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ダークサイド 第16話 「解かれる封印」
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『魔王の遺跡』
それは、かつての魔王の力を封印したと伝えられている遺跡である。
厳重過ぎるほどのトラップ、さらにはそこに住まう番人が愚かな侵入者を排除する。
並の者であれば入口付近で、並以上の者であっても中程において、侵入者たちは自らの行いを後悔する事になる。
その後悔の掃き溜めである遺跡は、ここ、ベルザインにも存在する。
通常であれば警備が居るはずのそこには、今は侵入者である男が一人立つだけである。
その侵入者、ジュダは誰もが羨むその美麗の表情を、薄い笑いに歪める。
「ヘルデ……お前にも動いて貰うぞ。私だけが動くのは、いささか億劫だ」
ジュダは一人、遺跡の中へと踏み込んでいった。
「そう、久方ぶりの来客は噂の魔王……というわけね?」
遺跡の最深部。
およそ人間らしい生活感を感じさせない無機質な室内。
どこか冷え冷えとしたその室内以上に、冷涼とした少女の声が響く。
白を基調とした活動し易い服装。
彼女の白く細い腕が、優雅に組まれる。
「そうだ。そしてお前は遺跡を守る神官というわけだな」
優雅さにおいては彼女に引きを取らないどころか、それ以上の仕草で男が笑う。
「『神官』という一言で終わらせて貰いたくはないけれど……
そうね…あなたにとっては大勢の中の一人だものね」
少女は軽いため息を吐く。
落胆の色が浮かんだのは一瞬の事であり、すぐにその表情は神官らしき厳かなものへと戻る。
彼女の長い結ばれた髪が揺れる。
「思わせぶりな言葉だ。お前は何を知っている?
……いや、構わぬか。どうせ吸収すれば分かる事」
人ならざる美麗の表情を浮かべながら、闇はゆっくりと歩みを進める。
「大した事ではないわ。あなたが壊し、奪ってきた幾多の命の中の一つ。
刈り損ねた種がここに一つ残っていた……ただ、それだけのこと」
少女は左足を一歩前に踏み出す。
左手がジュダへと向けられ、身体の前に構えられた右手は拳を作る。
地を踏みしめ、武術を取得した者に特有の呼吸法は、彼女の構えを高度なものにしている。
少女は武器を持っていないが、その構えに隙は無い。
「名を聞いておこうか?」
「……神術格闘家、ミラ」
ミラと名乗った少女は、凛とした声で答える。
光の神官の戦闘スタイルの一つに、『神術格闘』なるものがある。
武器の類を一切用いず、その拳に己の法力を込め、相手に叩き込む。
基本的に、護身の為の技であるが、使い手の技量が高ければ脅威であることは間違いない。
「互いに武器無し。たまにはこういった趣向も面白い」
ジュダの両の拳が持ち上がる。
口の端を僅かに吊り上げ、男は続ける。
「確かに記憶に存在する。…どこで見たのだったか。その構え」
「………行きます」
ミラは簡潔にそう答えると、地を蹴った。
― ◇ ― ◇ ― ◇ ―
「はぁ…はぁ、くっ………」
悔しげなミラの声が漏れる。
彼女の攻撃は、ジュダのマントを脱がせただけ。
それに対して男の攻撃は、ミラに容赦なく浴びせられていた。
それも顔以外の部位のみに攻撃を集中させて。
「っ……強い……ここまでだなんて」
苦しげな少女の荒い息が漏れる。
埋めがたいほどに開いている両者の力の差に。
「よくやった方だ。まぁ、この程度だろうがな」
対して冷静な、興味を失ったかのような声でジュダが呟く。
戦闘は終了した。
もはやミラに戦う力は残されていない。
「…………」
しゃがみ込むミラの顎に手をかけ、顔を上へと向かせる。
「どこで見たのだったか…その瞳」
「……………」
男にしては白く細い指に力が籠もると、少女の肌は圧迫され朱に染まる。
ぎりぎりと力が加えられ間違いなく痛みはあるはずだが、少女の表情に変化はない。
「別に構わぬか、どうでも良いことだ」
ジュダは無慈悲に呟く。
目の前の少女を、まるで興味を失ったかのように見下ろす。
「…出来るのなら」
少女の瞳は男を真正面から見据えながら、気高さを失ってはいない。
屈する事の無い、力強い瞳。
ジュダは喉の奥で、くつくつと笑う。
「いいぞ、その目だ。…少し興味が沸いた」
ジュダは冷笑を微笑に変え、ミラの服を乱暴に引き裂いた。
白い神官服であった布が散る。
隠すものが無くなった瑞々しい肌が露出する。
「…………」
服を引き裂かれた少女、ミラから言葉はない。
「諦めているのか? それとも状況が理解出来ないか?」
少女の身体を抱き寄せ、耳元で囁く。
柔らかな耳たぶを、軽く口に食(は)む。
「…どちらでも無いわ。状況は理解出来ている」
同じようにジュダの耳元で囁くと、ミラは男の背中に腕を回す。
二人の身体が密着し、互いの熱を伝え合う。
「なるほど、光の神官は生命吸収の真似事も身に付けたのだったな」
得心が行ったとばかりに、男は女の背中に指を這わせる。
ミラの細い手も、それに応えるようにジュダの背中をゆっくりと這う。
「それも正確ではないけれど……いえ、そうね」
どちらともなく身体が離れる。
ジュダの服に彼女の手がかかると、衣服はぱさりと床へと落ちる。
「正確でない? 長い封印で、情欲が沸いたとでも言…」
男の言葉は、ミラの唇によって封じられた。
最初は、唇を突き出すだけの軽いキス。
やがて暖かな吐息と共に、彼女の舌がジュダへと侵入する。
応えるように、ジュダの舌が彼女のそれに絡む。
「ん……」
互いの呼吸音とぴちゃぴちゃという湿った音が響く。
卑猥な水音は、両方を高みへと誘う背景曲となる。
男の手がミラの後頭部へと回ると、艶やかな髪を撫でる。
さらさらと流れるような感触を愉しみながら、ジュダは髪の結び目を解く。
「んんっ……っ……ぁん」
