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第一話 お払い箱で異世界へ
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「今日呼び出したのは言うまでもない――例の能力者のことなんだが」
能力者――それは「異能」を生まれながらに持ち、同種族においても他とは一線を画す何らかの「力」を持つ存在。
「また新しい異能持ちが生まれたのか……了解した。そいつをうちの世界に転移させてやればいいんだな?」
とある世界の神は、手中でコインをチャラチャラと弄びながら、ニヤリと笑って言った。
「ああ、私が私の世界を破壊する住人を毛嫌いすることは知っているだろう。……まあそういうことだから、連れてきたときにはよろしく頼む」
「ふん、まるで俺の世界を下に見ているかのような言い分だな……まあいい、俺としても自分の世界に新たな強者を招くのは嬉しいことだ。異能持ちとあれば尚更、な。所詮ただの趣味さ、また気楽に頼んでくれよ」
「助かるな。では、しばし待っていてくれ」
二人の神は静かに、その場を去った。
***
トイレを済ませ、見慣れた自分の顔が映る鏡の前で俺は手を洗っていた。
ポケットからタオルを取り出そうとすると、大勢の女性のコーラスのような幻聴が俺の耳を占拠し、急な立ちくらみがして、呼吸が荒ぶり始めた。
心臓が脈打つ度、息のできない苦しみに意識が遠のいてゆく。一体どうしたというのだろうか。
冷や汗が額とこめかみを流れ落ち――俺は地面に倒れ込んだ。
***
気付くと俺は極彩色の空間のもと、宙に浮いていた――重力を感じない……。意識も完全にはハッキリしてこないようだ……。周りがぼんやりとぼやけて見える。
一体ここは……?
「私は貴様のような強者が嫌いだ。……有り余る力は必ずや争いを引き起こす。手間をかけて作り上げた私の世界を壊されてはたまらんのだ。だから貴様には別の世界へと移ってもらおう。その力を存分に発揮できる、お前にはもってこいの場所だ……私は嫌いだがな。オイ、連れてきたぞ。ここからは任せよう」
誰かが俺に語り掛けてきている……。
強者……? 一体何の話だ……?
「いきなりで悪いが、スイ、力が欲しいか?」
別の男の声。力が欲しいかだって……?
ああ欲しいさ、俺は何の取り柄も無いから仕方がないのだろうが――貧乏くさい生活はもうこりごりだ。もっと楽に人生を歩みたい……。
「だったらよ、俺が今からお前の能力を見極めて、使い方を教えてやる。今からお前が飛ばされる所は前とは全く異なる別の世界だが、お前ならきっと上手くやっていけるんだ…………どれ、見てやろう。
…………ほほう、これは……!!」
なんだって……能力だ?
資格なんて何も持っちゃいねえよ……嗚呼、なぜ若い頃もっと勉強しておかなかったのだろうか。思い返すと目まいが酷くなりそうだ。
「驚いたぜ……さすがとしか言えない異能持ちだな、スイよ。
元の世界では土地に魔力が少なすぎて発現しなかったようだが、
鏡の世界っていう名前のバリアーを張ってエネルギーを逆方向に変換・反射する力を持っているみたいだな。
これがあればどんな攻撃をされても大抵は跳ね返せるってわけだ。
こんなに優秀な能力があれば、俺のアシストは特に必要なさそうだな。……ヘヘ、面白くなってきそうだ。
……だがな、そろそろしゃんとしろよ。お前がこれから世話になる世界の神なんだぞ?俺は。いつまでぼーっとしている気だ」
寝ぼけているような状態からだんだん、意識が戻ってきた。俺は大きく伸びをして、聞こえる声に集中する。
「そうだ、それでいい。
ふん、こんなに強い異能持ちを簡単に他の世界へ譲っちまうなんてな……売れば価値のあるモンだろうに……あいつも馬鹿なやつだ。
スイ、そろそろ目が覚めてきた頃だろう。簡単に説明してやる。俺の管理する世界はお前みたいな異能持ちとか、ひたすら体の強い生命体とか、そういうやつしか出入りできない特別な場所なんだ。
……お前は選ばれたんだよ。その中でもきっとお前の異能はトップクラスにレアだろうと思うぞ。今まで聞いたこともないような能力だからな。
ただ、やはり血の気が多い奴らだけが住んでいるからか、うちの世界は最初から今まで大抵は荒れっぱなしでな。他の神から叱られることもあるが、俺としちゃあ楽しい世界だ。俺はいつでもお前を見守っているよ。
最初に殺されちまったら元も子も無いからな。お前は比較的安全な場所に転移させてやるつもりだ。安心してくれ。
よし、それじゃあ、送り出しちまう前に、お前の能力に名前をつけてやろう。
そうだな……お前の世界の言葉とお前の名前から取って、スキル『鏡花水月』ってのはどうだ?……かっこいい名前じゃないか。
じゃあな、スイ=カガミヤ。『鏡花水月』と一緒に、俺の世界を存分に楽しんでくれよ!」
