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Beauty ana Beast ・夢現・
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優しい夢を見ていた。
大きな手に包まれ、とても安らかな気分で眠ったような気がしたのに、目覚めた時 アルフィーネはやはり一人。
(もう姿を知ったのだから、隠れなくてもいいのに…)
アルフィーネは身づくろいと食事を済ませ、暖かい日向の岩に腰掛ける。
かすかな葉擦れの音と共に、仔栗鼠たちが朝の挨拶に現れた。すっかり懐いて擦り寄って来る彼等を抱き上げ、アルフィーネはぼんやりと思考する。
動物達は可愛いし、一緒に居ると嬉しいが、会話をする事は出来ない。
それが何となくつまらなかった。
ガイヤルドとて、ろくに相槌も返してはくれないが、傍にするだけで違う。
昼間でも来てくれたらいいのに。
ふと、アルフィーネは昨夜ガイヤルドに問いかけた『一人で寂しくないの?』という言葉を思い出した。
少なくとも伝説では、フーガ国を滅ぼした時から彼は一人でいるはず。
魔物の種類については色々学んだが、ガイヤルド以外に『百目の魔物』の噂は聞かない。
ではガイヤルドはずっと独りでいたのだろうか?
何年も、何十年も、深い樹海の中で……
アルフィーネは、肩の上に仔栗鼠の小さな体を撫ぜながら呟いた。
「お前たちは、ガイヤルドの事を知ってるの…?」
仔栗鼠の小さな目がくるりと光を弾いてアルフィーネを見つめる。
「ガイヤルドは、一体何者なの……?」
冷酷なようで、優しくて。
子供のようで、大人で。
魔物なのに、人間じみていて……
(わからない…)
次の瞬間、思案に没頭していたアルフィーネの頭上を黒い影がよぎった。
驚いた仔栗鼠たちが、慌ててアルフィーネの髪の中に身を隠す。
「ブルー!?」
我に返ったアルフィーネが見たのは、ソロの愛鳥ブルー。
小鳥と言うには少し幅の広い翼をはためかせ、アルフィーネの胸に飛びこんだ。
無事を喜ぶかのような鳴き声と共に頭を摺り寄せるブルーの仕草に、アルフィーネも笑顔に変わる。
突然の闖入者に怯えていた仔栗鼠たちも、チラホラと姿を現し始める。
「久しぶりね、ブルー。元気だった?」
ブルーの羽を撫ぜながら発した自分の言葉に、アルフィーネは初めて、ソロ達と離れてから一か月以上が経過していた事を認識した。
「そうだった……」
病床の師・マドリガルや、いろいろと尽力してくれたロンド王、そしてブルーを遣ってくれたソロ。皆、きっと心配しているはず。
「ピィー」
ブルーの鳴き声にアルフィーネは、その足に結ばれた紙片を発見する。
「───!!」
読んだ途端、アルフィーネは顔色を失い茫然と立ち尽くした。
優しい夢を見た。
夢だとわかっている夢だった。
太陽光の降り注ぐ緑の地で、花に囲まれてミヌエットが笑っている。
あの当時の愛らしい少女の姿のまま。
闇の中から、それを見ている自分がいた。
ガイヤルドに気づき、ミヌエットは振り返る。そして嬉しそうに歩み寄るが彼女の姿は近寄るにつれ、アルフィーネへと変わっていった。
『ガイヤルド』
名前を呼ぶその声は、確かにアルフィーネのもの。
白い手を差し出し、優しく微笑みかける。
『アルフィーネ……』
誘われるように手を握ると、ガイヤルドの身体が光に包まれた。
その輪郭が徐々に変貌してゆく。
そして輝きがおさまった時には───………
「…………!!」
そこでガイヤルドは目を覚ました。
夢だとわかっていても、つい我身を確かめてしまう。百の目に映るのは、やはりおぞまい化物の姿だというのに。
しかしガイヤルドは、改めて落胆などはしなかった。今更、である。
とはいえ、今しがたの儚い夢が一縷の期待を持たせていた。
(夢ハ現実ニナリエルダロウカ……)
アルフィーネの美しい笑顔が脳裏に蘇る。
昨晩、自分に寄りかかって眠るアルフィーネの寝顔を眺める内、次第に想いが強くなってきた。
アルフィーネは自分の姿を見ても態度を変えなかった。
アルフィーネなら、あるいは可能かも知れない。
逡巡しつつ、ガイヤルドはアルフィーネの元へ向かった。
大きな手に包まれ、とても安らかな気分で眠ったような気がしたのに、目覚めた時 アルフィーネはやはり一人。
(もう姿を知ったのだから、隠れなくてもいいのに…)
アルフィーネは身づくろいと食事を済ませ、暖かい日向の岩に腰掛ける。
かすかな葉擦れの音と共に、仔栗鼠たちが朝の挨拶に現れた。すっかり懐いて擦り寄って来る彼等を抱き上げ、アルフィーネはぼんやりと思考する。
動物達は可愛いし、一緒に居ると嬉しいが、会話をする事は出来ない。
それが何となくつまらなかった。
ガイヤルドとて、ろくに相槌も返してはくれないが、傍にするだけで違う。
昼間でも来てくれたらいいのに。
ふと、アルフィーネは昨夜ガイヤルドに問いかけた『一人で寂しくないの?』という言葉を思い出した。
少なくとも伝説では、フーガ国を滅ぼした時から彼は一人でいるはず。
魔物の種類については色々学んだが、ガイヤルド以外に『百目の魔物』の噂は聞かない。
ではガイヤルドはずっと独りでいたのだろうか?
