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二時間目
二時間目
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突然だが、大抵の男子校には更衣室という概念がない。それは、男女に分けられた更衣室がないことを意味するだけではない。
一時間目の英語が終わり、二時間目は体育である。生徒たちは、各々の服から体育着へと着替えていく。当然のようにドア、窓全開の教室で着替える彼らだが、幸か不幸か、己のパンツ一丁姿を見て恥じる乙女はいない。
野球部とラグビー部の奴らが、机に乗って力こぶを出し、ボディビルのポーズをし始めた。
「出席番号5番ケツにスイカ二個も搭載してんのかーい!」
「出席番号29番腕がブルドーザー!」
「出席番号23番その脚で犯してくれぇー!」
とかくだらないコールをしていた。だから俺も、
「出席番号40番その股間に夢詰まりすぎー!」
と言ってやった。
集合場所のグラウンドに着くと、さも当然かの如く、そこで着替えている者が数人いた。
「あのさ、わざわざなんでグラウンドで着替えるん?」
と尋ねた。
「なんか、開放感あって気持ち良いじゃん。人類の起源に立ち返った気がしてさ」
こいつは犯罪者の萌芽を持っている。と、感心した。近々ネットニュースにでも露出狂として載りそうである。
この学校の生徒たちは、いたるところで着替えをしたがる。トイレ、廊下、食堂で着替えてる奴もいた。この学校に更衣室の概念がないというのは、この学園内すべてが更衣室になりうるということだ。何とも矛盾した話だが。
いつのまにか先生がやってきていて、俺らのことも何も不思議に思わないように、
「体操やるよー」と声をかけた。
ラジオ体操のはきはきとした号令と、生徒たちの、力が入っていないためにブランブランとした腕。俺はこの時間が少しだけ愛おしい。
一番背の低い奴が整列をかけ、授業が始まった。今日の授業はハンドボールである。
軽いキャッチボールが終わった後、すぐにリーグ戦形式の試合が始まる。
漢は、スポーツに熱くなる。言い換えると、体育の試合がすべての授業で一番荒れる。このように審判をしているとよくわかる。相手からのパスを受け取った細身の彼は、ガチムチ体型の野球部に体を思いきりぶつけられ、強引にボールを奪い去られた。俺は、その場でファールの宣告を出した。
「ちょっとぶつかっただけだろ!ファールじゃないだろ!お前」
そう言われようが、心を鬼にしてファールを貫く。さもなければ、この授業は世紀末と化す。
そして俺たちのチームの出番がやってきた。試合時間は10分でぶっ続け。相手チームは先程のチーム野球部だ。俺たちのチームサッカー&ラグビー部と首位争いを展開していて、この直接対決がリーグの優勝を大きく左右する。
ホイッスルが試合前の静寂と緊張を打ち破り、試合が始まった。試合はシーソーゲームとなり、試合開始から8分が経った時点で、6-6の同点であった。双方ともに得点を入れあう展開だったものの、俺はというと、野球部のディフェンス力の高さときついマークによって、なかなか点を決められず、もどかしい思いをしていた。あと2分、点を入れられてしまったら、逆転をすることは非常に難しい。かといって守りに徹して引き分けに持ち込んでも、最終的には得失点差によってリーグ優勝はできない。あと一点。ゴールが限りなく遠く、小さく見える。
「野中、前線引き上げて、守り、守り入れ!」
思案をしていると、ゴールキーパーの山北から俺にそんな指示を出した。だが、もう遅い。相手と山北は真正面から対峙している。野球部のエースはステップを踏み、羽が生えたかの如く宙高くに跳躍してボールを投げた。もうだめかと思ったその時、山北は電光石火の反射神経を見せ、ゴール左下ギリギリに放られたシュートを足で止めた。そして、
「野中!頼んだぜ!」
そんな山北の声とともに、放物線を描いたロングパスがこちらへ飛んでくる。前線から戻り切れなかったのが功を奏して、前線でフリーになっているところでボールを受け取れた。ドリブル突破で独壇場。しかし、チーム野球部も用意周到。バックに一人守りを配置していた。シュートができる、ゴールキーパーから6mラインの外側ギリギリで、守りと一騎打ちとなった。左足、右足とステップを踏む。このままむやみに飛び上がってもブロックされるだけである。そこで俺は、3歩目の左足で、右へ横っ飛びした。その体勢から放たれる独特な軌道のシュートは、ゴールキーパーの反応を許さずに、ゴールの左隅へ吸い込まれていった。
チームのみんなは集まってきて、俺に抱き着いてきた。
「ゴラッソきたー!」
「ヒーローだぜお前」
そんなことを言われても飄々としていたい俺だが、やはりまんざらでもない。
試合は、7-6で勝利。俺のゴールが決勝点となった。
授業が終わり、頭から水道の水をかぶる。真っ赤になった顔の上から、汗と水道水が混ざった水を滴らせながら、となりの山北が言った。
「野中、野中、MVP野中!」
「いやいや、真のMVPは山北だろ。あのビッグセーブがなかったら6-7で負けてたって」
