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第二話 なんだこれ

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 ……おっといけない。
 眠っちまってた。腹がいっぱいになると眠くなるのは、どうやら人間だった頃と変わらないらしいな。
 しかしながら、周りの環境は全くと言っていいほど違う。
 寝てたら食われる、が当たり前な自然界なのだ。
 実感湧いてないくせに偉そうに言ってゴメンナサイ。

 腹を見てみると、ぷっくりと膨れ上がっていた胴体は少し縮んで、どうやら消化が進んできているようだった。
 少し動いてみても、食べる前と動きは大して変わらない。

 ふむふむ。これならもう動き回れそうだ。やっぱりご飯を食べて元気が出たのだろうか。ピンクネズミに感謝。

 さて。ここは異世界なのだし、今のところ俺に目的のようなものは無い。
 適当に異世界森林浴を楽しませていただくとしますかね。

***

 そういや、ラノベの中で転生したといったら、主人公は大抵チート能力みたいなものを持っているイメージがあるけど、俺って平凡な能力しか持ってない気がするな。
 特に攻撃力が高いわけでもなければ、目立って素早いわけでもないようだし。
 身体もムニムニしてて柔らかいから、防御力最強ってこともない。
 ……うーん。やっぱり何かしらのチート能力は欲しい。

 あっ、思い出した。
 こういう世界に来たらお決まりといってもいいような、主人公っぽい振る舞いがあったな。
 そうだ。ラノベ主人公のするようなことの真似をしておけばきっといつか俺も、チート能力に巡り合えるに違いない。まずは小手調べにこれだ。


ステータスオープンッ!(迫真)


 …………ふぅ。
 なんやねん、くそっ!
 ……まあそうか、ゲーム世界じゃないしな、ここ。ステータスオープンって唱えてステータス画面が視界に開くなんていう、便利な機能は無くて当然か。

 よし、それならば、鑑定スキルってのはどうだ?
 よく読んでいたラノベ類では、主人公が鑑定を使っていろんなものの特性を見極めて無双する、みたいなのが多々あった。
 最初の獲物はお前だ、そこで風に揺れている雑草よ。
 お前のプライバシーを真っ裸にして、ピーをピーにしてピーしてやる。


鑑定ッ!(迫真)


 …………ふぅ。
 ダメだ。完全にだんまりさんだね。
 異世界だっていうのに、まったく、呆れるほどに夢が無い。
 そこらへんに生えている雑草なんかは、見た目からしてほとんど前の世界のものと変わらないし。鑑定する価値も無さそうだ。

 あーあ。別に死ぬことさえなけりゃ、いいんだけどさ。チート能力とか無くても。
 ただね。やっぱり元中学生として、そういったものへの厨二な憧れってのは、あるんだよなー……。

***

 食べ物を探したりしながら辺りを這いずり回っていると、だんだんと昼が終わり始めて、真っ青だった空が橙色に移り始めた。
 地球にいた頃には、こんなに澄んだ空なんか、田舎に行った時くらいしか見られなかったな。この景色を見られるだけでもかなり、価値のある転生なのかもしれない。

 しかしながら、日が暮れ始めたことに関して、そんなセカ〇ザじみた余裕ぶったことも言っていられない。

 今日はまだヘビになって一日目。

 俺の種族に対して、夜行性の天敵がいる可能性というものは、まったくもって否定できない。
 というか、俺って弱いから恐らく朝でも昼でも夜にでもいる。
 俺がどんなに楽観的であろうと、ここは厳しい自然界。油断したら終わりだろう。

 ここまで、目立って強そうな敵には一度も出会っていないけど、いつ怖い目に遭うか分からない。
 夜の間は、より一層気を付けて、茂みの中とかを慎重に進んだほうがいいな。
 よし。油断なんてしませんとも。

***

 ん?ありゃなんだ?
 夜も更けてきて、あたりは相当な暗さなはずなんだけど、森に住む魔物の特性上か、夜目が利くみたいで周りはよく見える。
 あの不思議な光る物体も、人間の視力では見つけられないレベルの輝きしか発していないのかもしれないけど、ちょっと気になるな。
 興味本位でむやみに近づくのが危ないっていうのは分かるけど、辺りに魔物の気配は感じないし、行ってみるか。


 ふむ。
 何かの巣みたいだな、ここ。
 集めた木の枝で丸く皿のようなものが地面に設置されていて、その中には大事そうに小さな(俺からすると同サイズ程度なんだけど)タマゴが一つと、例の光る球体が置かれている。
 けっこう腹も減ってきたし……悪いけど、このタマゴは腹の足しにさせていただこう。
 問題はこの変な光るオーブ?だ。
 もしかすると、レアな種類の魔物のタマゴか何かなのかも?
 ピンク色のネズミがそこらへんに居るような世界だからな。光るタマゴ程度で驚きはせんよ。
 よく見れば隣に置いてあるタマゴとも形がよく似てるな。
 よし、このタマゴの親が戻って来る前に、両方食っちまおう。

 俺は周りに本当に誰もいないことを確認し、再び大口を開けて、二つのタマゴを胃の中に収めた。


 うっ……急な違和感が腹にッ!

