【完結】前提が間違っています

蛇姫

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転生悪役令嬢は乙女ゲームをしたことがない

謎は解けない

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あの手紙を生徒会長(殿下)にお渡ししてから、暫くの間は中央棟の掲示板を確認していたのだけれど、例の少し恥ずかしい手紙が張り出されている様子はない。その事に安堵しながらも、あの手紙の影響で多くの「ルイ」という名前や愛称を持つ男子生徒が呼び出しを受けることになった。………本当に申し訳ないです。

私が食堂で昼食を摂っていると、何時もの様にピンク頭が不敬極まりない態度と言葉遣いで私に叫んだ。

「アンタが私を虐めないとシナリオが進まないでしょう!?悪役令嬢なんだから私をちゃんと虐めてよね!分かった!?」

それだけを叫ぶと、ピンク頭は踵を返し去っていった。

(何あれ?)

何度も…言ってはいないけれど、私は貴女の言う【乙女ゲーム】を知らないのよね。まあ、手紙の事を言われてしまえば、私が殿下にお渡ししたのが問題なのだから、責められたとしても文句は言えない所だけれど、虐めない事に文句を言われたのは前世を含めて初めてです。攻略対象者が誰なのかを推測することは出来るけれど、シナリオは全く分かりません。
貴女の行動や言葉から推測しようと試みた事はあるのだけれど、どうしても理解できない箇所が一点。
………公爵令嬢よね?何故……自分で虐める必要があるの?

(ごめん、本当に分からない)

そもそも、殿下を狙っているのなら相手が違うのだけれど、更に面倒事が増えそうなので教える必要性を感じない。
これは罪になるのだろうか……まあ、未必の故意にはなるか。
私が黙っていることで、彼女は【無実の公爵令嬢を理不尽に責め立てる子爵令嬢】として認識される。
前世で読んだ狼少年の逸話を思い出す。連日「狼が出たぞ!」と叫んでは村人を驚かせて楽しんでいた少年が、本当に狼に遭遇したとき、誰も少年の言葉を信じてくれなくなっていた。
そして最後には少年が狼に喰い殺されて終わる何とも現実味のある逸話だったと記憶している。
ピンク頭がそうならないことを願っています。私は、本当に何もしませんが、私以外が貴女に何かするのを諌めることも致しません。

「あらあら、困ったこと」

そんな考えを巡らせていたとき、背後から優しく穏やかだが、背筋の凍る……妃殿下の声が耳に入った。

「ルナ、分かっているとは思うのだけれど、彼女の趣味嗜好に付き合って差し上げる必要など無くってよ」
「勿論ですわ、私にその様な趣味はございませんもの」
「フフッ、そうよね?……彼女は相手を間違えているのよ」
「???」

(えっ………アレの相手をしてくれる奇特な人がいるの?)

そうなんだ……アレの相手をしたいと思うような奇特な人がいるんだ。そういうことなら……その人にお任せしよう。
幾ら【乙女ゲーム】が好きだからって、自分で教科書を破いたり、自分で噴水に入ってみたり……よく考えたら有り得ないよね。
そういう……虐められたい系の趣味嗜好を持った人だったんだね!
もしかして【乙女ゲームの悪役令嬢】推しだったのかな?
ごめんね、私がキャラ変させてしまっていたから…それで怒ってたんだね。知らなかった事とはいえ、貴女の推しのイメージを破壊した事は申し訳なく思います。

「妃殿下、私……彼女のことを誤解しておりましたわ」
「………誤解?」
「ええ、虐められたい方は一定数おられると聞きますもの」
「…………そうね」
「彼女の趣味に付き合って差し上げられないけれど、彼女の趣味に寄り添える方がおられるのなら……安心ですわね」
「フフッ……ヴォルフが貴女を溺愛するのも無理ないわね」
「???」
「気になさらないで?………此方の話よ」

妃殿下が何時も以上に慈愛に満ちた瞳で私を見ておられる。
何故かは分からないけれど、妃殿下の事も誤解していたみたい。
多分【乙女ゲーム】に教科書を破るとか、噴水に落とすとか……そんな貴族なら子供でもしない様な面倒な事を、公爵令嬢がする描写はないのかも知れない。
……無いものに付き合わせようとしたのか……あのピンク頭は。

別に私が虐めなかったからといって、シナリオが進まないとか……大袈裟すぎるとは思っていたんだよね。
虐められないと始まらない恋なら、最初から無いのと同じでしょ?
まあ…貴女の趣味に寄り添ってくれる方と幸せになってください。
私が思っていた以上に、妃殿下は丸くなっておられた様だから。

「ルナ……彼女のこと、私に任せてくれるわよね?」
「勿論ですわ、その様な趣味がお有りだったとは……気が付いて差し上げられませんでしたわ」
「ええ、私も気が付いたのは最近ですもの。仕方ないですわ」

良かった、これで私に「虐めろ」と言わずに済みますね。
それにしても……本当はどういう経緯で愛が深まる予定だったのかな?それだけは凄く気になるけれど、この世界はゲームの世界ではないから……まあ、いいか。
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