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転生悪役令嬢は乙女ゲームをしたことがない
婚約式は胃が痛い
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あれから月日は流れて私は十二歳になった。
婚約者との交流は順調で、ヴォルフ様が優しい方だからヴォルフ様とだけはマトモに話せるようになった。
それでもコミュ症は健在な上に、私の表情筋は全く仕事をしてくれない。
マトモに話せるのは父、我が家の使用人たち、ヴォルフ様………結構増えてきたとは思っている。
けれども、貴族である以上は私にとって最大の壁は常に立ちはだかる……そう、社交界だ。
七年間、婚約者として過ごしてきた結果、私とヴォルフ様の相性がとても良いと判断されて、公的に「私とヴォルフ様は婚約者である」と宣言する日がやって参りました。
ハッキリ言って胃が痛い。すごく痛い。吐きそう。
けれども【公的な場で宣言されていない婚約】は正式には【婚約者候補】として扱われているため、婚約を白紙に戻す時には互いに全く傷が残らない一方で、婚約者であった事実など【存在しない】ことになる。
まあ、白紙に戻すくらいだから、互いにその方がいいと思っている場合が多いのだけれど。
「ルナ……胃が痛むの?」
「ヴォルフ様………吐きそうですわ」
「フフッ、おいで」
私はヴォルフ様の腕の中で大きく深呼吸をした。
何となく大勢の人に対する緊張はほぐれたけれど、今度は今の状況を考えて首まで真っ赤に染まったのは仕方のないことだと思う。
「大丈夫?行けそう?」
「…………頑張りますわ………大切な婚約式ですもの」
「嬉しいよ、ルナ。僕も早くルナは僕の婚約者だって自慢したい」
「…………………っ」
(笑顔が尊い!総てが尊い!有難うございます!)
私は【推し活】していた頃を思い出し、勇気を振り絞ってヴォルフ様の手を取り共に前に進み出た。
ヴォルフ様と私が到着したのを確認した父は、決して大きくはないけれど人の心に響くような低音ボイスで会場に向かって口を開いた。
「……本日の主役たちを紹介します」
その言葉が会場全体に響き、会場にいる貴族たちが此方を向いた瞬間………頭が真っ白になりました。
「我が最愛の娘ルナリアとローゼンハイム辺境伯爵家三男ヴォルフラム君です」
私の異変に気が付いた父とヴォルフ様は目配せをし、私をヴォルフ様がエスコートしている雰囲気を醸し出しつつ、頭が真っ白な私を連れて前に出た。
「初めまして、みなさん。ご紹介に預かりました、ローゼンハイム辺境伯爵家三男ヴォルフラムと……」
「ドラグーン公爵家嫡女ルナリアですわ」
「「よろしくお願いいたします」」
私はヴォルフ様のお陰で恥を晒さずに済みました。
…………が、一気に囲まれてしまい、もう……無理。
万年完全休業中の表情筋と、緊張で話せなくなることが相まって、ヴォルフ様と親しくなろうとする方が圧倒的に多かった。
…………非常に有り難い。
稀に変な人達が私に謎のアドバイスをしようとするけれど、ヴォルフ様の好みに合えば、他の殿方に愛されなくても……何なら滅法嫌われても別にいい。
「ドラグーン公爵令嬢様、女は愛嬌ですぞ」
「…………愛嬌で民は守れませんわ」
【愛嬌】とは思わず話しかけたくなるような親しみのある物腰のこと………貴族の当主にそれは必要ない。
商人の妻になるのなら必要な要素の一つだけれど、貴族の妻にも必要とはされない要素ね。
【思わず話しかけたくなる】のでは困るのよ。
親しみがあるのは良いけれど、適度な距離感を保たなければ不貞を疑われても文句を言えない。
それ以前にコミュ症に【愛嬌】を求められても困る。
「男よりも優秀な女は厭われますのでご注意を」
「……私が下がらなければ優秀でない男は不要よ」
【公爵家の婿】が無能では困るもの。
私は自他ともに認めるコミュ症なのよ?
むしろ私よりも優秀有能で【次期当主】に相応しい方でなければ困るでしょう?…………私が。
いや……本気で切実にヴォルフ様に継いで欲しいです。
「女が乗馬や剣術を学ぶ必要などございません」
「…………賊に襲われることもございますでしょう」
「そういう時こそ!男に頼るのです!」
「……間に合うとは限らなくてよ?」
「それでも待つべきです!」
「私に死ねと仰るのね」
「えっ…………」
女にこそ賊に襲われた時に逃げる手段が、戦う手段が必要だと思うのだけれど、ポカンとした顔をしている。何故でしょう?