「野中、後でなんかおごってやるよ」
山北は、そう言ってえくぼを浮かべた。そして太陽は、随分と上の方まで昇っていた。
一時間目の英語が終わり、二時間目は体育である。生徒たちは、各々の服から体育着へと着替えていく。当然のようにドア、窓全開の教室で着替える彼らだが、幸か不幸か、己のパンツ一丁姿を見て恥じる乙女はいない。
野球部とラグビー部の奴らが、机に乗って力こぶを出し、ボディビルのポーズをし始めた。
「出席番号5番ケツにスイカ二個も搭載してんのかーい!」
「出席番号29番腕がブルドーザー!」
「出席番号23番その脚で犯してくれぇー!」
とかくだらないコールをしていた。だから俺も、
「出席番号40番その股間に夢詰まりすぎー!」
と言ってやった。
集合場所のグラウンドに着くと、さも当然かの如く、そこで着替えている者が数人いた。
「あのさ、わざわざなんでグラウンドで着替えるん?」
と尋ねた。
「なんか、開放感あって気持ち良いじゃん。人類の起源に立ち返った気がしてさ」
こいつは犯罪者の萌芽を持っている。と、感心した。近々ネットニュースにでも露出狂として載りそうである。
この学校の生徒たちは、いたるところで着替えをしたがる。トイレ、廊下、食堂で着替えてる奴もいた。この学校に更衣室の概念がないというのは、この学園内すべてが更衣室になりうるということだ。何とも矛盾した話だが。
いつのまにか先生がやってきていて、俺らのことも何も不思議に思わないように、
「体操やるよー」と声をかけた。
ラジオ体操のはきはきとした号令と、生徒たちの、力が入っていないためにブランブランとした腕。俺はこの時間が少しだけ愛おしい。
一番背の低い奴が整列をかけ、授業が始まった。今日の授業はハンドボールである。
軽いキャッチボールが終わった後、すぐにリーグ戦形式の試合が始まる。
漢は、スポーツに熱くなる。言い換えると、体育の試合がすべての授業で一番荒れる。このように審判をしているとよくわかる。相手からのパスを受け取った細身の彼は、ガチムチ体型の野球部に体を思いきりぶつけられ、強引にボールを奪い去られた。俺は、その場でファールの宣告を出した。
「ちょっとぶつかっただけだろ!ファールじゃないだろ!お前」
そう言われようが、心を鬼にしてファールを貫く。さもなければ、この授業は世紀末と化す。
そして俺たちのチームの出番がやってきた。試合時間は10分でぶっ続け。相手チームは先程のチーム野球部だ。俺たちのチームサッカー&ラグビー部と首位争いを展開していて、この直接対決がリーグの優勝を大きく左右する。
ホイッスルが試合前の静寂と緊張を打ち破り、試合が始まった。試合はシーソーゲームとなり、試合開始から8分が経った時点で、6-6の同点であった。双方ともに得点を入れあう展開だったものの、俺はというと、野球部のディフェンス力の高さときついマークによって、なかなか点を決められず、もどかしい思いをしていた。あと2分、点を入れられてしまったら、逆転をすることは非常に難しい。かといって守りに徹して引き分けに持ち込んでも、最終的には得失点差によってリーグ優勝はできない。あと一点。ゴールが限りなく遠く、小さく見える。
「野中、前線引き上げて、守り、守り入れ!」
思案をしていると、ゴールキーパーの山北から俺にそんな指示を出した。だが、もう遅い。相手と山北は真正面から対峙している。野球部のエースはステップを踏み、羽が生えたかの如く宙高くに跳躍してボールを投げた。もうだめかと思ったその時、山北は電光石火の反射神経を見せ、ゴール左下ギリギリに放られたシュートを足で止めた。そして、
「野中!頼んだぜ!」
そんな山北の声とともに、放物線を描いたロングパスがこちらへ飛んでくる。前線から戻り切れなかったのが功を奏して、前線でフリーになっているところでボールを受け取れた。ドリブル突破で独壇場。しかし、チーム野球部も用意周到。バックに一人守りを配置していた。シュートができる、ゴールキーパーから6mラインの外側ギリギリで、守りと一騎打ちとなった。左足、右足とステップを踏む。このままむやみに飛び上がってもブロックされるだけである。そこで俺は、3歩目の左足で、右へ横っ飛びした。その体勢から放たれる独特な軌道のシュートは、ゴールキーパーの反応を許さずに、ゴールの左隅へ吸い込まれていった。
チームのみんなは集まってきて、俺に抱き着いてきた。
「ゴラッソきたー!」
「ヒーローだぜお前」
そんなことを言われても飄々としていたい俺だが、やはりまんざらでもない。
試合は、7-6で勝利。俺のゴールが決勝点となった。
授業が終わり、頭から水道の水をかぶる。真っ赤になった顔の上から、汗と水道水が混ざった水を滴らせながら、となりの山北が言った。
「野中、野中、MVP野中!」
「いやいや、真のMVPは山北だろ。あのビッグセーブがなかったら6-7で負けてたって」
「野中、後でなんかおごってやるよ」
山北は、そう言ってえくぼを浮かべた。そして太陽は、随分と上の方まで昇っていた。
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