ヴァンパイア・ハンター

高端麻羽

文字の大きさ
13 / 14

ヴァンパイア・ハンター ~第十三夜~

しおりを挟む
───後に残るは瓦礫と砂と、満身創痍ながら生き残ったアンバーとアズライト。

そして……二人の頭上には、まるで祝福するかの様な有明の月。
「アンバー……」
呼びかけには答えず、アンバーは愛刀を拾い上げる。
一本は酷い刃こぼれでボロボロ。もう一本は真ん中で折れ、もはやどちらも使い物にはならないだろう。
それでもアンバーは両手でそれを握り、目を閉じると静かに抱きしめた。
「お父様……お母様、アンバーは仇を討ちました……」
アズライトは優しく彼女の背を抱く。激闘の中、生き残れた歓喜と、確認した強く深い感情と共に。
「アズライト…」
今まで聞いたような事の無い静かな声が呼んだ。少し潤んだ響きが切ない。
「終わったな、アンバー」
「…ああ」
微笑を浮かべ、アンバーはアズライトに向き直る。
「生きてて良かった…」
どちらからともなく漏れた呟きは、紛う事なき本心。

二人は夜明けの光を浴びながら暫し抱きしめ合っていた。


アンバーとアズライトはもう一度廃墟の内部へ入り、負った傷の手当てを始める。
アズライトは骨折には至ってないが、あちこちに打撲、切り傷、擦過傷と、かなりの勇姿だった。
それでも人体の急所だけは死守したあたり、さすがに医者と言えよう。
アンバーも細かい傷は無数にあったが、アズライトに比べればずっと軽傷である。
どちらも特に問題は無く、アズライトの持参していた薬で充分に手当可能だった。
傷だらけのアズライトに薬を塗りながら、アンバーは自責の思いにかられる。

彼の負傷は、自分を守ろうとした為のもの。
守ろうとしたのは、自分を好きになってくれたから。
嬉しさの反面、申し訳無かった。
「……アズライト」
「ん?」
「すまない。その……」
胸の痛みに邪魔されて、アンバーの言葉が途切れる。
やはり彼とは一緒にいない方が良いかも知れないと思った。
最大の脅威だったディアモンド伯爵は斃したが、彼の配下だった魔物が復讐に来ないとは限らない。
そうなると必然的に危険が伴う。もちろん自分のみならず、共に居ればアズライトにも。
恋心を自覚したばかりなのに、彼も好きだと言ってくれたのに、別離を考えなくてはならないとは。
だけど彼の身命の保全の為には、それが一番良いのだ。
「……やっぱり、私は…」
「イヤだね」
皆まで言わせず、アズライトは言葉を遮った。
驚くアンバーに、彼は指を突きつける。
「『一緒にいると危険だから離れよう』なんて考えてるだろ。オレは好きな女を見捨てて、自分だけ生きのびるなんて絶対に御免だぜ」
アンバーの表情から思考を見ぬき、アズライトは断言した。
そして言葉を実行するように抱き寄せる。
「守らせてくれ、アンバー」
「…………」
「お前のそばにいたいんだ」
「…………」
真摯な声にアンバーは反論できない。
胸の奥で感情と理性が葛藤している。

─── 危険な目に遭わせたくないから、離れた方が良い。
─── 好きだから、離れたくない。

それはどちらも真実だったが、後者を強く自覚してしまう。
気付いてしまえば、もはや抑える事はできなかった。
「…二人なら、きっと何もかもうまく行くさ」
「アズライト…」
ある意味、楽天的な彼の思考が救いで、アンバーは微笑む。
こんなふうに穏やかに笑うのは何年ぶりだろう?
笑顔を向けるアンバーの頬に、アズライトの指が触れる。生まれて初めて、アンバーの胸がときめきに鳴る。
そして初めての口接けをかわした。


続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...