目が痛くなる虹色の世界に脳を蝕まれ――俺の意識は再び、頭の外へ飛び出して行った。
能力者――それは「異能」を生まれながらに持ち、同種族においても他とは一線を画す何らかの「力」を持つ存在。
「また新しい異能持ちが生まれたのか……了解した。そいつをうちの世界に転移させてやればいいんだな?」
とある世界の神は、手中でコインをチャラチャラと弄びながら、ニヤリと笑って言った。
「ああ、私が私の世界を破壊する住人を毛嫌いすることは知っているだろう。……まあそういうことだから、連れてきたときにはよろしく頼む」
「ふん、まるで俺の世界を下に見ているかのような言い分だな……まあいい、俺としても自分の世界に新たな強者を招くのは嬉しいことだ。異能持ちとあれば尚更、な。所詮ただの趣味さ、また気楽に頼んでくれよ」
「助かるな。では、しばし待っていてくれ」
二人の神は静かに、その場を去った。
***
トイレを済ませ、見慣れた自分の顔が映る鏡の前で俺は手を洗っていた。
ポケットからタオルを取り出そうとすると、大勢の女性のコーラスのような幻聴が俺の耳を占拠し、急な立ちくらみがして、呼吸が荒ぶり始めた。
心臓が脈打つ度、息のできない苦しみに意識が遠のいてゆく。一体どうしたというのだろうか。
冷や汗が額とこめかみを流れ落ち――俺は地面に倒れ込んだ。
***
気付くと俺は極彩色の空間のもと、宙に浮いていた――重力を感じない……。意識も完全にはハッキリしてこないようだ……。周りがぼんやりとぼやけて見える。
一体ここは……?
「私は貴様のような強者が嫌いだ。……有り余る力は必ずや争いを引き起こす。手間をかけて作り上げた私の世界を壊されてはたまらんのだ。だから貴様には別の世界へと移ってもらおう。その力を存分に発揮できる、お前にはもってこいの場所だ……私は嫌いだがな。オイ、連れてきたぞ。ここからは任せよう」
誰かが俺に語り掛けてきている……。
強者……? 一体何の話だ……?
「いきなりで悪いが、スイ、力が欲しいか?」
別の男の声。力が欲しいかだって……?
ああ欲しいさ、俺は何の取り柄も無いから仕方がないのだろうが――貧乏くさい生活はもうこりごりだ。もっと楽に人生を歩みたい……。
「だったらよ、俺が今からお前の能力を見極めて、使い方を教えてやる。今からお前が飛ばされる所は前とは全く異なる別の世界だが、お前ならきっと上手くやっていけるんだ…………どれ、見てやろう。
…………ほほう、これは……!!」
なんだって……能力だ?
資格なんて何も持っちゃいねえよ……嗚呼、なぜ若い頃もっと勉強しておかなかったのだろうか。思い返すと目まいが酷くなりそうだ。
「驚いたぜ……さすがとしか言えない異能持ちだな、スイよ。
元の世界では土地に魔力が少なすぎて発現しなかったようだが、
鏡の世界っていう名前のバリアーを張ってエネルギーを逆方向に変換・反射する力を持っているみたいだな。
これがあればどんな攻撃をされても大抵は跳ね返せるってわけだ。
こんなに優秀な能力があれば、俺のアシストは特に必要なさそうだな。……ヘヘ、面白くなってきそうだ。
……だがな、そろそろしゃんとしろよ。お前がこれから世話になる世界の神なんだぞ?俺は。いつまでぼーっとしている気だ」
寝ぼけているような状態からだんだん、意識が戻ってきた。俺は大きく伸びをして、聞こえる声に集中する。
「そうだ、それでいい。
ふん、こんなに強い異能持ちを簡単に他の世界へ譲っちまうなんてな……売れば価値のあるモンだろうに……あいつも馬鹿なやつだ。
スイ、そろそろ目が覚めてきた頃だろう。簡単に説明してやる。俺の管理する世界はお前みたいな異能持ちとか、ひたすら体の強い生命体とか、そういうやつしか出入りできない特別な場所なんだ。
……お前は選ばれたんだよ。その中でもきっとお前の異能はトップクラスにレアだろうと思うぞ。今まで聞いたこともないような能力だからな。
ただ、やはり血の気が多い奴らだけが住んでいるからか、うちの世界は最初から今まで大抵は荒れっぱなしでな。他の神から叱られることもあるが、俺としちゃあ楽しい世界だ。俺はいつでもお前を見守っているよ。
最初に殺されちまったら元も子も無いからな。お前は比較的安全な場所に転移させてやるつもりだ。安心してくれ。
よし、それじゃあ、送り出しちまう前に、お前の能力に名前をつけてやろう。
そうだな……お前の世界の言葉とお前の名前から取って、スキル『鏡花水月』ってのはどうだ?……かっこいい名前じゃないか。
じゃあな、スイ=カガミヤ。『鏡花水月』と一緒に、俺の世界を存分に楽しんでくれよ!」
目が痛くなる虹色の世界に脳を蝕まれ――俺の意識は再び、頭の外へ飛び出して行った。
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