しゅるり、と女の長い髪が広がる。
唇を離れたジュダの舌は、そのまま形の良い顎のラインを降りる。
「…んっ……んんんっ………ぁ………んっ……」
舌が滑るのを受け入れるように、女の顎が上がる。
ちろちろと降りる舌は、ミラの鎖骨を経過し膨らみの上部へと至る。
すぐには双丘の先端には行かず、その周囲からじわりじわりと中心へと這う。
「ふぁ……くんっ…………あっ……んっ………」
押し殺したようなミラの声は、欲情を煽る。
「……ふあっ!………んっ……ああっ…んっ……」
一際高い声が上がる。
乳首へと到達したジュダの頭を、ミラはそのまま胸へと抱く。
大きすぎる事も、小さすぎる事も無い形の良い乳房を舐める。
同時に男の手は彼女のなだらかな白い腹を滑る。
「んくっ………んあっ………あ、んんうっ……」
撫でた所から熱が沸き上がるような感覚に、ミラは熱い吐息を漏らす。
そんな反応を愉しみながら、ジュダの手は下腹部へと降りてゆく。
薄い茂みの下へと手を這わせると、ちゅくっ、という水音が聞こえる。
「随分と協力的だな? 光の神官といえど、情欲を催すか?」
「んっ…それは……あなたも同じでしょう?」
ミラの指もジュダの男根へと添えられる。
軽く包み込むようにしながら、細い指が前後される。
「そうだな。だが、まだ足りない。……せいぜい良い声で鳴け」
「あ……っくんっ………ぁ……ああっ……」
柔らかな肉ひだを上下する度に、女の上擦った声が漏れる。
必死に耐えようとしている様子だが、それにも関わらず声が漏れ、淫裂からは水音が響く。
女の柔らかな秘所を、男の指は充分に堪能する。
「……っ………」
攻めているはずのジュダの口からも、軽い声が漏れる。
男根の先端付近から、袋へとなぞるように手が動く。
まるで男の感じる部分を知っているかのような手の動き。
「っく…ここが……あんっ………弱いのよね?」
淫靡な笑みを浮かべると、ミラは男の前にしゃがみ込む。
誇張したモノを大切そうに両手で包み、軽く口づける。
「……まるで私を知っているような口振りだな」
女のさせたいようにさせながら、ジュダは彼女の長い髪を梳く。
指の間から、さらさらとした長い髪が流れる。
「些細な事よ………んうっ」
先端のかりの部分までを口に含むと、ミラは舌をわななかせる。
振動はジュダの竿に、心地よい刺激を与える。
「うっ…んむっ………ん……ちゅぷ……んんっ……」
口内で誇張の度合いを強める男根に自らの唾液を絡めながら、彼女は顔を前後する。
ぢゅくぢゅくという淫靡な音は、男の気分を高揚させる。
根本までをくわえ込み、次いで先端部分を圧迫する。
男の性感帯を知っているかのような動きは、ジュダの射精感を増長させる。
「…くっ……ふっ………いいだろう、出してやる」
男がそう宣言すると、女の頭を掴む。
「ふむっ…むぐっ……んっ…むむぅ………くっ」
荒々しく前後される男の象徴が、彼女の喉付近まで突き入れられる。
口内の異物を吐き出したい衝動を抑えながら、ミラは男根をくわえ続ける。
「むむっ……ぷっ…むっ……むぅんっ………んんっ!?」
ジュダの腰が離れると、達した証拠とでもいうべき液体が糸を引く。
「ぐっ……えほっ…けほっ」
ミラの口元から白濁液が流れ落ちる。
その様は酷く情欲的で、扇情的なもの。
「まだ…終わりではないでしょう?」
彼女は薄く微笑む。
まるで挑発するかのように。
「当然だ」
応じる男の笑みも変わらない。
「ふぁ…はぁはぁ……んっ…ああっ……あん……」
男の腰の上で、ミラの身体が跳ねる。
性器と性器とが深く結合し、また離れる。
熱い粘膜から、じゅぷじゅぷという音と共に見え隠れする剛直は、淫靡さを演出する。
「はっ…んっ……あ、あ…あんっ……ああっ…」
男に跨り、激しく上下する度に彼女の身体は喜びに震える。
(ちっ…)
ミラの下に居ながら、ジュダは内心で舌打ちをする。
肉体が精神を凌駕する事がある。
通常であれば激痛を感じる傷であっても、精神が高揚していればそれに気付かない事。
無意識的に身体には限界値が設定されており、肉体を守る為のリミッターがあるが、精神によりそれが解除される事。
そうだと思い込む事により、通常の身体能力を越える活動をする事など…
今の彼女は、それらに近い状態と言える。
彼女も何度か達しており、その命はとうに尽きていてもおかしくない。
だというのに貪欲に男をむさぼる様は、ジュダの体力をも消耗させている。
疑似性行為、命の奪い合いを今すぐに中断すれば、ミラはおそらく死ぬだろう。
だが、そんな手段は男にとって『死んでも行わない』行為の一つ。
(絞り出せる生命力があるというのならば、それら全てを喰らってやる)
疲労を感じ始めた身体に気合いを込め、ジュダは腰を突き上げる。
「はっ、はぁっ…んっ…んっ、ん…あ、あっ…ああっ!!」
ミラの声の感覚は短い。
男に小刻みに突き上げられる度に、喘ぎ声が途切れるからだ。
馬乗りにされていたジュダの上半身が起きあがる。
性交を中断させないままに、ミラの長い髪を梳く。
「あっ…んっ……あ…はぁ……はっ…んくっ…」
更に結合の度合いを強めた事に、女の声が艶を増す。
突き上げられ、身体は何度も達しているというのに、その疼きはむしろ増すばかり。
本来、愛を証明する為の行為を、醜い争いに変える事は『光の女神』へのひどい冒涜。
しかし、女にとってそれは些細な事だ。
なぜなら女は『光の女神』の教義やその存在を信じているわけではないから。
男の上で死へと続く快楽を味わいながら、女は思い返す。
彼女がまだ『光の神官』でなく、普通の少女であった頃。
物心つく前から、彼女は魔族の中に居た。
魔王の気まぐれか、何か政略的な意味があったのか理由は不明だが、彼女は魔族の中で育った。
幸か不幸か、彼女には才能があった。
人体を破壊するという行為において、天才的な力を発揮した。
