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状況の人、最終決戦へ
状況の人、決戦へ3
しおりを挟むそれを受けて王国側は、ティアーク領兵はもちろん、更に西のオデ市を抱えるティーマ公爵領からも兵員が送られ始めていた。布告が行われると同時に国交は断絶され、国境は閉鎖。現在は国境監視所を起点に多重防衛線や、それに伴うバリケードの構築が行われている。
「布告を受けて、或いは弁明のための再会談を申し込んでくるかと思ったが……真っ向から受けおったな」
「それ以前から皇国、加えて我が国と交戦となるのは想定していたのでしょう。皇国の布告から即座に国境防備の強化が始まりましたからね」
前回の視察では警備中隊隊長のリールが付き添っていたが、今回は帝都からの出兵命令もあり、フォステック辺境伯軍司令官のベリンジャー子爵が同行している。
「結局のところ、敵の兵力はどれほどと見積もられる?」
「東方軍が約7千、オデからの出兵が少なくとも6千。これに魔導国のシーエス軍6千が加わったとしても2万に満たない。徴兵基準を緩和して更にかき集めてもプラス2千いくかどうか、と見ております」
「ポータリアのシーエス反乱工作は失敗に終わったからな。おかげでほとんど無傷のシーエス軍の増援を許してしまった。全く、何が『帝国のお手を煩わせる事は有りませんよ』だ」
「本来はシーエスの反乱によって魔導国の混乱と弱体化を画策し、アデリアがそこを突いて侵攻。互いに疲弊したところを狙うという目論見だったのですが……」
「不確定だったアデリアによる勇者召喚。よもや魔王との決闘と言う形でシーエス軍を鎮圧してしまうとは全く予想外だった」
「しかも蜂起軍も制圧軍にもほぼ損耗無しでございましたからな」
「召喚勇者の暗躍で魔導国・アデリア王国共同で蜂起軍を押える形を作り出し、両国を同盟関係に誘導してしまいおった。おかげでこちらとしては遠慮なく、堂々と宣戦布告することは出来たが、シーエスの損耗ゼロは全く……当てが外れたどころではない」
「ポータリアも何を目論んでいるのやら、甚だ怪しいところもございますし。魔導国きっての精鋭をこちらにぶつけさせ、その間に一気に南部へ侵攻して港を奪取するやもしれませんな」
「もっとも中部のモノーポリも武闘派で知られておる。そうそう簡単には落ちまい。我らとしても東部の穀倉地帯、そしてそれを出荷する港は是が非でも手に入れねばな。そこは早いもの勝ちであろうぞ」
「とにかく、こちらも早く布陣を完了させねばなりますまい」
「本隊が到着すればこちらの勢力は、連合軍のほぼ倍の4万強。楽勝……とはいかんが、前線の兵の損耗を最小限に後続と交代、を繰り返せば敵兵力を着実に削ることが出来そうだな」
「本隊は第一軍が編成を終えて既にこちらへ前進中です。あと5~6日程あれば到着するでしょう。その後、第二軍が」
「到着後に休養と布陣。侵攻作戦発動まではあと10日ほどか……戦端を開くのはポータリアが先だな」
「あと、懸念があるとすれば……」
「召喚勇者が、どちらの戦線に向かうか――だな」
「こちらに来るでしょうか?」
「順当に考えれば、兵力の多いポータリア戦線と考えられるがな」
「あのシーエスを一騎打ちで仕留めたという情報から考えるならば……」
「火竜を撃退したという噂も、あながち与太話とも言い難いな。とは言え、英傑だ闘将だと言ってもシーエスとて人間よりかは数段強い魔族、というだけだ。そいつを人間の身で倒しただけでも脅威ではあるが、古代龍とは比べ物にはならん」
「なんにせよ、百人力の超人ではあるでしょうけど、一人でポータリア4万5千人の兵を屠れるなんて事は無いでしょう。まあ、こちらの準備が整うまでポータリアを押さえておいてくれれば、こちらとしては悪い情報ばかりではありませんしね」
「アデリア制圧後は港をめぐってポータリアと交える事になる、そんな想定も排除する訳にはいかん。出来得る限り損耗の少ない戦法で行きたいが、そうゆっくりもしておられんでな」
「その間、勇者がポータリア相手に踏ん張ってくれれば、こちらの進軍速度も稼げそうですが」
「ふ。脅威であるはずの異世界人に、そんな期待をしてしまうとは、お互い焼きが回ったかな?」
「確かに失言でしたな」
フハハハハ……二人は力なく笑いあった。
「ところで……」
ふっと笑いを止めてベリンジャーがベイムに問う。
「今度の戦は殲滅戦に?」
「戦略会議の意向では魔族はそうなろう。アデリア国民の中には農奴や鉱山奴隷に徴用も有り得るがな。基本、略奪・凌辱は無制限とするそうだ」
「やりたい放題……と、けしかけて宜しいのですね?」
「ああ、兵の士気も盛り上がるだろう」
