたちと、僕の席を囲んで談話をしていた。その僕の耳に、あまり好ましくない単語が届く。その瞬間、今まで笑顔だったクラスメイトたちの顔が、一斉に引きつる。
「ええっと……」
 僕は本気で頭を抱えたくなった。だけれども、必要以上にクラスメイトたちを不安にさせるのも気が引けたので、顔に笑みを浮かべて席から立ち上がる。
「ちょっと呼ばれたから行ってくる」
 すると、クラスメイトたちは、僕を鬼気迫る顔で引きとめようとした。
 彼らの口からは僕が部室に行くと、「解剖されて内臓を干物にされる」とか「紅茶に媚薬を盛られて手足を縛られる」とか「制服をひん剥かれて裸体をスケッチされる」とか、そんな言葉が飛び交った。
「大丈夫大丈夫。倉山先輩はそんなおっかない人じゃないって」
 僕がそうなだめると、今度は「何か弱みを握られてるの?」と本気で心配される始末だ。
 ともかく、呼び出しを受けた以上、それに従わなかったことを考える方が怖い。僕はクラスメイトたちの制止を振り切って教室を出た。

『倉山部』の部室は校舎から離れた部活棟の最上階、五階にある。部活棟にある部室で唯一『倉山部』に設備されているという最新式のエアコンは昔、電気会社の社長から贈呈されたものだという噂だが、その真偽は定かではない。あまり興味もない。
『倉山部』と聞いて、僕の学校ではない人は「登山部か何か?」と首を傾げるが、それはかすりも当たっていない。
『倉山部』の「倉山」は生徒の名前だ。
 倉山真。所属は三年B組。体育の時間以外も学校内外問わず、指定のジャージを着ているという変わり者である。
 一応女子生徒らしいが、太い眉とごく薄の胸のせいで、性別が非常に分かりにくい。声も太く一人称も「俺」であるため、初見の人は男だと見間違うこともあるらしい。
「らしい」というか実際、僕は昨年度の半分の間、彼女を男だと思ってすごしていた。
 そして、倉山先輩は『倉山部』の部長であり、唯一の部員だ。つまるところ、『倉山部』は彼女一人の、彼女のためだけの部活だ。活動内容は本人いわく、「人類の役に立つこと」。意味が分からない。
 そんな部活がどういう経緯で学校に認められ、挙句部費を採取しているかは一切謎だし、誰も無理に知ろうとは思わない。「触れるべからず」というのが倉山先輩に対する全校生徒および教師たちのスタンスだからだ。
 いつだったか、野球部とサッカー部が結託して、エアコンの設備された『倉山部』の部室を乗っ取ろうとしたことがあった。その結末として、どういうわけか、ふさふさだったサッカー部の頭が五厘刈りになり、野球部の坊主頭は見事なベッカムヘアに変わっていた。
 つまり、学校にとって倉山先輩は核兵器のようなものなのだ。
 まさに「触るな危険」である。
 だけれども、僕の一年の最後、倉山先輩の手伝いをした報酬として、彼女について一つの質問をしたことがあった。今思うと身の程知らずの自分の行為にぞっとする。
「倉山先輩が卒業したら『倉山部』はどうなるんですか? やっぱり廃部ですかね」
「いや、そんなことはないぜ」倉山先輩は首を振る。「これはここだけの秘密だが、『倉山部』は世襲制なんだ。つまり、俺がいなくなれば次の新しい『倉山真』がこの部に所属するだけのことだ。ちなみに、俺は三代目の『倉山真』だったりする」
 僕は混乱した。
「え、じゃあ倉山先輩って、本名は『倉山真』じゃないんですか?」
「どうかね。質問は一つまでという約束だから、これ以上は答えられないな」
 倉山先輩はニヤリと口を歪ませて、そう言った。そこはどや顔をする場面だったのか、未だに僕は分からない。

 部室棟にエレベーターはない。僕は自分の足で五階までの階段を登ると、『倉山部』の部室のドアをノックする。
「入れ」
 聞き覚えのある、ハスキーな声が部室から響いた。僕はドアを開ける。
