冴えないゾンビの従魔生活 ~俺の甲冑は砕けない~

桐生デンジ

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第二章 ぼく、ジュリオ!悪いゾンビじゃないよ!

第十五話 童話と過去

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 夜が明け始めて、太陽が昇ってきたので、ルアとセシルさん、リアナさん(以降めんどくさいので合わせてセシリアさんと呼ぶことにする)は洞窟の奥の、日の光が届かない場所へ移動して、ベッドに横になった。
 太陽の光を浴びると酷い火傷のような症状になるそうだ。しかも、吸血鬼の治癒力をもってしてもなかなか治らないらしい。
 吸血鬼は日中外に出られないから、夜行性なんだな。俺は洞窟にいるはずの魔物だから、太陽に弱くたって夜行性も何もないんだけど。
 ルアたちの寝床には、円形の大きな絨毯が敷かれていて、その上にベッドが二つおいてあり、他に丸テーブルや木のイス、本棚などがあって、生活感漂う空間になっていた。
 女性が毎日眠っているベッドというのも、男としてはなかなか価値のあるものに見えたけど、俺が一番気になったのは、大きめの本棚にたった一つ、横倒しになって置いてある、一冊の本だった。

 本なんて、久しぶりに見る。児童文学なのか、大した厚みは無かったが、吸血鬼が大事に持っている本なんて、一体どんなものなのか気になる。俺はその本を手に取り、外へ出て読んでみることにした。

 洞窟の外では、東の低い空に眩しい太陽が昇ってきていて、少しずつ気温も上がってきている様子だった。本に目をやると、表紙に、
「英雄マコトの邪竜討伐譚」
 という題名が記されていた。やっぱり子供向けの物語だったか。
 ルアがもっと小さかった頃にでも、セシリアさんが読み聞かせをしてあげたりしてたのかな。なんか想像するとムフフだわ。
 俺は洞窟の前に座り込んで、ページをぺらぺらとめくり始めた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 昔々、とある場所に、四匹のドラゴンたちが、神様によって産み落とされました。四匹にはそれぞれ、神様の使いが、彼らを守ってあげるためについていました。
 四匹は兄弟として、助け合って食べ物を手に入れ、暮らしていましたが、一匹だけ、皆と仲良くすることを拒むドラゴンがおりました。
 四匹には名前がありませんでしたが、そのドラゴンは自らをザバラナディと名乗り、ひたすら自分の強さを求めるために、独りで鍛錬を重ねておりました。そんなザバラナディを仲間として思うことができなかった三匹のドラゴンたちは、ザバラナディを追い払うため、彼に戦いを挑みました。しかし、鍛錬を重ねて強くなっていたザバラナディに、三匹の力は到底敵わず、あっさりと倒されてしまいました。ザバラナディと三匹はそれから、離れて、それぞれの生活を営むようになりました。

 兄弟たちとの戦いで、闘争の快楽を知ったザバラナディは、その悪の力をどんどんと蓄えてゆき、ある日、大陸の国へと飛び立って、その国の王様の前で、高らかにこう言いました。

「我が名はザバラナディ!これから三日以内に、人数は問わぬ、私と張り合えるほどの強さを持った、世界一…いや、銀河一の戦士を連れてくるが良い!それができぬならば、この国を破壊し尽くし、宇宙の塵に変えてやるぞ!我は南の吸血谷で待ち構えておる!」

 ザバラナディの登場に慌てた王様は、国の占い師にどうすべきかを聞き、異世界から勇者を召喚するべきだという答えをもらいました。
 しかし、今まで異世界から召喚された勇者の中で、ザバラナディに匹敵する程の力を持った者は、一人もいませんでした。
 王様は、心配になりながらも、すぐに勇者を召喚するよう配下に呼びかけ、一人の人間を、異世界から招きました。
 彼の名はマコトといって、占い師が予言した通り、タロットの大アルカナ「愚者」に表される、無限のチカラを秘めた勇者でした。
 国の危機を救ってもらえると、歓喜した王様でしたが、マコトがザバラナディに匹敵する強さにまで成長するには、数年の時間がかかるということが分かりました。
 そこへ、ザバラナディの悪事を知った三匹のドラゴンたちがやってきて、彼らもマコトに協力してザバラナディ討伐を手伝うと言い始めました。
 王様は感激して、マコトたちをザバラナディの待っている吸血谷へと向かわせました。

 その途中、黒い布に全身を包んだ二人の女性に、マコトたちは出会いました。
 二人は、吸血谷に住んでいた吸血鬼で、ザバラナディにその住処を壊され、奪われてしまったというのです。他の吸血鬼たちもみんな、彼女たちのように住処から追い出されたと、二人は訴えました。
 マコトたちがザバラナディ退治に向かう途中であることを知った二人は、その手助けをして住処を取り戻すため、一緒についていくことにしました。

 そして、吸血谷に到着したマコトたちは、ザバラナディを迎え撃ちます。
 勇者マコト、三匹のドラゴン、そして二人の吸血鬼たちの実力は、歴史に名を残す程のものでしたが、ザバラナディはさらにその上を行っていました。彼らはだんだんとザバラナディに押され始め、ついには吸血鬼の一人が戦いから逃げ出してしまいました。