 なんだっていうんだ……やっぱし光るタマゴなんて変な物を食うべきじゃなかったのか?

 重い腹を引きずり、少し遠くの茂みになんとか逃げ込んで考えているうちに、違和感は激痛へと変わって、俺は意識を失った。

***


「私……精霊…………。コレカラ、イッショ……。」

 ファッ!?
 ……なんだ…………夢か。
 ザ・精霊って感じの見かけをした妖精みたいな奴に夢の世界で挨拶されたわ。
 俺、何してたんだっけ――――ああそうだ、変なタマゴ飲み込んだら調子悪くなって意識飛んだんだった。

 茂みに隠れてたから、巣の主にも見つかってはいないようだ。急に意識を失うなんて危ない危ない。
 腹に目を移すと、タマゴは二つとも綺麗に溶けてくれたらしかった。
 容量の関係で少し膨れてはいたけど、ラクダのこぶみたいなでっぱりはもう無い。
 
 一体何だったんだろうか。腹の痛くなることはよくあってもそこから意識の喪失に結びついた例は初めてだよ。

 そんな考えを巡らせていると、不意に頭の中で、何かが言葉を発した。

<<私……精霊…………。アナタ、認メル。アルカナスキル『皇帝』ノ行使ガ可能。…………はい、ここまではテンプレね。以降普通に喋らせてもらうぜ。よろしく!>>


 …………!?
 ちょ、ちょっと待ってくれよ、ツッコミどころが多すぎて理解が追いつかない。
 一つずつ整理しながら質問しよう。
 浮かんだ疑問は以下の通りだ。

 1.なんで精霊なんかに俺が干渉されてんだよ?
 2.あの光るタマゴと何か関係あるのか?
 3.スキル!?この世界にスキルってあったのか!ビバ異世界!
 4.俺、念願のスキル手に入れたの!?
 5.しかもアルカナスキルって何!?しかも皇帝だってさ!めっちゃ強そうやん、俺ここで早速チート能力手に入れちゃった系男子!?
 6.挨拶よりも先にボケじみたものをかましてくるのは何故?精霊だからそういう喋り方なのかと一瞬信じたよ?

 ……こんなものか。特に3、4、5あたりが大事そうだ。俺の興奮度的に。
 前世ではコミュ障ってほどのものじゃあなかったんだ……初対面の精霊だからって、緊張なんて……。

<<どうしたんだよ、何か言えよ?>>

 ひっ……あ、頭の中で返せばいいのか?

<<はっ、はいぃ!>>

<<よし、良い返事だ。……ところでよ、お前、どういうつもりなんだ?大精霊の宝玉を丸ごと飲み込んでスキルを得ようとしたヤツなんて、見たことも聞いたこともねぇ。お前、魔物にしてはずいぶんと頭が良いみたいだけどよ、精霊の玉には、触れるだけで経験値は献上できるし、能力も手に入れられるんだぜ?>>

 ふむ。分からないことが多いが、あの球はタマゴじゃなくて「大精霊の宝玉」っていうモノらしいな。
 名前からしてかなり重要そうなアイテムだけども……。
 それに、頭が良いとか言われてるけど、大丈夫なのかな?
 転生者だってバレたら何かされるとか無いよね?
 
<<それによ、お前が腹の中で玉を壊しちまったせいで、私はお前の身体に憑りつかなきゃいけないことになっちまった。まったく、弱っちいくせに大胆なことするよな……もう誰にも奪えない、アルカナスキル「皇帝」は永遠にお前のモンだよ。……まっ、私が認めた相手なんだし、大物になるだろうって確信はあるから気にするなだぜ。よし、何か訊きたいこととかあるか?>>

 めっちゃあります。もう色々分かんないんですべて訊かせていただきますわ。

<<はい、精霊様!>>
<<なんだよ……一応大精霊だぞ?>>
<<はい、大精霊様! ええっと、まず……>>
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