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第二章 ぼく、ジュリオ!悪いゾンビじゃないよ!
第十四話 吸血鬼の穴ぐらにてジュリオ悦ぶ
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「これが最後の投てきよッ!いっけえええ!」
ああ…もう7回目だよ…3回くらいで着くなんて真っ赤な嘘じゃあないか。
しかしながら、これが最後のジュリオ投げだというのは、どうやら本当のことらしかった。俺が投げ飛ばされた先にあった洞窟の入り口らしき穴からは、微かな光が漏れ出ていて、中から強めの魔力が感じられたからだ。ルアの仲間たちが住んでいるってことだろう。
地面に倒れて込んでそんなことを考えていると、ルアが駆け寄ってきた。
ここでいっちょ、穴ぐらへ入らせていただく前に、ルアの見た目を改めて詳しく確かめておくとするか。
ルアの外見において、もっとも特筆すべき点はその髪の毛だろう。ショートボブに切り揃えられた淡いラベンダーの髪は、彼女の華奢な見た目に落ち着いた印象を与えているから、彼女が口を開かない限りは、大人しくて可愛らしい、無害な少女に見えるだろうな。
体型は…ゴホン、全くいやらしい意味の含まれない言葉を用いると、健康的な子どもと言い表すことができる。いや、これではやはりしっくり来ないな。ロリだ。ロリロリロリ。
しかしまあ、このか細い腕の一体どこに、俺の甲冑を引き裂くパワーが宿っているのだろうか。
吸血鬼という種族の存在自体、人から聞いた話でしか知らなかったけれど、思っていたよりもチート級な強さを備えているということが身をもって理解できたね。
しかしやはり、吸血鬼は吸血鬼。俺たちゾンビと同じで、太陽の光には弱いらしい。そこがやはり戦ううえでの唯一かつ一番の欠点で、それを考えなければ夜目も効くし、人間風情には到底敵わないであろうことが容易に推測できた。
待てよ、……話でしか聞いたことがない…?
そうだ、思い出した。そいつは確か違う大陸の出身だった…。ていうことは、ここってもしかして、ピーちゃんに連れてこられる前とは違う大陸の土地だってことか?
マスターに、会えない。
そんな言葉が脳裏をよぎる。
いや、大丈夫だ。いくら違う大陸であるとはいえ、どうにかすれば…そうだ、船に乗って元の場所へ帰ろう。
…でも、人間の住む場所はここから遠いというし、港だってどこにあるのか分からない…自分の無学を恨む。せめて地図か何かでも持っていればいいんだが…。
ルアに聞いてみるか。
<ルア、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?>
「何よ、ジュリオ」
<ここの大陸ってなんていう名前?>
「えっ、えっとー…ここはー……」
聞く相手を間違えたみたいだな。
「ちょっ、ちょっと!何よその失望したみたいな態度!
別に私、バカってわけじゃないんだからね!ただ、そんな必要の無い知識は得ようとしてないだけで……そうだわ!セシルなら詳しいことを知ってるはずよ。あなたもいつまでもそんなところで寝転んでないで、早く起きなさいよ。中へ入れてあげるわ。」
セシル?ルアの仲間の吸血鬼さんの名前かな。
とりあえず、本当に泊めてもらえるのかってことの確認と、他の吸血鬼さんたちへの挨拶を済ませることが先決だろう。俺は立ち上がって、ルアのあとをついていくことにした。
洞窟の中は何本かの蝋燭で照らされていて、広々とした空間になっていた。
逆に言えば、広々した空間に蝋燭がたったの数本のみ。夜だし、めちゃくちゃ暗い。俺は魔力センサーで周りを見ているから問題無いけど、人間であれば、闇に潜む2人の吸血鬼の存在になど気づかず、真っ先に食糧にされているところだったろうな。
「ルア、それはなに?ずいぶんとまずそうな獲物ね。ゾンビの匂いがするわ……腐った肉を食べようだなんて、相当狩りが上手くいかなかったのね。可哀そうに。私たちは大丈夫よ、だから…」
「違うわよリアナ。これは獲物じゃないわ。さっき拾ってきたの。ジュリオっていってね、かくかくしかじかで、鳥にここまで連れてこられちゃったから、行場がなくて困ってるらしいの。だからここでしばらくの間、飼っても良い?」
飼うって…うわぁ、俺、ルアにペット扱いされてたんだ。ムフ…
ガツン
後頭部を殴られた。力入れすぎだって。絶対おでこから星出たよ。
「こういう風なことをいうとね、すぐに変なことを考え始めるスケベゾンビなんだけど、私たちの生活も最近、何もすることがなくて退屈だったじゃない? ジュリオの甲冑、触ってみればわかるけど、すごく硬いのよ。遊び相手にちょうど良いと思うわよ、だからお願いっ!」
くっ…なぜ俺の考えていることがいとも簡単に…。
しかしルア、遊び相手って、まあそうだな、トランプとかくらいの遊びになら参加できると思うけど…甲冑の硬さは関係あるのか?