彼女の拳が突き出され、相手兵士は吹き飛ぶ。
彼女の蹴りが弧を描き、相手の男に大怪我を負わせる。
『裏切りの灰女』
いつしか彼女は、敵と味方からそう呼ばれるようになっていた。
人の身でありながら、人を殺す裏切りの女。
魔族側に属しながら、魔族にもなれない女。
白でも黒でもない灰色の女。
彼女は人間にも、そして魔族にも忌み嫌われた。
それでも彼女にはそれ以外の生き方が無かった。
もしも才能が無かったら、もっと早く死ねただろうに。
もしも魔族の身体であったなら、凍て付く痛みを感じる事もなかっただろうに。
生まれながらに『裏切り』の十字架を背負わされた少女は、生きる屍だったかもしれない。
『上には上が居る』という言葉は、頂点に存在する一人以外の全ての者に当てはまる。
その頂点でない彼女は、敵陣の真っ直中において強敵と遭遇していた。
対魔族の封印が施される結界の中、孤立無援の彼女は多くの男たちを再起不能に追いやった。
だが、彼女の身体は限界に近かった。
肩で息をする彼女に襲いかかる男たち。
やっとこれで終われる、そう思う反面、さえない一生だったとも思う。
諦めと呪詛を光の女神に投げつけた時に、彼女を救ったのが彼だった。
長い髪をたなびかせ、男が舞う。
それは格闘技の天才と呼ばれた彼女でさえも見惚れる程の動き。
彼女が脳裏に朧気ながら浮かべていた、動作の究極。
彼女は目を奪われていた。
その容姿ではなく、彼の動きに。
全ての兵士達の息の根を止め、それでも汗一つかいていない男は、彼女に笑いかけた。
「一つ借しだ。借りを返すまでは死ぬな」
その男にとっては、恐らくどうでも良い言葉。
消耗品である道具を効率よく使う為の、事務的な行為。
だが彼女にとっては、彼は信仰にも近い存在となった。
彼、すなわち魔王が。
「そうか…思い出したぞ……ミラーシェ」
ジュダの言葉に、女の身体がびくりと反応する。
「あっ…っ…………」
男と繋がったまま、光の神官の女、ミラーシェは動きを止める。
肉欲だけに動いていた身体が、急速に羞恥の色を取り戻す。
「…んっ!?…くっ、はっ…あっ…ああっ……!!」
しかし彼女の喘ぎは、男に下から突き上げられる事により再開させられる。
「あ…っくん……はっ…んっ…あっ…あ…ああっ…っん!」
リズミカルに、淫裂に男根が突き入れられる度に、ミラーシェの口から声が漏れる。
じゅぷじゅぷという水音は、ジュダとミラーシェが何度も達した証。
それにも関わらず、二人の動きは止まらない。
「そうか…私が教えた事があったからな。どうりで見たことのある構えだと思った」
過去の記憶を懐かしむように、穏やかに優しげにジュダの声が響く。
座りながら抱き合うような形になりながら、男の舌はミラーシェの肩を這う。
「あ……あんっ…んっ…はぁ…はぁ…あんっ…あ、あぁ…んんっ」
穏やかに囁きかける声とは裏腹に、ジュダの動きは次第に早くなっていく。
無意識のうちに逃げようとする女の腰を固定すると、ピストン運動は激しさを増す。
「あくっ、…うっ……んんっ…はぁん…あっ、んっ、あっ、あああっ……」
ミラーシェの喘ぎ声は、間隔を狭めていく。
それほどに男の動きが早くなった事と、彼女が更なる絶頂へと達しようとしている事の証明だ。
ジュダの甘い声が、彼女の耳に囁かれる。
「私の為に随分と尽くしてくれたのだったな…。
光の神官となり『封印の契約』をすることで命を永らえたのは、私に再び会う為か…」
「あっ…ああっ、んっ、あ、あ、あ……はぁ…んっ…く……」
いつしか二人の体勢は変わっている。
男が女の上へと覆い被さるような体勢へと。
ジュダの髪は垂れ下がり、床にはミラーシェの長い髪が広がる。
男の甘い囁きは、ぽつりと、だが確実に彼女に届いた。
「馬鹿な女だ……使い捨ての駒として、都合良く使われていただけだというのに」
「っ!?……ああっ!」
一際深く突き入れられた男に、苦痛とも悦びとも取れる声が上がる。
ジュダには、先ほどまでの穏やかな笑みは無い。
ただ、闇色の冷笑が浮かぶのみ。
「くくっ、全てを拒絶していた頃も良かったが、今の方がなお良いぞ。
好意という人間らしい感情を持ち、それが踏みにじられた今のお前の暗い魂。
哀れで愚かで救いようのない女、それがお前だ」
「あっ…あああっ………んっ…ああああっ!」
ぱんぱんという、身体と身体がぶつかり合う音は早くなっていく。
それに合わせるように、彼女をえぐる剛直は激しさを増す。
「あっ……くぁ…はっ…んっ……だめっ…また…あっ…ああああああっ!」
体中に電気が走ったかのように、ミラーシェの身体は硬直する。
同時に男も放出へと身体を震わせる。
ジュダは彼女の中へと、白濁液を流し込む。
命を生み出すはずのそれは、ミラーシェの命を奪うもの。
流し入れたはずなのに、それは逆に女の命を吸収し、男の身体に甘美な酩酊感を与える。
「くくっ、美味だったぞ。また私に力が戻っ……」
水に溶けるように、ミラーシェの姿は薄れていく。
だというのに、彼女は微笑んでいた。
男に騙され、命を奪われたというのに。
「錯乱したか? 何がおかしい?」
ジュダの問いに、ミラーシェは答える。
「そんな事は知っていたわ。それでも…思い出して貰えたのだから。
名前を呼んでくれたのだから、私は……それでいい」
「……………」
女は続ける。
心底嬉しそうに。
「貴方に殺される価値を認められたのだから……
満足でも幸せでもないけど………不幸では……ないから」
命が尽きる。
魔族に命を奪われた者の末路は、人としての死体も残らない。
「自分で自分を騙せるのも、人間の特技の一つか。
…勝手に思い込むのは自由だ、好きにしろ」
「ええ、好きにさせて……もらうわ……私の愛した………魔王様」
彼女の姿が水のように、ぼやけて消える。
そして後には何も残らない。
「………馬鹿な女だ」
ジュダはもう一度呟いた。
