2 / 41
過去
しおりを挟む高校生だった頃のことである。
「池田がやったんじゃないか」
「そうだ。だって、他にやる奴なんかいないだろう」
少し離れた教室から、クラスメートの声が聞こえてくる。
冬休みになる少し前、数名の家庭科の教材費が、体育の授業中に盗まれた。俺がトイレから戻ると、数名のクラスメートが犯人として俺を疑う会話が聞こえてきて、教室に入らずに足を止めた。
「だって、あいつの家、貧乏だから」
神田の声が、俺まではっきりと聞こえてくる。
俺は、みんなと違って貧乏な母子家庭だった。母親に遠慮して、部活だってしていなかった。体操服や制服だって、近くの家の知り合いのおさがりを着ている。
カラオケやファミレスもお金がかかるから、クラスメートとは一度も行っていない。
うつむきながら、右手をギュッと握りしめて痛みをこらえる。
わかっていたはずだ。
こんな俺みたいな奴が一番に疑われることくらい。どうせ俺がやったと、みんな心の中で思っているに違いない。
「違うよ、あいつがそんなことするわけない」
その時、響き渡ったのは、東条 楓の声だった。
楓は、学校一のイケメンであり、同じ図書委員として関わることはあったが、彼には友達がたくさんいるし、俺とはそんなに仲良くなかったはずだ。
「あいつは、そんなことする奴じゃないよ。文化祭で会計係だった時も、しっかりと1円単位で計算していた。誰よりも真面目で、図書委員としての仕事だってきっちりやっている。俺は、誠を信じている」
その言葉を聞いた瞬間、自分の中で嵐のように激しい感情が芽生えて、生まれたばかりの赤ん坊のように泣きだしたくなった。
俺は、母子家庭であることや、貧乏であることにコンプレックスを感じていた。みんなと同じようになれないし、扱われないと諦めていた。
だけど、楓だけはこんな俺を信じてくれた。胸にじわじわとした温かい気持ちが生まれていった。
それから、楓を見るたびにドキドキしてしまうようになり、気がついたら、どうしようもなく楓を好きになっていた。今でも好きだ。もう自分は、他の誰かを好きになることなんてできない気がする。
あの時、俺の心は、彼に奪われてしまったのだ。
卒業式の日、もう楓とは会わないから、最後に自分の気持ちを告げようとした。記念に第2ボタンが欲しいと、浅ましくもねだろうとしてしまった。そのボタンだけで、自分が生きていける気がした。
けれども、「お前のことがずっと好きだった」と告げた後、何て言われるのか怖くなり、楓の言葉も聞かず、ボタンが欲しいと告げられないまま、逃げ出したのだ。そして、すぐに大学の近くへ引っ越しをして、楓とは何年も会わなかった。
楓なんて忘れて、他の誰かを好きになろうとした。
男が好きなのかもしれないと、ゲイバーに行ったことだってある。
けれども、誰かを好きになろうとするたびに楓と比べてしまう。楓の声や笑顔を鮮明に思い出してしまう。
結局、俺は、楓のことが忘れられなかった。何年も経ったので美化されているのかもしれない。
俺にとって、楓は、誰よりも特別な存在だった。
もう結婚もすることも、恋人もつくることなく、初恋の思い出だけに浸りながら、生きていくのだろう。
202
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ真に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる