ヴァンパイア・ハンター

高端麻羽

文字の大きさ
14 / 14

ヴァンパイア・ハンター ~最終夜~

しおりを挟む
少し前まで激闘が繰り広げられていたとは思えぬ静けさの中、かつては教会の壁面だったであろう瓦礫を背に二人はしばし無言のままもたれていた。
アズライトはアンバーを抱きしめたまま黙り込んでいる。
限りない愛しさで満たされつつも、己の非力が悔しかった。
『守る』などと言っても、実際は何の役にも立てないと痛感している。
伯爵と対峙した時、我流の剣技はカスリもしなかったし、神への不信心は見事に報いを受けてしまった。
今のままでは、守るどころか足手まといになるのがオチだろう。
───何かできる事は無いだろうか。
アンバーの為に、自分の力で可能な事は。
(…!)
ふと、一つの情報が脳裏に蘇る。

迷った末に、アズライトは静寂を破った。
「……アンバー」
「何?」
アンバーは彼の声に、今までと違って どこか自信の無い、迷うような響きが含まれている事を察知する。
「───この先、他のヴァンパイアに狙われる事はあるか?」
「それはわからない。ヴァンパイアが花嫁を選ぶのは気まぐれだし、伯爵の仇討ちに来ないとも言い切れないからな」
「…じゃあ、可能性はあるのか」
「アズライト?」
「……以前、聞いた事があるんだけど」
しばしの間を置いて流れた声は、やはりどこか緊張していた。
「何を?」
「ヴァンパイアの……その、特徴っていうか……習性かな?つまり、相手を選ぶとか……何とか…」
「?」
彼らしからぬ、はっきりしない物言いをアンバーは訝しむ。
アズライトは意を決したように、しかしまだ迷いを隠せない声で言った。
「……連中が…吸血するのは、………純潔の娘、だけだって…」
「!」
瞬間、アンバーはバッと顔を上げる。
その表情は逆光で見えなかったけれど、アズライトは途端に後悔した。
嘘を言ったわけでは無かったのだが、弱味につけ込んだ下心と思われたかも知れない。
「悪い、今の忘れてくれ」
慌てて取り消すけれど、一度口から出た言葉が戻るはずもなく、空気が張り詰めた。
沈黙に責められている気がしてアズライトはアンバーの肩に回していた手を離す。
同時に立ち上がった彼女に、自分を見限って去ってしまうのでは、とアズライトの心が一瞬冷える。
しかしアンバーは、もたれていた瓦礫の背面に回ると、そこで立ち止まった。
「─── 知ってる」
「!?」
聞こえた声に、アズライトは我が耳を疑う。
アンバーは更に続けた。
「その噂は私も聞いた事がある。…真偽の程は不明だが、…信じるには値…するかも知れない」
アンバーの声には感情が含まれていないように聞こえる。
あるいは、わざとそうしたのか。
しかしアズライトは却って狼狽してしまった。
「む、無理すんな。そんなのホントか嘘かもわからないし、オレが悪かった。謝るから、忘れろよ」
「卑怯者」
怒鳴るでなく、罵倒でもなく、静かにアンバーは言った。
一瞬、アズライトの胸が詰まる。
「そっちから言い出したくせに…」
降り注ぐ日光の届かない瓦礫の影で背を向けたまま立ち尽くす彼女の声は、怒っているのか、それとも羞恥の為か、微かに揺れていた。
アズライトの胸を苦しいほどの愛しさが占める。
同時に、心が決まった。
「アンバー」
背後にアズライトの気配を感じ、アンバーの肩がビクリと揺れる。
「本当か…?」
アンバーは剥がれ落ちそうな虚勢を押しとどめ無言のまま、それでもコックリとうなずいた。
次の瞬間、肩にアズライトの腕が回される。
途端にアンバーの鼓動が弾けた。
「言っとくけど、オレは本気だから」
「…………」
アズライトの真剣な声に胸が熱くなる。
「もし…どっかの助平野郎が流したデマだったとしても、責任はきっちり取るからな」
「……責任なんて」
「約束する。一生、お前のそばにいる」
「アズライト……」
「だから、アンバー…オレの花嫁になってくれ」
「───はい」
間を置かず、アンバーは即答した。

愛しさと嬉しさで胸が一杯で、生まれて初めて感じるような幸福感に満たされる。
この愛しい相手の幸せを守る為なら、何も恐れはしない。
きっと、どんな事でもできるだろう。
誰にも負けはしないだろう。
─── そう信じられるから。

崩れかけた祭壇に向かい、二人は膝をつく。
そして宣誓した。

「───病める時も、健やかな時も」
神父役のアズライトの声が響く。
「富める時も、貧しき時も」
続きをアンバーが継ぐ。
「この相手を愛する事を誓いますか?」
「──誓います」
「誓います」

アズライトは自身のループタイを切り、結んで指輪を作った。
それはアンバーの指には大きすぎたけど、本人には充分すぎるマリッジリング。
「町に出たら、ちゃんとした指輪を買うから。今はそれで勘弁してくれるか?」
「……私には、もったいないくらいだ」
輝くような笑顔でアンバーは答える。
そしてアンバーも、剣の装飾の一部をはずして指輪に仕立てた。
「…こんな無粋な物で悪いけど」
「ありがとな」
互いに交換し、朝日の下で見つめ合う。
「───では、誓いのキスを」

触れ合う唇が、溶けそうに熱い。
「二人を夫婦と認めます」
閉じられたままのアンバーの目から涙が流れた。


───旅に出た二人は各地で魔物を撃破して人々から感謝の意を受け始める。
そして誰からともなく『ヴァンパイア・ハンター』と呼ばれるようになった。


 END 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...