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蓮の過去
しおりを挟むそんな風に疑う俺に、蓮は「ずっとわからないことがある」と真剣そうにつぶやいた。
「俺は、どうして誠が俺に優しくしてくれたのかわからない。だから、ずっと誠のことを考えてしまう」
「何言っている?お前に優しくしてくれる奴なんて、山のようにいるだろう」
蓮みたいな容姿の人は、多くの人から告白され愛されてきただろう。この間の蓮の元カノだってそうだ。彼女は、俺以上に蓮に優しくしたに違いない。俺はただ、目の前で死にかけたバカを見捨てられなかっただけだ。
「……俺も、シングルマザーに育てられた話をしたことがあるよな」
「うん」
「俺の母さんは、舞台女優だった。役者と付き合って子供ができたけれど、彼は別の人と結婚して母さんを捨てたんだ」
「そんなことがあったのか……」
蓮の境遇を聞いて、自分のことのように胸が痛んだ。蓮も俺と同じように、父親がいない苦労をたくさん味わってきたに違いない。
「ああ。母さんは地位や名声を強く求めていたが、俺が生まれたせいで仕事が激減した。すぐに俺のことを疎ましく思うようになった。そして、苦労して育てた分、見返りを求めようとしたんだ。俺を芸能人にしてお金を儲けようとしていた」
「……」
蓮にそんな過去があったなんて……。
華やかな容姿をしているから、もっと母親から愛され、恵まれた道を歩んできたのかと思っていた。だけど、蓮の過去は、俺の想像とあまりにも違っていた。
何て言ったらいいかわからず黙り込んでしまった俺に、蓮は話を続けていく。
「小さい頃芸能事務所に所属して、何度もオーディションを受けた。俺の容姿は他の子よりもよかったが、母さんからの過度な期待をかけられ、緊張して上手く演じることができなかった。母さんの期待に応えられない俺は、何度も罵られた」
「ひどい母親だな……」
幼い蓮が母親からなじられている場面を想像すると、呼吸が苦しくなってくる。この前、俺も東条薫子からなじられたが、誰から罵られたり、否定されたりすることは、言葉では言い表せないほど辛いものだ。
それを蓮は母親から受け続けたと思うと、想像を絶する。
「そんな母さんは事故であっけなく死んで、俺は、叔母さんの家に行ったんだ」
「叔母さんは、どんな人だったの?」
それを聞いた蓮は、哀しそうに微笑んだ。まるで今にも散りそうな桜の花みたいに、儚い笑顔のように見えた。
「叔母さんは、俺の顔を気に入った。俺を育てる代わりに……性的な関係を強要してきた」
「っ……」
俺は、衝撃のあまり息を呑み言葉を失った。
それは、蓮がいくつの時だったのだろうか。いくらなんでもひどすぎる。
行く場所のない子供相手に、そんなことをするなんてあってはならない。
言葉を失い呆然とする俺に、蓮は、遠い目をしながら話を続けていく。
「結局……高校を中退して叔母さんの家を出た。それから、女の家を点々としながら、ホストとして働いていた」
「……」
蓮は、少し寂しそうに夜空に浮かんだ月を見上げる。
「俺の顔に釣られて優しくしてくれる女性は、たくさんいた。でも、彼女たちは、無償の愛なんてくれなかった。優しくした分、自分を愛すように求められた。ホストとしての仕事もそうだ。俺に貢いだ女の子は、貢いだ分だけ優しくされたい、愛されたいと俺から見返りを求めている」
彼は、自分に愛を告げた元カノのことを、見返りを求めていると否定していた気がする。もしかしたら、彼は、彼女のことも叔母と同等に見ていたのかもしれない。
優しい言葉でくるんでも、自分から搾取しようとする人間は、きっと怖いものだったのだろう。
「蓮に、見返りを求めずに優しくしてくれる人はいなかったの?」
そう尋ねると蓮は俺の目をまっすぐ見て、愛おしそうに目を細めた。
「俺の人生で、見返りなしで優しくしてくれた人は、誠だけだ」
「そんな……」
「この世には、見返りのない愛なんてない。きっと、みんな誰かに優しくした分、返してくれと求めている。俺は、ずっと前からそれを悟っていた。だけど、誠がどうして俺にあんなに優しくしてくれたかわからないんだ」
俺は、小さい頃、熱を出したことたくさんがある。母さんは、自分も疲れているのに付きっきりで看病してくれた。それだけじゃない。母さんは、俺を何の見返りも求めず育ててくれた。自分が辛い時だって、俺に尽くしてくれた。
だけど、蓮は、そんな愛をもらったことがなかっただろう。みんな美しすぎる蓮に、何かを求めてしまったのだ。
俺は、ただ寒そうにしている蓮にコートをあげて、ホテルに連れて行っただけだった。そんなことが、彼にとって唯一もらった見返りを求めない優しさだったのか。
なんてかわいそうな男だろう。恋愛感情ではないが、彼を思い切り抱きしめてあげたい衝動に駆られた。母親みたいに何でも欲しいものを与えたいと思ってしまう。
ずっと蓮という人間がわからなかった。彼がどうして、俺なんかの言葉で涙を流したのか全く理解できなかった。だけど、今、パズルのピースがはまっていくように、蓮という人間を理解できた気がする。
俺は、彼にとって特別な存在だったのだ。
彼には、あんな風に彼のために叱ってくれる存在すらいなかったのかもしれない。
「誠。俺は、お前が本気で好きだ。どうして好きになったかは、自分でもわからない。名前も聞かずにくれた温かいコート、手作りのカレー、俺への説教、楓への嫉妬……。うまく説明できないけれど、気がついたら誠を好きになっていた。恋人になって、もっと一緒の時間を俺と過ごして欲しい」
蓮は真剣な声で言葉を重ねながら、俺の冷たくなっている手をギュッと握りしめる。
「俺が誠を幸せにしてみせる。誠が欲しい物全部、あげる。だから、お願い……同情でもいいから、俺をと付き合って。楓を忘れるために俺を利用してもいい」
彼はかすれた声で泣きそうになりながら、俺に訴える。
「……」
「お願い。俺を選んで……」
蓮の瞳は、捨てられることを恐れるように揺れていた。
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