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憎しみ
しおりを挟む「ひっ。何をするつもりだ?」
ヨヅキに覆いかぶさるアンジェロは、光が一切差し込まない深海みたいに暗い目をしていた。
「お前が憎い」
ポツリと降り始めた雨のように、アンジェロから言葉が零れ落ちた。
「今までどれほどお前のために手を染めてきたと思っている?あの時、俺がどれほど必死でお前を探し回ったと思っている?お前は……何も知らないだろうな……。俺は……お前が俺をめちゃくちゃに傷つけたように、お前のことも傷つけてやりたい」
彼の声は、悲しみと痛みと絶望が協奏曲を奏でているように、暗く救いのないものだった。
「離せ!この化け物が」
ヨヅキは、アンジェロの頬を全力で殴りつけたが、彼は少しだけ眉をひそめただけだった。
「大人しくしていろ」
そんな風に、血だらけのアンジェロの手が、ヨヅキの中に入れられる。
「う、うぐ……」
こいつの血を舐めるなんて気持ち悪い。必死で逃げるヨヅキの舌に、ナイフを握りしめたときに血が流れたアンジェロの指がなすりつけられる。
(あれ?何だか……頭がポワポワする。まるで、こいつにキスされたときみたいだ)
ヨヅキの目がトロンとしてくると、アンジェロは、ヨヅキの口に入れていた手をどかし首筋に牙を立ててかみついた。
「あああああああああああああああああああん」
すると、鼻に抜けるような自分の奇声が響き渡った。すぐにでも絶頂に到達してしまいそうな激しい快感が嵐みたいに襲ってくる。全身の体温が一気に上昇したように熱い。服が身体にこすれる感触がやけに刺激的で気持ちいい。
「はあ、はあ、はあ、はあ……。お前、俺に何をした?」
そう何とか意識を保ち睨みつけると、アンジェロは、ハチミツのように甘ったるい声で「吸血鬼は、血を吸うときに自分の唾液を混ぜると、催淫効果があるんだ」と耳元で怪しく囁いてきた。
「……さい、いん……こうか……」
焦点のあってのない目をしながら、ヨヅキがぼんやり呟いた。
さっき血液を舐めてしまって気持ちよくなったのも、それによるものだろうか。
「媚薬の原液を体に流し込むようなものさ。気持ちいいだろう」
かすれた声で、誘惑するようにアンジェロが囁く。
「そ、そんなわけない!俺が、お前なんかに惑わされるわけないだろう!!」
「相手の血に混ぜるのが一番効果的だが、粘液接種でも効果がある。例えば、キスとかな」
次の瞬間、アンジェロは、ヨヅキの唇を貪るように激しいキスをしていた。まるで砂漠で飢えた人間が水を求めるように、荒々しくヨヅキの全てを奪いつくそうとするようなキスであった。
「やめっ……んんっ。……っぁ……」
急にキスされたヨヅキは、パニック状態になりそうだった。けれども、すぐに状況を把握すると、アンジェロへの激しい怒りが湧いてくる。
(いきなりキスなんてしやがって。ふざけんな!このままこいつの好きにさせてたまるか!)
ヨヅキは、アンジェロの髪を引っこ抜く勢いで掴んだ。しかし、すぐにアンジェロの右手でヨヅキの両手を固定さ
れ、近くにあった縄で縛られた。
「くそっ!ほどけっ」
今度は、足でアンジェロを蹴ろうとするが、そんなことお見通しといわんばかりに、全身でのしかかられ、足で蹴ることができなくなった。
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