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ディナヴィア
エニグマ・スチュアート
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イリス山から数日かけて、ディナヴィアに到着した。
ディナヴィアは、大陸で最も北に位置する大地で、雪の大地とも呼ばれている。現在の季節は2月ということもあり、寒さは厳しく、雪もぽつぽつと降っている。
さすが大陸で一番寒いとだけ言われているため、髪の毛も指先も凍りつきそうだ。
冷たい風は、ひゅううううううううううううという音を立てながら、肌を切り裂くようにビシバシと当たる。
僕たちは、リュカの積荷から拝借したコートを3人で着ていた。エリュシオンは白い毛皮のコート、僕は、黒い上質そうなコート、リュカは茶色のもこもこしたコートだ。コートはとてもいいもので、着るだけで寒さがましになった。
リュカの家は有名だったみたいで、国境の入り口では門番にリュカが名乗るだけで中に通された。そして、すぐ近くにあった市場を通りながら歩いて行く。市場の奥にある広間には、直径20メートルくらいありそうな巨大な噴水が置いてあるが、その水は寒さのあまり凍り付いている。
リュカの後について、広間を通り過ぎて美味しそうな匂いがする商店街を歩いていく。途中でリュカのおすすめだという鳥のスープと、パンを食べた。温かい食べ物が身体に染み渡ると、生き返った気分になった。
「リュカのすすめてくれた店はめちゃくちゃ美味しいな」
「よかった」
「エリュシオンも、もっと美味しそうな顔をしろよ」
「仏頂面は生まれつきです」
……そういえば、こいつの笑顔は、人を小馬鹿にするようなものしか見たことがないな。
スープを飲み終わったリュカは、パンを布で包んでリュックにしまっていく。
「そのパンは食べないのか」
「これは……ちょっとお土産なんだ」
「そうか」
僕は、あげる人はいないが、パンを多めに持っていると後で役に立つかもしれない。追加でパンを購入して、僕もリュックサックにしまった。
食べ終えてから、更に30分ほど歩き続けると、リュカの屋敷にたどり着いた。
広そうな屋敷の入り口には、一人のみすぼらしい老女がうずくまって座っていた。
60歳くらいだろうか。白、灰色と黒が入り混じったぼさぼさの髪の毛に虚ろな灰色の瞳をした老女だ。何日もお風呂に入っていないのか腐臭が漂っている。歯もほとんど抜け落ちていて、残っている歯にも虫歯がありそうだ。女は、いくつもの薄汚れた服を身体に巻き付けて寒さを凌いでいた。
「はい、おばさん。パンだよ」
リュカは、リュックサックから取り外した先ほどのパンを渡した。しかし、パンはポトリと落とされた。
「パープル」
老女は、エリュシオンを見つけた途端に息を飲んだ。そして、フラフラとした足取りで立ち上がって不審者でも見かけたかのように大声で叫びだした。
「パープルパープルパープルパープルパープル!!!!!」
まるで真犯人を見つけた被害者のように、エリュシオンを指さしながら震えだした。
「パープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープル!!!!!!!!」
まるで親の仇でも見つけたような様子だ。エリュシオンの知り合いなのだろうか。
「お兄さんは、この人の知り合いだったの?」
リュカも、このことにはびっくりしたみたいだ。
「ええ、まあ。ハデス様だってご存知のはずでしょう」
「……忘れたな」
くうう。僕にもハデスの記憶があればいいのに……。
「彼女は、エニグマ・スチュアートです。バレットの推薦を受けて、シェリーのメイドをしていた女ですよ。彼女は、元バルドルの乳母だったのでよく覚えています」
そんな説明をされても登場人物一人もわからないんだが……。こんなことも忘れたのかとバカにするような目を向けられても辛いだけなんだけど……。
「そんなにお前と仲が良かったのか」
「いや、挨拶をする程度です。どうしてここまで俺に反応するのか俺にもわかりません」
彼女は、何かを深く訴えかけるように、エリュシオンを指さしながら「パープルパープルパープルパープルパープルパープル」と叫び続ける。
パープルが好きだから、エリュシオンの瞳を見て反応しているのだろうか。何か切羽詰まったものを感じるのは気のせいだろうか。実は……この女を記憶喪失にしたのが、エリュシオンの仕業だったりしないだろうか……。
まさか……。
いや、証拠もないのに疑うのはよくない。だけど、こいつはやりかねないと思ってしまう。僕も殺されたしな。
「パープルってどういう意味だろう?」
「さあ」
「パープル。パープル。パープル」
今にも泣きそうにただそれだけを繰り返す。
「お兄さんは、どうしてこの人がこんな風になったのか知っている?」
「さあ。シェリー・ギブソンが死んだあたりから姿を見ていません」
誰だよ、その女?そう思ったけれども、聞ける雰囲気じゃなさそうだ。
「リュカは、この人とどういう関係?」
「お父さんが、この人にパンとか恵むから、僕がその代わりをしているだけなんだ」
「パープルパープル……」
何だか彼女がとてもかわいそうに思い僕もリュックサックからパンを取り出した。
「僕もパンをあげます」
彼女の手にパンを握らせると、彼女は、ありがとうという代わりにニコニコしながら「パープル」とまた言った。
そして、エリュシオンの方に指を伸ばして「同じ、パープル」という言葉を呟いた。
「どういう意味?」
「パープル」