龍海や洋子らの感覚でいけば、抵抗するならば兵も民間人も虐殺し、住宅に押し入り金品を強奪、婦女子を強姦――そんな暴虐が勝者の特権とばかりに横行するさまは唾棄すべき状況であろう。
だがこの世界、この時代はそれが当たり前の世情なのである。一般徴用兵は戦争に参加しても給金が無いのは当然で、征服したところから搾取して、それを稼ぎとするのが常識なのだ。
♦
アデリア王国とポータリア皇国の国境線に広がるダイブ平原。その、ほぼ中央に街道が通りそれぞれの国側に入国の検閲所が設けられている。また、平原の幅、約500mに渡って城壁が築かれており、その間1kmほどは緩衝地帯になっている。城壁と言っても城塞都市のようなご立派なモノでは無く、高さ2m~2.5m程度の石壁であるが。
アデリアの、精々詰所と簡易な柵を街道周辺に立てただけのアープ・ポリシック国境に比べると比較的仰々しく見えるが、これは先の戦役時に魔導国軍がアデリアを突破した際を想定したポータリア防衛線の名残である。本来はもっと頑強にする構想であったが、北部でのアデリア・魔導国の戦闘は比較的小規模であったため、工事は途中で中断されたのであった。
城壁には100m間隔で門があり、突撃となればそこから兵がなだれ打っていくわけだがアデリア側は防戦中心のため外には出ない。
翻ってポータリアは、そこを突破しなければならないので歩兵や弓兵はもちろん、大型弩弓や投石器などの攻城兵器も用意され、既に城壁前に並べられ始めている。相手城壁・城門はもちろん、城壁から少し離れたところに立てられている物見櫓や砦のような建物を撃破するための重兵器群である。
他、敵歩兵らへの火炎弾攻撃にも使われ、迎撃を阻む用途にも使われるが、
「アデリアは完全に迎撃・防御に特化してますね。打って出る気は無いと考えて良いでしょう」
と、ポータリア皇国侵攻軍主席参謀のリー・セロテック准将が、今回はそう言う運用はされないであろう事を、後方高台から平原全景を眺める軍司令官オーエン・グランドル中将に説明した。
「城壁の奥にもう一列内壁、二次防衛線を構築しておるようだな。壁盾を並べておるのか?」
「はい司令官。城壁が突破された時の備え、若しくは後退時の盾役としても使えるように、でしょうか」
「兵員としては如何ほどの規模になろうか?」
「斥候の情報からすると前線に展開している兵員は多く見積もっても約6千程度との事です」
偵察将校オズマ・ドーラン中佐が報告。
「プロフィットとアープの軍勢分にしても少ないくらいか? 魔導国のポリシックやオーバハイム勢は加わっていないのか?」
「元々は敵地ですし、不慣れもあって後詰めに回っている可能性も高いですね。この国境部隊では我らの進行速度を極力遅らせて、アープ市―ポリシック街道線辺りを絶対防衛線として構築するべく主力を集結させているのでは?」
「魔法攻撃を考えると魔族は厄介な相手だ。魔法剣士の数は我ら人間族を凌駕している」
「その分、と言うと語弊もありますが、総兵員数は少ないのが特徴です。魔導士と歩兵・騎馬との連携で対応が可能でしょう」
「では司令、初手はどう動きましょうか? 1万かそこらなら明日にも動かせますが」
ドーランの報告からセロテックがこれからの方針を訊ねた。
「うむ、総勢が多くても6千ならば正面戦闘員は4千もおるまい。こちらはまず1万を繰り出し、あの国境線の城壁と砦を攻撃しよう。カタパルトやバリスタをを前線に押し出し、弓兵との同時遠隔攻撃を喰らわせる。防衛線を突破したら後続の第二陣1万5千を侵攻させてプロフィットやアープ等、周辺の都市を包囲・封鎖して、残りの2万を以て一気に南を目指す」
「本国からも、アンドロウムより先に『必ずやオデの港を奪取せよ!』と催促されております。アデリアも魔導国も総力戦ですし慎重さはもちろん必要ですが」
「抵抗は激しかろう。だが所詮は多勢に無勢、連合したとて帝国と我国どちらか一方ならば拮抗もしようが二正面で持ち堪えるほどの兵力には足りていない」
「仰る通り。我が軍はここを突破して中南部まで侵攻し、南部への主要街道を抑え、本国に残る3万を投入すれば東方を除くアデリア、状況によっては魔導国をも手中に収める事が出来ますぞ」
「よし、作戦開始は明朝7時とする! 全隊に通達し、出撃に備えよ!」
「はは!」
「奴らを調子に乗らせないためにもこの国境線、砦も防壁も迅速かつ徹底的に叩き、元の平原、荒野に戻してやるのだ!」
ははー! と笑みを浮かべた幕僚たちが応答し、盛り上がる皇国軍司令部。それはそのまま兵の士気にも伝わっていくだろう。
悲願の不凍港獲得。その大目標に向かってポータリア軍は明日の朝7時に龍海たちが布陣する国境防衛軍陣地に対して侵攻を開始する。
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