天使の悪戯

高端麻羽

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天使の悪戯

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息苦しさを感じて、ふと瞼を開ける。
原因は、横から伸びた腕が胸元を圧迫しているからだった。
恨めしそうに目線を隣の男に向ける。
両腕を巻きつけるようにして寝ている男は、まるで、逃がさないとでも言いたげだ。
(もう…)
思わず深い溜息をつく。
けれど嬉しい気持ちは否めず、極力静かな動作で体勢を変え、正面から恋人の寝顔を見た。
目の前にあるのは、何とも無邪気に幸せそうに眠りこけた顔。
それを微笑ましく思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか?
忍び笑いを漏らしつつ、心の奥の感情を噛み締める。

朝起きて最初に見たのが好きな相手の顔という、そんな些細な事が、どうしてこんなに嬉しいのだろう。

本能的に身を寄せると、彼は口の中でムニャムニャと呟き、寝ぼけながらも抱きしめてきた。
その暖かさは、凍てつく朝の寒さを忘れさせる。

(…いや、甘やかしてはいけない。きちんと言うべき事は言わないと)
なぜなら、ずっと彼の身勝手に振り回されていたから。

仕事があると言っておいたのに、勝手に会いに来て。
忙しいと言ったのに、勝手に待っていて。
ようやく時間をつくったら、一晩中離してくれなくて。
いくら眠らせろと言っても、聞かなくて。

結局いつも彼のペースに乗せられてしまう。
報復の一つくらいしてやらねば気がすまない。

だから目を閉じ、再び眠りに入る。
彼の休暇は今日までだと言っていた、早く起きて空港へ向かわねばならないはず。
だけど起こしてなどやらない。
飛行機に乗り遅れようが、予定をオーバーして困ろうが、知ったことではない。
心の中で舌を出して笑う。

(おやすみなさい、ダーリン♡)

寒い朝だから、まだベッドを出たくなかっただけ。
睡魔の降臨は、罪の無い天使の悪戯。
白いシーツの翼に包まれて天国の夢を見よう。



          END
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