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ディナヴィア
セレネー・アスクレピオス1
しおりを挟むセレネーは、ぼんやりとハデスの元へと這いつくばっているエリュシオンの姿を見ていた。
何かに依存する人間は惨めだ。誰かに幸せを託す人間は、弱く脆い。
誰かにすがって生きていくことを望む奴は、寄生虫のようだ。欲しがってばかりいる人間は、いつも飢えた心をしているだろう。夢ばかり追い続ける人間は、憐れだ。すぐに叶えられる夢しか抱けない人間はちっぽけだ。
そして、誰も愛せない人間は惨めだ。
私が、誰も愛せない人間になったのは、いつからだろうか……。
昔は、恋愛小説が好きだった。私もその中の一人に憧れた。
大人になったら、完璧な王子様が現れて私は幸せになれると思っていた。ハンサムで、優しくて、お金持ちで、家柄も良くて、お城なんかに住んでいて、私のために何でもしてくれる。当然、私のことを死ぬほど愛してくれて、私もその人のことを好きになる。
そんな世界に憧れながら、本ばかり呼んでいた。
小さい頃の記憶が鮮明に蘇る。
涼しい風が銀色の髪を優しく撫でていた。
ずっと読みたかったクイン・ロワールの小説は、手に取ってみると重たくなるくらいぶ厚かった。その重みに、思わず笑みが零れ落ちた。ずっしりとした小説の重みが大好きだった。
私には本さえあればいい。それさえあれば、幸せ。そう思いながら、お気に入りの椅子の上で見知らぬ世界を求めてページをめくり続けた。
「セレネー、どんな本を読んでいるの?」
そう話しかけてきたのは、コイネーだ。彼女は、手のひらよりも小さい可愛らしい精霊である。ピンクのショートボブの髪に、ぱっちりとしたアメジスト色の目、神聖そうな白い服をした祝福の精霊だ。
そして、セレネーの数少ない友達の一人だった。
「すっごく素敵な恋愛小説よ。病弱の女の子が、一人の男から愛されるの」
「つまらなそうな小説だな。愛とか恋とかくだらない」
シモスは、バカにするように鼻で笑った。シモスは、怒りの精霊で黒く短い髪の毛をしていていつもイライラした態度をしている。
「そんなこと言わないの。愛は、みんなを幸せにするのよ」
フィリア。ゆるくまかれた長い金髪にエメラルドグリーンの瞳をした愛の精霊である。
3人の精霊が、セレネーの数少ない友達の全てで、人間の友達なんていなかったし、作り方もわからなかった。
7歳の時、セレネーは、たまたま他の貴族の知り合いに精霊とおしゃべりをしているところを見られてしまった。それ以来、同世代の人間は彼女のことを怖がって近寄ろうとしなくなった。
数年の時が流れても、セレネーがあまりにも綺麗で異質だから周囲の人達は話すことをためらっていた。
そのせいで、セレネーは、精霊以外に友達ができず一人ぼっちだった。
家にいることも嫌いだった。セレネーが5歳の時に、父と離婚していた母親は、エドガー・ティルフィングという男性と結婚した。エドガーには、エレボス・ティルフィングという息子がいた。それ以来、自分がいらない子だという意識が消えなくなった。
自分は、一緒に住んでいる父親と血がつながっていない。母親からは、不気味がられている。二人には、かわいいエレボスがいる。それらのことは、家での居心地をとても悪くさせた。
小さいときに当たり前のように、コイネーとおしゃべりしているときに、母親から恐怖に満ちた顔を向けられた。その時、ようやく母親には精霊なんて見えていなかったことに気が付いた。
それ以来、必死で精霊の存在を隠すようにしてきた。
どうして自分に聖霊が見えて他人には見えないのかわからなかった。唯一そんな自分を特別な子だとほめてくれた父親は、血の革命事件で死んでしまっていた。
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