【完結】過去に告白した男と再会するので、もう結婚していると嘘をつきます。

夜刀神さつき

文字の大きさ
12 / 41

コート

しおりを挟む

 寒空の下、1人置いて行かれた香月 蓮は、冷たくなった手をこすり合わせながら、ため息をついた。

「失敗したな……」

 俺みたいなイケメンが捨てられていたら、絶対に拾ってくれると思ったが、ダメだったか。他の方法を探さないといけない。

「今日は、帰るか」

 そう思い頭の上に積もった雪を払った時、池田誠の姿が見えた。
 彼は、手にもう一つのコートを持ちながら、蓮の前まで走ってきた。

「はあ、はあ、はあ……」

 彼は、急いで走ってきたのか、息が上がっている。
 勝った!!!
 彼は、俺のことが放っておけなかったのだ。唇が釣り上がりそうになるのを必死でこらえる。

「これ……やる。そんな寒い恰好でいたら、風邪をひくだろう」

 そう言って、俺の肩に安っぽいコートをかけてきた。

「ありがとう。くしゅん。助かったよ」

 かわいらしくくしゃみをしながら、さりげなく誠に肩を寄せようとするが、避けられてしまった。

「行くところがないのか」
「うん……」

 俺は、悲しそうな顔をしながら、小さく頷いた。

「じゃあ、着いてこい」

 そう言って、誠は、俺の手を握った。身体が冷え切っていたため、彼の手は、暖炉のように温かく感じられた。
 計画通り。どうせこいつも俺を家に連れ込み、身体を要求してくるに違いない。
 だけど、こいつと上手くセックスできるか不安だ。胸だって平らだし、勃起するかわからない。

 そう考えていると、俺が不安そうな顔をしていることに気がついた誠が「大丈夫だ」と言ってきた。彼は、俺が考えていることをわかってしまったのだろうか。

「安心しろ。この段ボ―ルは、俺が資源ゴミの日にちゃんと処分しておく」

 いや、そんな心配は、全然していない。



 誠に連れて行かれた場所は、彼の家ではなく近くのホテルだった。セックスをするのに、ムードを大切にするタイプの男なのかもしれない。
 大人しそうな顔をしているが、こいつも見返りを求めている。きっとホテルに連れ込まれてセックスをすることになるだろう。
 しかし、誠は、1泊分の料金を払い終わると、俺にカードキーを渡してきた。

「これをあげる。1泊しか払っていないから、明日の朝には出ていけ」
「えっと、おにーさんは?」
「俺は、家に帰るに決まっているだろう」
「は?」

 こいつ、何を言っているんだ?俺とセックスするために、ホテルに連れ込んだんじゃなかったのか。

「そうだ。これを渡しておく」

 彼は、自分のコートのポケットから、紙を取り出した。
 やはり自分の連絡先を渡しておいて、後で金を払ってくれと言うのだろう。それとも、俺のことを好きになったからまた逢って欲しいとか言ってくるのか。

「手書きの地図だけど、市役所までの道のりが書いてある。明日、これを参考にして市役所で生活保護か、失業手当などの手続きをしてくれ。女性の職員などに助けを求めれば、あなたの力になってくれる人も現れるだろう」
「はあ?」

 渡されたものが、あまりにも予想外すぎて、俺は紙を持つ手が震えた。

「確かに、こういう手続きや、再就職は面倒くさいだろう。しかし、きちんと頑張れば、あんな寒空の下で凍えることもなくなるはずだ。頑張って欲しい」
「……」

 どうやら、誠は、先ほどの提案に俺が不満を持っていると勘違いしたようだ。肩を叩かれ励まされてしまった。

「人生は嫌なことの連続で大変かもしれないが、生きていればいいこともあるはずだ」
「……」

 うるせぇな、こいつ。
 俺の方が絶対に、お前よりも稼いでいるのに、ちょっと悔しい。

「ああ、そうだ。これもやる」

 そうだ。やっぱりこれで終わらないはずだ。今度は、高価なものを渡してきて、見返りを求めてくるはずだ。
 しかし、渡されたビニール袋はやけに軽かった。

「これは?」
「カップラーメンだ。ホテルで食べるといい」
「……」

 俺は、驚きのあまり言葉を失った。カップラーメンを持つ手が、ブルブルと震えてしまう。
 女から、腕時計、財布、ネクタイ、お酒……様々なものを貢がれてきたが、カップラーメンを他人からもらったことは人生で初めてだった。
 売れっ子ホストがもらうものが、カップラーメンかよ。ヤバい。笑ってしまいそう。

「これだったら、ホテルのお湯で食べられるし、温かいだろう」

 こんなものなくても大丈夫だけど、ここはお礼を言っておいた方が、印象がよくなるだろう。

「ありがとう、親切なおにーさん」

 そう言いながら誠に距離を詰めて、彼をギュッと抱きしめる。彼は、驚いたように身体をビクッとさせた。そんな彼の耳元で「俺、おにーさんみたいな人、好きになりそう」と甘ったるく呟いた。

 これで大抵の女は、俺に堕ちて抱きしめ返してくる。
 しかし、彼はすぐに俺から離れ、何事もなかったように「じゃあ、風邪に気をつけて、元気で過ごして」と手を振ってきた。

 そのまま、立ち去りかけた誠の腕をグイッと掴んだ。

「ちょっと待って!おにーさんは、どうして俺を助けたの?」

 どうしても聞きたかったことを聞くが、彼は、困ったようにハハハと笑った。

「……俺にもわからないんだ」

 そんな風に言われて、俺の目が点になった。

 

 部屋に1人で入った俺は、窓を見下ろし、誠の姿を探そうとした。残念ながら、彼はもう見えなくなっていたようで、探し続けても見つからない。
 くそっ。全然計画通りにいかない。
 今頃、あいつの家で親交を深めているはずだったのに、ホテルに連れて来られるとか予想していなかった。詐欺とかに騙されてしまいそうで、心配になる。
 どうして彼は、俺に見返りを求めない?
 これじゃあ、彼が俺に無償の愛をくれたみたいじゃないか。

 いや、そんなわけない。見返りのない優しさなんて、信じられない。きっと彼は、そのうち俺に金銭を要求してくるに違いない。

 だけど、かけられた安物のコートがやけに温かく感じる。ブランドのコートなんてたくさん持っているけれど、彼からもらったコートが特別なものに思えた。自分のものにしてしまいたいけれど、このコートを返すという名目で会いに行くのもいいだろう。その時、まずは告白をしてみるのもいいかもしれない。桃華のいうとおり淫乱なら、あっさりと堕ちるだろう。

「池田 誠か……。おもしろい男だな」

 ホテルの窓から夜景を見下ろしながら、獲物に狙いを定めた狼のように舌なめずりをした。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ真に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...