状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!―加筆修正版―

三〇八

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状況の人、異世界へ転移する

状況の人、西へ4

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 ブヒヒヒーン!
 ところが馬の方は茫然とはならなかった。
 今まで聞いたことのない突然かつ大音量の破裂音。冷静でいろというのが無理な相談であろう。
 目に見えない恐怖に対し、前足を跳ね上げ後ろ脚で蹴り上げたりでの大暴れ。
「ちょっと! 静まって! 大人しくして!」
 我に返ったセレナが手綱を引くが全く効果が無い。未知の恐怖に、直ちにここから逃れたいだけの思考に支配されている。
「やれやれ」
 カレンはボアの全滅を察知すると今度は馬の前に進み、
「静まれ!」
と一喝。大きく目を見開き馬たちを睨みつけた。
 ブォン!
 御者台のセレナは何かそういう形容しがたい音を聞いたような気がした。
 馬はもちろん、自分自身の身体も一緒に硬直する思い、そんな感じだった。
 やがて静まった馬に、にっこり微笑みかけ、
「よーしよし。我が付いておるからな、心配は無用ぞ?」
そう言いながら馬の頬をなでるカレン。
 触れられた最初こそビクッと体を震わせた馬たちであったが、撫でられる内にだんだんと冷静さを取り戻していった。
 ――一睨みかよ……ドラゴンのオーラか覇気でも喰らわせたのかな? 
 カレンのキャパを改めて目の当たりにし、肩を竦める龍海であった。
「シノノメ卿! 今のは一体……」
 ロイも龍海たちの所へ出張ってきた。お目付けであるならば龍海らの実力も観察しておきたいところであろう。
「ああ、これか? これが俺たちの得物でな」
「錫杖? やはり爆裂魔法の類でしょうか? それにしてもこれほどの威力、リキャストタイムも短いし、あっという間に4頭も仕留めるなど……聞きしに勝るお力ですね!」
 ――リキャストタイム? 確か、放った魔法が次に放てるまでの準備時間だったかな?
「高位魔導士の無詠唱で魔法を放つところは何度か見た事が有りますが、これほど短時間に連続で放つのは初めて見ました! いったいどうすればこんなに早く!?」
 ロイくん些か興奮気味。
「今の技は、言ってしまえばこの錫杖に爆裂魔法を閉じ込めているような物なんだ。これさえあれば君にも同じ攻撃ができるぞ?」
「ま、まさか! お恥ずかしい話ですが、自分は剣技については多少の自信はありますが魔法の方は……」
「ならやってみな」
 龍海は副兵装サイドアームに持っていた拳銃グロック17を抜き出した。
「え! 自分がですか!?」
「やってみろ、盗賊戦でこれが使えればこのボアの様に仕留める事が出来るぞ」
 一旦、銃から弾倉を抜き、二度ほど遊底を引いて、薬室が空なのを確認してロイに渡す。
 すでに撃針は起こされているので引鉄を引けば空撃ちが可能だ。
 銃を握らせて龍海も手を添える。ロイくん、頬がほんのり薄紅色。
「詠唱も呪文も要らん。この引鉄を引くだけでいい」
 添えた指に力を入れる。
 撃針が前進し、カチッと乾いた音が響く。
「このタイミングで弾が出る。次は実射だ」
 龍海はロイを連れてボアの死体に近づいた。
 歩きがてら弾倉の脱着もレクチャーし遊底を引いて初弾を装填、ボアの死体に銃口を向ける。
 続いて龍海はカレンに馬の耳を塞ぐように言うと、ロイに射撃を指示。
「あまり力まなくていい。静かに引鉄を引け」
「は、はい……」
 緊張しつつ、ロイは恐る恐る引鉄を引いた。
 バン!
「うわ!」
 さっきの64や散弾銃よりかは軽めであるものの、やはり大きな発砲音と共に、9mm弾に見られる重くはないが鋭く素早い反動がロイの右腕を襲う。
「見てみな」
 龍海に促され、ロイは標的のボアを見た。
 ロイの放った9mm弾は前足の付け根辺りに命中した。
 皮膚が弾け、剥きだされた赤い肉が照明に照らし出される。
「これ、自分が?」
「そうだ、続けてやってみろ」
「は、はい!」
 バン! バン! バン!
 ロイは続けて撃った。
 放たれた銃弾がボアの身体を抉り続け、一発放つごとに自分がまとに打撃を与えているという実感が湧いて来る。
その間、龍海はレクチャーを続け17発を撃つ間に狙い方や保持の仕方を教えた。
 撃ち終わり、遊底が開いたままで止まったG17から空弾倉を抜き、次の弾倉の装着、スライドストップを押し込んでの装填まで教える。
「上出来だ。じゃあ、それはそのまま君が持っていろ」
「自分がこれを?」
「屋内では君の長剣は不利だ。その時は、拳銃それでやってみろ」
「屋内……ですか?」
 ロイは、またキョトンとした目を向けてきた。


