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東条楓1
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【楓視点】
東条楓として生まれた俺は、昔から周囲に比べて頭がよかった。学校の成績だけではなく、誰がどんな言葉を望んでいるかわかった。東条グループの跡取りとして、どんな自分が望まれているか理解していた。
だから、完璧な東条楓を演じるように優しくて、賢くて、謙虚な人間を演じ続けていた。
勉強、スポーツ……何でも簡単にやることができた。何をしても褒められたし、それに対して決まりきった言葉を繰り返していた。
大した努力をしなくても全国模試は1位、どんなスポーツもすぐに経験者相手に勝つことができた。
いつかは、東条グループの跡取りになって、親が決めた人間と結婚するのだろう。
恵まれた環境。決められた将来。
だけど、いつも自分を演じている気がする。
自分の人生は、決められた道を淡々と歩き続けるだけのつまらない道のりに見えた。
そんな俺が好きなのは、小説や漫画を読むことだった。物語の中の登場人物は、自分とは違い、自分の言葉を話して自由に生きていた。喜怒哀楽を思いっきり表現して、他人との絆を深めていく。いつしか、そんな風になりたいと憧れるようになった。
もしも、自分が東条グループの跡取りでなければ、漫画家になりたいと夢見るようになった。
しかし、決められた人生を捨てて修羅の道を行くことに対して迷いがあった。
中学生の頃、幼馴染の海斗に自分の夢を話したことがある。
「なあ、海斗。お前は、俺が漫画家になりたいって言ったら、どう思う?」
海斗は、幼稚園のときからの幼馴染である。彼ならもしかしたら、俺の夢を応援してくれるかもしれないと思ったが、彼は俺の言葉をバカにするように鼻で笑った。
「そんなの絶対やめとけ。お前、東条グループの跡継ぎだろう。漫画家の給料なんて、それに比べたら、ゴミみたいなレベルだぜ。そんな冗談言っていないで、今度の夏休みどこの国に旅行に行くかとか考えようぜ」
「……そうだよな」
そう返事をしながら、自分の未来が暗く塗りつぶされていく気がした。
婚約者の桃華も、もちろん理解を少しも示さなかった。
「漫画家って、あの気持ち悪いオタクみたいな人達でしょう。そんなのやめてよ。楓は、楓らしく生きてよ」
俺らしくって何だよ。
本当の俺のこと知りもしないで、勝手に決めつけて……。
きっと桃華は、自分が理想とする俺以外、受け入れられないのだろう。彼女と結婚したら、俺は彼女の理想を演じ続けるしかない。
俺に対して少しも理解を示さない桃華とは、これ以上やっていけないと悟り、彼女とは婚約破棄をした。父さんはあっさり受け入れてくれたが、母親同士交流が深かった母さんは不満気だった。
しかし、彼女と婚約破棄することは、自分が窮屈な1本の鎖から解放されたような気がしていた。
人間の人生はあまりにも短い。人類の歴史おいて、点のようなものだ。
哲学書を読みながら、人生の短さと無意味さに気がつき、勇気を振り絞って、自分の夢を両親に話してみた。
当然、母さんや父さんにもふざけるなと否定された。俺の夢は、誰にも応援されないものだった。それどころか、母さんは精神疾患を疑い、病院に連れて行こうとさえしてきた。父さんは、俺を殴りつけ、もう二度とそんなことを言うなと告げた。
そうして、俺は両親の前で、自分の夢を言えなくなった。家で、こっそり描いた漫画も、誰にも見せずにしまいこむようになった。
残されたのは、決められたレールを歩き続け、東条楓という人物を演じ続けるだけの人生。多くの人は羨ましがる人生だが、それはあまりにも虚しく、つまらない。まるで鳥かごに閉じ込められているように窮屈だ。
それには、どんな意味があるのだろうか。
ジョン・レノンは、こんなことを言っていた。
『「こうすれば、ああ言われるだろう」
こんなくだらない感情のために、どれだけの人がやりたいことも出来ずに、死んでいくのだろう』
俺は、やりたいことをやれずに死んでいく人間だろう。
いつも望まれるまま完璧な優等生である東条楓を演じているような俺だったけれど、同じ図書委員になった池田誠の隣は居心地がよかった。彼とは、図書委員会で高校時代の3年間接点があった。
彼は、地味で冴えないクラスメートだけど、本のことになると、目をキラキラさせながら、楽しそうに話す。彼とは、同じ小説家の作品が好きで、いろんな話で盛り上がった。彼の前では、仮面を被らずに話せていた気がする。
