冴えないゾンビの従魔生活 ~俺の甲冑は砕けない~

桐生デンジ

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第二章 ぼく、ジュリオ!悪いゾンビじゃないよ!

第十二話 ジュリオ誘拐犯ピーちゃん

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 大きな翼の羽ばたくような音で目が覚めた。
 ザバルードが戻ってきたのかなと思ったけど、宙を舞うその魔物の後ろ姿はザバルードほどたくましくない。
 サイズ的にはザバルードと同じくらいの、鳥系の魔物だな。羽毛がてかてかと光っているし。

 よく見てみると、右足の爪に、何かを鷲掴みにしている。
 月明りだけだとよく見えないけど――――!?

 あれはジュリオだ!あのだらーんと垂れた四肢、絶対にジュリオだ!

 ……あの様子だと、ジュリオはまだ眠っているみたいだ。夢の中にいていい状況じゃないよ、これは。

 僕はジュリオに念話で語りかけようとしたけど、眠っている間は念話ってなかなか通じないんだよね。


 僕はクックとルングをさすって起こしつつ、声を張り上げてジュリオを呼んだ。
 …ジュリオも兄弟も、全く気づいてくれない。

 ザバルードを呼ぼうか…あの鳥を追いかけてジュリオを連れ帰ってくれるかも。
 でも、子どもたちのいる巣からここまでは、ザバルードが全速力で飛んできてくれても15分はかかるだろうし…。
 その間に鳥がどこかへ行ってしまうかもしれない。

 何らかの遠距離魔法を使える魔物がパーティにいてくれたらこういうとき撃ち落としてくれるだろうになあ…。

 そんなことを思っている内に、鳥の影はどんどん遠ざかっていっていく…。
 あのスピードを見るに、相当な速度で飛んでいるな。重いジュリオを抱えているというのに、軽々だ。 
 ザバルードの全速力には到底かなわないかもしれないけど、クックとルングでは今から追いつくことはできないだろう…。

 はぁ…。ジュリオが目を覚ましてくれさえすれば、地面に落ちて戻ってくることができるだろうに…。
 せっかく仲間にしたのにな。こんなところで離別してしまうなんて思ってもみなかった。

 大陸のどこかでジュリオが鳥から逃げ出すことができたら、また念話で連絡を取って会えるかもしれないけど…。もしもあの鳥が一夜のうちにものすごい距離を移動して、違う大陸まで移動してしまったら、相当大変な事態になる。

 なぜこんなことを言うのかというと、あの手の大きい魔物たちは移動能力が高くて、一日でものすごく遠い場所まで移動してしまうことがあるんだよね。大陸の間の海も無論、すぐに渡ってしまう。ここが大陸のど真ん中ならまだしも、割と海には近いところだしなぁ…。心配だ。
 最近色々とついてないなあ…。早く再会できることを祈っておこう…。ジュリオ、早く起きて…!

僕は悶々とした気分で、眠ることができずにその夜を明かしたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ん、んー…あー良く寝た!
 …って、ここはなんだ!?地面じゃない!俺はなぜまた上空にいるんだ…?

 周りはまだ真っ暗だけど、腹に違和感を感じて見てみると、俺は何か大きな爪のようなものに鷲掴みにされている様子だった。
 ザバさんかと思って見上げた俺が見たものは、ふわふわの羽毛。
 あれ…?ドラゴンってこんなにふわふわだったっけ、と寝ぼけ眼に考える俺だったが、意識が覚醒してくるにつれて、自分の状況が理解できてきた。

 俺はどうやら野宿していた場所から、この鳥に連れ去られてしまったようだ。
 甲冑がきらきら光ってるから気になったのかもしれないけど…。でも、そのせいで今近くにマスターたちの姿は全く見受けられない。

 そして何より問題だといえるのが、眼下に広がる光景だった。
 月明りに照らされ、光る水面。
 海。どうしようもないほど、地平線の先の先の先まで、海、海、海。
 全方面どこを見ても、海、海、海。

 俺は絶望した。
 ここでもしこいつが急に俺から興味を失って、爪の力を緩めてしまったらどうしよう。
 体の重い俺は水にドボンと落ちて、一生陸地に上がってくることはできないだろうな。
 このまま為すすべもなく、マスターたちと離れることになってしまうのか、俺は?
 しかし、もしも無事陸に降りることさえできれば、長い人生、またマスターたちと合流することも夢ではないよな。

 そうだ、石になろう。
 俺は石なんだ。ただの光る石っころ。この鳥を刺激してしまったらびっくりしたこいつが足を離してしまうかもしれない。
 俺とこいつは陸に着くまで、一心同体だ。
 そうだ、名前をつけて親近感が湧くようにしておこう。ピーちゃん。お前はピーちゃんだ。適当ですまんね。

 よし、一心同体のお前を信じてるからな、ピーちゃん。放すなよ!絶対放すなよ!