「見つけたよ! 森の奥、沢沿いに開けた平地が有る! そこに5~6つくらいの天幕が張られてる! 街道から沢を昇って700m辺りに!」ザ!
「了解。ご苦労様、気を付けて戻って来て」
 午前三時。
 ソーロ山の麓に辿り着いた一行は、30~40人規模の大所帯で潜伏できる場所は街道には出やすいが簡単には目視されない場所、更に水の確保と言う点から川や泉の近くではないかと推測し、マミイに暗視眼鏡を渡して上空からの索敵・偵察を行ってもらった。
 予測はビンゴで、盗賊団は街道の下を通る形で流れる沢の上流にアジトを展開していた。
 鷹系の有翼人であるマミイの視力は凄まじいものがあったが、流石に夜間となると勝手が違う。
 しかし暗視眼鏡との組み合わせで盗賊の誰がどう動いているかをも掌握でき、作戦の立案には大いに役に立ってくれた。
 彼女からの情報をもとに、設置された天幕や簡易な小屋の配置を地図に記しながら、どのように潜入するか? 龍海は思案を巡らせた。
「この時間に沢近くに数が集まって来ているとなると盗賊ども、一昨日に続いて朝駆けする準備とも取れますね?」
「この辺りは野営をする者も多い場所柄なもんで、盗賊としては狙い目なんだよな」
「みんな避けないの?」
「もちろん野営地はその都度変えたりはするけれど、連中も頻繁にアジトを変えるからガチ合うかどうかは言ってしまえば運次第でね」
「カレン。連中の斥候か何か感じるか?」
 街道の沢の手前1km辺りで一旦進行を止めた龍海らは、状況の分析・予測を試みる。
「いや、沢と街道が交差する点から、こちら側までには我らを窺うものは感じられんな。アジトの連中が動き始めているなら、目標は沢より向こう側、我らとは反対方向と見て良かろう」
「連中は沢を下って街道に出て目標に侵攻……そんな感じで想定していいかな?」
「アジトから街道まで、馬が通れそうなルートは無さそうだから沢を下ってくると思うよ」
「セレナさん、それを迂回する道はあるのかな?」
「高低差はあまり無いし、森の中を突っ切るのはそれほど難しくないんじゃないかな? でも距離があるな。ここからだと1km半くらいは走ることになるよ?」
「タツミは問題なかろうが、ヨウコには負担かの?」
「ご心配なく。カレンに鍛えてもらった身体強化魔法も有るし、その辺は大丈夫よ」
「自分も山岳訓練は経験しております! 足手纏いにはなりません!」
 士気が高いのはまことに結構ではあるが、先走ってもらうと本来の目的から遠ざかってしまいかねない。
 例え予想通り、半数が離れたとしても多勢に無勢は変わりない。
 こちらの優位は火器による火力とそれによる長大な戦闘距離だ。
 それを活かさず火力頼りでやみくもに突撃、なんて作戦が良い結果を生むとは思えない。地球では旧式化したと言っても、間合いに入ったら剣や戦斧、弓矢の殺傷能力を侮ってはいけない。
 人質がどこにいるのか分からない現状では、連中をおびき出しての各個撃破や、遠距離からの狙撃が望ましい。
 だが、この状況ではこちらの位置を悟られない距離で森の中から狙撃なんて言うのは無理。
 また、人質の位置がわかれば救助フェーズから連中の目を逸らさねばならない。
 そうなると、出来る限りの耳目を一点に誘導する必要が出てくる。と、なれば敵との距離を詰めざるを得なくなり、間合いの長さと言う優位性を捨てることになるが……
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