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状況の人、最終決戦へ
状況の人、開戦せり2
しおりを挟む「打って来ないな……」
ジックが呟いた。
前衛は既に敵弓手の射程に入っているはず。だが迎撃が来ない。
「放てー!」
そうこうしている内に友軍の弓により支援攻撃が始まった。
ザァ――――!
一斉に放たれた皇軍の矢は、正に雨霰のような音と共に城壁内のアデリア兵に降り注がれた。
「投石器、弩砲攻撃開始ー!」
攻撃命令が下令された。
「撃ぇ―!」
各砲長の声が飛ぶ。同時に、
バシュゥー!
ヴオォォン!
平原に並ぶ総計数十基の投石器、弩砲が次々と石球や鉄球、巨大な矢、槍などを、文字通り矢継ぎ早に打ち出していった。
ジックらが守る投石器隊は投石器4基からなる小隊である。
そこから放たれる石球や火球によって、アデリア国境の城壁は次々に着弾の爆煙を上げて削られていく。
バカッ!
ドゴォ!
ズドォーン!
バリスタの大矢によって削られ土煙を上げる城壁。石球の直撃を受けて粉砕される敵塹壕の馬防柵。新兵にとって初めて見るカタパルト・バリスタの攻撃。平原の凹凸のある路面にもかかわらず、状況に合わせて本体の足場を調整して照準を決め、高確率で命中させるカタパルト要員のスペックに、ウェプは見惚れたくなるくらい舌を巻いた。
「重装甲歩兵隊前へ!」
最前線の重装兵に前進命令。横隊に並んだ重装兵が盾役の壁盾ほどでは無いが大きな盾と槍を構えて前進を開始する。
ボン!
ボンッボン!
更に前衛盾役に守られながら、魔導士たちの火球・火炎魔法による支援攻撃が始まって重装兵の前進を助ける。
そのまま前進を続ける重装兵。だが彼らが残り100m内に踏み込み、もうすぐ突撃に入るというところで、
ヒュバババババ!
アデリア兵が城壁から身を乗り出して大型のクロスボウで反撃に出た。更に、
バババババ!
その後ろから弓隊の斉射も始まった。
ザ――!
「来るぞ!」
班長ナイロ軍曹の警告が飛ぶ。
ジックらも左右に散らばり、それぞれの砲兵たちの前に並んで壁盾を上方に向けた。
カンッカン!
タタタン! カンカン!
矢が注がれてきた。ウェプも壁盾を抱え、飛来する矢から砲兵たちを守る。
――ホントに……飛んでくるってより、降って来るんだな……
ウェプは、アドレナリンがいつ噴き出してもおかしくない状況下で、何か妙に気が落ち着いてしまった。盾がしっかり矢を止めてくれているおかげであろうか? 砲兵たちの見事な砲撃に信頼感が増したせいだろうか? その砲兵たちはウェプらに守られながら次弾の準備を急いでいる。自分達盾役を信じてくれているのか、動きの衰えない砲兵たちを見ていると、自分が役に立っている、と言う満足感が芽生え始めてきた。
「盾出せー! 防御陣形!」
最前衛の重装兵は盾を前面に左右の兵と密着した。それはまるで約300個の盾による横長の壁の如し。弓兵や魔導士の攻撃により、壁から身を乗り出して迎撃していた敵兵は押し返されて鳴りを潜めてしまっている。歩兵進撃の好機だ。
「前へー!」
残り50m。魔導士による支援攻撃を受けながら、重装兵は突撃を開始した。
うおおおおぉー!
雄叫びを上げる重装兵。重い装備をものともせず、あっと言う間に城壁に辿り着く。
城壁は国境を示すだけの高さ概ね2m。高いところでも2,5m程度。大きな盾を立てかけてそれを足場に一気に乗り越える重装兵たち。ところが……
「え!?」
重装兵は目を瞬かせた。先ほどまで自分達に射かけていた兵たちが弓やクロスボウを抱えて200m強先の、第二防衛線の向こうへ全速力で逃げていくのだ。
下に降りてみた。そこで重装兵はまた首を傾げたくなった。城壁の内側には迎撃の弓手らの足場となる高さ1m程度の踏み台が壁に沿って並んだままなのだ。普通は撤退と同時に倒すか壊すかでは無いか? 敵に足場を残すとか、ずいぶん間の抜けた話だ。おかげで楽に降りられたが。
改めて前方を見て、連中が逃げた第二防衛線を見据えると、その壁の窓から覗く杖の様な物。
――弓? いや、クロスボウの狙撃か? だがこの距離と重装甲なら!
