11 / 28
Beauty and Beast ・謝罪・
しおりを挟む
羞恥と当惑と動揺で、とても眠れないと思っていたアルフィーネだが、人間の精神は存外 図太く出来ているらしい。
いつの間にか意識が途切れ、気づいたら外は明るくなっていた。
ふと、何かの動く気配に身を竦ませる。
「───え?」
それは過日の仔栗鼠だった。
見ると一匹だけではなく、兄弟らしき栗鼠や小鳥達までもがアルフィーネを取り囲むように寄り添っている。
今まで彼等が洞窟内にまで入り込む事は無くて、アルフィーネは事態を掴めない。
次の瞬間、淡い香りが鼻孔をくすぐった。
「これは……」
困惑しつつ洞窟を出たアルフィーネの目前に、色とりどりの色彩が広がる。
入口付近の地面には大量の花が置いてあった。
種類を問わず美しい花ばかりで、中には図鑑でしか見た事の無い希少な物もある。
いくら花盛りの季節と言えど、荒れたフーガ国内では花など一切見かけなかったのに。
一体、どこにこれだけの花が咲いていたのだろう?
「?」
花に埋もれるように、服が置いてあることに気づく。
白い光沢のある生地に同じ色で刺繍を施したドレスと、それに映えそうな深紅の飾り帯。少しばかり型は古いようだが、一度も袖を通した痕跡は無い。
アルフィーネはようやく理解する。
これらはガイヤルドからの謝罪の品々なのだ。
男として失礼な真似をした詫びに、アルフィーネの好みそうな物を揃えたのだろう。
可愛い小動物、綺麗な花、そしてドレス。
───恐ろしいと評判の魔物がそんな事をするなんて。
アルフィーネは想像し、堪えきれずに笑う。
同時に胸が暖かくなり、白いドレスをそっと抱きしめた。
夕暮れ───魔物にとっての起床時刻。
睡眠不足のガイヤルドは憮然と息をつく。
昨夜、アルフィーネが逃げるように洞窟に入った後、彼は暫く窟の入口で苦悩した。
入浴中を覗き見たのも、それが発覚したのも、自分が悪かったと充分わかっているが、正面きって謝罪するのは照れとプライドが邪魔をする。
思案の末、ガイヤルドは賄賂という手を思いついたのだ。
しかし『何を』贈るかとなると、これが問題である。
ガイヤルドは今まで誰かの機嫌を取るなど実践どころか考えた事も無い。
相手が人間の女ともなると尚更だ。
かなりの時間、黙考したガイヤルドだが、前に服を与えた時にアルフィーネが喜んでいた事を思い出す。
質素な修道服でしかなかったのに、意外にも礼まで言われた。
しかしあの一着以外、衣類も身を飾るような貴金属も所持していない。
他にアルフィーネに贈れるような物と言えば……
(…………)
ガイヤルドの胸を心当たりがよぎる。
一着だけ、持っていた。
もうずいぶんと昔。フーガ国に来る前、ミヌエットに贈ろうと思って調達したドレスがある。
様々な惨禍の果てに、その存在を忘れ 思い出したのは、彼女を埋葬した後。
不要の品になったとはいえ、ガイヤルドはどうしてもそれを捨てられなかった。
迷ったのは一瞬だけで、ガイヤルドはすぐに立ち上がり物置にしている洞窟に向かう。
道中、女が花を好む事も思い出し、樹海の奥にある花園に立ち寄って各種の花を集めた。
ついでに栗鼠や兎の巣に寄って仔達を拝借する。アルフィーネが小動物と一緒に楽しそうにしていたので。
『らしくない』などと考える余裕は無かった。
ガイヤルド自身なぜこんな事をしているのかと思いはしたが、せずにはいられなかったのだ。
そして思いつく限りの事をすべて終えた夜明け前、ガイヤルドは自分の塒に戻る。
妙に気疲れし、ゆっくり眠りたいと思いながら、目を閉じたものの不安定な意識が途切れ途切れにまどろむ事しかできなかった。
───アルフィーネはどうしているだろう?
