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状況の人、最終決戦へ
状況の人、開戦せり1
しおりを挟む運命の朝は、深まった秋の頃にしてはあまり肌寒さを感じない、そんな日和であった。
ポータリア軍の作戦参加約1万人の兵は、概ね午前4時ごろまでの仮眠を終えて7時開始の侵攻の準備をし始めた。
戦力としては自軍の方がかなり有利であるのは分かってはいるし、それほど焦りを感じることもないが、絶対に死なないと決まっているわけでも無い。そんな思いの者が多いから、昨晩の作戦前の振る舞い酒には多くの者が群がり、これが末期の酒になるやもと言う思いを頭の片隅に残しながらもお互いに鼓舞し合うなど、士気は盛り上がっていた。
白み始めた東の空がより明るくなるころ、朝食を済ませた後に防具を身に着けて持ち場に歩く、予備役で徴兵された盾役を担当するジック・パラン上等兵。
彼は壁盾を抱えると、指示された第四投石器隊前に出て、進軍の号令が下令されるのを待った。後、一時間弱で作戦が発動される。
「あの……」
不意に声を掛けられた。ジックは反射的にそちらに目を向けた。
「すみません、ここって第四投石器隊でよかったですか?」
声を掛けて来たのは、身体こそジックと同様に身長190cm越えの逞しい体躯であるが、その表情はまだ二十歳前のあどけなさを残す青年だった。三十に差し掛かろうとする自分とは一回り下の世代だ。
ジックは彼がその雰囲気から、実戦は今回が初めてであろうなと、すぐに感じ取れた。
「ああ、そうだが?」
「あの、俺、ウェプ・ディスト二等兵といいます。こちらでお世話になります」
「ん? 昨日の編成時には居なかったんじゃ?」
先日、担当の第四投石器隊が緩衝地帯入りしたので、射程内に前進するまでジックら盾役が文字通り盾になる訳だが、編成は昨日に終っていたはずである。
「はい、第二投石器隊と言われてたのですが、第四の方が真ん中に近いから応援に行けと……」
「応援て……班長! ちょっといいですかぁ!」
ジックは盾役班の班長ナイロ軍曹を呼んだ。
ナイロ軍曹は「なんだぁ?」と若干面倒くさそうに答えながら、こちらにやって来た。
「こいつ、二番隊からの増援だ、と言うんですが」
「あ? 聞いてねぇなぁ。まあ人手が増えるのはいいけどよ。てかおまえ……」
「ウェプ・ディスト二等兵と言います!」
「おう、ディスト。二等兵か? おまえ実戦は?」
ナイロはウェプの経歴を聞いた。因みにジックは初徴兵時に属国の反体制武装勢力の鎮圧で戦場に立ったことがある。
「あ、いえ……実は自分は、今回が初めての徴兵で……」
「二番隊の班長といやベクトだったか? あの野郎、言い訳こいて新人押し付けようってか?」
「う……」
新人の足手まとい呼ばわり。実戦ではよく聞く話ではある。今でいえばハラスメントの類ではあるが、右も左も分からない新人のために古参が足を引っ張られるのは命に係わる事でもあるので、嫌がられるのは分からないでもない。とは言え、その古参も新人の頃は有ったワケで……
「ジック、お前付いててやれや」
「おれが? おれァ予備役ですよ? 新人の教育なんて」
「一応、上等兵名乗ってんだ。部下がいたっていいだろうが? 頼んだぞ」
班長は投げやりに右手を上げながら持ち場に戻っていった。
――やれやれ……やっている事はベクト班長と同じじゃないか……
と嘆息するジック。
今回の作戦のために徴用され、基礎訓練と行軍でようやく勘を取り戻してきたばかりだというのに、とジックは肩を竦めた。とは言え……
「あの……」
デカい形して不安そうにしょぼくれるウェプを見ていると、自分が新兵だった時の頃を思い出さざるを得ない。ジックは改めて盥回しな新人に向き合う。
「ウェプ、だったな? いつ入営したんだ?」
「一カ月前です。基本教練を受けた後、すぐ出動命令が掛かりまして……」
「じゃあ盾役としての訓練は?」
「壁盾の持ち方くらいしか。お前はガタイがいいから盾役向きだってだけ言われて」
「変わってねぇなぁ」
