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ナンバーワンホストの実力
しおりを挟む段ボール箱に入っていた男と出会った次の日、俺が自宅への帰り道を歩いていると、また昨日の男を見つけた。
彼は、電柱にもたれかかって、誰かを待っているようだ。
まさか……俺じゃないよな……。
そのまま素通りしようとしたが、男は「おかえり、おにーさん」とキラキラとした笑顔を浮かべてきた。
素通りに失敗した俺は、無視するわけにもいかず、振り返って男を見る。
彼は昨日俺があげた灰色のコートを着ていた。安物だけど意外と温かいから、気に入ったのだろう。
どうして彼は、俺を待っていたのだろうか。
昨日のことに味を占めて、カツアゲでもされるか。しかし、狙うなら、もっと高級そうなものを持っている女の人とかをターゲットにすればいいのに……。
「……」
困惑しながら彼を見ていると、彼は人差し指を合わせながら「俺、おにーさんの用事があって」と言ってきた。もじもじと顔を赤らめている様子である。
こいつは、まさか恥ずかしがっているのか。
あんな風に段ボール箱に入っていたくらいなら、もうこれ以上羞恥心なんて持たなくていいのに……。
「どうしたの?」
そう尋ねると、試すように「何だと思う?」と首をかしげながら、逆に尋ねられた。
俺は腕組みをしながら、真剣に考える。
何だろう?お金が必要なのか。それとも、再就職の報告だろうか。
いや、再就職の相談かもしれない。顔がいいし、ホストでも勧めてみようか。
「えっと……新しい仕事を探しているの?」
「いや、俺、仕事についているし、結構稼いでいるよ」
彼は、首を軽く振りながら、自信ありげにそう答えた。
じゃあ、何で段ボール箱に入っていたんだよ!ふざけるな!!!
一緒に住んでいた女にでも追い出されたのか。どうして自分で稼いだお金で家を見つけようとしないのだろうか。
「……あなたの用事なんてわからないな。早く教えてくれ」
俺は、お手上げと告げるように軽く手を挙げた。
「あなたじゃなくて、蓮って呼んで。俺の名前、香月蓮」
「俺は、池田誠……」
はっ。つい名乗ってしまったけれど、こんな不審者に名前を教えてよかったのかな。
「ねぇ、誠」
蓮は、馴れ馴れしく右手を伸ばし、俺の顎をクイッと持ち上げた。俺は、驚きのあまり目をパチクリしてしまう。
「俺、誠のこと好きになっちゃった。俺と付き合ってよ」
彼は、ハチミツのように甘ったるい声をしながら、俺にそう言ってきた。彼の顔には、自信に満ちたアイドルみたいなキラキラとした笑顔が浮かんでいる。
助けて、楓さん。
俺、この子のこと好きになっちゃう。
ってなるわけないだろうが!俺は、楓一筋だぞ。楓以外、ありえないっつーの。どこかのデビルハンターと違って、好きな人は一人だけだよ。
何だ?こいつ、頭がおかしいのか。
俺とは、昨日会ったばかりだよ。こんなイケメンが、平凡な俺を好きになるか?さすがに怖いって。これは、新手の詐欺じゃないか。
好きな人がいるって断ろうか。いや、こういう得体の知れない相手は、傷つけず、希望を持たせず、さりげなく断るのが一番に違いない。俺がゲイだということもバレない方がいいだろう。
そうだ。俺の鞄の中には、指輪がある。それを利用しよう。
鞄から取り出した安物の指輪を装着して、見せびらかすように連の前で手を広げた。
「ごめん。俺、もう結婚しているから、無理だよ」
そう指輪を見せつけながら告げると、蓮は、俺の顔から手を離し、自分の手を両頬に当てながら、人間の女を結婚したオークを見るように絶叫した。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
蓮の顔面は、作画が崩壊した漫画のようになってしまった。
眼球はとんでもなく飛び出て、顎は今にも外れそうなくらい伸びている。そして、現実が理解できないとでもいうように、フラフラと頭を抑えながら「あんたが結婚?まじかよ……。ありえない……」と呟いた。競馬で全財産溶かした男のような動揺っぷりだ。
その反応を見て、胸をナイフでえぐられるように傷ついた。
え?俺ってそんなに結婚できないように見える?
