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彼の職業
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楓は車をマンションの駐車場に止めると、高そうなタワーマンションらしきところに案内してくれた。
彼の部屋は、モデルルームのようで、高級そうな家具がたくさん置かれていた。意外なことに、奥の方にある本棚には、大量の本や漫画が置いてあった。
その中に、好きな小説や漫画をたくさん見つけて、俺は目を輝かせた。
「あ、これ、楓が好きだった小説じゃん。最新刊も持っているんだね。俺も読んだけど、相変わらず、この先生の作品おもしろいよね」
「うん。犯人の動機が、予想外だけど共感できるもので、おもしろかった」
俺の胸にじわじわと懐かしさが広がった。図書委員だった頃、二人で好きな小説についてよく話していたのを思い出す。
立派な大人になった楓は、俺みたいに小説なんて読まなくなった気がしていた。だけど、楓があの頃のまま変わっていなくてホッとする。
「そういえば、俺、誠にプレゼントがあるんだ」
誠から、茶封筒を渡される。何だろう。中に紙らしきものが入っているのか。
「え!嬉しいな。何だろう。あ……」
中から出てきたのは、離婚届だった。すでに俺の名前まで、記載されてある。
「……あ、えっと……」
困惑していると、楓が背後からギュッと蛇みたいに抱きしめてきた。
「誠の代わりに、プリントしておいた。ちゃんと書いておいてね。今度、俺も一緒に、市役所まで行ってあげようか」
楓は、俺の手に自分の手を重ねながら、そう耳元で誘うように、ねっとりと囁いてくる。
「……」
何も言えねぇ。
市役所だって、結婚してもいない男から、こんなものを提出されたら、びっくりして正気を疑うだろう。
もうダメだ。罪悪感に耐え切れない。今、結婚していたなんて嘘だったと言おう!!!
今日、俺が楓に会おうとしていたのは、結婚のことは嘘だったと告げて、謝るためだった。もしかしたら、楓も俺のことを好きなのかもしれないし、本当のことを言えば両想いになれるかもしれない。
いい大人が、あんな低レベルの嘘をついたなんて恥ずかしいけれど、楓に対しては誠実でありたいと思っているし、本当のことをちゃんと言おう。
俺は、そっと楓の拘束を振りほどき、正面から向き合った。
「あのさ、俺……実は……」
「そういえば、俺、漫画家になったんだよね」
「へ?」
真実を言おうとした瞬間、遮るように楓から衝撃的なことを言われて、頭が真っ白になる。
楓が?漫画家?
てっきり親の跡を継いだか、自分で企業をしたかと思っていたけれど、全然、違ったようだ。
「すごいじゃん!!どんな漫画を描いているの?」
「音化魔出鬼って言うんだけど」
「えええええええええええええええええええええええ!!!」
オトカマデキだと!!!
音化魔出鬼。彼は、全世界で愛される超売れっ子の漫画家である。彼の作品は、アニメ化され、全世界のアニメ映画の売り上げでトップになった。つまり国宝級の人物なのである。
俺も、もちろん、彼の作品を読んでいて、彼の大ファンだ。そんなすごい人が俺の友達だなんて、誇らしくてたまらない。
「超すごいじゃん!!!楓、天才じゃん。俺、楓のファンだよ。楓の作品は全部読んでいるし、楓の漫画を読むのが一番の生きがいだよ!俺、命の選択をするエピソードが好きなんだよ。あの最新話が出た時は、コンビニで速攻走りに行った!」
楓は、何か反応を示すかと思ったけれど、彼は無言で、顔を両手で覆った。
「どうしたの?」
「……俺、漫画家になって本当によかったなと思って」
その声は、泣いているかのように震えていた。
楓のことが羨ましいけれど、漫画家は、すごく過酷な職業だと聞いたことがある。命を擦り減らしながら、頑張っていたのだろう。
「最初から上手くいかなかった。落選が続いて、がっかりしている日々も多かった。自分には、才能なんてないのかもしれないと思っていた時もある」
「そうか。大変だったね」
「辛いときは、いつもお前の言葉を思い出していた。お前がいなかったら、今の俺はいない」
それを聞いた誠は、首を軽く傾げた。
うん?
俺、何か言ったっけ?
そう言えば、高校時代にこいつから漫画家になりたいと言われたことがある。
* *
高校2年生の冬頃、学校から進路希望表を書くように言われた。どうしたいか決めていなかった俺は、将来について悩んでいた。
楓はどうするか興味を持ち、図書委員の仕事をしている時に尋ねてみた。
「楓って将来の何になりたいの?」
「……実は、俺、漫画家になりたくて」
楓は、視線を下にして、消え入りそうな声で呟いた。
「漫画を描けるなんてすごい!お前、絶対才能あるって」
嘘である。
この男、貧乏だから、漫画というものを一度も読んだことがなかったのである!
