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とある噓つきと悪女のリスタート
しおりを挟む全てを諦めて目を閉じる。
その時……。
「ユリア!!!!!」
何故か誰もいないはずの王宮のドアが開いて、バターブロンド色の髪をした男が現れた。
「どうして一人で死のうとしているんだよ、このバカ!!!」
彼は、急いできたのか肩で息をしている。髪の毛は、滝のような汗で額に張り付いている。
「はあああああああああああああ!!!!何であなたがこんなところにいるのよ!!戦争は、どうなったのよ!!」
「あんな茶番、速攻でやめたに決まっているだろう。どうやら、ラインハルトだって茶番だってわかっていたみたいだな」
落ち着け……。戦争は、止んだ……。民衆は、国外にいる。
ここで、何故かわからないけれど登場してしまったライリーさえ生き残れば、全部計画通りだ。彼は、新しい国を作っていくのに必要な人間だ。
「早くこの国から出るか、地下牢に行きなさい!!もうすぐ、もっと大きい地震がくるわ。そうしたら、あなた死んでしまうわよ!!早く逃げなさい!!」
そう怒鳴ると彼は、美しい顔を怒り狂ったように歪めた。
「やっぱり、お前わかっていたんだな」
しまった。つい未来のことを言ってしまった。
焦りのあまり、ろくに思考が働いていなかった。
「戦争をやろうとしたのは、俺たちを国から追い出すためだろう」
「……さあ」
「高い建物を破壊したのも、地震が起きるとわかっていたからだろう。そして、国民を地下牢に閉じ込めたのも守るためだった」
「……」
「俺は、あんたを誤解していた。民衆のことを考えないあんたを心で罵っていた。だけど、違う。あんたは、全部、知って行動して、最後はこの国と一緒に滅ぶつもりだったんだろう!!!!」
「……そんなことより早く行きなさいよ」
怒りに満ちた顔をしているライリーは、鬼のような形相でユリアの腕を掴んだ。
「あんたも一緒に来い。これは、あんたがみんなに作った未来だ。見届けないで逃げ出すことなんて許さない」
「はああ?私は、悪女ユリア・クライシスよ!!私の悪名は、国外に広まっている。もう私が生きていく場所なんかない。もういいの。もういいのよ、ライリー。私のこの先の未来は、生き延びたところで何も描けないわ。私は、よく頑張ったの。たくさん嫌われたし……もう疲れたわ。ちょっと休みたいの」
私には……これ以上生き続ける気力なんてない。
「わかった……。だったら、俺がお前を殺してやる」
ライリーは、懐から剣を抜いて構えた。
そうか。
それなら、地震で死ぬよりも苦しくないかもしれない。
結局、刺されて死ぬなんて私らしいラストだ。
ギュッと目をつぶると、首付近に衝撃が訪れた。
けれども、不思議なことに痛みは、訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、長い髪の毛がパサリと床に落ちた。
「え……」
「ユリア・クライシスは、死んだ。俺が殺した。あんたは、名前を捨て、性別を偽り、俺と一緒に生きていくんだ」
「……んで……」
どうして……そんな優しさを今更くれるのよ!!!
「……」
「何で……。何で……こんなことをするのよ!!!」
私を殺そうとしたくせに……。私を愛さなかったくせに……!!どうして、私なんかと生きていこうとしているのよ!!
それを聞いたライリーは、バカにするように唇を歪めた。
「まだわからないのか?あんたが好きだからに決まっているだろう」
こいつ……何でこんなことを、自分の罪をやけくそになって自白する殺人犯みたいな態度でいうのよ!!ロマンティックの欠片もないっ。
元婚約者なんて、大体当て馬なのに、どうしてあんたなんかがメインヒーローになろうとしているのよ!!!!
「はあ?好きなら、もっとわかりやすくしなさいよ」
「わかりやすいだろうが!全部、捨てて惚れた女を助けに来たんだろう!!」
直球でそんな言葉をぶつけられ、思わず顔が真っ赤になってしまう。
「……あなた、救世主になりたかったんじゃないの?」
「ああ、そうだよ。だけど、あんたが現れたせいで、俺の夢なんてめちゃくちゃになった。お前が好きなんだ………。全部、捨ててもいいと思えるほど、夢中なんだ。そんなもの好きな男も俺くらいだろう」
「そんなことないわ。私だってもてるのよ!」
「ふん。まあ、俺ほどじゃないけどな」
くううううう。どうして、この男は、こんな真剣な場所でもこんなに生意気なのよ!!この男は、私に告白している自覚はあるのかしら?