 中に入るとエアコンをガンガンに効かせているのか、鳥肌が立つほどの冷気が僕を襲った。「人類の役に立つこと」を活動内容とする『倉山部』は地球にはあまり優しくないようだ。この部活は人にも優しくないのだが。
 部室に備えられている客用のソファには先客がいた。美しい黒髪の女子生徒、山田だ。彼女はやはり寒いのか、身体を抱くように両手を胸の前で交差して震えている。
 それを指摘してみると、「あなたの作り笑顔の方が寒いわね」と辛らつなコメントが返ってきた。山田こそなかなかに冷たい。
「それは置いといて、矢藤くん。さっきぶりね」
「やあ。なんで山田がここにいるんだ?」
「依頼があったからに決まってるだろう」
 答えたのは倉山先輩だった。
 彼女は窓際のデスクに足を乗せ椅子に座り、踏ん反り返っていた。とても客を迎える態度とは思えないが、それはいつものことなので、僕は気にしない。
 というか、さらにどうでもいいが倉山先輩を目の前にして「彼女」と表現することに、若干抵抗を憶えるのは僕だけだろうか。
 さておき。
「まあ、昨日の今日だし、どんな依頼内容かは分かるけど……」
 よりによって倉山先輩に相談するなんて、山田も人を見る目がない――というわけでもないか。倉山先輩は有能だ。
 ただ、チョイスする人材としては最悪に近い。倉山先輩に依頼した内容は必ずと言っていいほど「成功」はするのだが、その代償は高いのである。
「話が早くて助かる。矢藤、お前、山田ちゃんの彼氏になれ」
「……その話は昨日『なし』ということになったはずですけど」
 どういうことだ? と僕は山田に視線を寄越す。
「本当に付き合うわけじゃないわ。『付き合う振りをしましょう』ってことよ」
「でも、そのためにデートをしたりしてたら本末転倒じゃないかって――」
「ふん。今日の矢藤は頭の回転悪いな」
 倉山先輩がふんぞり返ったまま言う。
「つまり、そのデートなんかの交際話も全部嘘にしようぜってことだ。それなら何の問題もないだろう?」
「なるほど」と僕は一瞬納得しかける。「いや、そんなのすぐバレるに決まってます」
「そりゃあ、即興の適当な嘘で固めればボロが出るに決まってる。だったら緻密な嘘を作ればいいだけの話だ。まあ、『仮想恋愛』の詳しい内容や対策については、山田ちゃんに伝えてあるから、彼女から聞いてくれ。俺、同じ説明を何度もするのは嫌いなんだ」
 人をいきなり呼んでおいてその不親切はないんじゃないか、と思うが、そんなこと倉山先輩に言っても、どうせ無駄なことなのでやめておいた。
 これは妥協ではなく、慣れであると言い訳しておく。
 僕はソファの山田を見る。にっこりと微笑みを返された。どうやら、山田は倉山先輩の「提案」に乗り気らしい。
「要するに、僕と山田が『嘘のカップルになればいいわけですね。それで、嘘の交際をすればいい。そうすれば、僕と山田がこれから告白されることは極端に減るだろうってことですか」
 僕の解釈に二人はうなずいた。
「その通りよ。頑張りましょうね、矢藤くん」
「まあ、せいぜい頑張れ。俺の『山田ちゃんサイン入り写真集』のために」
「アンタの目的はそれか」
 僕はため息をつく。
 確かに、僕と山田が付き合っているという噂が流れれば、告白されるという面倒ごとは少なくなるだろう。しかし、そのために隠蔽工作をしなければならない。これでは面倒なことの方向性が変わっただけではないのだろうか。
 ただ、倉山先輩に逆らうことが怖いことは彼女の過去の実績が物語っている。
「わかりましたよ。やればいいんでしょう、『カソレン』とやらを」
 一瞬眩暈がしたのは、寒さのせいだろうか。
 こうして、僕と山田は嘘の恋愛、「カソレン」を始めることになった。
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