【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生悪役令嬢は乙女ゲームをしたことがない

悪夢の始まりと終わり②

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私は馬車に揺られながら前の席に座っているヴォルフ様に悪夢の話をした。出来るだけ細かく話すのだけれど、人の記憶は曖昧なもので総てを話すことは出来なかった。それでも重要な点は伝わったようで、ヴォルフ様は金髪に紅い目をした女の子について心当たりがあるらしく、女の子の発言を随分と気にしておられた。

「ルナ、その女の子は【貴女に王太子殿下は渡さない】と云ったんだね?【貴女を許さない】とかではなく?」
「ええ………確かに云ったわ。王太子殿下は渡さない…と」
「だとすると、女の子の狙いは【ルナ本人】ではなく【王太子殿下に近しい者】或いは【王太子殿下の婚約者に最も近い者】とするのが妥当だろうね」
「もう………落とされない………と思ってもいいのかしら?」
「ルナは【僕の婚約者】だからね。落とした所で【王太子殿下の婚約者になれる】わけではないよ」
「………よかった、私が王太子殿下の婚約者になる未来は訪れませんもの。安心ですわね」
「そうだね」

私はヴォルフ様に仮に夢に出てきた女の子を思い出しても、犯人として責め立てないと誓った。ヴォルフ様は驚いておられたけれど、考えてみれば湖に落とされる前、私は王太子殿下の婚約者筆頭候補だった。前世の記憶を思い出した結果、コミュ症の私になっているけれど、それ以前の私は婚約者になる可能性が極めて高かったのではないかと推測できる。
王太子殿下の婚約者になってしまった後で前世を思い出すよりも、方法は極めて雑だけれど、婚約者候補筆頭ではあったものの、紙面上は婚約者ですらない段階で思い出せたのは僥倖といえる。

私とヴォルフ様は悪夢の話はそれくらいにして、街に行った後の話に花を咲かせた。前世では推しの色で全身コーデしていたので、婚約者の色で着飾ることに欠片ほどの抵抗もない。寧ろ心強くさえ感じている。黒と赤を好んで身に纏うのはそれが理由だ。
馬車が停止し御者が徐ろに扉を開く。

「ルナ、お手をどうぞ」
「ありがとうございます、ヴォルフ様」
「先ず一つ目のお店だよ」
「………宝石店?」
「ルナは装飾に興味がないからね。僕が選んだ品を身に着けていれば問題は起こらないと思ったんだ」
「お心遣い感謝いたしますわ、ヴォルフ様」
「フフッ、喜んでもらえて嬉しいよ」
「ええ。助かりますわ………とても」
「そんなに困っていたの?」
「審美眼は鍛えておりますけれど、お茶会では装飾品も見られておりまして……変に目立ちましたわ」

小ぶりで上質なサファイアを選んだのだけれど、お洒落さんが飛びついてきた。アレは怖かったです。何故あれほど興味を持たれたのかも理解に苦しみますし、何となくで着けていた分……彼女の熱量に対して申し訳なくなりました。
帰宅して父にその話をしたら爆笑されまして、あれが一点物だと知らなかったものですから、赤面したのは当然だと思います。
そんなわけで、我が家の宝石類は気軽に装着すると大変なことになるのです。主にコミュ症にとっての大事件ですが。

「いらっしゃいませ、ローゼンハイム辺境伯爵令息様」
「……頼んでいた品は完成しているかな?」
「出来てございます」
「ルナ、出来てるって!一緒に見よう!」
「え………ええ。勿論ですわ」

私はヴォルフ様の手を取り、ヴォルフ様が頼んでくださっていた品に目を向ける。小ぶりだけれど純度の高い上質なルビーのネックレスで、ヴォルフ様の瞳の色のようで……とても美しい。

「綺麗………」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
「……………ヴォルフ様の瞳の色」

私は無意識に思っていたことを口にしていた。ヴォルフ様は少し驚き、嬉しそうに店員さんに云った。

「直ぐに着けて帰りたいのだけれど」
「勿論でございます!」
「ありがとう」

(店員さん、テンション高いな…………いくらするの?)

「ルナ………着けてもいい?」
「ええ、お願い致しますわ」
「……………………」

ヴォルフ様は私の首にネックレスを掛けた。

「似合う………かしら?」
「凄く似合ってるよ。可愛い………ルナ」
「あ………ありがとうございますわ」
「フフッ……出来れば毎日……着けて欲しいなぁ」
「わ……分かりましたわ」
「ありがとう、ルナ」
「………………………」

小ぶりだから邪魔にならないし、ヴォルフ様の瞳の色だから眺めて勇気をもらうのもいいかも知れない。お茶会には必ず…このネックレスを着けていこう。ヴォルフ様に守られているようで安心する。

それからも私とヴォルフ様は店を何軒か梯子して、気が付けば私の一式コーデが完成した。とても有り難いことです。これも普段着やお茶会に使わせて頂きます。

楽しい時間が過ぎていき、気が付けば夕方になっていた。
ヴォルフ様は私を家まで送り届け家路を急いだ。
空は暗くなってきていて無事に到着するか不安になってしまったけれど、それは三日後に手紙が送られてきたことで杞憂に終わった。



送り届けてくれたその日に見た悪夢で私を湖に突き落とした犯人を知った。その人物が誰であるかを知ったとき、ヴォルフ様と彼女の会話の意味を知る。正直に言って彼女に対する恐怖心と同時に、ヴォルフ様に対する安心感が増幅したのは言うまでもない。
    
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