好きなものを語る彼の目は、宇宙みたいだ。星屑を散りばめたように輝いていて、目が惹きつけられる。
いいな。誠から、こんな風におもしろいと思ってもらえる作品を書いている作者が羨ましい。
いつか、俺もおもしろい作品を書いたら、誠から読んでもらえるだろうか。
そんな風に想像するくせに、もう誰にも自分の夢を話せなかった。
けれども、誠から「楓って将来の何になりたいの?」と言われた時、自分の夢を打ち明けてしまいたくなった。
「……実は、俺、漫画家になりたくて」
どうせ誠からも、こんな夢を否定されるに違いない。
東条グループの跡取りと、ただの漫画家。その二つを天秤にかけたら、他者は必ず東条グループの跡取りになるように言うだろう。
だけど、誠は好きな小説を語るように目をきらめかせた。
「漫画を描けるなんてすごい!お前、絶対才能あるって」
俺は、初めてかけられた夢への励ましの言葉に戸惑った。
「え……そうかな。でも、両親だって反対しているし」
「自分の人生だから、好きなように生きたらいいだろう。お前みたいな奴は、きっと何をやっても成功するに決まっているさ」
ああ、そうだ。
俺は、何でもできる東条楓。
どうして、自分が自分のことを信じてあげられなかったのだろう。損得ばかり見て、自分の夢を追いかける勇気すら失っていた。他人の言葉ばかり気にして、変わることを恐れていた。
「うん!ありがとう!!!」
そう言いながら、初めて自分が心から笑えた気がした。
決められた人生を捨てることは、正しいのかわからなかった。俺の選択は、きっと両親を傷つけてしまうだろう。でも、正しいかどうかなんでどうでもいい。俺は、俺の好きなように生きてみたい。そのとき、初めて自分らしく生きられる気がする。
誠の言葉は、俺に人生を変える勇気をくれた。
その日から、さらに必死で漫画を描くようになった。漫画を描きながら、いつか誠に読んでもらいたいと想像する。彼は、俺の漫画を見て、どんな反応をするだろうか。
あの宇宙みたいな目をきらめかせながら、俺の漫画を読んでくれるのだろうか。
そしたら、どんなに幸せなことだろうか。
誰にも負けない漫画を描きたい。誠に、俺の漫画が一番おもしろいって言って欲しい。俺の物語で、彼を夢中にさせたい。
夢を追いかけるほど、誠への執着が芽生えていった。
東条楓として生まれた俺は、昔から周囲に比べて頭がよかった。学校の成績だけではなく、誰がどんな言葉を望んでいるかわかった。東条グループの跡取りとして、どんな自分が望まれているか理解していた。
だから、完璧な東条楓を演じるように優しくて、賢くて、謙虚な人間を演じ続けていた。
勉強、スポーツ……何でも簡単にやることができた。何をしても褒められたし、それに対して決まりきった言葉を繰り返していた。
大した努力をしなくても全国模試は1位、どんなスポーツもすぐに経験者相手に勝つことができた。
いつかは、東条グループの跡取りになって、親が決めた人間と結婚するのだろう。
恵まれた環境。決められた将来。
だけど、いつも自分を演じている気がする。
自分の人生は、決められた道を淡々と歩き続けるだけのつまらない道のりに見えた。
そんな俺が好きなのは、小説や漫画を読むことだった。物語の中の登場人物は、自分とは違い、自分の言葉を話して自由に生きていた。喜怒哀楽を思いっきり表現して、他人との絆を深めていく。いつしか、そんな風になりたいと憧れるようになった。
もしも、自分が東条グループの跡取りでなければ、漫画家になりたいと夢見るようになった。
しかし、決められた人生を捨てて修羅の道を行くことに対して迷いがあった。
中学生の頃、幼馴染の海斗に自分の夢を話したことがある。
「なあ、海斗。お前は、俺が漫画家になりたいって言ったら、どう思う?」
海斗は、幼稚園のときからの幼馴染である。彼ならもしかしたら、俺の夢を応援してくれるかもしれないと思ったが、彼は俺の言葉をバカにするように鼻で笑った。
「そんなの絶対やめとけ。お前、東条グループの跡継ぎだろう。漫画家の給料なんて、それに比べたら、ゴミみたいなレベルだぜ。そんな冗談言っていないで、今度の夏休みどこの国に旅行に行くかとか考えようぜ」
「……そうだよな」
そう返事をしながら、自分の未来が暗く塗りつぶされていく気がした。
婚約者の桃華も、もちろん理解を少しも示さなかった。
「漫画家って、あの気持ち悪いオタクみたいな人達でしょう。そんなのやめてよ。楓は、楓らしく生きてよ」
俺らしくって何だよ。
