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ヴァンパイア・ハンター ~第十三夜~
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───後に残るは瓦礫と砂と、満身創痍ながら生き残ったアンバーとアズライト。
そして……二人の頭上には、まるで祝福するかの様な有明の月。
「アンバー……」
呼びかけには答えず、アンバーは愛刀を拾い上げる。
一本は酷い刃こぼれでボロボロ。もう一本は真ん中で折れ、もはやどちらも使い物にはならないだろう。
それでもアンバーは両手でそれを握り、目を閉じると静かに抱きしめた。
「お父様……お母様、アンバーは仇を討ちました……」
アズライトは優しく彼女の背を抱く。激闘の中、生き残れた歓喜と、確認した強く深い感情と共に。
「アズライト…」
今まで聞いたような事の無い静かな声が呼んだ。少し潤んだ響きが切ない。
「終わったな、アンバー」
「…ああ」
微笑を浮かべ、アンバーはアズライトに向き直る。
「生きてて良かった…」
どちらからともなく漏れた呟きは、紛う事なき本心。
二人は夜明けの光を浴びながら暫し抱きしめ合っていた。
アンバーとアズライトはもう一度廃墟の内部へ入り、負った傷の手当てを始める。
アズライトは骨折には至ってないが、あちこちに打撲、切り傷、擦過傷と、かなりの勇姿だった。
それでも人体の急所だけは死守したあたり、さすがに医者と言えよう。
アンバーも細かい傷は無数にあったが、アズライトに比べればずっと軽傷である。
どちらも特に問題は無く、アズライトの持参していた薬で充分に手当可能だった。
傷だらけのアズライトに薬を塗りながら、アンバーは自責の思いにかられる。
彼の負傷は、自分を守ろうとした為のもの。
守ろうとしたのは、自分を好きになってくれたから。
嬉しさの反面、申し訳無かった。
「……アズライト」
「ん?」
「すまない。その……」
胸の痛みに邪魔されて、アンバーの言葉が途切れる。
やはり彼とは一緒にいない方が良いかも知れないと思った。
最大の脅威だったディアモンド伯爵は斃したが、彼の配下だった魔物が復讐に来ないとは限らない。
そうなると必然的に危険が伴う。もちろん自分のみならず、共に居ればアズライトにも。
恋心を自覚したばかりなのに、彼も好きだと言ってくれたのに、別離を考えなくてはならないとは。
だけど彼の身命の保全の為には、それが一番良いのだ。
「……やっぱり、私は…」
「イヤだね」
皆まで言わせず、アズライトは言葉を遮った。
驚くアンバーに、彼は指を突きつける。
「『一緒にいると危険だから離れよう』なんて考えてるだろ。オレは好きな女を見捨てて、自分だけ生きのびるなんて絶対に御免だぜ」
アンバーの表情から思考を見ぬき、アズライトは断言した。
そして言葉を実行するように抱き寄せる。
「守らせてくれ、アンバー」
「…………」
「お前のそばにいたいんだ」
「…………」
真摯な声にアンバーは反論できない。
胸の奥で感情と理性が葛藤している。
─── 危険な目に遭わせたくないから、離れた方が良い。
─── 好きだから、離れたくない。
それはどちらも真実だったが、後者を強く自覚してしまう。
気付いてしまえば、もはや抑える事はできなかった。
「…二人なら、きっと何もかもうまく行くさ」
「アズライト…」
ある意味、楽天的な彼の思考が救いで、アンバーは微笑む。
こんなふうに穏やかに笑うのは何年ぶりだろう?
笑顔を向けるアンバーの頬に、アズライトの指が触れる。生まれて初めて、アンバーの胸がときめきに鳴る。
そして初めての口接けをかわした。
続く
そして……二人の頭上には、まるで祝福するかの様な有明の月。
「アンバー……」
呼びかけには答えず、アンバーは愛刀を拾い上げる。
一本は酷い刃こぼれでボロボロ。もう一本は真ん中で折れ、もはやどちらも使い物にはならないだろう。
それでもアンバーは両手でそれを握り、目を閉じると静かに抱きしめた。
「お父様……お母様、アンバーは仇を討ちました……」
アズライトは優しく彼女の背を抱く。激闘の中、生き残れた歓喜と、確認した強く深い感情と共に。
「アズライト…」
今まで聞いたような事の無い静かな声が呼んだ。少し潤んだ響きが切ない。
「終わったな、アンバー」
「…ああ」
微笑を浮かべ、アンバーはアズライトに向き直る。
「生きてて良かった…」
どちらからともなく漏れた呟きは、紛う事なき本心。
二人は夜明けの光を浴びながら暫し抱きしめ合っていた。
アンバーとアズライトはもう一度廃墟の内部へ入り、負った傷の手当てを始める。
アズライトは骨折には至ってないが、あちこちに打撲、切り傷、擦過傷と、かなりの勇姿だった。
それでも人体の急所だけは死守したあたり、さすがに医者と言えよう。
アンバーも細かい傷は無数にあったが、アズライトに比べればずっと軽傷である。
どちらも特に問題は無く、アズライトの持参していた薬で充分に手当可能だった。
傷だらけのアズライトに薬を塗りながら、アンバーは自責の思いにかられる。
彼の負傷は、自分を守ろうとした為のもの。
守ろうとしたのは、自分を好きになってくれたから。
嬉しさの反面、申し訳無かった。
「……アズライト」
「ん?」
「すまない。その……」
胸の痛みに邪魔されて、アンバーの言葉が途切れる。
やはり彼とは一緒にいない方が良いかも知れないと思った。
最大の脅威だったディアモンド伯爵は斃したが、彼の配下だった魔物が復讐に来ないとは限らない。
そうなると必然的に危険が伴う。もちろん自分のみならず、共に居ればアズライトにも。
恋心を自覚したばかりなのに、彼も好きだと言ってくれたのに、別離を考えなくてはならないとは。
だけど彼の身命の保全の為には、それが一番良いのだ。
「……やっぱり、私は…」
「イヤだね」
皆まで言わせず、アズライトは言葉を遮った。
驚くアンバーに、彼は指を突きつける。
「『一緒にいると危険だから離れよう』なんて考えてるだろ。オレは好きな女を見捨てて、自分だけ生きのびるなんて絶対に御免だぜ」
アンバーの表情から思考を見ぬき、アズライトは断言した。
そして言葉を実行するように抱き寄せる。
「守らせてくれ、アンバー」
「…………」
「お前のそばにいたいんだ」
「…………」
真摯な声にアンバーは反論できない。
胸の奥で感情と理性が葛藤している。
─── 危険な目に遭わせたくないから、離れた方が良い。
─── 好きだから、離れたくない。
それはどちらも真実だったが、後者を強く自覚してしまう。
気付いてしまえば、もはや抑える事はできなかった。
「…二人なら、きっと何もかもうまく行くさ」
「アズライト…」
ある意味、楽天的な彼の思考が救いで、アンバーは微笑む。
こんなふうに穏やかに笑うのは何年ぶりだろう?
笑顔を向けるアンバーの頬に、アズライトの指が触れる。生まれて初めて、アンバーの胸がときめきに鳴る。
そして初めての口接けをかわした。
続く
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