香りに落ちてく

からどり

文字の大きさ
5 / 13

しおりを挟む
 もう会うことは無いと思っていたのは俺だけで、ユズルは次の日から毎日俺の部屋に来た。
決まって夜の9時を過ぎてから、10分くらい居る。
 週末は昼間から入り浸り、昼飯は手作り弁当を広げていた。

「弁当か。自分で作ったのか?」

俺の昼飯は買い置きのカップ麺だ。

「母さんが作ってくれたんだ。図書館に行くって言ったから」

「へえ、優しいお母さんだな」

図書館に行く息子へ弁当を持たすのは普通なのか、俺は知らない。なので無難な返事をした。


「ユウヘイは料理しないのか」

「しないな。カップ麺に湯を入れるくらいだ」

そんな会話をしたり、ユズルは持って来た携帯ゲームをしたりして遊んで帰った。
 そのゲームが面白そうだから、後日、俺もゲーム機とソフトを買った。

******

 今日もユズルは夜の9時に来て、ペットボトルの茶を飲んでいた。

「なあ、平日に毎日来て大丈夫なのか。お前の家、実家だったよな」

「塾の帰りだし、10分くらい遅い程度なら、先生に質問してたって言えば疑われない」

「塾?お前、浪人生か?」

ん?浪人生なら予備校か?俺は自分の偏差値に合わせて大学に行ったので、塾や予備校の世話にならず、その辺の事情に詳しくない。

ユズルは答えなかった。俺もそれ以上聞かなかった。浪人生で、学歴コンプを刺激したら面倒だからな。

「遅いから気をつけて帰れよ」

「うん」

ユズルは1回だけ頷き、帰っていった。

 毎日、茶を飲んで、一緒にゲームをしながら喋って、帰る。たまにあいつからも差し入れしてくれるようになった。それはどこのコンビニで買える菓子だが、一緒に食べる。そんな関係に慣れた頃、俺はユズルが前よりも可愛い奴だと思った。

「なあ、なんかお前可愛くなってね?」

初めて会った時は物の聞き方を知らない奴だったが、一緒に過ごしていたら良い所も見えてくる。

「……目は大丈夫か」

「俺の眼の前には身長170越えの逞しい男がいる」

「その男をかわいいというのは、かなりおかしいのは分かるか」

「いや、分かってる。だけど可愛いんだもん」

俺はわざとぶりっ子みたいに言った。

「……」

ユズルは無言で俺を見る。目は半開きで、明らかに疑っている。

「年下だからってからかうな」

もっと怒るかと思ったら、並程度の怒り方だった。そんなことよりユズルは同じ年頃の俺が年上に見えるのか?失恋したせいで老けちまったか?いや、そんなことない、はず。

「……そういやユズルって年いくつ?」

「14だ」

「おいおい、冗談言うなよ」

俺がそう言うと、唇の先を尖らせ不満な顔をするユズル。

「……マジ?」

「冗談を言ってどうする」

「まさかの14歳。思春期真っ盛りかよ」

そりゃ、体臭に敏感になるし、体臭対策グッズを買ったら、小遣いがすぐなくなっちまう。酒は当然飲めない。タンクトップの白色は校則。塾に行くし、魔法の勉強もする。
14歳と分かったら、伏線みたいに会ったときからのことが繋がる。でも、こんな小さい情報から14歳を導き出せるなら、親はクイズ王になれてる。

手を出さなくて良かったと心から思うと同時に、毎日、夜に俺の家にいていいのかと心配になる。

「どうした?」

「いや、なんでもない。そろそろ時間になるぞ。ゲームを止めて帰れよ」

「ああ」

ユズルが帰ってから俺は改めて考えてみた。

13歳差の恋愛……は、どう考えても駄目だ。ショタだ。年下すぎる。
そりゃ、なんかしてやりたいって思っちまうほど頼りなく見えてしまう。

 ユズルからすれば帰りにちょっと立ち寄る、安全な場所のつもりだろうが、近づくとほんのり匂う香りに俺は興奮してんだぞ。
今まで好みの体臭だって言ったのは冗談じゃない。男でも危機感持て。二度と来るな。そう言って遠ざければ楽なんだろうな。
だけど、ユズルは不器用で、感情表現が苦手だ。ここで息抜きできなくなると、あいつの休む場所がなくなって潰れそうだ。
 高校生になれば行動範囲が広がって、友だちだってできて、俺のことも忘れるだろ。そのまえに高校受験で忙しくなるか?あと一年か二年くらい我慢を……
あー、でもその間、俺も恋人作れないよなあ。ユズルが来るから帰ってくれなんて、恋人に言ったらどっちが大事だとブチ切れされる。
でも、ユズルを遠ざけるのも嫌だ。アイツ、毎日同じ時間に来るし、雄っパブ行くなら早く行って早く帰らないと……。

「あー! もう!」

俺は頭を掻きむしった。あの時も、あの時も後先考えずに行動しちまった。
俺好みの匂いをさせる素直で可愛い14歳。そいつが部屋にいて、手を出しそうな自分を抑えるのは相当難しいぞ。

「うわー、紳士として駄目なやつ」

14歳のユズルに欲情していると自覚した俺の喉からうめき声が出た。

 ユズルを甘やかして俺を好きにさせるのは、多分、簡単だ。
今以上に俺のところで好きなだけゲームとか、好きなことさせてさ。
俺が初めてされたときみたいに、男同士の嫌悪感を誤魔化す言葉を言って、気持ちよくさせれば性欲の十代はコロッと落ちちまう。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

だけどユズルには、俺とは違う全うな人生を送ってもらいたい。
14歳だぞ。
これから女の子と手を繋いだとか、キスしたとか、キラキラ青春真っ盛りじゃねーか。恋人ができなくたって友だちと好きな子のこと話したり、買い食いしたり、旅行にいったりさ。
 俺が男に手を出された年齢の時、エロに夢中で、そういうの、出来なかったから……。
そんな健全な青春をユズルにさせてやるために、俺が出来ることはなんだ?

「あーあ」

俺はテーブルに突っ伏した。
 結局、優しく見守って、あいつが離れていくのを待つしかないという答えしか浮かばず、涙が出た。
俺にも悩みを相談できる人が欲しいぜ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

処理中です...