重装兵は第二陣に盾を寄越すように指示しようとした。が、その時、
ダアァーン!
大きな炸裂音が聞こえた。それと同時に、カン! と言う音と共に胸部に強い衝撃を感じた。
――矢が……当たった? でも、矢なんか……見え……ごぶ!
正体不明の何かに肺を抉られた重装兵は、激しい吐血を起こした後、その場に崩れた。
ダダダーン!
ダダダダダダダーン!
「な、なんだ!?」
ジックの耳に、魔導士が百人一斉に爆裂魔法を放ったような音が届いてきた。前線の方を見る。
「上等兵どの! 歩兵が倒されて!」
ウェプの叫びに目を凝らすジック。城壁をよじ登った途端、あの破裂音と共に倒れる兵、兵、兵。
更に、一度はアデリア側に乗り込んだ兵たちが泡を食ってはい出して来たと思ったら、そのまま倒れて壁の下に転落していく。
何が起こったのか確かめようとしたのか、重装兵の一人が昇り始めた。
で、頭が壁から出た瞬間、
カアン!
そんな音を響かせて落っこちて来てしまった。
何事か? 何が起っているのか?
ジックもウェプも皆目見当がつかなかったが、それは壁際まで前進していた歩兵たちも同じだった。
――壁の向こうで一体何が?
などと逡巡していると、城壁の上から百人近い敵、アデリア兵が顔を出したのが見えた。
――反撃!? いやしかし、何だあの手に持っている物は? 剣じゃない。持ち方からしてクロスボウ……いや違う、何だア、レ……
バンッバンッバンッバンッ!
ババンッ! バンッバン!
さっきの破裂音だ。更に先端からは、一瞬ではあるが鋭い炎が噴き出している。
あの音はあの得物から出ていたのか!? そう瞬時に判断するジック。と、そこまでは良かったが、その音がするたびに歩兵がバタバタと倒れている、これには理解が及ばなかった。
壁に取り付いた歩兵はほとんどが倒され、折り重なって沈んでいく。
バババン! ババ―ン!
次の攻撃は魔導士に向けられた。先ほどの音がまた平原に鳴り響く。
「防御態勢!」
魔導士を守っていた盾役が密集して盾を前に防御する。しかし、結果は同じであった。やはりあの炎光と音が響くと盾役も魔導士も次々と倒れていくのである。
パシ! バチン!
ジックの近くで更に妙な音がする。
パァン!
投石器の本体の一部が音と共に弾けとんだ。地面の土もあちこちで弾けている。
――矢? いや、礫か!? それとも火球弾!?
しかしそれらなら目に見えるはず。だが何も見えない。
バイィン!
「うわ!」
派手な音を出して、再び投石器本体が弾かれ、木片が砲手たちに降り掛かる。
――ま、守らないと!
わけが分からない。しかし、これは間違いなく敵による何らかの攻撃だ。その証拠に投石器のあちこちが損傷している! これが砲兵に当たったら!?
ジックは盾を立てて砲手たちの前に立った。と同時に、
パァン!
盾に衝撃が走った。思わずよろけそうになるが懸命に踏ん張った。踏ん張って盾を見ると出口が弾けるように抉られた穴が目に映った。
――この距離で貫通!? バカな! 前面に鉄板が張られているのに!
しかし何かが飛んで来ている。それも目にも留まらぬ速さで、この盾を貫く威力で。それは確かだ。
「伏せろぉ!」
ジックは砲手を伏させ、その前面に盾を持った。ウェプもそれに倣う。
周りと同じ行動を取れ! と教えられた通りだ。
「後退だ! 投石器の後ろに隠れろ!」
ジックは投石器本体も盾にしようとした。砲手たちを投石器の影に誘導する。
更に盾を斜めに構えて弓矢等、上からの防御にも対応して前方を睨む。
すると……
――なんだ?
空を飛ぶ何か黒くて細長い物体が彼の眼に入った。
今までの攻撃は目に見えなかった。しかしこれはハッキリ見える。弓矢ほど、いや、もっと遅いかも? どちらかと言うと投石に近い……ジックの胸内に猛烈にいやな予感が走った。
そしてその次の瞬間、
ドッガアアァァン!
一発で鼓膜がイカレそうな爆発音とともに腹部に強烈な衝撃を受けてジックの意識は飛んでしまった。
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