封印が解かれる。
男の手により幾何学模様が宙に浮かび上がり、次いで鏡が割れるような音が響く。
「さあ、目覚めるがいい」
男の透き通るような声が、闇に響く。
封印を維持していた力の奔流が光となり、辺りを照らす。
「………」
光は次第に女性の姿を形作る。
女性にしてはやや大柄と言えるだろうが、それでも男性と比べれば小さい身体。
女らしいなだらかなカーブで描かれるシルエットは、それだけで男の目を惹く。
やや切れ長な目は、きつめの印象を受けるものの、美しいという言葉が相応しいだろう。
オルティアなどが『物静かな美』と表現されるとすれば、彼女は『活動的な美』と表現されるだろうか。
ただし、人間の女性と異なる点がいくつかある。
彼女の背中に生える透き通る二対の羽と、尾骨辺りから生える蜂の尾。
かつて『空の女王』と呼ばれていた彼女の双眸が、ゆっくりと開かれる。
「久しいな、ヘルデ」
透き通るような男の声。
だがそれに答えた女の声は、その外見とは裏腹に、あるいはその外見の通りに刺々しいものを含む。
「…相変わらず馴れ馴れしいんだよ、くそ野郎が!」
言葉の最後には、彼女が地を蹴る音が重なる。
数メートルあった距離を瞬時に縮め、疾風と共にその手が突き出される。
ジュダの髪が数本、宙に舞うものの命中はしていない。
だがそれはヘルデにしても予想通りであったらしい。
突き出され通過したはずの拳が男の肩を掴むと、そのままの勢いで両者は地面を滑る。
ジュダの背中が壁に付く直前で、組み合った二人の動きが止まる。
「腕が落ちたかい?」
女がそう口にした時には、彼女の蜂の針は、ジュダの心臓部へと宛われている。
「そう思うか?」
不敵に笑う男の手には、魔力の光が溢れている。
瞬時に女の身体を粉砕出来るであろうその手は、女の腰に添えられている。
ヘルデは、ふん、と鼻を鳴らすとジュダの手から逃れる。
「相変わらず過激な挨拶だな」
旧知の友に語りかけるような甘い口調。
性別といったようなものをも超越するような、透き通る声が男の口から紡ぎ出される。
「貴様に挨拶なんかした覚えは無いんだけどね。あたしは誰の下にも付く気はない」
封印の影響か、やや痩せた女性ヘルデは冷たく答える。
「そう言うな。私と共に戦えば、多くの人間を襲えるぞ? いわば…」
「『同盟』ってやつだろ?………はん、いいだろう」
打算と屈辱と利益と不利益とのカクテルを飲み干し、その味を確かめながらヘルデは答える。
二人に『主従関係』や、『封印から解かれた恩』などというものは無い。
お互いに利用する価値があるから利用する、ただそれだけ。
「……あたしが本来の力を取り戻すまで、その命預けといてやる」
女は踵を返す。
「楽しみにしている…『空の女王』」
男の愉しげな声が響いた。
ロゼッタ軍が帝都に対して侵攻を始めたのは、それからしばらく後の事である。
世界は闇に包まれようとしていた。
To Be Continude・・・・
あとがき
エロバトル3回目。
書き終わった後、「俺ってバカだなぁ」とか思いました(笑)
ま、いいや。
今回で、『闇の娘』さんが出揃いました(ただ、あの人をどうしようか迷ってるので、あと一人増えるかもしれませんが)
『空の女王』ヘルデさん(グラマーお姉さん、しかも蜂女)。
名前に付いては適当ですが、クレア、オルティア、ナーディア、セフィリア…と最後が「A」で終わる名前ばっかりなのに途中で気が付きまして、最後にだけ気を付けました(笑)
当初二つ名は『さまよえる空戦士団』だったんですが、『空の女王』に変更したのは秘密です(全然秘密じゃないけど)
性格は、忠誠心の無い暴れん坊(笑)
モチーフとしては、るろ剣の宇水(?)(志々雄に目を斬られて、恨みを持ってる)とか、
ハーメルンのヴォーカル(罪人、上司の言う事なんざ聞かねえ)です。
忠誠心バリバリの、オルティアさんとかクレアさんとは馬が合わないでしょうねぇ。
20年後読み返してみて、
>『闇の娘』(あの人をどうしようか迷ってるので、あと一人増えるかもしれませんが)
え? いったい誰のことを言ってるんだろうと、数分考えました。
完全に忘れていたので、ちょっと新鮮です(笑)
・・・安心してください。
数分後、ちゃんと思い出しましたよ。(ライトサイドのヒロインですね)
結局どうしたのかは……続きをご覧くださいませ。
それは、かつての魔王の力を封印したと伝えられている遺跡である。
厳重過ぎるほどのトラップ、さらにはそこに住まう番人が愚かな侵入者を排除する。
並の者であれば入口付近で、並以上の者であっても中程において、侵入者たちは自らの行いを後悔する事になる。
その後悔の掃き溜めである遺跡は、ここ、ベルザインにも存在する。
通常であれば警備が居るはずのそこには、今は侵入者である男が一人立つだけである。
その侵入者、ジュダは誰もが羨むその美麗の表情を、薄い笑いに歪める。
「ヘルデ……お前にも動いて貰うぞ。私だけが動くのは、いささか億劫だ」
ジュダは一人、遺跡の中へと踏み込んでいった。
「そう、久方ぶりの来客は噂の魔王……というわけね?」
遺跡の最深部。
およそ人間らしい生活感を感じさせない無機質な室内。
どこか冷え冷えとしたその室内以上に、冷涼とした少女の声が響く。
白を基調とした活動し易い服装。
彼女の白く細い腕が、優雅に組まれる。
「そうだ。そしてお前は遺跡を守る神官というわけだな」
優雅さにおいては彼女に引きを取らないどころか、それ以上の仕草で男が笑う。
「『神官』という一言で終わらせて貰いたくはないけれど……
そうね…あなたにとっては大勢の中の一人だものね」
少女は軽いため息を吐く。
落胆の色が浮かんだのは一瞬の事であり、すぐにその表情は神官らしき厳かなものへと戻る。
彼女の長い結ばれた髪が揺れる。
「思わせぶりな言葉だ。お前は何を知っている?