何年も、何十年も、深い樹海の中で……
アルフィーネは、肩の上に仔栗鼠の小さな体を撫ぜながら呟いた。
「お前たちは、ガイヤルドの事を知ってるの…?」
仔栗鼠の小さな目がくるりと光を弾いてアルフィーネを見つめる。
「ガイヤルドは、一体何者なの……?」
冷酷なようで、優しくて。
子供のようで、大人で。
魔物なのに、人間じみていて……
(わからない…)
次の瞬間、思案に没頭していたアルフィーネの頭上を黒い影がよぎった。
驚いた仔栗鼠たちが、慌ててアルフィーネの髪の中に身を隠す。
「ブルー!?」
我に返ったアルフィーネが見たのは、ソロの愛鳥ブルー。
小鳥と言うには少し幅の広い翼をはためかせ、アルフィーネの胸に飛びこんだ。
無事を喜ぶかのような鳴き声と共に頭を摺り寄せるブルーの仕草に、アルフィーネも笑顔に変わる。
突然の闖入者に怯えていた仔栗鼠たちも、チラホラと姿を現し始める。
「久しぶりね、ブルー。元気だった?」
ブルーの羽を撫ぜながら発した自分の言葉に、アルフィーネは初めて、ソロ達と離れてから一か月以上が経過していた事を認識した。
「そうだった……」
病床の師・マドリガルや、いろいろと尽力してくれたロンド王、そしてブルーを遣ってくれたソロ。皆、きっと心配しているはず。
「ピィー」
ブルーの鳴き声にアルフィーネは、その足に結ばれた紙片を発見する。
「───!!」
読んだ途端、アルフィーネは顔色を失い茫然と立ち尽くした。
優しい夢を見た。
夢だとわかっている夢だった。
太陽光の降り注ぐ緑の地で、花に囲まれてミヌエットが笑っている。
あの当時の愛らしい少女の姿のまま。
闇の中から、それを見ている自分がいた。
ガイヤルドに気づき、ミヌエットは振り返る。そして嬉しそうに歩み寄るが彼女の姿は近寄るにつれ、アルフィーネへと変わっていった。
『ガイヤルド』
名前を呼ぶその声は、確かにアルフィーネのもの。
白い手を差し出し、優しく微笑みかける。
『アルフィーネ……』
誘われるように手を握ると、ガイヤルドの身体が光に包まれた。
その輪郭が徐々に変貌してゆく。
そして輝きがおさまった時には───………
「…………!!」
そこでガイヤルドは目を覚ました。
夢だとわかっていても、つい我身を確かめてしまう。百の目に映るのは、やはりおぞまい化物の姿だというのに。
しかしガイヤルドは、改めて落胆などはしなかった。今更、である。
とはいえ、今しがたの儚い夢が一縷の期待を持たせていた。
(夢ハ現実ニナリエルダロウカ……)
アルフィーネの美しい笑顔が脳裏に蘇る。
昨晩、自分に寄りかかって眠るアルフィーネの寝顔を眺める内、次第に想いが強くなってきた。
アルフィーネは自分の姿を見ても態度を変えなかった。
アルフィーネなら、あるいは可能かも知れない。
逡巡しつつ、ガイヤルドはアルフィーネの元へ向かった。
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