 しかし、残された一人の吸血鬼は、剣を振るうマコト、火を吹くドラゴンたちの手助けをして、ザバラナディの硬い鱗に、小さなキズを付けることができたのです。
 勇者マコトは、その傷へ向かって封印の術を唱え始めました。
 強大な不死の力を持ったザバラナディを倒すには、封印を行うしかないと考えたのです。
 傷口を突かれ、封印を行われたザバラナディは、無念に打ちひしがれたその魂の叫びを世界各地へとこだまさせながら、小さな玉になりました。ザバラナディについていた神様の使いは、封印から逃げ出して、どこかへと飛び去ってしまいました。

 共に戦った吸血鬼の女性は、吸血谷にそのまま残りましたが、マコトとドラゴンたちは、王城へと帰り、その栄誉を称えられました。
 しかし、三匹のドラゴンたちは、自分たちがいつ、ザバラナディのようになってもおかしくないと考え、人間たちを傷つけることが無いよう、マコトによる封印を受けました。

 マコトは、四匹のドラゴンたちの玉を自らの懐に収め、王女と結婚し、国の王様になりました。
 こうして、国にひと時の平和が訪れたのでした。

 ~おしまい~
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ふうん。あんまり聞いたことのないストーリーだ。
 一つだけ、めっちゃ気になることを除いては何ら普通の本だったな。

 ………ザバラナディに傷を負わせた吸血鬼って、絶対セシリアさんじゃん。
 吸血鬼の一人は逃げ出したって書いてあるけど、多分そうじゃないよな。
 セシルさんとリアナさんが戦いの途中で融合して強くなったおかげで、勇者マコト(変わってるな、異世界からの勇者って大体変な名前だ)はザバラナディを封印することができたんだろう。

 そういや、ザバラナディって、ザバさんの名前となんだか似てるな。
 挿絵に描かれているドラゴンたちも、体型とかがザバさんにそっくりだし。
 ……同一人物…はは、まさかな。そんなはずはあるまい。この本曰く、ドラゴンたちは一匹残らず玉にされちゃったんだから。
 とにかく、この本に出てくるこの吸血鬼がセシリアさんなのかっていうことは、夜に聞いてみるとしよう。

 洞窟に戻り、本を本棚に返して、俺が外へ出ると、何かが俺の頭に語り掛けてくる感覚に見舞われた。


―ジュリオ、ジュリオ!生きてる?

 マスターの声だ!こんなに離れてるのに念話ってつながるのか…連絡が取れるならよかった。

<マスター!大丈夫です、生きてます!ぴんぴんしてますよ!>

 思わずその場で跳ねてしまう。

―よかった、海に落ちちゃったんじゃないかって心配だったんだよ…今自分がどこにいるか分かる?
<今、吸血鬼の人たちと一緒に洞窟にいるんですけど、ここはどうやらサブフォード大陸って場所らしくて…>

―吸血鬼…すぐに助けに行った方がよさそうだね。でもやっぱり、違う大陸に移動しちゃってたのか。遠いなあ…。
<いえいえ、吸血鬼といっても、とても良い人たちみたいですよ。マスターの予定に合わせて迎えに来てもらえれば大丈夫ですから。>

―そう?だったら今日か明日辺りに、ザバルードに迎えに行ってもらうことにするから、もう少しだけ、そこで待ってて欲しいな。
<了解ですマスター!>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 夜明けまでジュリオのことを案じていると、どんどんと恐怖が込み上げてきた。
 ジュリオがもしも海に落ちたりしたら、きっと全く身動きが取れなくなって、立ち往生で死んでしまうだろう。それに…もうすでにそういう状況に陥っているかもしれない。

 そんなことを思うと、念話でジュリオの生存確認を取るのが怖くて、なかなか安否の分からない状況でいると、クックとルングが起き出してきた。
 キョロキョロと周りを見渡して、ジュリオがいないことを僕に伝えてきたから、昨日の夜、鳥に連れ去られたと言ったら、早く安否を確認するべきだと諭された。
 でもやっぱり不安の方が強くて、結局その日は念話が通じないと嘘をついていたけど、次の日の朝、思い切って念話をしてみると、しっかりとジュリオに繋がってくれた。

 しかもとても元気で、吸血鬼たちと同じ洞窟に居るそうだ。
 無事だったと知って安心する僕だったけど、どうやらジュリオは隣の大陸まで、鳥に運ばれてしまっていたらしい。
 ザバルードも何だか子育てが大変なようだし、あんまり遠くまで行ってもらって、さらに重いジュリオを連れて帰って来てもらうなんて、かなりの負担になるだろう。
 僕はとりあえずザバルードにジュリオのことについて伝えて、ジュリオを連れて帰ることができそうな時があったら教えてもらえるように言っておいた。
 向こうの大陸でも元気にやってそうだし、大丈夫なら安心したよ。
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