 ……渾身の思いを込めた願いだというのに変なフラグに見えてしまうのが怖いな。今回は洒落にならないんだ。俺はフラグになんて従わないゾンビなのさ。だから頼むぞ、ピーちゃん。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 うへえ、寝ちゃってた。
 あんな張りつめた心理状況の中で寝られるなんて、どんな精神してんだ俺は。吹きかかる風で甲冑が冷え冷えになる空の旅が気持ち良いことは事実だけど、どうしちゃったんだよ最近…。世界が明るい。朝になっているようだ。

 しかしながら、そんなことを思いながら俺が見た景色は、希望を持たずにはいられないものだった。
 陸。ちょっと向こうに海。真下には、ごつごつした岩山と平野。
 俺は今がチャンスだと思い、手を変形させて爪の方へ近づけたが、いざ切り落とさんというときに、思いとどまった。

 なんでも暴力で解決しようとするなって、誰かが言ってたよな。海の上でも重い俺を見放さず、誘拐した責任をしっかり果たして、こうして陸地まで運んでくれたんじゃないか。俺はきっと感謝すべきなんだ。ゾンビにもモラルは必要だろう。
 俺はピーちゃんに念話で語りかけた。

<あのー、俺をそろそろここで降ろしてはいただけませんかね…?これ以上の旅をご一緒するのはちょっと都合が悪くって…。>
―………。

 ダメだ、通じてないな。語学の加護を受けた魔物じゃあないみたいだ。ならば仕方ない、実力行使ッ!
 俺は左手を戦闘モードに切り替えたが、それと同時にピーちゃんが俺の異変に気付き、下目使いでぎろりと睨みつけた後、落下の心構えもできていない俺をためらいなしに空へと放り出した。

 自身の思っていたタイミングと実際の落下を見事にずらされた俺は、大慌て。

 空中で手をばたつかせて上昇を試みたり、着地に備えて丸まってみたりと、色々と頑張っていたが、最後には力果てて、さながら賢者モードのようになった状態で地面に体を打ち付けた。

 泥や石ころが周りに飛び散る。
 地面だ…。衝撃のみで体に痛みがないのは、甲冑がミスリル製だからか、俺が世界平和について考えていたからであるかは、定かではない。

 しかし何より、地上で重力に身を任せられる喜びを、俺は生まれて初めて嚙み締めたのだった。空中で重力の思いのままにされるのはもう、まっぴらごめんだ。
 俺は立ち上がって、体の泥を払った。
 周りをぐるりと見渡してみると、上空から見て想像した通りの、赤茶色の山々が峰を連ねていた。
 荒れた大地って感じだな。地理にはあまり詳しくなかったから、今大陸のどこら辺にいるのかとか、見当もつかないが…。

 日が照っている今はかなり暑いけど、夜になれば寒暖差が激しい大地といったところだろう。とりあえず、人のいる場所を探してみるか。

 俺はとぼとぼと、無機質な大地を歩き始めたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 そういえば、本当にそういえば、俺ってこの数日何も食べていないな。
 色々と忙しくて、食事について考える機会がなかったことと、手の汚れる食事が面倒だったことが原因かもしれないけど、大丈夫なんだろうか。

 ……もしかして、俺が最近無性に眠くなるのって、これのせい?
 何も食べないから、エネルギーを節約するためによく眠るようになったのか?

 だとしたら、今すぐにでも土を取り込んだ方がいいだろう。

 俺は歩みを止め、しゃがみ込んで赤土を見た。
 うーん、全然おいしそうじゃない。魔力濃度も低くて、味が薄そうだ。でも贅沢もいってらんないから、とりあえずいただきまーす。
 土に手を伸ばす。

 ……やっぱ美味しくない。塩味の薄いおかゆみたいだ。でも、だんだんと体に活力が漲ってきている。ゾンビ化初日に体験した感覚と同じだな。


 よし、けっこう食べたし、そろそろまた出発するか。お天道様は空のど真ん中で、暑さに弱い俺をいじめようとしているけど、真夜中に人里を見つけて訪れても怖がられるだろうしな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ようやく到着した岩山のふもとで、俺は悩んでいた。
 俺がこの無機物の塊を踏破することはどうやら無理なようである。
 足を踏み込むと、重さで足場がすぐに崩れて、すぐスタート地点まで戻されてしまうのだ。

 そこで天才ジュリオは、あることを思いついた。今朝の食事から思いついた発想である。
 そう、岩山を手で食べながら削って、すこしずつ中を進んでいってはどうかと思ったのだ。


 案の定、この作戦は成功した。歩きながら手を水泳のクロールのように動かして、10cmずつくらい、岩を削って食べていく。
 ただ、岩と一緒に相当な時間を食ったようで、俺が開通させたトンネルを出た景色は月明りに照らされていた。

 長い間作業をしても未だに眠くなってこないということは、やっぱり食事をとらなかったことが睡眠過多の原因だったみたいだ。
 これからは気を付けて行かないとな。
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