【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生悪役令嬢は乙女ゲームをしたことがない

公爵家の一人娘でした

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湖に落とされてから私の性格や趣味嗜好は大きく変化したらしく、使用人たちがとても優しい。
ピンク一色だったドレスやワンピース、寝間着などはすべて水色や白に変更していった。
当然のように部屋もピンク系だったのだが、そちらも少しずつ水色や白に変更し、今では寒色系でまとまった私の心が落ち着く部屋になっている。
成長に伴い仕立て直せるので本当に助かった。
ついでに謎のドリルヘアもやめました。
元々ストレートなのに何故巻いていたのか理解に苦しみますが、まあ……お洒落さんだったのだろう。

前世の記憶を思い出して以降、自分でいうのも何だけれど今の私は正直いって天才すぎる。
地頭ところか何故か潜在能力も異常に高い。
外見も両親のおかげで絶対に美人に育つだろうことは確定事項だし、記憶力も運動神経も良いから毎日が楽しすぎて仕方がない。

(読書に乗馬に剣術……最高かよ!)

宝石類や衣服に興味がないのは前世の影響だろう。
全く興味が無いわけではないけれど、自発的には買わないのでお小遣いが貯まる。
これでお茶会のドレスを買っているから、以前より経済的な損失が減ったらしい。
超大金持ちなので気にする程でも無いだろうけれど、領民の血税なのだから大切に使いたい。
それに、我が領地には海や山があるのだから、自然災害に備えておくのは必須事項といえる。
私がそんなことを考えながら図書室で読書をしていると、背後から執事長のロイが私に声を掛けた。

「お嬢様」
「………どうかして?」
「旦那様がお呼びでございます」
「そう、わかったわ。ありがとう、ロイ」
「痛み入ります、お嬢様」

私は過去十年分の我が領地の自然災害に関する資料を片付けて、ロイの後に続いた。
最初の頃は「執事さん」「メイドさん」と呼んでいたのだが、前述の通り私は記憶力がいい。
1ヶ月もしないうちに使用人たちの名前を執事長・メイド長から下女・下男に至るまですべて記憶した。
やれば出来る子なのだが、前世の記憶を思い出す前の私は覚えようとしなかったらしい。

それを聞いた時に思ったことが1つある。
前世での私の子供時代は確かにお転婆だったし、ピンクも嫌いではなかったと聞いている。
けれど、勉強嫌いで運動も嫌いな上、お洒落が大好きで泥まみれになるのが大嫌い………となれば、完全に別人であると言わざるを得ない。
おそらく以前までの私は湖で亡くなり、前世の記憶を持った私が【ルナリア・ドラグーン】として表に出てきたのだとすれば、色々と辻褄が合ってくる。

私とロイは父の書斎の前に立ち、ロイが書斎の扉をノックする。
中から父が書類を片付ける音がして僅か数秒で、父の声が聞こえてきた。

「誰だ」
「ロイでございます」
「…………入れ」
「失礼いたします、旦那様」
「ああ」
「お嬢様をお連れいたしました」
「…………ロイ、それを早く言え」

父はそう言うと私とロイの方に近付いてきて、ロイを押し退け私をソファまでエスコートした。
私の表情筋が仕事をしないのは、父の遺伝ではないかと最近思い始めたところだ。
しかし不思議な話なのだが、前世の記憶を思い出す前の私の表情は豊かであったという。

(私の場合はただのコミュ症なのだけど)

私は父に促されソファに座った。

「有難うございます、おと………パパ」
「ああ、構わない」

パパと呼ばないと返事をしない子供みたいな人なのだけれど、領主としては尊敬しているし、父としても無関心よりは遥かに良い。
ただ使用人の噂話を盗み聞いたところ、父と記憶を失う前の私との距離感はとても遠かったらしい。
表情筋は仕事をしていない父だけれど、領地に関することや天気のことなど、色んな話を聞いてくれるし教えてくれる。
その時間が私はとても好きなのだけれど、以前の私はそうではなかったらしい。
記憶を失う前から父は私を溺愛していたけれど、それが伝わってはいなかったみたい。

(無関心がどういうものか知らなかったのね)

私と父は温かい紅茶を黙々と飲んでいた。
そう……黙々と………。

(私………お茶を飲むために呼ばれたの?)