自分の頃と変わり映えの無い所属・適性の選考方法に肩を竦ませた上に、口がへの字に曲がるジック。もっとも軍のような大きな組織が指向や方針を変えるのにどれほどの手間・時間が必要かは、庶民に過ぎず学も無いジックと言えど何となく理解はできた。ま、それはともかく。
「ウェプよ? もうすぐ進軍が始まるからな、あれこれ一から十まで教えてる暇は無ぇ。とにかく周りと同じ行動を取る事だけ考えな。必要な時はその都度指示してやっから、そこは何も考えずに従え」
「えと……同じ行動だけ考えて、指示を受けたら何も考えるな、ですか?」
「真逆だと思うかもしれんがな。まあ、それ繰り返しゃあ、そのうち身体が勝手に動くようになるさ」
「勝手に、ですか? 何も考えなくても?」
「それも生き延びたらの話だ。祖国のためとか、皇王陛下のためとか考えるのはもっと先の話でいい。最初は生き延びるのが目的だ」
「はあ……」
「生き延びることが第一だ。生き残らなけりゃ国への奉公も親孝行も無いさ。まずはそれをクリアしてから次のステップに行こうぜ?」
ブアアアァー! ブアアアァ~!
ジックがウェプの肩を叩いて励ますと同時に、待機する皇軍兵に向けたラッパの音が鳴り響いた。進軍準備のラッパであった。
「前進! 前へー!」
パッパッパ~! パッパラパッパッパァー!
進軍ラッパが鳴り響く。行軍の第一陣総員1万人の進撃が開始された。
前衛の装甲歩兵が前進を開始する。次いで槍や剣を持った機動力重視の兵の列。そして弓兵や、ジックやウェプが守る投石器やバリスタが進む。
ザ! ザ! ザ! ザ! ザ! ザ! ザ! ザ!
ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ! ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ!
数千の平原を踏む足音。それに伴い、着込んだ甲冑に張られた金属の触れ合う音が周辺の山に木霊するほど響き渡る。
ドォーン! ドォーン! ドォーン! ドォーン!
後方では歩調に合わせた打楽器――大太鼓が打ち鳴らされた。ダイブ平原はそれらの音が合わさり、そのリズムに合わせるように兵たちの戦意は高まり、異様な雰囲気、オーラの様な物を発し出す。
味方から見れば頼もしく、敵からすればこの上ない恐怖。古参兵が「この風、この肌触りこそ戦争よ!」とか言い出しそうだ。
これが初陣となるウェプもその胸の内が緊張感を押しのけて、高揚感が湧き上がって来るのが分かった。代わりに恐怖感が段々と形を潜めていく、そんな感じであった。
先頭は緩衝地帯の2/3、残り300mラインを通過した。もう100mも近付けば弓兵同士の打ち合いが始まる。
「もうすぐ弓の射程に入る。そのギリギリでカタパルトを据えて攻撃を開始する。その時に飛んでくる矢からカタパルト要員を守るのが俺たちの任務だ」
ジックがウェプにアドバイス。
「射程外から狙えないんですか?」
「大型のトレビュシェットなら弓の射程外から狙えるが、このカタパルトは可搬式だからな。そこまで大きくは出来ないし射程も短い。でも今回のアデリアの砦や城壁くらいはこれで十分だ。200mなら70~80kgの岩や鉄球を当てられる」
彼らが守っている皇軍謹製の投石器は据え置きのトレビュシェットほどでは無いが、可搬式ではかなり大型であった。重り式を採用し、ミニトレビュシェットとでも(語弊アリアリ)言えるか? これを一基当たり10人前後で運用しており、ジックらは盾役と言うより護衛的に一基につき4~6人ほどが張り付く。
投石器の使用に関しては照準なり移動なり調整・修復も含めて技術的経験値が必要とされ、皇国軍は彼らを重用していた。攻撃を受けた時も自らの手で修理修繕してしまう、正に職人気質がそれを裏付けていた。
それ故、彼ら用の盾役は最前線で活躍する連中と同様に重視されていた。例え投石器本体が破壊される事が有っても、貴重なノウハウを持つ彼らだけは無事に撤退させなければならない。
しかし……
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