……いや、構わぬか。どうせ吸収すれば分かる事」
人ならざる美麗の表情を浮かべながら、闇はゆっくりと歩みを進める。
「大した事ではないわ。あなたが壊し、奪ってきた幾多の命の中の一つ。
刈り損ねた種がここに一つ残っていた……ただ、それだけのこと」
少女は左足を一歩前に踏み出す。
左手がジュダへと向けられ、身体の前に構えられた右手は拳を作る。
地を踏みしめ、武術を取得した者に特有の呼吸法は、彼女の構えを高度なものにしている。
少女は武器を持っていないが、その構えに隙は無い。
「名を聞いておこうか?」
「……神術格闘家、ミラ」
ミラと名乗った少女は、凛とした声で答える。
光の神官の戦闘スタイルの一つに、『神術格闘』なるものがある。
武器の類を一切用いず、その拳に己の法力を込め、相手に叩き込む。
基本的に、護身の為の技であるが、使い手の技量が高ければ脅威であることは間違いない。
「互いに武器無し。たまにはこういった趣向も面白い」
ジュダの両の拳が持ち上がる。
口の端を僅かに吊り上げ、男は続ける。
「確かに記憶に存在する。…どこで見たのだったか。その構え」
「………行きます」
ミラは簡潔にそう答えると、地を蹴った。
― ◇ ― ◇ ― ◇ ―
「はぁ…はぁ、くっ………」
悔しげなミラの声が漏れる。
彼女の攻撃は、ジュダのマントを脱がせただけ。
それに対して男の攻撃は、ミラに容赦なく浴びせられていた。
それも顔以外の部位のみに攻撃を集中させて。
「っ……強い……ここまでだなんて」
苦しげな少女の荒い息が漏れる。
埋めがたいほどに開いている両者の力の差に。
「よくやった方だ。まぁ、この程度だろうがな」
対して冷静な、興味を失ったかのような声でジュダが呟く。
戦闘は終了した。
もはやミラに戦う力は残されていない。
「…………」
しゃがみ込むミラの顎に手をかけ、顔を上へと向かせる。
「どこで見たのだったか…その瞳」
「……………」
男にしては白く細い指に力が籠もると、少女の肌は圧迫され朱に染まる。
ぎりぎりと力が加えられ間違いなく痛みはあるはずだが、少女の表情に変化はない。
「別に構わぬか、どうでも良いことだ」
ジュダは無慈悲に呟く。
目の前の少女を、まるで興味を失ったかのように見下ろす。
「…出来るのなら」
少女の瞳は男を真正面から見据えながら、気高さを失ってはいない。
屈する事の無い、力強い瞳。
ジュダは喉の奥で、くつくつと笑う。
「いいぞ、その目だ。…少し興味が沸いた」
ジュダは冷笑を微笑に変え、ミラの服を乱暴に引き裂いた。
白い神官服であった布が散る。
隠すものが無くなった瑞々しい肌が露出する。
「…………」
服を引き裂かれた少女、ミラから言葉はない。
「諦めているのか? それとも状況が理解出来ないか?」
少女の身体を抱き寄せ、耳元で囁く。
柔らかな耳たぶを、軽く口に食(は)む。
「…どちらでも無いわ。状況は理解出来ている」
同じようにジュダの耳元で囁くと、ミラは男の背中に腕を回す。
二人の身体が密着し、互いの熱を伝え合う。
「なるほど、光の神官は生命吸収の真似事も身に付けたのだったな」
得心が行ったとばかりに、男は女の背中に指を這わせる。
ミラの細い手も、それに応えるようにジュダの背中をゆっくりと這う。
「それも正確ではないけれど……いえ、そうね」
どちらともなく身体が離れる。
ジュダの服に彼女の手がかかると、衣服はぱさりと床へと落ちる。
「正確でない? 長い封印で、情欲が沸いたとでも言…」
男の言葉は、ミラの唇によって封じられた。
最初は、唇を突き出すだけの軽いキス。
やがて暖かな吐息と共に、彼女の舌がジュダへと侵入する。
応えるように、ジュダの舌が彼女のそれに絡む。
「ん……」
互いの呼吸音とぴちゃぴちゃという湿った音が響く。
卑猥な水音は、両方を高みへと誘う背景曲となる。
男の手がミラの後頭部へと回ると、艶やかな髪を撫でる。
さらさらと流れるような感触を愉しみながら、ジュダは髪の結び目を解く。
「んんっ……っ……ぁん」
しゅるり、と女の長い髪が広がる。
唇を離れたジュダの舌は、そのまま形の良い顎のラインを降りる。
「…んっ……んんんっ………ぁ………んっ……」
舌が滑るのを受け入れるように、女の顎が上がる。
ちろちろと降りる舌は、ミラの鎖骨を経過し膨らみの上部へと至る。
すぐには双丘の先端には行かず、その周囲からじわりじわりと中心へと這う。
「ふぁ……くんっ…………あっ……んっ………」
押し殺したようなミラの声は、欲情を煽る。
「……ふあっ!………んっ……ああっ…んっ……」
一際高い声が上がる。
乳首へと到達したジュダの頭を、ミラはそのまま胸へと抱く。
大きすぎる事も、小さすぎる事も無い形の良い乳房を舐める。
同時に男の手は彼女のなだらかな白い腹を滑る。
「んくっ………んあっ………あ、んんうっ……」
撫でた所から熱が沸き上がるような感覚に、ミラは熱い吐息を漏らす。
そんな反応を愉しみながら、ジュダの手は下腹部へと降りてゆく。
薄い茂みの下へと手を這わせると、ちゅくっ、という水音が聞こえる。
