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コート
しおりを挟む寒空の下、1人置いて行かれた香月 蓮は、冷たくなった手をこすり合わせながら、ため息をついた。
「失敗したな……」
俺みたいなイケメンが捨てられていたら、絶対に拾ってくれると思ったが、ダメだったか。他の方法を探さないといけない。
「今日は、帰るか」
そう思い頭の上に積もった雪を払った時、池田誠の姿が見えた。
彼は、手にもう一つのコートを持ちながら、蓮の前まで走ってきた。
「はあ、はあ、はあ……」
彼は、急いで走ってきたのか、息が上がっている。
勝った!!!
彼は、俺のことが放っておけなかったのだ。唇が釣り上がりそうになるのを必死でこらえる。
「これ……やる。そんな寒い恰好でいたら、風邪をひくだろう」
そう言って、俺の肩に安っぽいコートをかけてきた。
「ありがとう。くしゅん。助かったよ」
かわいらしくくしゃみをしながら、さりげなく誠に肩を寄せようとするが、避けられてしまった。
「行くところがないのか」
「うん……」
俺は、悲しそうな顔をしながら、小さく頷いた。
「じゃあ、着いてこい」
そう言って、誠は、俺の手を握った。身体が冷え切っていたため、彼の手は、暖炉のように温かく感じられた。
計画通り。どうせこいつも俺を家に連れ込み、身体を要求してくるに違いない。
だけど、こいつと上手くセックスできるか不安だ。胸だって平らだし、勃起するかわからない。
そう考えていると、俺が不安そうな顔をしていることに気がついた誠が「大丈夫だ」と言ってきた。彼は、俺が考えていることをわかってしまったのだろうか。
「安心しろ。この段ボ―ルは、俺が資源ゴミの日にちゃんと処分しておく」
いや、そんな心配は、全然していない。
誠に連れて行かれた場所は、彼の家ではなく近くのホテルだった。セックスをするのに、ムードを大切にするタイプの男なのかもしれない。
大人しそうな顔をしているが、こいつも見返りを求めている。きっとホテルに連れ込まれてセックスをすることになるだろう。
しかし、誠は、1泊分の料金を払い終わると、俺にカードキーを渡してきた。
「これをあげる。1泊しか払っていないから、明日の朝には出ていけ」
「えっと、おにーさんは?」
「俺は、家に帰るに決まっているだろう」
「は?」
こいつ、何を言っているんだ?俺とセックスするために、ホテルに連れ込んだんじゃなかったのか。
「そうだ。これを渡しておく」
彼は、自分のコートのポケットから、紙を取り出した。
やはり自分の連絡先を渡しておいて、後で金を払ってくれと言うのだろう。それとも、俺のことを好きになったからまた逢って欲しいとか言ってくるのか。
「手書きの地図だけど、市役所までの道のりが書いてある。明日、これを参考にして市役所で生活保護か、失業手当などの手続きをしてくれ。女性の職員などに助けを求めれば、あなたの力になってくれる人も現れるだろう」
「はあ?」
渡されたものが、あまりにも予想外すぎて、俺は紙を持つ手が震えた。
「確かに、こういう手続きや、再就職は面倒くさいだろう。しかし、きちんと頑張れば、あんな寒空の下で凍えることもなくなるはずだ。頑張って欲しい」
「……」
どうやら、誠は、先ほどの提案に俺が不満を持っていると勘違いしたようだ。肩を叩かれ励まされてしまった。
「人生は嫌なことの連続で大変かもしれないが、生きていればいいこともあるはずだ」
「……」
うるせぇな、こいつ。
俺の方が絶対に、お前よりも稼いでいるのに、ちょっと悔しい。
「ああ、そうだ。これもやる」
そうだ。やっぱりこれで終わらないはずだ。今度は、高価なものを渡してきて、見返りを求めてくるはずだ。
しかし、渡されたビニール袋はやけに軽かった。
「これは?」
「カップラーメンだ。ホテルで食べるといい」
「……」
俺は、驚きのあまり言葉を失った。カップラーメンを持つ手が、ブルブルと震えてしまう。
女から、腕時計、財布、ネクタイ、お酒……様々なものを貢がれてきたが、カップラーメンを他人からもらったことは人生で初めてだった。
売れっ子ホストがもらうものが、カップラーメンかよ。ヤバい。笑ってしまいそう。
「これだったら、ホテルのお湯で食べられるし、温かいだろう」
こんなものなくても大丈夫だけど、ここはお礼を言っておいた方が、印象がよくなるだろう。
「ありがとう、親切なおにーさん」
そう言いながら誠に距離を詰めて、彼をギュッと抱きしめる。彼は、驚いたように身体をビクッとさせた。そんな彼の耳元で「俺、おにーさんみたいな人、好きになりそう」と甘ったるく呟いた。
これで大抵の女は、俺に堕ちて抱きしめ返してくる。
しかし、彼はすぐに俺から離れ、何事もなかったように「じゃあ、風邪に気をつけて、元気で過ごして」と手を振ってきた。
そのまま、立ち去りかけた誠の腕をグイッと掴んだ。
「ちょっと待って!おにーさんは、どうして俺を助けたの?」
どうしても聞きたかったことを聞くが、彼は、困ったようにハハハと笑った。
「……俺にもわからないんだ」
そんな風に言われて、俺の目が点になった。
部屋に1人で入った俺は、窓を見下ろし、誠の姿を探そうとした。残念ながら、彼はもう見えなくなっていたようで、探し続けても見つからない。
くそっ。全然計画通りにいかない。
今頃、あいつの家で親交を深めているはずだったのに、ホテルに連れて来られるとか予想していなかった。詐欺とかに騙されてしまいそうで、心配になる。
どうして彼は、俺に見返りを求めない?
これじゃあ、彼が俺に無償の愛をくれたみたいじゃないか。
いや、そんなわけない。見返りのない優しさなんて、信じられない。きっと彼は、そのうち俺に金銭を要求してくるに違いない。
だけど、かけられた安物のコートがやけに温かく感じる。ブランドのコートなんてたくさん持っているけれど、彼からもらったコートが特別なものに思えた。自分のものにしてしまいたいけれど、このコートを返すという名目で会いに行くのもいいだろう。その時、まずは告白をしてみるのもいいかもしれない。桃華のいうとおり淫乱なら、あっさりと堕ちるだろう。
「池田 誠か……。おもしろい男だな」
ホテルの窓から夜景を見下ろしながら、獲物に狙いを定めた狼のように舌なめずりをした。
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