まあ、俺を飼うために説得を頑張ってくれてありがとうな。リアナさんの表情がさっきよりも優しいものに一変したよ。
「あら、硬い甲冑?それは一度試してみたいわね。でも……理由もなく打ちのめすなんて、ジュリオに申し訳ないわ。」
そう言って、リアナさんという吸血鬼の女性は、俺の方へと歩み寄ってきた。隙が無く、気配を一切感じない、静かな歩み。まるで、本人は動かず、床がスライドしているかのようにスムーズな移動だ。
それにしても、なんて美しい立ち姿だろうか。艶っぽい黒髪は腰まで伸びたストレートで、背は俺より一回りほど高い。ロリロリしてるルアとは打って変わって、大人っぽい女性としての魅力を備えているな。
純白のドレスを身に着けていて、くびれなどを含め、身体のラインがすみずみまで洗練されているという印象だ。
「………ジュリオの甲冑、こんなに硬くなっちゃって…。」
俺の方へと顔を近づけ、リアナさんは色っぽく囁いた。
一つだっていやらしいことは言っていないというのに、ありとあらゆる妄想を掻き立てる、なんて有能で官能的なセリフ…!完敗だ。これが年の功というやつか?
リアナさんの長く鋭い爪で、甲冑の胸の部分を軽くつつかれ、いきなりのアプローチに面食らった俺は何歩か後ろへと後退した。俺の何かが、人間だった頃の微かな残滓が、何もないはずの股間に奇妙なくすぐったい感触を与える。
やっぱり童貞、こういう状況には弱いんです。
「リアナ、もうジュリオには十分な罰を受ける資格があると思うわよ。」
…え?どういうことだいルアちゃん?