そんなことを考えていた時だった。
ロイが妙にソワソワし始めて、父に耳打ちした。
何を言っているのかは聞こえないけれど、父もロイに何かを言っている。
父がこちらに向き直り、ロイは父の後ろに控えた。

(何だったの?)

「…………ルナ」
「はい、パパ」
「……………お前の婚約者についてだが………」

ついにこの日が来てしまいました。
貴族の義務と責任というやつなのだろうけれど、前世の私に夫がいた事は勿論のこと、恋人がいたことすらない。…………必要性も感じなかったけれど。
そう考えれば、貴族では当たり前の政略結婚は私に向いているのかも知れない。

「2つの……選択肢がある」
「?」

私は選択肢が2つもあることに驚いた。
大抵の場合、選択肢がないことの方が多いと思っていたのだけれど、公爵家に生まれたことを初めて感謝したかもしれない。
父にも使用人にも不満など何も無いのだけれど、貴族は身分が上になるほど義務や責任が重くなる。
公爵家の義務と責任は非常に重く、それ故に私の胃は常にとても痛い。

「まず1つ目の選択肢は王族の誰かと婚約することだが、これはオススメしない」
「それは何故でしょうか?」
「お前……人見知りが激しいだろう?」
「……………はい」
「王族の婚約者となれば、残念ながら人との関わりが格段に増える」
「…………嫌です」
「そうだろうな」

(そうです。絶対に嫌です)

「2つ目の選択肢はドラグーン公爵家を継ぐこと。これであれば嫁がなくとも良いので………お得だ」

(お得………なのか?)

私は父の顔をジッと見つめた。
お得ではないと思うが言える雰囲気ではないし、そもそも2択であるのならば王族との婚約よりも遥かにお得感がある。
問題は入り婿を必ず取らなければならないという点ではあるけれど、父のことだから何人か候補を用意している可能性は極めて高い。
実家から出る必要が無いのなら、半分引きこもっていても家を乗っ取らない系のお婿さんがいい。

「2つ目でお願いします!」
「……そう言うだろうと思っていた」

(バレていた………少しだけ恥ずかしい)

「婿候補は幾人かいるのだが、記憶を失った後で交流を持った家から選ぶ方が都合がいい」
「今の私を知っているからでしょうか?」
「その通りだ」
「以前の私の印象では宜しくないと?」
「家を乗っ取る男が寄ってくる可能性が高い」
「…………………」

家を乗っ取れそうなレベルの女だと思われていたのは残念に思うけれど、そういうことなら私が会ったことのある人から選ぶのがいいというのにも納得がいく。
そうなると家のためになるのは誰だろうか?

「最も我が家にとって良い婿はどなたですか?」
「ローゼンハイム辺境伯爵家の三男が最適だ」
「では、その方とお見合いをします!」
「……………出来るのか?」
「…………頑張ります」

最大の問題点は【お見合い】である。
絶対に黙る自信しかないが、家のために挨拶は出来るのだということをアピールしよう。
何の解決にもなっていないけれど、重度のコミュ症である私でも良いという優しい人なら何でもいい。

「お見合いの練習をいたします!」
「…………そんなにか」
「はい!」
「………妻に似たのだな」
「お母様?」
「ああ、彼女も人見知りの激しい女神だった」

私はこの瞬間に察した。

(あ……これ、長くなるやつだ)

私は【如何に母が女神であったか】を延々と聞くことになってしまったが、夕食は食べることが出来たので問題は特にない。

この時の私は、自分の選択が極めて正しいものであったことを、後に婚約者となるローゼンハイム辺境伯令息の実家に行くまで知ることはなかった。



























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