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仕事
しおりを挟む次の日、ルカは書店で受付をしていた。雇い主であるリックは、ルカの記憶がないことに驚いたが、ルカはこの仕事を7年以上続けていたため何の問題もなかった。
ルカは、初夏から秋にかけて農業をするが、冬の間は書店で働いていた。稼ぎは少なかったし、大した贅沢もできないけれど、農業をしていたため戦争には参加させられずに済んだことは大変ありがたかった。
書店で、新しく入った本を整理しながら、ヴィルヘルムとアルカイドのことで頭がいっぱいだった。ヴィルヘルムは『誰のことも信じるな』と言っていたけれど、アルカイドにルカを騙すメリットなど何もないだろう。だけど、どうして自分なんかと付き合ってしまったのか……。
カラン、カランとベルがなり、入口のドアが開く。
「いらっしゃいま……」
挨拶をしかけたルカの顔が盛大にひきつった。
「ひいいいいいいいい。な、な、な、何でここに⁉」
ルカは、血まみれの幽霊でも見たような気分だった。
そこにいたのは、制服姿のアルカイドだった。白い立派な布地の制服が、選ばれた人間の証であるように見えて眩しい。
「お前に会いに来たんだ。ルカも私に会いたかっただろう」
そう自信満々な笑みを浮かべているが、答えはもちろんNoだ。こんな歩く人間兵器みたいな奴に会いたい気持ちは1mmもない。
「し、仕事は?」
「今日は、学生相手の訓練相手だったが、全員戦闘不能になり早めに切り上げた」
それを聞いたルカは、あんぐりと顎が外れそうなくらい口を開けた。
(全員戦闘不能だと!?帝国の死神相手に戦うなんてかわいそうに……。みんな殺された……じゃなくて、きっとひどい怪我を負ったに違いない)
「えっと、その……俺は、仕事中でして……アルカイド様が満足するようなものは、ここにはなくてですね……」
というわけだから、さっさと帰ってくれと告げたいが、アルカイド相手に言いにくい。
「だったら、仕事をするお前を見ている」
アルカイドは、熱っぽい声でルカの目を見つめながら囁いた。
「え⁉」
ルカの頭に隕石が墜落したような衝撃が訪れた。
(そんなことってある!?仕事をする俺なんかを見て何が楽しいのか?もしかして、アルカイド様は俺に嫌がらせでもしたいのか?それとも、本当に俺のことが好きなのか?いや……そんなことあるはずない)
「……わかりました」
仕事をするルカを見るくらいなら、昼寝する猫でも見ていた方が100倍おもしろいに違いない。どうせアルカイドも、ルカを見ることに飽きてすぐに帰るだろう。
そう思って本を整理していたとき、入口のドアが開き、見慣れた騎士の青年がやってきた。
「いらっしゃいませ」
「えっと、医学の本を……って、うわああああああ。あ、あ、急用を思い出した」
男は、アルカイドの顔を見るなり、化け物でも見たような反応をして去っていった。
「……」
客が帰ってしまった……。アルカイドがいることは、店の利益の損失に繋がるのでは……。
そう悩んでいると、奥側のドアが開き、店長のリックが大量の本を抱えながら近づいてきた。
「ルカくん、この本たちも追加で……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
リックが持っていた本が、ドサアアアアっと雪崩のように床に崩れ落ちた。本を命のように大切に扱うリックのそんな姿を見たのは、初めてのことだった。
「あ、あ、あ、えっと、その、あ、あ、アルカイド様。帝国の守護神にお目にかかれて光栄です。今日は、どのような本を探していらっしゃいますか。どんな本でも持って行って大丈夫です」
リックは、滝のような汗を流しながら、必死でアルカイドに話しかける。その媚びへつらう姿は、まるで処刑寸前の罪人のようであった。
「私は、ルカに用事があってきただけだ」
「そうですか。ルカくん。今日の仕事は、もう終わりでいいよ。給料は、払うから」
「え、でも……」
「いいから、いいから。帝国の騎士様を待たせてはいけない。さっさと行っておいで」
店長のリックの顔には、さっさと消えろと書いてあるようだった。
こうして、ルカは、職場から追い出されてしまった。
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