はっ、遊びって、もしかして……。
と、そのとき。胸に違和感を感じて目をやると、そこには俺の肉体へと深く食い込んだリアナさんの白い手と、紙切れのように無様に切り裂かれた甲冑が。
俺が唖然としていると、リアナさんは胸から手を抜き、振り返りざまに唾液を俺の傷口へぺっと吐いて、ルアの方へと戻っていった。傷口が素早くシュルシュルと音を立てて治癒していく。
「確かに他の魔物たちと比べれば硬いかもしれないけれど、私たちが手こずるような相手ではなさそうね。
久しぶりに男性とのコミュニケーションを楽しませてもらったし、私たちにはきっと無害でしょう。いいわよ。ここにいなさい、ジュリオ。」
待ってくれさ、色んな事が瞬時に起こり過ぎて混乱中ですよ。俺視点でダイジェストすると、「えっちなことを連想させる言葉を言われたと思ったら胸が貫かれていて、治ったと思ったら一緒にここで住むことを認めてもらえた」という具合だな。
それにしても本当、リアナさんって、あまりに強すぎるよな。一切の音も衝撃も無しに、俺の甲冑が水に濡れた金魚すくいのポイであるかのごとく、いとも簡単に素手で貫いてしまうとは。何があっても絶対敵に回したくないタイプだ。
ルアもたいがいチート級に強いと思ったけど、リアナさんと比べれば戦闘能力では劣るかもしれないよな。これが、子どもと大人の差なのだろうか。そうだとすれば末恐ろしいよな、ルアも。
俺を一緒に住ませてくれるというのならそれはもちろん嬉しいけれど、肝心のセシルさんはどこにいるんだろう。中に入るまでは気配を感じていたけど、気づいたらいなくなってたし。
<ところでリアナさん。セシルさんって、どちらにいらっしゃるんですか?……地理についてお詳しいと聞いて、少しお尋ねしたいことがあるのですが。>
「あっ、説明し忘れてたわ、ジュリオ。リアナとセシルはね、同じ身体を二人で共有している吸血鬼なのよ。」
へ?どういうことかさっぱりわからん。
「つまり二重人格で、魔力も身体能力も普通の倍なのよ。でも、バストは…」
不意に、衝撃波が俺の背中を穴ぐらの壁へと打ち付けた。
何もしていないのに攻撃を受けるってどういうわけだと理不尽に思う俺だったが、それは単なる勘違いであったと気付くまでに時間はかからなかった。
ルアの顔面をリアナの固く握られた拳がえぐり、そのあどけなく可愛らしいバランスを崩壊へと導いていたのだ。
絶句する俺だったが、ルアの顔は瞬時に修復し、元の可愛いルアに戻ってくれて安心した。どうやら俺に到達したのはリアナさんが素早く動き過ぎたために発生したソニックブームだったようだ。
「ルア、私の胸のことについて何か?いい加減にしないと怒るわよ…?」
「ハァ、もう怒ってるじゃないの。悪かったわね。はいはい、ごめんねジュリオ、説明を続けるわ。」
い、いやいやいや!ノリ軽すぎでしょ!
……あれが単なる軽い小突き合いの一種だということか?ソニックブームまで起こしといて?音速の壁をなんだと思ってるんだ。
この会話を聞く限り、単なるじゃれ合いだってわけだよな…俺、吸血鬼恐怖症になりそう。
「二人の身体には一つで二人分の魂が宿っているから、能力もその分高い…ってところまで話したわよね。そうそう、二人はね、生まれつき同じ身体に生まれてきたってわけじゃないのよ。昔々色んな事情があって、セシルとリアナの二人が力を合わせて行わなければ達成できないことがあったときに、「融合の秘術」を使って、残りの人生を二重人格で過ごす代わりに圧倒的な力を手に入れる、っていう儀式を行ったの。それがあって、今に至るってわけ。分かる?ジュリオ。」
<なるほど…じゃあセシルさんがオモテ面に出てきている時に、質問をすればいいっていうわけか。>
「それもいいけど、他にも方法があって…」
そのあとしばらく続いたルアの説明によると、「融合の秘術」で二重人格になった場合は、同時に二人の意識をオモテ面へ現わすことも可能で、今セシルさんはリアナさんに俺とのお遊びを気兼ねなくさせてあげるために中へ引っ込んでいるという状況らしい。
話を聞いて分かる限り、「融合の秘術」っていうのは、二人の吸血鬼の能力を凝縮して、一人のより強力な存在としてまとめ上げるっていう術式みたいだな。
リアナさんの異常な強さは、成熟した吸血鬼であるというだけでなく、加えてその能力が倍に凝縮されているというところにあるってことか。
俺はとりあえずセシルさんにオモテ面へ出てきてもらって、この大陸がどこなのかということを聞いたところ、ここは前の大陸の隣にある、サブフォード大陸という場所だと教えてくれた。肝心の俺はその名前に全くピンと来なくて困っていたのだけれど。