「お前だって、俺のこと好きだろう」
ライリーは、流し目をしながら自信満々にそう言ってきた。
「はあああああああ。あんたの取り柄は、顔くらいよ。その顔だって、今は傷だらけじゃない」
「……くそっ。この女……。これだから、面食いは……。ああ、もういい。これから、全部、好きにさせるから。あ
んたは、俺の性格悪いところも、自信過剰なところも、情けないところも、弱いところも、全部、好きになれ」
「はああ?」
「俺があんたを惚れさせる。信じろ」
ライリーは、私に向かって手を伸ばした。
まるで、いつかの結婚式みたいな光景だ。
そして、私から目をそらさずに真っ直ぐにみて、ベルベットみたいに滑らかな声で高らかに宣言した。
「そして、俺があんたを幸せにする。だから、全部、捨ててついてこい」
こんなひどい告白ってある?
ナルシストまる出しじゃない。
こいつ……女心を全然わかっていない。
バカじゃないの?こういう時は、へりくだって『俺を好きになってください』でしょうが!!全くこいつは……
こういう時まで、変わらない。
まるで初めてあった時から変わらない。
ナルシストで、バカで、自信があふれていて、傲慢で、強欲で……キラキラと輝いてみえる。
こんな性格ブサイクの男がかっこよく見えるなんて、私もバカだ……。
好きだの、愛しているだの嘘ばかりつかれてきた。そんな嘘に騙されてばかりいた。
何度、騙されても、嫌いになれなくて……。こんな時に信じたくなっている。彼が本当に私を愛しているなどという淡い夢を描いてしまっている。
私の負けだ。
「いいわ。あなたに幸せにしてもらえるか、これから一緒に生きて判断してあげる」
私は、そっと彼の手を取った。
演技ばかりしてきたライリーが、初めて本当の笑顔を浮かべた気がした。
* *
クライシス帝国は、大地震により滅びた。
けれども、若い男が戦争のため国外に行っていたため、死者は驚くほど少なかった。
地下牢に閉じ込められた人間も、ほとんどが無事で、戦争から帰ってきた民衆や、ルータリア帝国の兵士により助けられた。
そして、クライシス帝国はルータリア帝国に併合され、法が整備され、建物が建てられ、輝かしい街並みに生まれ変わっていった。それと支えたリヒト・クライシスは、旧クライシス国の最高責任者として、ルータリア帝国から役職を与えられている。
悪女ユリアのことを悪くいう人間もいれば、奇跡を起こしたユリアを神の子供だと崇拝する人間もいる。女神とまで称える人間も少なくはない。
そのユリア・クライシスは、大地震の日から姿を消していて、死体も見つかっていない。
クライシス帝国の英雄であったライリーは、とある少年とどこか遠いところで過ごしているらしい……。
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悪女ユリアは死神さえも惚れさせる魅力をお持ちですね。独特の感性を持ってらっしゃる皇女ユリア
彼女の自己肯定力は凄いと思います。彼女に本気で惹かれているのは人外ぐらいのものです。
ライリーはユリアを騙したことについては悪いと思いますが、結果的に皇女としても自覚なさったのだからコメデイでもどこか辛辣なブラックユーモアですね。
ユリアは幸福になってほしいです。死神たちも幸福になってほしい。
一人か二人。ハンス位はユリアの真実を知ってほしいです。ハンスは善良だから号泣するでしょう。
それとも予想外の展開になるのでしょうか? 楽しみに更新待っています。
感想ありがとうございます。実は昨日完結してしまいました。プロットをしっかりと練った小説ではなく、成り行きで書いたところも多かったですが、ユリアは書いていて楽しかったです。ユリアのメインヒーローを誰にしようか悩んでいましたが、ラストのあれが見たかったんです。ラストには賛否両論あるかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。