尤も………私は好きだからやっているのだけれど。
「ルナ」
「………ヴォルフ様」
「大丈夫かい?」
「ええ……不思議なことを仰る方が三人……此方に」
「………不思議なこと?」
「一人目は次期公爵である私に【女は愛嬌】と仰るのよ。不思議な方でしょう?」
「フフッ、そうだね。ルナ」
ヴォルフ様が楽しそうに私の手を握ってくれた。
私は指を立てながら言葉を続けた。
「二人目は【優秀な女は厭われる】だったかしら?ヴォルフ様はその程度では厭わないから、どうでもよろしいのですけれど……不思議な方よね」
「……そう、僕はルナを愛しているから問題ないよ」
ヴォルフ様が愛してくださるなら何でもいい。
正直……それ以外の男性に近寄られても困るもの。
異性に厭われるのならそれで結構。
厭われて大いに困るのは同性にだけ。
「最後の方は最も不思議なことを仰ったわね」
「………何かな?」
「確か【女に乗馬や剣術は不要】だったかしら?私がそれでは身を守れないと言えば、男に任せろと仰るのよ。ね?不思議な話ではございませんこと?」
「……………そうだね、不思議だね」
そうよ、だって貴族の女は貞操が命なのよ?
【賊に襲われた】だけでも大問題なのに、男が来るまで待っていたら【貞操の危機】……つまりは【死】以外に選択肢はなくなってしまう。貴族でなくても女にとっては死活問題なのよ。
この一連の会話を聞いていた貴族令嬢からは尊敬の眼差しを、貴族令息からは畏怖の念を向けられていることに……私は全く気が付かなかったけれど、ヴォルフ様は気が付いておられたみたい。
尊敬も畏怖もヴォルフ様に向けられたものだということは分かっているわ。流石はヴォルフ様よね。
これにより、乗馬や剣術を淑女教育として教える貴族家が増加した………のだが、私はそれが当たり前のものであると信じて疑うことはなかった……永遠に。
婚約者との交流は順調で、ヴォルフ様が優しい方だからヴォルフ様とだけはマトモに話せるようになった。
それでもコミュ症は健在な上に、私の表情筋は全く仕事をしてくれない。
マトモに話せるのは父、我が家の使用人たち、ヴォルフ様………結構増えてきたとは思っている。
けれども、貴族である以上は私にとって最大の壁は常に立ちはだかる……そう、社交界だ。
七年間、婚約者として過ごしてきた結果、私とヴォルフ様の相性がとても良いと判断されて、公的に「私とヴォルフ様は婚約者である」と宣言する日がやって参りました。
ハッキリ言って胃が痛い。すごく痛い。吐きそう。
けれども【公的な場で宣言されていない婚約】は正式には【婚約者候補】として扱われているため、婚約を白紙に戻す時には互いに全く傷が残らない一方で、婚約者であった事実など【存在しない】ことになる。
まあ、白紙に戻すくらいだから、互いにその方がいいと思っている場合が多いのだけれど。
「ルナ……胃が痛むの?」
「ヴォルフ様………吐きそうですわ」
「フフッ、おいで」
私はヴォルフ様の腕の中で大きく深呼吸をした。
何となく大勢の人に対する緊張はほぐれたけれど、今度は今の状況を考えて首まで真っ赤に染まったのは仕方のないことだと思う。
「大丈夫?行けそう?」
「…………頑張りますわ………大切な婚約式ですもの」
「嬉しいよ、ルナ。僕も早くルナは僕の婚約者だって自慢したい」
「…………………っ」
(笑顔が尊い!総てが尊い!有難うございます!)
