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これはデートなんかじゃない
しおりを挟むその日の訓練が終わったヨヅキは、シャワー室に向かった。ヨヅキ達が生活する寮には、3つの個室で区切られたシャワー室があり、空いていれば好きな時間に使用できるのである。ヨヅキが使用しようとしたタイミングは、誰もおらず大声を出しても気がつかれなさそうだった。そのため、シャワー室に入ったヨヅキは、地団駄を踏みながら、荒れ狂っていた。
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!あの野郎おおおおおおおおおおおおおお!1週間くらいドラゴンにくくりつけられて、泣き叫べばいいのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
辺りの壁をドン、ドンと殴りつけても怒りはおさまらなかった。
「絶対、いつかボコボコにしてやる。この借りは百倍にして返してやる!!」
どうしようもなくイライラする。
けれども、本当にイラつくのは、アンジェロよりも自分に対してだ。
(もっと強くなりたい。そして、アンジェロにいつかぎゃふんと言わせてやる)
そう決意しながら、頭をガシガシと乱暴に洗った。
シャワーを浴びて脱衣室に行き、服を着て、髪をタオルで拭いていると、アンジェロがやってきた。彼は、誰かを待っているように、腕を組みながら壁に寄りかかった。
なぜか彼は、ワインレッドのスーツに黒いシャツを着ていて、ヴァーベナの香りがする香水もつけている。髪はワックスでもつけているのか、髪型が整えられているせいか、いつもよりもさらにキラキラとしたオーラを放っているように見えた。
(まるでデートでもするような格好だ。何か予定でもあるのだろうか)
自分には、どうせ関係ないと思いながら、挨拶もせずに素通りしようとしていると、「待て、ヨヅキ」と話しかけられた。
「何だよ、アンジェロ」
「その……レストランを予約していたんだ。……おごってやるから、一緒に来い」
アンジェロは、恥ずかしそうに目を反らしながらそう言ってきた。
(何かの罰ゲームでもしているのだろうか)
「はあ?他の奴を誘えばいいだろう」
そう眉をひそめると、失礼な家来に怒り狂う王族のように迫力のある顔で睨まれた。
「この俺が誘ってやっているんだ。ありがたく思え」
(何でここまで不機嫌になるんだろう)
ヨヅキの頭に、ある考えがひらめいた。
「もしかして、誘おうって思っていた奴に振られたの?」
「はあ?」
アンジェロの顔が、怒りで爆発する寸前のように歪み、額に血管が浮き出た。
(きっと図星を言われて怒ってしまったに違いない。かわいそうに……。こんなイケメンでも、性格が悪いから振られてしまったんだな。それで、仕方なく近くにいた俺を誘うことにしたのだろう)
「今日は、この後、筋トレをするから行かない」
そうあっさり断ると、彼は、怒りのせいか唇をひくひくさせた後、右手の人差し指をピンと伸ばして、何かを企むような歪んだ笑みを浮かべた。
「隣国の吸血鬼に関する話をしてやろう」
それを聞いてヨヅキの頬がピクッと反応した。
(アンジェロとの食事なんて嫌だ。だけど、吸血鬼の話は知りたい)
「ヨヅキは、知らないと思うけれど、隣国では吸血鬼の集団が出現したんだ」
ヨヅキの脳内で、嫌いな奴との食事と吸血鬼の話が天秤にかかる。そして、わずかに食事の方に傾いた。
(こいつの失恋話も聞けるかもしれないし、行ってみるか)
「し、仕方がないな。行ってやる」
そう言うと、アンジェロはヨヅキの肩を組んで連行するように歩き出した。
「じゃあ、ついてこい」
「ちょっと待って。財布がまだ部屋で」
「いいからさっさと来い。今日は、おごりだ」
アンジェロは、ヨヅキの気が変わることを恐れるように足早に歩き出した。
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