「随分と協力的だな? 光の神官といえど、情欲を催すか?」
「んっ…それは……あなたも同じでしょう?」
ミラの指もジュダの男根へと添えられる。
軽く包み込むようにしながら、細い指が前後される。
「そうだな。だが、まだ足りない。……せいぜい良い声で鳴け」
「あ……っくんっ………ぁ……ああっ……」
柔らかな肉ひだを上下する度に、女の上擦った声が漏れる。
必死に耐えようとしている様子だが、それにも関わらず声が漏れ、淫裂からは水音が響く。
女の柔らかな秘所を、男の指は充分に堪能する。
「……っ………」
攻めているはずのジュダの口からも、軽い声が漏れる。
男根の先端付近から、袋へとなぞるように手が動く。
まるで男の感じる部分を知っているかのような手の動き。
「っく…ここが……あんっ………弱いのよね?」
淫靡な笑みを浮かべると、ミラは男の前にしゃがみ込む。
誇張したモノを大切そうに両手で包み、軽く口づける。
「……まるで私を知っているような口振りだな」
女のさせたいようにさせながら、ジュダは彼女の長い髪を梳く。
指の間から、さらさらとした長い髪が流れる。
「些細な事よ………んうっ」
先端のかりの部分までを口に含むと、ミラは舌をわななかせる。
振動はジュダの竿に、心地よい刺激を与える。
「うっ…んむっ………ん……ちゅぷ……んんっ……」
口内で誇張の度合いを強める男根に自らの唾液を絡めながら、彼女は顔を前後する。
ぢゅくぢゅくという淫靡な音は、男の気分を高揚させる。
根本までをくわえ込み、次いで先端部分を圧迫する。
男の性感帯を知っているかのような動きは、ジュダの射精感を増長させる。
「…くっ……ふっ………いいだろう、出してやる」
男がそう宣言すると、女の頭を掴む。
「ふむっ…むぐっ……んっ…むむぅ………くっ」
荒々しく前後される男の象徴が、彼女の喉付近まで突き入れられる。
口内の異物を吐き出したい衝動を抑えながら、ミラは男根をくわえ続ける。
「むむっ……ぷっ…むっ……むぅんっ………んんっ!?」
ジュダの腰が離れると、達した証拠とでもいうべき液体が糸を引く。
「ぐっ……えほっ…けほっ」
ミラの口元から白濁液が流れ落ちる。
その様は酷く情欲的で、扇情的なもの。
「まだ…終わりではないでしょう?」
彼女は薄く微笑む。
まるで挑発するかのように。
「当然だ」
応じる男の笑みも変わらない。
「ふぁ…はぁはぁ……んっ…ああっ……あん……」
男の腰の上で、ミラの身体が跳ねる。
性器と性器とが深く結合し、また離れる。
熱い粘膜から、じゅぷじゅぷという音と共に見え隠れする剛直は、淫靡さを演出する。
「はっ…んっ……あ、あ…あんっ……ああっ…」
男に跨り、激しく上下する度に彼女の身体は喜びに震える。
(ちっ…)
ミラの下に居ながら、ジュダは内心で舌打ちをする。
肉体が精神を凌駕する事がある。
通常であれば激痛を感じる傷であっても、精神が高揚していればそれに気付かない事。
無意識的に身体には限界値が設定されており、肉体を守る為のリミッターがあるが、精神によりそれが解除される事。
そうだと思い込む事により、通常の身体能力を越える活動をする事など…
今の彼女は、それらに近い状態と言える。
彼女も何度か達しており、その命はとうに尽きていてもおかしくない。
だというのに貪欲に男をむさぼる様は、ジュダの体力をも消耗させている。
疑似性行為、命の奪い合いを今すぐに中断すれば、ミラはおそらく死ぬだろう。
だが、そんな手段は男にとって『死んでも行わない』行為の一つ。
(絞り出せる生命力があるというのならば、それら全てを喰らってやる)
疲労を感じ始めた身体に気合いを込め、ジュダは腰を突き上げる。
「はっ、はぁっ…んっ…んっ、ん…あ、あっ…ああっ!!」
ミラの声の感覚は短い。
男に小刻みに突き上げられる度に、喘ぎ声が途切れるからだ。
馬乗りにされていたジュダの上半身が起きあがる。
性交を中断させないままに、ミラの長い髪を梳く。
「あっ…んっ……あ…はぁ……はっ…んくっ…」
更に結合の度合いを強めた事に、女の声が艶を増す。
突き上げられ、身体は何度も達しているというのに、その疼きはむしろ増すばかり。
本来、愛を証明する為の行為を、醜い争いに変える事は『光の女神』へのひどい冒涜。
しかし、女にとってそれは些細な事だ。
なぜなら女は『光の女神』の教義やその存在を信じているわけではないから。
男の上で死へと続く快楽を味わいながら、女は思い返す。
彼女がまだ『光の神官』でなく、普通の少女であった頃。
物心つく前から、彼女は魔族の中に居た。
魔王の気まぐれか、何か政略的な意味があったのか理由は不明だが、彼女は魔族の中で育った。
幸か不幸か、彼女には才能があった。
人体を破壊するという行為において、天才的な力を発揮した。
彼女の拳が突き出され、相手兵士は吹き飛ぶ。
彼女の蹴りが弧を描き、相手の男に大怪我を負わせる。
『裏切りの灰女』
いつしか彼女は、敵と味方からそう呼ばれるようになっていた。
