ダークサイド

タカヤス

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  外伝 「南方総司令と蒼の軍師」

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「参りました…完敗です」
模擬戦闘の盤面に突っ伏しながら、青年は溜まっていた息を吐く。
「ふふふ、10年早いわぁ! って言いたい所だけど、いい線いってるわよ?」
そう答えて笑顔を見せるのは女性。
彼女はこの帝国では、『蒼の軍師』と呼ばれている。
蜂蜜色の金髪をかき分け、ほんの少しかいた汗を拭う。
「むぅ…33ターン目の4―Dでの戦闘が痛かったです」
ややくせのある金髪の青年、ロイドは終わった後の仮想戦場を振り返る。
「そうね……ロイド君はどちらかといえば守りの性格だからね。状況にもよるけれど、あの場合は下がらせないで進ませるべきだったわ」
そう解説すると、アニエスは僅かに息を漏らす。

アニエスは確かに勝利した。
それは嬉しい事ではあるが、一方で暗澹としたものを感じさせる。
多少の被害を出そうとも、要所での勝利を活かしたのはアニエスだ。

数を比較し少ない被害を容赦なく見捨てる戦術は『軍師』としては賞賛されるが、『人間』としてはどうなのだろうか?
味方の多くの命を救い、敵を倒す『英雄的軍師』。
だがそれは敵から見れば、それだけ多くの味方を殺す『死神』。
盤上の一定のルールによる模擬戦闘では、兵士たちの命を感じる事はない。
しかし、これが実際の戦争であったら?
参加する兵士には家族が居るだろう。
恋人も居るかもしれない。
そんな多くの可能性を彼女が摘み取ったのかもしれないのだ。
『天才軍師』
そう呼ばれても、それは『大量殺人者』と同義に思えて仕方が無い。
才能があるのは喜ばしいのだが、出来ればそれを発揮する日は来なければ良いと本気で思う。

「…アニエスさん?」
気遣うようにロイドが声をかけていた。
ひょっとしたら何回か呼んでいたのかもしれない。
(戦争なんて、実際に起きなければ問題無いんだしね……)
無理矢理そう考え、憂鬱な思考を追いやる。
「何かしら? 未来の弟君」
内心を読まれないように、さりげなく口撃を加える。
攻める事で自らを守る。
戦争に限らず、自分はそういう性格なのだと思う。
「いや…未来は分かりませんから。むしろ未来の花嫁さんの方が早く誕生するのではないかと」
この青年はやはり『守り』の性格なのだろう。
瞬時に反応し、最小限の迎撃を加えて来る。
入ったばかりの後輩軍師では、こういった切り返しは出来ないだろう。
だが、まだまだ。
「ほほう? そんな事を言う困ったちゃんには、うちの可愛いリーゼはやれませんな」
冗談めかして言う私に、ロイドは苦笑いを浮かべる。
私の周りには、こういった恥ずかしがり屋の男性が多い。

…訂正。
約1名のおじいちゃんは、除く。
「入りますよ。あ、もう終わってるんだ?」
見計らったかのようなタイミングで我が妹が部屋へと入って来る。
手にはティーセットがあるあたり、部屋の外で本当に待機してたかもしれない。
「第23回、リーゼ争奪戦はまたもやチャンピオンの防衛でした」
私の言葉に、妹はもうっ、と頬を膨らませる。
「本人の承諾なく、景品にしないで。というか、23回って適当に言っただけでしょ?」
「適当でも何でも私の勝ちは勝ちなのよぉん♪
というわけで、景品のリーゼはお姉さんに紅茶をご馳走して頂戴」

何でもない日常。
永遠に続くと思っていた思い出。
いかに『天才軍師』と言われようと、人は神では無い。
闇の胎動が、大陸の南方で静かに起こっている事は、彼女にもまだ分からなかった。

























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ぷちあとがき

俺の男女問わず、軍師のイメージ三点セット。
長い髪、眼鏡、「予想していました(決め台詞)」
予想はするけど、それが起こらない為の行動はしていない所がミソ(笑)
予想してたんなら、事前に止めろと(笑)
誤解なきよう言っておきますが、軍師キャラ好きですよ?
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