彼女は、またそう言ってパンをかじりだした。その瞳は相変わらず、子供の仇を見るようにエリュシオンをじっと睨みつけるように見つめていた。
ディナヴィアは、大陸で最も北に位置する大地で、雪の大地とも呼ばれている。現在の季節は2月ということもあり、寒さは厳しく、雪もぽつぽつと降っている。
さすが大陸で一番寒いとだけ言われているため、髪の毛も指先も凍りつきそうだ。
冷たい風は、ひゅううううううううううううという音を立てながら、肌を切り裂くようにビシバシと当たる。
僕たちは、リュカの積荷から拝借したコートを3人で着ていた。エリュシオンは白い毛皮のコート、僕は、黒い上質そうなコート、リュカは茶色のもこもこしたコートだ。コートはとてもいいもので、着るだけで寒さがましになった。
リュカの家は有名だったみたいで、国境の入り口では門番にリュカが名乗るだけで中に通された。そして、すぐ近くにあった市場を通りながら歩いて行く。市場の奥にある広間には、直径20メートルくらいありそうな巨大な噴水が置いてあるが、その水は寒さのあまり凍り付いている。
リュカの後について、広間を通り過ぎて美味しそうな匂いがする商店街を歩いていく。途中でリュカのおすすめだという鳥のスープと、パンを食べた。温かい食べ物が身体に染み渡ると、生き返った気分になった。
「リュカのすすめてくれた店はめちゃくちゃ美味しいな」
「よかった」
「エリュシオンも、もっと美味しそうな顔をしろよ」
「仏頂面は生まれつきです」
……そういえば、こいつの笑顔は、人を小馬鹿にするようなものしか見たことがないな。
スープを飲み終わったリュカは、パンを布で包んでリュックにしまっていく。
「そのパンは食べないのか」
「これは……ちょっとお土産なんだ」
「そうか」
僕は、あげる人はいないが、パンを多めに持っていると後で役に立つかもしれない。追加でパンを購入して、僕もリュックサックにしまった。
食べ終えてから、更に30分ほど歩き続けると、リュカの屋敷にたどり着いた。
広そうな屋敷の入り口には、一人のみすぼらしい老女がうずくまって座っていた。
60歳くらいだろうか。白、灰色と黒が入り混じったぼさぼさの髪の毛に虚ろな灰色の瞳をした老女だ。何日もお風呂に入っていないのか腐臭が漂っている。歯もほとんど抜け落ちていて、残っている歯にも虫歯がありそうだ。女は、いくつもの薄汚れた服を身体に巻き付けて寒さを凌いでいた。
「はい、おばさん。パンだよ」
リュカは、リュックサックから取り外した先ほどのパンを渡した。しかし、パンはポトリと落とされた。
「パープル」
老女は、エリュシオンを見つけた途端に息を飲んだ。そして、フラフラとした足取りで立ち上がって不審者でも見かけたかのように大声で叫びだした。
「パープルパープルパープルパープルパープル!!!!!」
まるで真犯人を見つけた被害者のように、エリュシオンを指さしながら震えだした。
「パープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープルパープル!!!!!!!!」
まるで親の仇でも見つけたような様子だ。エリュシオンの知り合いなのだろうか。
「お兄さんは、この人の知り合いだったの?」
リュカも、このことにはびっくりしたみたいだ。
「ええ、まあ。ハデス様だってご存知のはずでしょう」
「……忘れたな」
くうう。僕にもハデスの記憶があればいいのに……。
「彼女は、エニグマ・スチュアートです。バレットの推薦を受けて、シェリーのメイドをしていた女ですよ。彼女は、元バルドルの乳母だったのでよく覚えています」
そんな説明をされても登場人物一人もわからないんだが……。こんなことも忘れたのかとバカにするような目を向けられても辛いだけなんだけど……。
「そんなにお前と仲が良かったのか」
「いや、挨拶をする程度です。どうしてここまで俺に反応するのか俺にもわかりません」
彼女は、何かを深く訴えかけるように、エリュシオンを指さしながら「パープルパープルパープルパープルパープルパープル」と叫び続ける。
パープルが好きだから、エリュシオンの瞳を見て反応しているのだろうか。何か切羽詰まったものを感じるのは気のせいだろうか。実は……この女を記憶喪失にしたのが、エリュシオンの仕業だったりしないだろうか……。
まさか……。
いや、証拠もないのに疑うのはよくない。だけど、こいつはやりかねないと思ってしまう。僕も殺されたしな。
「パープルってどういう意味だろう?」
「さあ」
「パープル。パープル。パープル」
今にも泣きそうにただそれだけを繰り返す。
「お兄さんは、どうしてこの人がこんな風になったのか知っている?」
「さあ。シェリー・ギブソンが死んだあたりから姿を見ていません」
誰だよ、その女?そう思ったけれども、聞ける雰囲気じゃなさそうだ。
「リュカは、この人とどういう関係?」
「お父さんが、この人にパンとか恵むから、僕がその代わりをしているだけなんだ」
「パープルパープル……」
何だか彼女がとてもかわいそうに思い僕もリュックサックからパンを取り出した。
「僕もパンをあげます」
彼女の手にパンを握らせると、彼女は、ありがとうという代わりにニコニコしながら「パープル」とまた言った。
そして、エリュシオンの方に指を伸ばして「同じ、パープル」という言葉を呟いた。
「どういう意味?」
「パープル」
彼女は、またそう言ってパンをかじりだした。その瞳は相変わらず、子供の仇を見るようにエリュシオンをじっと睨みつけるように見つめていた。
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