人の身でありながら、人を殺す裏切りの女。
魔族側に属しながら、魔族にもなれない女。
白でも黒でもない灰色の女。
彼女は人間にも、そして魔族にも忌み嫌われた。
それでも彼女にはそれ以外の生き方が無かった。
もしも才能が無かったら、もっと早く死ねただろうに。
もしも魔族の身体であったなら、凍て付く痛みを感じる事もなかっただろうに。
生まれながらに『裏切り』の十字架を背負わされた少女は、生きる屍だったかもしれない。
『上には上が居る』という言葉は、頂点に存在する一人以外の全ての者に当てはまる。
その頂点でない彼女は、敵陣の真っ直中において強敵と遭遇していた。
対魔族の封印が施される結界の中、孤立無援の彼女は多くの男たちを再起不能に追いやった。
だが、彼女の身体は限界に近かった。
肩で息をする彼女に襲いかかる男たち。
やっとこれで終われる、そう思う反面、さえない一生だったとも思う。
諦めと呪詛を光の女神に投げつけた時に、彼女を救ったのが彼だった。
長い髪をたなびかせ、男が舞う。
それは格闘技の天才と呼ばれた彼女でさえも見惚れる程の動き。
彼女が脳裏に朧気ながら浮かべていた、動作の究極。
彼女は目を奪われていた。
その容姿ではなく、彼の動きに。
全ての兵士達の息の根を止め、それでも汗一つかいていない男は、彼女に笑いかけた。
「一つ借しだ。借りを返すまでは死ぬな」
その男にとっては、恐らくどうでも良い言葉。
消耗品である道具を効率よく使う為の、事務的な行為。
だが彼女にとっては、彼は信仰にも近い存在となった。
彼、すなわち魔王が。
「そうか…思い出したぞ……ミラーシェ」
ジュダの言葉に、女の身体がびくりと反応する。
「あっ…っ…………」
男と繋がったまま、光の神官の女、ミラーシェは動きを止める。
肉欲だけに動いていた身体が、急速に羞恥の色を取り戻す。
「…んっ!?…くっ、はっ…あっ…ああっ……!!」
しかし彼女の喘ぎは、男に下から突き上げられる事により再開させられる。
「あ…っくん……はっ…んっ…あっ…あ…ああっ…っん!」
リズミカルに、淫裂に男根が突き入れられる度に、ミラーシェの口から声が漏れる。
じゅぷじゅぷという水音は、ジュダとミラーシェが何度も達した証。
それにも関わらず、二人の動きは止まらない。
「そうか…私が教えた事があったからな。どうりで見たことのある構えだと思った」
過去の記憶を懐かしむように、穏やかに優しげにジュダの声が響く。
座りながら抱き合うような形になりながら、男の舌はミラーシェの肩を這う。
「あ……あんっ…んっ…はぁ…はぁ…あんっ…あ、あぁ…んんっ」
穏やかに囁きかける声とは裏腹に、ジュダの動きは次第に早くなっていく。
無意識のうちに逃げようとする女の腰を固定すると、ピストン運動は激しさを増す。
「あくっ、…うっ……んんっ…はぁん…あっ、んっ、あっ、あああっ……」
ミラーシェの喘ぎ声は、間隔を狭めていく。
それほどに男の動きが早くなった事と、彼女が更なる絶頂へと達しようとしている事の証明だ。
ジュダの甘い声が、彼女の耳に囁かれる。
「私の為に随分と尽くしてくれたのだったな…。
光の神官となり『封印の契約』をすることで命を永らえたのは、私に再び会う為か…」
「あっ…ああっ、んっ、あ、あ、あ……はぁ…んっ…く……」
いつしか二人の体勢は変わっている。
男が女の上へと覆い被さるような体勢へと。
ジュダの髪は垂れ下がり、床にはミラーシェの長い髪が広がる。
男の甘い囁きは、ぽつりと、だが確実に彼女に届いた。
「馬鹿な女だ……使い捨ての駒として、都合良く使われていただけだというのに」
「っ!?……ああっ!」
一際深く突き入れられた男に、苦痛とも悦びとも取れる声が上がる。
ジュダには、先ほどまでの穏やかな笑みは無い。
ただ、闇色の冷笑が浮かぶのみ。
「くくっ、全てを拒絶していた頃も良かったが、今の方がなお良いぞ。
好意という人間らしい感情を持ち、それが踏みにじられた今のお前の暗い魂。
哀れで愚かで救いようのない女、それがお前だ」
「あっ…あああっ………んっ…ああああっ!」
ぱんぱんという、身体と身体がぶつかり合う音は早くなっていく。
それに合わせるように、彼女をえぐる剛直は激しさを増す。
「あっ……くぁ…はっ…んっ……だめっ…また…あっ…ああああああっ!」
体中に電気が走ったかのように、ミラーシェの身体は硬直する。
同時に男も放出へと身体を震わせる。
ジュダは彼女の中へと、白濁液を流し込む。
命を生み出すはずのそれは、ミラーシェの命を奪うもの。
流し入れたはずなのに、それは逆に女の命を吸収し、男の身体に甘美な酩酊感を与える。
「くくっ、美味だったぞ。また私に力が戻っ……」
水に溶けるように、ミラーシェの姿は薄れていく。
だというのに、彼女は微笑んでいた。
男に騙され、命を奪われたというのに。
「錯乱したか? 何がおかしい?」
ジュダの問いに、ミラーシェは答える。
「そんな事は知っていたわ。それでも…思い出して貰えたのだから。
名前を呼んでくれたのだから、私は……それでいい」