……はぐれちゃった俺、マスターに再会できるのか、ますます不安だけど、とりあえず、何か策を考え付くまではこの3人の吸血鬼たちと一緒に、ここで生活をさせてもらうことにしよう。
マスターをそばで守れないことは残念だけど、意外とこれも悪くないかもしれない。
ああ…もう7回目だよ…3回くらいで着くなんて真っ赤な嘘じゃあないか。
しかしながら、これが最後のジュリオ投げだというのは、どうやら本当のことらしかった。俺が投げ飛ばされた先にあった洞窟の入り口らしき穴からは、微かな光が漏れ出ていて、中から強めの魔力が感じられたからだ。ルアの仲間たちが住んでいるってことだろう。
地面に倒れて込んでそんなことを考えていると、ルアが駆け寄ってきた。
ここでいっちょ、穴ぐらへ入らせていただく前に、ルアの見た目を改めて詳しく確かめておくとするか。
ルアの外見において、もっとも特筆すべき点はその髪の毛だろう。ショートボブに切り揃えられた淡いラベンダーの髪は、彼女の華奢な見た目に落ち着いた印象を与えているから、彼女が口を開かない限りは、大人しくて可愛らしい、無害な少女に見えるだろうな。
体型は…ゴホン、全くいやらしい意味の含まれない言葉を用いると、健康的な子どもと言い表すことができる。いや、これではやはりしっくり来ないな。ロリだ。ロリロリロリ。
しかしまあ、このか細い腕の一体どこに、俺の甲冑を引き裂くパワーが宿っているのだろうか。
吸血鬼という種族の存在自体、人から聞いた話でしか知らなかったけれど、思っていたよりもチート級な強さを備えているということが身をもって理解できたね。
しかしやはり、吸血鬼は吸血鬼。俺たちゾンビと同じで、太陽の光には弱いらしい。そこがやはり戦ううえでの唯一かつ一番の欠点で、それを考えなければ夜目も効くし、人間風情には到底敵わないであろうことが容易に推測できた。
待てよ、……話でしか聞いたことがない…?
そうだ、思い出した。そいつは確か違う大陸の出身だった…。ていうことは、ここってもしかして、ピーちゃんに連れてこられる前とは違う大陸の土地だってことか?
マスターに、会えない。
そんな言葉が脳裏をよぎる。
いや、大丈夫だ。いくら違う大陸であるとはいえ、どうにかすれば…そうだ、船に乗って元の場所へ帰ろう。
…でも、人間の住む場所はここから遠いというし、港だってどこにあるのか分からない…自分の無学を恨む。せめて地図か何かでも持っていればいいんだが…。
ルアに聞いてみるか。
<ルア、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?>
「何よ、ジュリオ」
<ここの大陸ってなんていう名前?>
「えっ、えっとー…ここはー……」
聞く相手を間違えたみたいだな。
「ちょっ、ちょっと!何よその失望したみたいな態度!
別に私、バカってわけじゃないんだからね!ただ、そんな必要の無い知識は得ようとしてないだけで……そうだわ!セシルなら詳しいことを知ってるはずよ。あなたもいつまでもそんなところで寝転んでないで、早く起きなさいよ。中へ入れてあげるわ。」
セシル?ルアの仲間の吸血鬼さんの名前かな。
とりあえず、本当に泊めてもらえるのかってことの確認と、他の吸血鬼さんたちへの挨拶を済ませることが先決だろう。俺は立ち上がって、ルアのあとをついていくことにした。
洞窟の中は何本かの蝋燭で照らされていて、広々とした空間になっていた。
逆に言えば、広々した空間に蝋燭がたったの数本のみ。夜だし、めちゃくちゃ暗い。俺は魔力センサーで周りを見ているから問題無いけど、人間であれば、闇に潜む2人の吸血鬼の存在になど気づかず、真っ先に食糧にされているところだったろうな。
「ルア、それはなに?ずいぶんとまずそうな獲物ね。ゾンビの匂いがするわ……腐った肉を食べようだなんて、相当狩りが上手くいかなかったのね。可哀そうに。私たちは大丈夫よ、だから…」
「違うわよリアナ。これは獲物じゃないわ。さっき拾ってきたの。ジュリオっていってね、かくかくしかじかで、鳥にここまで連れてこられちゃったから、行場がなくて困ってるらしいの。だからここでしばらくの間、飼っても良い?」
飼うって…うわぁ、俺、ルアにペット扱いされてたんだ。ムフ…
ガツン
後頭部を殴られた。力入れすぎだって。絶対おでこから星出たよ。
「こういう風なことをいうとね、すぐに変なことを考え始めるスケベゾンビなんだけど、私たちの生活も最近、何もすることがなくて退屈だったじゃない? ジュリオの甲冑、触ってみればわかるけど、すごく硬いのよ。遊び相手にちょうど良いと思うわよ、だからお願いっ!」
くっ…なぜ俺の考えていることがいとも簡単に…。
しかしルア、遊び相手って、まあそうだな、トランプとかくらいの遊びになら参加できると思うけど…甲冑の硬さは関係あるのか?