本当の俺のこと知りもしないで、勝手に決めつけて……。
きっと桃華は、自分が理想とする俺以外、受け入れられないのだろう。彼女と結婚したら、俺は彼女の理想を演じ続けるしかない。
俺に対して少しも理解を示さない桃華とは、これ以上やっていけないと悟り、彼女とは婚約破棄をした。父さんはあっさり受け入れてくれたが、母親同士交流が深かった母さんは不満気だった。
しかし、彼女と婚約破棄することは、自分が窮屈な1本の鎖から解放されたような気がしていた。
人間の人生はあまりにも短い。人類の歴史おいて、点のようなものだ。
哲学書を読みながら、人生の短さと無意味さに気がつき、勇気を振り絞って、自分の夢を両親に話してみた。
当然、母さんや父さんにもふざけるなと否定された。俺の夢は、誰にも応援されないものだった。それどころか、母さんは精神疾患を疑い、病院に連れて行こうとさえしてきた。父さんは、俺を殴りつけ、もう二度とそんなことを言うなと告げた。
そうして、俺は両親の前で、自分の夢を言えなくなった。家で、こっそり描いた漫画も、誰にも見せずにしまいこむようになった。
残されたのは、決められたレールを歩き続け、東条楓という人物を演じ続けるだけの人生。多くの人は羨ましがる人生だが、それはあまりにも虚しく、つまらない。まるで鳥かごに閉じ込められているように窮屈だ。
それには、どんな意味があるのだろうか。
ジョン・レノンは、こんなことを言っていた。
『「こうすれば、ああ言われるだろう」
こんなくだらない感情のために、どれだけの人がやりたいことも出来ずに、死んでいくのだろう』
俺は、やりたいことをやれずに死んでいく人間だろう。
いつも望まれるまま完璧な優等生である東条楓を演じているような俺だったけれど、同じ図書委員になった池田誠の隣は居心地がよかった。彼とは、図書委員会で高校時代の3年間接点があった。
彼は、地味で冴えないクラスメートだけど、本のことになると、目をキラキラさせながら、楽しそうに話す。彼とは、同じ小説家の作品が好きで、いろんな話で盛り上がった。彼の前では、仮面を被らずに話せていた気がする。
好きなものを語る彼の目は、宇宙みたいだ。星屑を散りばめたように輝いていて、目が惹きつけられる。
いいな。誠から、こんな風におもしろいと思ってもらえる作品を書いている作者が羨ましい。
いつか、俺もおもしろい作品を書いたら、誠から読んでもらえるだろうか。
そんな風に想像するくせに、もう誰にも自分の夢を話せなかった。
けれども、誠から「楓って将来の何になりたいの?」と言われた時、自分の夢を打ち明けてしまいたくなった。
「……実は、俺、漫画家になりたくて」
どうせ誠からも、こんな夢を否定されるに違いない。
東条グループの跡取りと、ただの漫画家。その二つを天秤にかけたら、他者は必ず東条グループの跡取りになるように言うだろう。
だけど、誠は好きな小説を語るように目をきらめかせた。
「漫画を描けるなんてすごい!お前、絶対才能あるって」
俺は、初めてかけられた夢への励ましの言葉に戸惑った。
「え……そうかな。でも、両親だって反対しているし」
「自分の人生だから、好きなように生きたらいいだろう。お前みたいな奴は、きっと何をやっても成功するに決まっているさ」
ああ、そうだ。
俺は、何でもできる東条楓。
どうして、自分が自分のことを信じてあげられなかったのだろう。損得ばかり見て、自分の夢を追いかける勇気すら失っていた。他人の言葉ばかり気にして、変わることを恐れていた。
「うん!ありがとう!!!」
そう言いながら、初めて自分が心から笑えた気がした。
決められた人生を捨てることは、正しいのかわからなかった。俺の選択は、きっと両親を傷つけてしまうだろう。でも、正しいかどうかなんでどうでもいい。俺は、俺の好きなように生きてみたい。そのとき、初めて自分らしく生きられる気がする。
誠の言葉は、俺に人生を変える勇気をくれた。
その日から、さらに必死で漫画を描くようになった。漫画を描きながら、いつか誠に読んでもらいたいと想像する。彼は、俺の漫画を見て、どんな反応をするだろうか。
あの宇宙みたいな目をきらめかせながら、俺の漫画を読んでくれるのだろうか。
そしたら、どんなに幸せなことだろうか。
誰にも負けない漫画を描きたい。誠に、俺の漫画が一番おもしろいって言って欲しい。俺の物語で、彼を夢中にさせたい。
夢を追いかけるほど、誠への執着が芽生えていった。
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