自分の容姿を平凡だと思っていたけれど、それは間違いで、結婚できないほどひどかったのか?人間とは、思えないレベルだったとか。この反応はショックだ……。
「え、えっと……こんな俺でも結婚できたんだよ。ハハハ」
俺の乾いた笑い声が虚しく響き渡る。
なぜかそんな俺を蓮は、軽蔑するような冷たい目で見てきた。まるで二股をかける男を見るような冷たい目だ。
もしかして、俺の嘘って同窓会で全部バレていた?お前なんか結婚できるわけないって思われていた?そんなわけないよな。
恐怖で背中から冷や汗が止まらなくなる。
「相手の写真は?別の女か?」
蓮は、俺の肩をガシッと掴んで、犯人を問い詰める警察みたいに尋問してきた。
別の女?変な言い方だけど、俺じゃないのかとかの意味合いだよな。
俺は、スマホの画面を開いて、同窓会でみせたキャバ嬢の写真を見せる。
誠という名前のわりには、最近、嘘ばかりついていないか。いや……不可抗力だ。
蓮は、まじまじと写真を見ながら「まじか……。あれって結婚しながらってことだよな……。とんでもないビッチだな」と言った。
「え?」
結婚しているだけで、ビッチ呼ばわりされてしまった。
俺の中では、結婚=真面目というイメージなんだけど……。いやでも、童貞卒業している証でもあるよな。
「つまり、誠は、結婚しているくせに精気を求めて身体が疼くんだ」
「はあ?そんなわけないだろう!」
何だよ、そのエロ漫画のヒロインみたいな設定は?こいつ、俺のこと何だと思っている?
「そういうわけか……。どうりで、俺をホテルに1人で置き去りにしたわけだ。奥さんにバレたら困るからな」
「……」
いや、そんな奥さんは、存在しないけど、そんなことを言うと、嘘がバレるから黙っておこう。
「ねぇ、そういうことなら、俺とも付き合ってよ。俺なら、誠の淫乱な身体をいくらでも満足させてみせるよ」
蓮は、自分の胸に左手を当てながら、必死で変なアピールしてくる。俺は仕事をやり過ぎて、耳がおかしくなってしまったのだろうか。
淫乱な身体って何だよ!!!俺をサキュバスとでも思っているのか?口説くなら、もっとましな言葉を言えよ!!!
「えっと……その……」
「大丈夫。1人付き合うのも、2人付き合うのも全然変わらないよ」
彼は、そう笑顔でウインクまで、ぶちかましてきた。
はあああああああああああああああああああ?こいつの倫理観は、どうなっていやがる。既婚者だから、燃えてしまったとか?最近の若者って怖いっ。
こいつのことホストかもしれないって思ったことがあるけれど、こんなひどい告白してくる奴がホストなんてできるわけない!!!絶対に1日でクビになるに決まっている!
「うるせぇ!もう俺のところに来るな!!!」
蓮のことが怖くなってきた俺は、そう吐き捨てて走り出した。
何なんだよ、あいつ。
これが最近の若者なのか。
あの告白は、ギャク漫画よりもひどいぞ。あいつ、俺のことなんて好きじゃないだろう。新人のお笑い芸人が、漫才の練習でもしているのかもしれない。
逃げるように自宅を目指して、小走りで進んでいく。
ふいに、階段を上り自宅のドアを目指していた俺の足が止まる。
そこにいたのは、少しやつれた顔をした楓だった。俺の自宅のドア付近の壁に、腕組みをしながら寄りかかっている。
「逢いたかった……誠……」
楓は俺の姿を見ると、かすれた声で、囁くようにそう呟いた。そして、驚いている俺を見て、愛おしそうに目を細めた。
ドクンと大きく俺の鼓動が跳ねた。
俺の視線は、磁石が吸い寄せられるように楓に奪われた。
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