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道のり
しおりを挟む蓮の車は、白いベンツらしきかっこいい車だった。俺から病院を聞いた彼は、最短ルートで丁寧に運転してくれる。病院は車で20分くらいで到着するらしいが、病院までの道のりがやたら長く感じられた。
蓮は運転しながら、不安でソワソワしている俺に話しかけてきた。
「ずっと聞きたかったんだけど、お前は何で楓と別れたの?」
楓と別れようと思った理由は、いくつかある。その理由の中で、一番大きなものは、東条薫子だった。彼女が息子を思う気持ちに、俺は、負けてしまったのだ。
「……俺と楓は立場も違うし、楓の家族からも疎まれたから」
「あいつの家族にひどいことを言われた?それとも、桃華を見て身を引く気になった?自分はふさわしくないと思ったから?」
「その全部かもしれない」
それを聞いた蓮は「俺、そういうのは嫌いだな」とバッサリと切り捨てるように言った。
「……」
蓮の言葉が、チクリと棘のように心に刺さる。
前に俺も蓮に向かって『お前みたいに軽薄な奴が嫌いだ』と言ってしまったことがあったが、今度は、俺が蓮から言われてしまった。
「誠。欲しいものがあるなら、全力で取りに行けよ」
ブラックコーヒーみたいに滑らかな美声で、そう命令するように言われた。
「……自分に自信がないんだ。何も持っていない自分が楓を幸せにできると思えなかった」
それに対して、桃華には、美貌も、財力も、マナーも、社交性もある。東条薫子だって、桃華と楓が結婚することを望んでいる。そして、彼女は、子供を産むこともできる。桃華を見た時、自分が劣っている存在に思えた。
「俺はさ、お前に会うまで俺は、誰かを大事にしたいなんて思ったことはなかった。でも、誠に会って怒られてから、自分の生き方に疑問を持つようになった。それで、もっと誰かを楽しませる生き方をしたいと思ったんだ。誠は、自分が思っている以上に他人に影響を及ぼすことができると思う。そんな自分の力を信じてみたら」
蓮の言葉は、俺の心にじわじわと染みていく。あんなにボロクソに言われた俺だけど、蓮は、こんな俺を肯定してくれる。少しは、自分を信じないと蓮に失礼だ。
「ありがとう、蓮。でも……楓は、もう俺のことなんて好きじゃないかもしれない」
楓は、あんなひどいことを言った奴を、まだ好きでいてくれるのだろうか……。
「お前は、楓に自分の気持ちを正直に話したの?」
「ううん」
「あいつの隣にいたいなら、全力でぶつかってこい。いいか、よく聞け。この俺を振っておいて幸せにならないなんて、許さない」
蓮は力強い口調でそう言うと、病院の駐車場で車を止めた。
「早く行けよ。あいつが待っているだろう」
彼は、俺を励ますように軽く背中を叩いてきた。
「ありがとう、蓮」
俺は軽く頭を下げてから、車から降りる。
蓮みたいな人と出会うことができて、本当に良かった。蓮は、俺に会って変わったと言ったけれど、俺も蓮の言葉で変われた気がする。彼の言葉は、俺に勇気をくれる。
車から降りて、走りながら病院の入口を目指して走っていく。幸いこの時間は、人通りがなく誰にもぶつからなそうだ。
早く楓に逢いたい。逢って無事を確かめたい。
それから……俺は、何て言えばいいのだろう。
わからない。わからないけれど、どうしても楓に逢いたい。
病院の入口に入ろうとした時、2人の知り合いの姿が見えた。心臓が軋んで、足がピタリと止まる。トラウマのように、罵られた痛みが蘇っていく。
そこで見えたのは、東条薫子と桃華の姿だった。
「あら、あなたも来ていたのね」
冷たい目をした東条薫子が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
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