【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生悪役令嬢は乙女ゲームをしたことがない

婚約者ができました

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私はあれから猛特訓をしたのだが、コミュ症が一朝一夕でどうにかなるわけもなく、残念ながら【挨拶は出来ます】レベルから大した進化は見込めなかった。
そんな状態ではありますが、お見合い当日になってしまったのは仕方がないと諦めるほかない。

「パパ……何とかなる気がいたしません!」
「………元気が良くて何よりだ」
「諦めていらっしゃいますか?」
「いや……先方は話し上手だと聞き及んでいる」
「黙っていても問題ない……と?」
「それを大いに期待しよう」

【大いに期待しよう】は期待できないということでは?相手は話し上手ではあるけれど、黙っていてもよいわけではないと……そういうことでしょうか?
いくら政略結婚とはいえ、歩み寄りは大切だと何かの本に書いてあった気がする。
私も頑張らないと、相手に頼りきりではいい関係は築けない。それだけは避けなければならない。
貴族としての自覚は少し芽生えているとはいえ、長年のコミュ症がどうにかなるとは思っていない。
それでも私には前世の頃からの謎の特技がある。

(前世の頃からコミュ症な私だけど、相手の名前や好みを記憶するのだけは得意なのよね)

それを活用できたことは一度もない上に、知られてすらいないだろうけれども……。
こんな所で役に立つとは思わなかった。
ローゼンハイム辺境伯といえば武勇で有名な方だけれど、最も得意とするのは軍略と政策。
さらにいえば子供たちにも見事に遺伝している模様。
だとするならば、公爵位を継いでくれる可能性もあるのではないかと思うのだけれど、そのためには信頼関係を築く必要がある。

(どう頑張っても私から歩み寄る以外に信頼関係を築き上げられる相手であるとは思えないけれど、野心家だった場合乗っ取られる危険性もあるわけだから問題は山積みなんだよね)

「旦那様」
「何だ、ロイ」
「ローゼンハイム辺境伯家の方々がいらっしゃいましたので、応接室にお通しいたしました」
「そうか、分かった」

ローゼンハイム辺境伯家の方々……とか言わなかっただろうか?いや……聞き間違えかもしれない。
今日はお見合いだから、当主が同伴するのは仕方ないとしても他のご家族が来ることなど無いと信じたい。
そう考えながら私は父の後に続いた。

(ご家族揃い踏みすることではないのでは?)

「ようこそ、ローゼンハイム辺境伯」
「大勢で押しかけるような真似をして申し訳ない」
「いや、事前に報せはあったのだから問題は無い。それより、我が娘の相手というのは?」
「それなんだが………ヴォルフラム」
「………………はい」

ローゼンハイム辺境伯の後ろから小さな声が聞こえてきたが、父が仰っていた人物像とかけ離れている気がした。父は【話し上手】と仰っていたが、この声から察するに私と大して変わらないレベルの人見知りではないかと思う。

「どうした…挨拶しなさい、ヴォルフラム」
「………ヴォルフラム・ローゼンハイムです」

何故か隠れながら挨拶をする黒髪の少年に謎の親近感を覚えつつ、私も挨拶を返した。

「ルナリア・ドラグーンでしゅ」

(…………大事な所でまた噛んだ)

相手が緊張しているからって私が冷静になれるわけもなく、当然だけれど私も緊張していた。
勢いで挨拶すると大体の場合……噛むと思う。
私だけではないはずだと信じ込むとしよう。
それにしても可愛らしい男の子だと思うのだけれど、何故ローゼンハイム辺境伯の後ろに顔を隠しているのか疑問でしかない。

「ヴォルフラム、顔をお見せしなさい」

ローゼンハイム辺境伯は優しく穏やかな口調で息子に話しかけ、こちらに向かって謝罪する。

「申し訳ないね、ルナリア嬢」
「い………いえ……大丈夫です」

(今度は噛まずに言い切れました。そして人見知りが激しいのであれば気持ちが痛いほどに分かるので、問題ないです)

「ルナリア嬢は優しいね」
「わ……私も人見知りが激しいものですから」
「………君はヴォルフラムの姿を見ても何も思わないのかな?」
「?」

姿を見るも何も……顔すら拝見できておりません。
ローゼンハイム辺境伯はこちらをジッと見つめながら、私の真意を探っておられるようだけれど、残念ながら何のことかよく分からない。
…………痺れを切らしたローゼンハイム辺境伯が首を傾げる私に言葉を続けた。

「ヴォルフラムは昔は利発な子でね」

(………昔は?)

「顔に傷を負って以来、塞ぎ込んでしまったんだよ」

顔に傷があるから何だというのだろう……とは思った。
顔に傷があるだけで本人に違いはないのだから別に気にするほどでもないと思うのだけれど、この感じだと何かあったな。

「ヴォルフラム、顔を見せてあげなさい」
「……………」

黒髪の少年・ヴォルフラム君は黙ったまま姿を見せてくれたのだけれど………正直に言おう。
控えめに言って素敵すぎる!塞ぎ込む要素がどこにあるのか本気で分からないレベルですけど!?
黒髪に赤い目をした美少年の顔に刀傷のような大きな傷跡が斜めに入っている。………それは反則では?

「カッコいい……」

私は無意識にそんな言葉を口にしてしまい、即座に口を両手で塞いだけれど遅かった。
ローゼンハイム辺境伯は目をキラキラさせておられるし、申し訳ないくらいに存在を忘れていた父も嬉しそうに私の頭を撫でた。
意味が分からないけれど……お見合いが成功したからだと信じたいと思います。
でなければ、色々と恥ずかしすぎて帰りたい。
ここ……私の家ですけれども。

「カッコいい?…………今の僕が?」
「…………………」

私は一瞬にして耳と首まで真っ赤にして下を向いてしまったため、辺境伯一家の視線が柔らかくなったことには欠片も気付くことはなかった。そもそも厳しい目だったことにすら気が付いていなかったのだけれど、この一件が私を家族の一員として認めるきっかけになったらしい。
しかし当事者である私はそれどころではなかった。

「ねぇ……君、僕カッコいいの?」
「…………はい、カッコいいです………傷跡が」
「傷跡………………これ?」
「そうです」
「僕の顔………美しくなくなったらしいよ?」
「誰が言ったんですか!?そんなこと!!」

私は聞き捨てならない言葉を聞いて思わず大きな声で問い質すようなことをしてしまった。
ヴォルフラム君は驚きながらも笑ってくれた。
その笑顔が眩しくて尊くて心臓が止まるかと思った。

「ご………ごめんなさい」
「フフッ」

(えっ……この尊い人と結婚できるの?ホントに?)

「ルナって呼んでもいいかな?」
「は……はいっ……」

(名前を呼んでもらえた!尊い!)

こんなことを考えている間も、私の表情筋は欠片ほどの仕事もしていなかった。要するに無である。
にもかかわらず、ローゼンハイム辺境伯爵一家の皆さんには私の感情が透けて見えていたらしい。
それを知った時の私は恥ずかしすぎて固まったのは言うまでもない。
…………が、今はそれどころではない。

「僕のことはヴォルフと呼んでね?」
「が………頑張りま……す」

私はうかつにも【頑張ります】と言ってしまった。
言ったからには練習する以外に手は残されていないけれど、愛称で呼ぶなどしたことがないので困難を極めることは確かだろう。
こうして私とヴォルフラム・ローゼンハイム辺境伯爵令息との婚約は双方合意の下に成立した。



























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