【完結】過去に告白した男と再会するので、もう結婚していると嘘をつきます。

夜刀神さつき

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遭遇

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「俺が、漫画家として成功できたのは、全部、誠のおかげだ。誠の言葉が、いつも俺に勇気をくれた」

 楓は、俺の肩に手を置きながら、まっすぐ目を見て話しかけてくる。それを聞いた俺は、チベットスナギツネのように目が点になった。

 いや、俺、あの時、漫画を読んだことなんて一度もなかったし、漫画業界がどういうものかも知らなかったんだよ。

 よくわからない罪悪感で胸が痛い。

 でも、楓が夢を叶えて幸せに生きているなら、よかった。楓だったら、何でもできると思っていたのは事実だ。

 だけど、楓って、東条グループの跡継ぎとか言われていたような……。



「両親から、反対されなかったの?」

「反対されていたよ。父さんも、母さんも、俺には、会社の跡をついで欲しかったんだ。でも、俺は、それを辞退した」



 俺の一言が東条グループの未来を変えてしまっただと⁉

 え?そんなバカな……。

 俺ってとんでもないことをしてしまったんじゃないか。

 恐怖で、手がブルブルと震えてくる。



「親不孝ものと殴られ、実家とは縁が切れた時もある」

「……」



 あばばばばばばばばばばばば。

 俺の発言のせいで、そんな事態になっていたなんて!!!



「風呂がついていない狭いアパートで暮らしていた時期もあった。父さんたちは、俺がすぐに辞めると思って、一切支援をしなかったんだ。売れないときは、エロ漫画を描いていたときもある。誠も見てみる?」

「お、お前が!?エロ漫画?」



 驚きのあまり、声が裏返ってしまった。

 この爽やか100%ですみたいな男が、エロ漫画とか似合わなすぎる。



「売れるためには、いろいろやったさ。世間では知られていないけれど、これも俺が描いていたんだ」



 そう言われながら、渡された本を見て、あまりの破廉恥さにギョッとした。



『上司と旅館で不倫してしまいます』

『親友の彼氏に襲われた!』

 そんなタイトルがある本の表紙には、男に拘束されながらアへ顔している巨乳の女の子が描かれていた。



「あ……」



 こいつでも、こんなエロいことを考えるんだ。想像したら、顔が林檎のように真っ赤になってしまった。



「何を考えているの?」

「あ、えっと……。このヒロイン、気持ちよさそうだなって……」

「誠は、破廉恥だな」



 耳元でボソッと言われると、さらに真っ赤になってしまう。

 あれ?こいつの作品……寝取られとか、不倫ばっかりじゃない?

 も、も、も、も、もしかして……。



 俺は、一つの結論に達した。



 そう。楓は、寝取りや不倫の趣味があるに違いない!!!



 彼は、真面目な優等生すぎて、いつの間にか性癖が歪んでしまったのだ!

 だから、平凡なサラリーマンである俺なんかに興味を持ったのだ!!!

 そうじゃなかったら、モテ過ぎて困ってしまう人生を歩んできた楓が、俺なんかに興味を持つことに説明がつかない。

 きっと人には言えない趣味を持っていた楓は、苦しんでいたに違いない。そんな時、過去に自分に告白をして立ち去った男が、結婚したということを知ったのだ。男だったら妊娠もしないし、どうせ昔、告白してきた男だったら、抱いても大丈夫だろうと考えたのかもしれない。

 楓と付き合えるなんて、俺の人生における一番輝いている瞬間かもしれない。実は、結婚していなかったなんて言うのは……もうちょっと先でもいいんじゃないかな……。

 楓だって、人妻や、彼氏持ちの女と付き合うより、誰も恋人がいない俺と付き合った方が健全だろう。

 そういうことなら、もう少しだけ、俺が結婚していないということは黙っておこう。俺は、心の中で、そう決意をした。



「誠のこともこんな風に気持ちよくさせてあげる」



 楓は、俺の後頭部を手で支えながら、ソファーにゆっくりと押し倒してきた。



「え、えっと……」

「だから、早く奥さんと離婚して、俺だけのものになって」



 そう言うと、俺からの返事はいらないと言うように、彼は、強引に口をキスで塞いだ。



  *                  *



 その日は、流されるまま楓と体を重ねてしまった。俺が本当のことを言ったらこんな関係は終わるかもしれないが、それまで楓と付き合っていたかった。

 翌朝、楓の仕事を邪魔しないように早めに家に帰ることにした。楓は、俺を送ろうとしてくれたが、楓の迷惑になりたくなくて断った。彼から渡された漫画や、茶封筒の離婚届けは、紙袋に入れてもらった。

 エレベーターを降りてマンションから出た途端、茶髪の巻き髪をした人形のようにかわいらしい女の人と目が合った。持っている服やバッグも高級そうだし、金持ちのお嬢様のように見える。彼女は、なぜか俺を睨みつけながら、近づいてきた。



「あなた、楓とどういうご関係なの?」



 彼女は、鈴の音ようにかわいらしい声をしながら、いきなり尋ねてきた。

 楓の知り合いなのだろうか。だから、俺に興味を持ったのかもしれない。



「俺は、楓の……友達です」

「私は、葉月 桃華。楓の婚約者よ」

「え?」



 衝撃のあまり、俺は持っていた紙袋を床にポトッと落とした。

 床に落ちた紙袋は横に倒れ、楓から受け取ったエロ漫画が床に散らばった。

 乳首まる出しでアへ顔をしている女の子が表紙の漫画や、不倫、種づけセックスなどいかがわしい文字が丸見えになる。



「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 桃華の甲高い悲鳴が、フロア中に響き渡った。

 俺は、楓の婚約者に対してとんでもない精神攻撃をしかけてしまったようだ。
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