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俺がいないと生きられないくせに

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 抱き枕作りなんてしているが、僕のメシアとしての活動は順調だ。

 独裁者のいる場所を破壊していけば、当然、独裁者は、メシアに殺されないために場所を変えるようになる。そして、その場所は極秘裏に扱われる。

 そのため、僕は、贈り物作戦を実行した。

「宝石をあげる代りにこれを見逃してください」などと国のトップと秘密裏に取引をする。その結果、彼らは僕からもらった極上の宝石を手にする。そういうものは、たいてい側に置きたがる。けれども、その宝石の箱には、GPSみたいなものがついている。だから、僕は、宝石の持ち主の居場所を特定できる。あとは、そこに地震を起こしてしまえば、独裁者は殺せて、証拠は隠滅できる。こうして、全部で15の中枢を破壊した。

 しかし、全ての独裁国家を破壊してしまえば、残ったブロトレイト国にXがいると疑われてしまう。だから、独裁国家ではなく軍部基地、植民地の中枢機関を破壊することへと切り替えた。

 まだ僕のいるブロトレイト国では、減税、ミサイルの中止などの改革は、まだ行っていない。理由は、メシアが現れた時期にギル・ノイルラーの性格がよくなったと世界中に広まれば、怪しまれてしまう可能性があるからだ。本当は、今にでも、減税、ミサイル中止、カルタヤ人の人権宣言、ちゃんとした法律の整備をしまくりたいが、泣く泣く諦めている。



 その日は、お昼前に抱き枕が完成した。

 渾身の力作をエンデュミオンに、鼻で笑われてバカにされたことは許せない。

 そして、とうとう彼のことを解雇にすることに決めた。

 ……まあ、彼を解雇にする理由は、そんな大人げない理由だけではない。他にもちゃんと理由はある。

 ほとんどの使用人は、家族を人質にとられていた。

 けれども、エンデュミオンの人質はいないのに、僕に仕えているのだ。その意味がわからない。普通の人間なら、こんなギルのようなくそ主人のもとを去りたいと思うだろう。

 しかも、エンデュミオンは、突然変異かと疑うレベルで運動神経が異様にいい。この間、べッティーナが紅茶を零しそうになった時、カップを瞬時に掴んでそこで液体である紅茶をキャッチしたのである。気配を殺した歩き方、人間離れした俊敏な動き……ただものではない。特殊な環境で育てられたからかもしれない。他国からのスパイとかの可能性も捨てきれない。

 そして、もう一つ、エンデュミオンを首にしたい理由がある。僕は、エンデュミオンこそが、ギル・ノイルラーを3階から突き落として殺した犯人だと疑っているのだ。ギルを殺した犯人は、まだ捕まっていない。エンデュミオンは、僕とほとんど行動を共にしている人物だったらしい。だから、彼こそが一番怪しい人間である。 

 こんな得体の知れない奴を雇ってはおけない。とっとと首にしてしまおう。

「エンデュミオン・アーレンス、お前を首にする」

 ビシッと人差し指を突きつけながら宣言する。気分は、某番組出演時のトランプ大統領。この見下したようなセリフ、KA ・I・KA・N!!

 しかし、そんな俺のセリフは、イケメンに鼻で笑われた。

「ギル様は、俺がいないと生きられないくせに」

「……何気持ち悪いことを言っているんだよ」

 それじゃあ、まるで僕がお前に依存しているメンヘラの恋人みたいじゃねぇか。

「どうして俺を首にするなんてバカなことを言いだしたんですか」

「まあ、一番の理由は、お前が怖いからだ。お前が僕を殺さない保証なんてどこにもないだろう」

「ありますよ」

「どういうことだ?」

「仮に俺がギル様を殺したとします。そうしたら、同盟国であるガーベウス国のハーデス様がブロトレイト国の使用人に対しての人質を全員、殺します」

「……」

「そして、ギル様を助けなかった罰として、ここにいる使用人や護衛達を皆殺しにするでしょう。ミサイルや、核兵器がこの国に撃ちこまれてもおかしくありません」

「タイヘンダナー」

 ヤバいング。僕が、死んだ時の被害の規模がデカすぎる!怖ええ。

 食欲がなくなってきた。

「しかし、僕とハーデスが一緒にいるところで二人とも殺してしまえばいいんじゃないか」

「そしたら、同盟国のルータリアが動くでしょう。そしたら、もっと大変なことになるかもしれない」

 つーか、世界地図でバカデカい面積を占めていたルータリアも同盟国だったのか。あとで、条約とかもしっかりと見直しておきたい。

「お前、何で僕のところで働きたがるんだ?」

「あなたのことが放っておけないからです」

 え……。愛の告白みたいなんだけど。

 ちょっとドキッとしてしまった。

 べ、べつにときめいたり、していないんだからね!!

「核兵器を持ち歩いているくらい危険なあなたのことが放っておけないからです」

 そうですよねー。わかってましたとも。

「ギル様、俺は騎士団にも所属しているため護衛として有用な人間です。もうちょっと雇ってください」

「でも……」

「俺が役に立つか、不要か。それは、ちゃんと見極めてから決めてください」

「わかった」

 こいつは、確かに得体の知れない不気味な奴だ。けれども、僕はこいつがどんな人間が知らない。お前がどんな人間かちゃんと見極める。その上で、捨てるか、利用するか判断してやる。使えるようなら、どんな風にでも使ってやる。

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