まあ、俺を飼うために説得を頑張ってくれてありがとうな。リアナさんの表情がさっきよりも優しいものに一変したよ。
「あら、硬い甲冑?それは一度試してみたいわね。でも……理由もなく打ちのめすなんて、ジュリオに申し訳ないわ。」
そう言って、リアナさんという吸血鬼の女性は、俺の方へと歩み寄ってきた。隙が無く、気配を一切感じない、静かな歩み。まるで、本人は動かず、床がスライドしているかのようにスムーズな移動だ。
それにしても、なんて美しい立ち姿だろうか。艶っぽい黒髪は腰まで伸びたストレートで、背は俺より一回りほど高い。ロリロリしてるルアとは打って変わって、大人っぽい女性としての魅力を備えているな。
純白のドレスを身に着けていて、くびれなどを含め、身体のラインがすみずみまで洗練されているという印象だ。
「………ジュリオの甲冑、こんなに硬くなっちゃって…。」
俺の方へと顔を近づけ、リアナさんは色っぽく囁いた。
一つだっていやらしいことは言っていないというのに、ありとあらゆる妄想を掻き立てる、なんて有能で官能的なセリフ…!完敗だ。これが年の功というやつか?
リアナさんの長く鋭い爪で、甲冑の胸の部分を軽くつつかれ、いきなりのアプローチに面食らった俺は何歩か後ろへと後退した。俺の何かが、人間だった頃の微かな残滓が、何もないはずの股間に奇妙なくすぐったい感触を与える。
やっぱり童貞、こういう状況には弱いんです。
「リアナ、もうジュリオには十分な罰を受ける資格があると思うわよ。」
…え?どういうことだいルアちゃん?
はっ、遊びって、もしかして……。
と、そのとき。胸に違和感を感じて目をやると、そこには俺の肉体へと深く食い込んだリアナさんの白い手と、紙切れのように無様に切り裂かれた甲冑が。
俺が唖然としていると、リアナさんは胸から手を抜き、振り返りざまに唾液を俺の傷口へぺっと吐いて、ルアの方へと戻っていった。傷口が素早くシュルシュルと音を立てて治癒していく。
「確かに他の魔物たちと比べれば硬いかもしれないけれど、私たちが手こずるような相手ではなさそうね。
久しぶりに男性とのコミュニケーションを楽しませてもらったし、私たちにはきっと無害でしょう。いいわよ。ここにいなさい、ジュリオ。」
待ってくれさ、色んな事が瞬時に起こり過ぎて混乱中ですよ。俺視点でダイジェストすると、「えっちなことを連想させる言葉を言われたと思ったら胸が貫かれていて、治ったと思ったら一緒にここで住むことを認めてもらえた」という具合だな。
それにしても本当、リアナさんって、あまりに強すぎるよな。一切の音も衝撃も無しに、俺の甲冑が水に濡れた金魚すくいのポイであるかのごとく、いとも簡単に素手で貫いてしまうとは。何があっても絶対敵に回したくないタイプだ。
ルアもたいがいチート級に強いと思ったけど、リアナさんと比べれば戦闘能力では劣るかもしれないよな。これが、子どもと大人の差なのだろうか。そうだとすれば末恐ろしいよな、ルアも。
俺を一緒に住ませてくれるというのならそれはもちろん嬉しいけれど、肝心のセシルさんはどこにいるんだろう。中に入るまでは気配を感じていたけど、気づいたらいなくなってたし。
<ところでリアナさん。セシルさんって、どちらにいらっしゃるんですか?……地理についてお詳しいと聞いて、少しお尋ねしたいことがあるのですが。>