本格的な漫画なんてものも、漫画家という職業もよくわからない。
だけど、恥ずかしくてそんなこと言えない。
でも、俺の中では漫画というものをかける=天才という図が完成していた。まるで楓のことを進化した新人類のように感じていたのだ。
「え……そうかな。でも、両親だって反対しているし」
「自分の人生だから、好きなように生きたらいいだろう。お前みたいな奴は、きっと何をやっても成功するに決まっているさ」
「うん!ありがとう!!!」
楓は、そうニコニコ笑いながら、小さく頷いた。
彼の部屋は、モデルルームのようで、高級そうな家具がたくさん置かれていた。意外なことに、奥の方にある本棚には、大量の本や漫画が置いてあった。
その中に、好きな小説や漫画をたくさん見つけて、俺は目を輝かせた。
「あ、これ、楓が好きだった小説じゃん。最新刊も持っているんだね。俺も読んだけど、相変わらず、この先生の作品おもしろいよね」
「うん。犯人の動機が、予想外だけど共感できるもので、おもしろかった」
俺の胸にじわじわと懐かしさが広がった。図書委員だった頃、二人で好きな小説についてよく話していたのを思い出す。
立派な大人になった楓は、俺みたいに小説なんて読まなくなった気がしていた。だけど、楓があの頃のまま変わっていなくてホッとする。
「そういえば、俺、誠にプレゼントがあるんだ」
誠から、茶封筒を渡される。何だろう。中に紙らしきものが入っているのか。
「え!嬉しいな。何だろう。あ……」
中から出てきたのは、離婚届だった。すでに俺の名前まで、記載されてある。
「……あ、えっと……」
困惑していると、楓が背後からギュッと蛇みたいに抱きしめてきた。
「誠の代わりに、プリントしておいた。ちゃんと書いておいてね。今度、俺も一緒に、市役所まで行ってあげようか」
楓は、俺の手に自分の手を重ねながら、そう耳元で誘うように、ねっとりと囁いてくる。
「……」
何も言えねぇ。
市役所だって、結婚してもいない男から、こんなものを提出されたら、びっくりして正気を疑うだろう。
もうダメだ。罪悪感に耐え切れない。今、結婚していたなんて嘘だったと言おう!!!
今日、俺が楓に会おうとしていたのは、結婚のことは嘘だったと告げて、謝るためだった。もしかしたら、楓も俺のことを好きなのかもしれないし、本当のことを言えば両想いになれるかもしれない。
いい大人が、あんな低レベルの嘘をついたなんて恥ずかしいけれど、楓に対しては誠実でありたいと思っているし、本当のことをちゃんと言おう。
俺は、そっと楓の拘束を振りほどき、正面から向き合った。
「あのさ、俺……実は……」
「そういえば、俺、漫画家になったんだよね」
「へ?」
真実を言おうとした瞬間、遮るように楓から衝撃的なことを言われて、頭が真っ白になる。
楓が?漫画家?
てっきり親の跡を継いだか、自分で企業をしたかと思っていたけれど、全然、違ったようだ。
「すごいじゃん!!どんな漫画を描いているの?」
「音化魔出鬼って言うんだけど」
「えええええええええええええええええええええええ!!!」
オトカマデキだと!!!
音化魔出鬼。彼は、全世界で愛される超売れっ子の漫画家である。彼の作品は、アニメ化され、全世界のアニメ映画の売り上げでトップになった。つまり国宝級の人物なのである。
俺も、もちろん、彼の作品を読んでいて、彼の大ファンだ。そんなすごい人が俺の友達だなんて、誇らしくてたまらない。
「超すごいじゃん!!!楓、天才じゃん。俺、楓のファンだよ。楓の作品は全部読んでいるし、楓の漫画を読むのが一番の生きがいだよ!俺、命の選択をするエピソードが好きなんだよ。あの最新話が出た時は、コンビニで速攻走りに行った!」
楓は、何か反応を示すかと思ったけれど、彼は無言で、顔を両手で覆った。
「どうしたの?」
「……俺、漫画家になって本当によかったなと思って」
その声は、泣いているかのように震えていた。
楓のことが羨ましいけれど、漫画家は、すごく過酷な職業だと聞いたことがある。命を擦り減らしながら、頑張っていたのだろう。
「最初から上手くいかなかった。落選が続いて、がっかりしている日々も多かった。自分には、才能なんてないのかもしれないと思っていた時もある」
「そうか。大変だったね」
「辛いときは、いつもお前の言葉を思い出していた。お前がいなかったら、今の俺はいない」
それを聞いた誠は、首を軽く傾げた。
うん?
俺、何か言ったっけ?
そう言えば、高校時代にこいつから漫画家になりたいと言われたことがある。
* *
高校2年生の冬頃、学校から進路希望表を書くように言われた。どうしたいか決めていなかった俺は、将来について悩んでいた。
楓はどうするか興味を持ち、図書委員の仕事をしている時に尋ねてみた。
「楓って将来の何になりたいの?」
「……実は、俺、漫画家になりたくて」
楓は、視線を下にして、消え入りそうな声で呟いた。
「漫画を描けるなんてすごい!お前、絶対才能あるって」
嘘である。
この男、貧乏だから、漫画というものを一度も読んだことがなかったのである!
本格的な漫画なんてものも、漫画家という職業もよくわからない。
だけど、恥ずかしくてそんなこと言えない。
でも、俺の中では漫画というものをかける=天才という図が完成していた。まるで楓のことを進化した新人類のように感じていたのだ。
「え……そうかな。でも、両親だって反対しているし」
「自分の人生だから、好きなように生きたらいいだろう。お前みたいな奴は、きっと何をやっても成功するに決まっているさ」
「うん!ありがとう!!!」
楓は、そうニコニコ笑いながら、小さく頷いた。
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