「……………」
女は続ける。
心底嬉しそうに。
「貴方に殺される価値を認められたのだから……
満足でも幸せでもないけど………不幸では……ないから」
命が尽きる。
魔族に命を奪われた者の末路は、人としての死体も残らない。
「自分で自分を騙せるのも、人間の特技の一つか。
…勝手に思い込むのは自由だ、好きにしろ」
「ええ、好きにさせて……もらうわ……私の愛した………魔王様」
彼女の姿が水のように、ぼやけて消える。
そして後には何も残らない。
「………馬鹿な女だ」
ジュダはもう一度呟いた。
封印が解かれる。
男の手により幾何学模様が宙に浮かび上がり、次いで鏡が割れるような音が響く。
「さあ、目覚めるがいい」
男の透き通るような声が、闇に響く。
封印を維持していた力の奔流が光となり、辺りを照らす。
「………」
光は次第に女性の姿を形作る。
女性にしてはやや大柄と言えるだろうが、それでも男性と比べれば小さい身体。
女らしいなだらかなカーブで描かれるシルエットは、それだけで男の目を惹く。
やや切れ長な目は、きつめの印象を受けるものの、美しいという言葉が相応しいだろう。
オルティアなどが『物静かな美』と表現されるとすれば、彼女は『活動的な美』と表現されるだろうか。
ただし、人間の女性と異なる点がいくつかある。
彼女の背中に生える透き通る二対の羽と、尾骨辺りから生える蜂の尾。
かつて『空の女王』と呼ばれていた彼女の双眸が、ゆっくりと開かれる。
「久しいな、ヘルデ」
透き通るような男の声。
だがそれに答えた女の声は、その外見とは裏腹に、あるいはその外見の通りに刺々しいものを含む。
「…相変わらず馴れ馴れしいんだよ、くそ野郎が!」
言葉の最後には、彼女が地を蹴る音が重なる。
数メートルあった距離を瞬時に縮め、疾風と共にその手が突き出される。
ジュダの髪が数本、宙に舞うものの命中はしていない。
だがそれはヘルデにしても予想通りであったらしい。
突き出され通過したはずの拳が男の肩を掴むと、そのままの勢いで両者は地面を滑る。
ジュダの背中が壁に付く直前で、組み合った二人の動きが止まる。
「腕が落ちたかい?」
女がそう口にした時には、彼女の蜂の針は、ジュダの心臓部へと宛われている。
「そう思うか?」
不敵に笑う男の手には、魔力の光が溢れている。
瞬時に女の身体を粉砕出来るであろうその手は、女の腰に添えられている。
ヘルデは、ふん、と鼻を鳴らすとジュダの手から逃れる。
「相変わらず過激な挨拶だな」
旧知の友に語りかけるような甘い口調。
性別といったようなものをも超越するような、透き通る声が男の口から紡ぎ出される。
「貴様に挨拶なんかした覚えは無いんだけどね。あたしは誰の下にも付く気はない」
封印の影響か、やや痩せた女性ヘルデは冷たく答える。
「そう言うな。私と共に戦えば、多くの人間を襲えるぞ? いわば…」
「『同盟』ってやつだろ?………はん、いいだろう」
打算と屈辱と利益と不利益とのカクテルを飲み干し、その味を確かめながらヘルデは答える。
二人に『主従関係』や、『封印から解かれた恩』などというものは無い。
お互いに利用する価値があるから利用する、ただそれだけ。
「……あたしが本来の力を取り戻すまで、その命預けといてやる」
女は踵を返す。
「楽しみにしている…『空の女王』」
男の愉しげな声が響いた。
ロゼッタ軍が帝都に対して侵攻を始めたのは、それからしばらく後の事である。
世界は闇に包まれようとしていた。
To Be Continude・・・・
あとがき
エロバトル3回目。
書き終わった後、「俺ってバカだなぁ」とか思いました(笑)
ま、いいや。
今回で、『闇の娘』さんが出揃いました(ただ、あの人をどうしようか迷ってるので、あと一人増えるかもしれませんが)
『空の女王』ヘルデさん(グラマーお姉さん、しかも蜂女)。
名前に付いては適当ですが、クレア、オルティア、ナーディア、セフィリア…と最後が「A」で終わる名前ばっかりなのに途中で気が付きまして、最後にだけ気を付けました(笑)
当初二つ名は『さまよえる空戦士団』だったんですが、『空の女王』に変更したのは秘密です(全然秘密じゃないけど)
性格は、忠誠心の無い暴れん坊(笑)
モチーフとしては、るろ剣の宇水(?)(志々雄に目を斬られて、恨みを持ってる)とか、
ハーメルンのヴォーカル(罪人、上司の言う事なんざ聞かねえ)です。
忠誠心バリバリの、オルティアさんとかクレアさんとは馬が合わないでしょうねぇ。
20年後読み返してみて、
>『闇の娘』(あの人をどうしようか迷ってるので、あと一人増えるかもしれませんが)
え? いったい誰のことを言ってるんだろうと、数分考えました。
完全に忘れていたので、ちょっと新鮮です(笑)
・・・安心してください。
数分後、ちゃんと思い出しましたよ。(ライトサイドのヒロインですね)
結局どうしたのかは……続きをご覧くださいませ。
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