「あっ、説明し忘れてたわ、ジュリオ。リアナとセシルはね、同じ身体を二人で共有している吸血鬼なのよ。」
へ?どういうことかさっぱりわからん。
「つまり二重人格で、魔力も身体能力も普通の倍なのよ。でも、バストは…」
不意に、衝撃波が俺の背中を穴ぐらの壁へと打ち付けた。
何もしていないのに攻撃を受けるってどういうわけだと理不尽に思う俺だったが、それは単なる勘違いであったと気付くまでに時間はかからなかった。
ルアの顔面をリアナの固く握られた拳がえぐり、そのあどけなく可愛らしいバランスを崩壊へと導いていたのだ。
絶句する俺だったが、ルアの顔は瞬時に修復し、元の可愛いルアに戻ってくれて安心した。どうやら俺に到達したのはリアナさんが素早く動き過ぎたために発生したソニックブームだったようだ。
「ルア、私の胸のことについて何か?いい加減にしないと怒るわよ…?」
「ハァ、もう怒ってるじゃないの。悪かったわね。はいはい、ごめんねジュリオ、説明を続けるわ。」
い、いやいやいや!ノリ軽すぎでしょ!
……あれが単なる軽い小突き合いの一種だということか?ソニックブームまで起こしといて?音速の壁をなんだと思ってるんだ。
この会話を聞く限り、単なるじゃれ合いだってわけだよな…俺、吸血鬼恐怖症になりそう。
「二人の身体には一つで二人分の魂が宿っているから、能力もその分高い…ってところまで話したわよね。そうそう、二人はね、生まれつき同じ身体に生まれてきたってわけじゃないのよ。昔々色んな事情があって、セシルとリアナの二人が力を合わせて行わなければ達成できないことがあったときに、「融合の秘術」を使って、残りの人生を二重人格で過ごす代わりに圧倒的な力を手に入れる、っていう儀式を行ったの。それがあって、今に至るってわけ。分かる?ジュリオ。」
<なるほど…じゃあセシルさんがオモテ面に出てきている時に、質問をすればいいっていうわけか。>
「それもいいけど、他にも方法があって…」
そのあとしばらく続いたルアの説明によると、「融合の秘術」で二重人格になった場合は、同時に二人の意識をオモテ面へ現わすことも可能で、今セシルさんはリアナさんに俺とのお遊びを気兼ねなくさせてあげるために中へ引っ込んでいるという状況らしい。
話を聞いて分かる限り、「融合の秘術」っていうのは、二人の吸血鬼の能力を凝縮して、一人のより強力な存在としてまとめ上げるっていう術式みたいだな。
リアナさんの異常な強さは、成熟した吸血鬼であるというだけでなく、加えてその能力が倍に凝縮されているというところにあるってことか。
俺はとりあえずセシルさんにオモテ面へ出てきてもらって、この大陸がどこなのかということを聞いたところ、ここは前の大陸の隣にある、サブフォード大陸という場所だと教えてくれた。肝心の俺はその名前に全くピンと来なくて困っていたのだけれど。
……はぐれちゃった俺、マスターに再会できるのか、ますます不安だけど、とりあえず、何か策を考え付くまではこの3人の吸血鬼たちと一緒に、ここで生活をさせてもらうことにしよう。
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