私は【推し活】していた頃を思い出し、勇気を振り絞ってヴォルフ様の手を取り共に前に進み出た。
ヴォルフ様と私が到着したのを確認した父は、決して大きくはないけれど人の心に響くような低音ボイスで会場に向かって口を開いた。
「……本日の主役たちを紹介します」
その言葉が会場全体に響き、会場にいる貴族たちが此方を向いた瞬間………頭が真っ白になりました。
「我が最愛の娘ルナリアとローゼンハイム辺境伯爵家三男ヴォルフラム君です」
私の異変に気が付いた父とヴォルフ様は目配せをし、私をヴォルフ様がエスコートしている雰囲気を醸し出しつつ、頭が真っ白な私を連れて前に出た。
「初めまして、みなさん。ご紹介に預かりました、ローゼンハイム辺境伯爵家三男ヴォルフラムと……」
「ドラグーン公爵家嫡女ルナリアですわ」
「「よろしくお願いいたします」」
私はヴォルフ様のお陰で恥を晒さずに済みました。
…………が、一気に囲まれてしまい、もう……無理。
万年完全休業中の表情筋と、緊張で話せなくなることが相まって、ヴォルフ様と親しくなろうとする方が圧倒的に多かった。
…………非常に有り難い。
稀に変な人達が私に謎のアドバイスをしようとするけれど、ヴォルフ様の好みに合えば、他の殿方に愛されなくても……何なら滅法嫌われても別にいい。
「ドラグーン公爵令嬢様、女は愛嬌ですぞ」
「…………愛嬌で民は守れませんわ」
【愛嬌】とは思わず話しかけたくなるような親しみのある物腰のこと………貴族の当主にそれは必要ない。
商人の妻になるのなら必要な要素の一つだけれど、貴族の妻にも必要とはされない要素ね。
【思わず話しかけたくなる】のでは困るのよ。
親しみがあるのは良いけれど、適度な距離感を保たなければ不貞を疑われても文句を言えない。
それ以前にコミュ症に【愛嬌】を求められても困る。
「男よりも優秀な女は厭われますのでご注意を」
「……私が下がらなければ優秀でない男は不要よ」
【公爵家の婿】が無能では困るもの。
私は自他ともに認めるコミュ症なのよ?
むしろ私よりも優秀有能で【次期当主】に相応しい方でなければ困るでしょう?…………私が。
いや……本気で切実にヴォルフ様に継いで欲しいです。
「女が乗馬や剣術を学ぶ必要などございません」
「…………賊に襲われることもございますでしょう」
「そういう時こそ!男に頼るのです!」
「……間に合うとは限らなくてよ?」
「それでも待つべきです!」
「私に死ねと仰るのね」
「えっ…………」
女にこそ賊に襲われた時に逃げる手段が、戦う手段が必要だと思うのだけれど、ポカンとした顔をしている。何故でしょう?
尤も………私は好きだからやっているのだけれど。
「ルナ」
「………ヴォルフ様」
「大丈夫かい?」
「ええ……不思議なことを仰る方が三人……此方に」
「………不思議なこと?」
「一人目は次期公爵である私に【女は愛嬌】と仰るのよ。不思議な方でしょう?」
「フフッ、そうだね。ルナ」
ヴォルフ様が楽しそうに私の手を握ってくれた。
私は指を立てながら言葉を続けた。
「二人目は【優秀な女は厭われる】だったかしら?ヴォルフ様はその程度では厭わないから、どうでもよろしいのですけれど……不思議な方よね」
「……そう、僕はルナを愛しているから問題ないよ」
ヴォルフ様が愛してくださるなら何でもいい。
正直……それ以外の男性に近寄られても困るもの。
異性に厭われるのならそれで結構。
厭われて大いに困るのは同性にだけ。
「最後の方は最も不思議なことを仰ったわね」
「………何かな?」
「確か【女に乗馬や剣術は不要】だったかしら?私がそれでは身を守れないと言えば、男に任せろと仰るのよ。ね?不思議な話ではございませんこと?」
「……………そうだね、不思議だね」
そうよ、だって貴族の女は貞操が命なのよ?
【賊に襲われた】だけでも大問題なのに、男が来るまで待っていたら【貞操の危機】……つまりは【死】以外に選択肢はなくなってしまう。貴族でなくても女にとっては死活問題なのよ。
この一連の会話を聞いていた貴族令嬢からは尊敬の眼差しを、貴族令息からは畏怖の念を向けられていることに……私は全く気が付かなかったけれど、ヴォルフ様は気が付いておられたみたい。
尊敬も畏怖もヴォルフ様に向けられたものだということは分かっているわ。流石はヴォルフ様よね。
これにより、乗馬や剣術を淑女教育として教える貴族家が増加した………のだが、私はそれが当たり前のものであると信じて疑うことはなかった……永遠に。
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