ガイヤルドは躊躇いながら洞窟を出、意識的にゆっくりとアルフィーネのもとへ向かった。
いつの間にか意識が途切れ、気づいたら外は明るくなっていた。
ふと、何かの動く気配に身を竦ませる。
「───え?」
それは過日の仔栗鼠だった。
見ると一匹だけではなく、兄弟らしき栗鼠や小鳥達までもがアルフィーネを取り囲むように寄り添っている。
今まで彼等が洞窟内にまで入り込む事は無くて、アルフィーネは事態を掴めない。
次の瞬間、淡い香りが鼻孔をくすぐった。
「これは……」
困惑しつつ洞窟を出たアルフィーネの目前に、色とりどりの色彩が広がる。
入口付近の地面には大量の花が置いてあった。
種類を問わず美しい花ばかりで、中には図鑑でしか見た事の無い希少な物もある。
いくら花盛りの季節と言えど、荒れたフーガ国内では花など一切見かけなかったのに。
一体、どこにこれだけの花が咲いていたのだろう?
「?」
花に埋もれるように、服が置いてあることに気づく。
白い光沢のある生地に同じ色で刺繍を施したドレスと、それに映えそうな深紅の飾り帯。少しばかり型は古いようだが、一度も袖を通した痕跡は無い。
アルフィーネはようやく理解する。
これらはガイヤルドからの謝罪の品々なのだ。
男として失礼な真似をした詫びに、アルフィーネの好みそうな物を揃えたのだろう。
可愛い小動物、綺麗な花、そしてドレス。
───恐ろしいと評判の魔物がそんな事をするなんて。
アルフィーネは想像し、堪えきれずに笑う。
同時に胸が暖かくなり、白いドレスをそっと抱きしめた。
夕暮れ───魔物にとっての起床時刻。
睡眠不足のガイヤルドは憮然と息をつく。
昨夜、アルフィーネが逃げるように洞窟に入った後、彼は暫く窟の入口で苦悩した。
入浴中を覗き見たのも、それが発覚したのも、自分が悪かったと充分わかっているが、正面きって謝罪するのは照れとプライドが邪魔をする。
思案の末、ガイヤルドは賄賂という手を思いついたのだ。
しかし『何を』贈るかとなると、これが問題である。
ガイヤルドは今まで誰かの機嫌を取るなど実践どころか考えた事も無い。
相手が人間の女ともなると尚更だ。
かなりの時間、黙考したガイヤルドだが、前に服を与えた時にアルフィーネが喜んでいた事を思い出す。
質素な修道服でしかなかったのに、意外にも礼まで言われた。
しかしあの一着以外、衣類も身を飾るような貴金属も所持していない。
他にアルフィーネに贈れるような物と言えば……
(…………)
ガイヤルドの胸を心当たりがよぎる。
一着だけ、持っていた。
もうずいぶんと昔。フーガ国に来る前、ミヌエットに贈ろうと思って調達したドレスがある。
様々な惨禍の果てに、その存在を忘れ 思い出したのは、彼女を埋葬した後。
不要の品になったとはいえ、ガイヤルドはどうしてもそれを捨てられなかった。
迷ったのは一瞬だけで、ガイヤルドはすぐに立ち上がり物置にしている洞窟に向かう。
道中、女が花を好む事も思い出し、樹海の奥にある花園に立ち寄って各種の花を集めた。
ついでに栗鼠や兎の巣に寄って仔達を拝借する。アルフィーネが小動物と一緒に楽しそうにしていたので。
『らしくない』などと考える余裕は無かった。
ガイヤルド自身なぜこんな事をしているのかと思いはしたが、せずにはいられなかったのだ。
そして思いつく限りの事をすべて終えた夜明け前、ガイヤルドは自分の塒に戻る。
妙に気疲れし、ゆっくり眠りたいと思いながら、目を閉じたものの不安定な意識が途切れ途切れにまどろむ事しかできなかった。
───アルフィーネはどうしているだろう?
ガイヤルドは躊躇いながら洞窟を出、意識的にゆっくりとアルフィーネのもとへ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる