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自白
しおりを挟む楓と食事をしてシャワーを浴びると、深夜になってしまった。
明日も二人とも仕事があったため、その日は、エロいことはせず、俺の小さなベッドで抱き合うようにして眠った。楓が傍にいるだけで、天国にいるように幸せな気分になった。
緊張で眠れないかもしれないと思っていたが、仕事の疲れもありぐっすりと眠ってしまった。
2日後、仕事から帰ると、自宅の近くでソワソワしたように落ち着きのない蓮を見かけた。
どうしよう。
あいつ、またここにいる。俺に変なことを言ってくるんじゃないか。
警察に相談しても、蓮の方がイケメンだから、俺がストーカーだと疑われる可能性もあって怖い。
しかし、彼は、昨日とは違った様子で、血相を変えて俺に近づいてきた。
「大変だ。お前の奥さん、不倫しているぞ」
大変だ。とんでもない勘違いが起きている!
蓮の発言を聞いた同じアパートに住むおばさんが、俺をぎょっとした目で見てきた。
やばい。
このままだと、変な噂をされてしまうかもしれない。
こんなところで、不倫とか、結婚とかの話をしない方がいいだろう。
こいつを自宅に上げて説明するか。
こんな不審者を自宅に上げるのは嫌だが、不倫などの話題を自宅の近くで話すのも嫌だ。どうせ盗まれるものもないし、こいつは変な奴だけど悪い奴ではないだろう。
「ちょっと話があるから来てくれ」
そう告げて、蓮を自宅に上げることにした。
部屋に蓮をあげた俺は、見てもらった方が早いと思い、部屋の電気をすぐにつけた。
「見ればわかるだろう。どう見ても1人暮らし用の部屋だ」
これで本当に結婚しているなら、逆に怖くなってくるくらい狭くて、物がない。
「え……。奥さんに出ていかれたの?」
蓮から同情されるような眼差しをされたが、正直に言うことにした。
「えっと……あの、結婚しているというのは、嘘だったんだよ」
「はあ?」
「ほら……俺みたいな平凡な奴にお前がいきなり告白してきて、怖くなって……結婚している振りをして諦めてもらおうと思ったんだ」
「何だよ……それ。騙された……」
蓮は、力尽きたようにへなへなとしゃがみ込んだ。俺も、蓮の向かい側に位置するちゃぶ台の前で、しゃがみ込んで頭を下げた。
「嘘をついて、ごめん……」
「いいよ。ははは。あはははははははははは。はははははははははははははははははははははははは」
蓮は、膝を叩きながら、壊れたように笑い出してしまった。
そんなに笑うことかな。よくある断り方だと思うんだけど。
そう思いながら笑い続ける蓮を見ていた。
やがて、彼は笑うのをやめて「じゃあ、どうして俺と一緒にホテルに泊まらなかった?」と尋ねてきた。
「いや……そんな見ず知らずの男とホテルなんて泊まれないよ」
こいつは、どういう価値観をしているんだ?目が合った人間は、自分に惚れるとでも思っているのか。そして、それが男相手にも通用するとでも思っているのか。
「じゃあ、どうして俺を助けた?」
前にもこんな質問をされた気がする。彼は、助けられることに理由を求めるタイプなのか。
「……わからない。あのまま見捨てて、お前が死ぬのが怖かったのかもしれない」
そう答えると、彼はフッと笑った後に「お前って、本当におもしろいよな」と俺の方をじっと見つめながら呟いた。
「俺が⁉おもしろい!」
衝撃的なことを言われた俺は、ちゃぶ台から身を乗り出した。
「おもしろすぎるだろう」
「ありがとう!!!うれしい!」
喜びのあまり顔がにやけてしまう。蓮が目の前にいなかったら、万歳三唱をしながら喜んだだろう。
「はあ?どうしてそんなに喜ぶんだよ」
「だって、俺……つまらないって言われたことがあるから」
それを聞いた蓮は、不可解そうに眉をひそめた。
「お前みたいな奴をつまらないって何かのバグだろう」
「いや、俺は……みんなにとってつまらない人間だと思う」
俺のことをおもしろいと言ってくれるのは、こいつくらいかもしれない。そう思うと、このよくわからない男は、貴重な存在なのだろう。
「どうしてつまらないなんて言われた?」
「……小学生くらいのころの話だ」
「大昔じゃねーか。いや……言われた方は、昔のことだって嫌なことは覚えているよな」
彼は、何かを思い出したように、顎に軽く手を当てながら言った。もしかしたら、彼の記憶の中にも、昔、言われて嫌な記憶がこびりついているのかもしれない。
「大昔のことなんだけど……、友達だと思っていた奴に、誠といてもつまらないって噂をされていた。他の奴とかくれんぼで隠れている時、会話が聞こえてきたんだ」
「そいつが嫌な奴だっただけだろう。忘れた方がいい」
蓮はそう言ってくれたが、俺は、どうしてそんなことを言われてしまったか、自己分析できていた。
「小さい頃、俺は、父さんがいないのもあって、貧乏だったんだ。最新のゲームも持っていないし、漫画も読んでいない。だから、周りの会話についていけず、つまらないって思われるようになっていたと思う」
「そういうことか」
小学生にとって、ゲームや、漫画は、友達を作るうえで重要なアイテムだ。それらを持っていない俺は、自信をなくしていった。
「人間って、自分と同じような人を好きになると思う。同じ価値観、同じ話題、同じ体験……そういうものがあればあるほど、誰かと仲良くなれるんだ。俺は、みんなの話題についていけるような知識も経験もなかった。俺みたいな奴は、つまらないと切り捨てられて当然だと自分でも思った」
あの時、自分は、誰かと一緒にいてもつまらないと思われる人間だと悟った。それ以来、他人に対してどこか線を引いて接するようになった気がする。虐められたわけではないけれど、すごく仲のいい友人はできなかった。
大人になった今でも、あの時の傷は消えていない。
誰かと親しくなっても、自分みたいな奴といてもつまらないんじゃないか、本当は陰で俺のことを悪く言っているんじゃないかとたまに不安になる。
「俺も……ガキの頃は、父親はいなかった。母さんに愛人は、いたけどな」
俺が暗い話をしたせいか、蓮も自分の話を打ち明けてくれた。
「そうか。蓮も、大変だったんだな」
「そして……母さんが死んで、叔母さんの家で育った」
「……」
さらに過去が重くなったぞ。チャラそうに見えていた男から、とんでもない過去が明らかになり、何て言ったらいいか、わからなくなる。
黙り込んでいると、蓮の方から「なあ、誠の母さんは、どんな奴だった?」と聞いてきた。
「普通だよ。明るくて、努力家で……優しくて、料理が上手い」
「そうか。だから、お前みたいな奴が育ったんだな」
「お前の母さんはどんな奴だった?」
「俺の母さんは……見返りを求める人だった」
見返り?どうして母親なのに、子供に見返りを求めるのだろう。
血の繋がっていない他人ならともかく、家族が見返りを求めるものなのだろうか。
「どんな風に?」
そう尋ねたが、蓮は、目線を下にずらした。
「……それは、また今度話すよ」
こいつが話したくないほど、重たい話なのだろうか。
とても気になるが、本音を言うと、俺は、お腹が空いた。
仕事から帰ってきて、へとへとなのである。帰り道、家に帰ったら、カレーを食べることばかり考えていたのである。
できることなら、こいつを家から追い出しご飯を食べたいが、こんなに重たい話を聞いた後に、家からさっさと追い出してしまうことには気が引けた。
俺一人だけご飯を食べるのも悪い気がするし、こいつにも食べさせてしまえばいいんじゃないか。
「あのさ……蓮ってお腹空いていない?昨日作ったカレーあるけど、食べる?」
「食べる」
蓮は、ためらいもせず即答してくれた。
よしっ。これでようやくご飯を食べられる。俺は、すぐに二人分のご飯の用意をした。
作ったカレーを蓮は「うまい、うまい」と言いながら、食べてくれた。たいしたものじゃないけれど、やたらと褒めてくれるので嬉しくなった。そして、彼は、食べ終わった後は、皿を洗い家から出ていった。
それから、蓮は仕事が忙しいのが、しばらく俺の前には現れなかった。
しかし、金曜日に自宅の近くの駅で、蓮の姿を見かけた。彼は、俺を待ち伏せしていた様子ではなく、茶髪の女の人と一緒にいるみたいだ。彼女は、薄化粧をした綺麗な女の人で、白いコートを着ていた。スタイルもよく、イケメンの蓮と並ぶと、美男美女カップルみたいだ。
けれども、よく見ると彼女は、涙を流している。
「蓮。どうして私のところから出ていったの?」
彼女は涙を流しながら、蓮のコートを、しがみつくように強く握りしめていた。
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