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嫉妬
しおりを挟む「どういうことだ?」
ヴィルヘルムは、ルカの肩を掴む手に力を込める。まるで彼は、殺人鬼を問い詰める刑事のような迫力だ。
「彼氏ができた?はあ?どういうことだよ!!!女が好きだったんじゃないのか。いつから付き合っていたんだ?俺以外の奴と付き合っていたのか。ルカは、そいつのことが好きなのか?そいつのどこがいいのか?金か、顔か?それとも、優しくされて絆されたのか」
低い怒りをはらんだような声で問い詰められると、言葉に詰まる。
「あ、えっと……いきなり彼氏だって言われて……」
「何だよ、それは!!!」
あまりの剣幕に、肩をビクッとさせてしまう。
「そいつ……ルカのことを騙しているんじゃねーの?」
「え?」
アルカイドにルカを騙して何の得があるのだろうか。ルカは、お金をたくさん持っているわけでも、人並み外れた美貌があるわけでもない。誇れるものなんて何もない。それなのにアルカイドがルカを騙す?そんなことあるのだろうか……。
「とにかく、そいつには用心しろ。ルカは、騙されているかもしれない。記憶がないなら、さっさと別れた方がいい。そいつのこと、好きでもないだろう」
「うん……」
ヴィルヘルムの言う通りだ。どうしようと悩んでいたが、やはりアルカイドとは住む世界も違うし、どうにかして別れるべきだ。
「ルカ……。お前、大丈夫か。いきなり記憶喪失になっていろいろ混乱しているんじゃないか。俺もお前を悩ませてしまったか」
「俺は、大丈夫だよ。仕事だって、半年前と大して変わらないことをやっていると思うし」
そう告げるが、ヴィルヘルムは、急にルカを強く抱きしめてきた。
「ヴィルヘルム⁉」
驚きのあまりルカの声が裏返ってしまった。しかし、ヴィルヘルムは、ルカの声に動じず、さらに強くルカを抱きしめてくる。
「ごめん。もう少しこのままでいさせてくれ……」
「うん……」
ヴィルヘルムも、いきなり親友から彼氏ができたと聞かされて動揺してしまったのだろう。モテないと思っていた友達に先を越されてショックみたいな気持ちも湧いているのだろう。
「ルカ……」
ヴィルヘルムは、かすれた声で切なそうにルカの名前を呼んだ。
「何?」
「俺は、お前のことを誰よりも知っているつもりだった。でも、今はお前がわからない。お前が俺の知らない面を持っている気がして怖くてたまらない」
ルカを抱きしめるヴィルヘルムの手は力強いくせに、ブルブルと震えていた。
「大丈夫だよ。俺は、お前の知っているルカだ」
「ルカ。何か困ったことがあったら、いつでも俺に言ってくれ。俺は、お前のためならどんなことも力になる」
耳元で低く滑らかな声で熱っぽく囁かれると、ついドキドキしてしまった。
「ありがとう、ヴィルヘルム」
ルカがそう言うと、ヴィルヘルムは名残惜しそうに身体をゆっくりと離した。そして、気まずそうに目を反らしながら、遠くを見た。そして、ぼんやりとうわごとのように「……お前は、記憶が戻るまで誰のことも信じるな」と呟いた。
ヴィルヘルムの意味深な言葉は、ルカの心にさざ波のように広がっていった。
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