165 / 197
状況の人、最終決戦へ
状況の人、開戦せり3
しおりを挟む「おおお! 当たったぞ! 投石器が一発でブッ倒れよったわ! わっはっは!」
物見櫓の上で、龍海から借りた双眼鏡を除きながらシーケン軍指揮官ウエルド男爵は興奮を隠さず、燥ぐような大声で豪快に笑った。
「壁から大体200mちょいか? 一発目からよく当たったな~。ようし、小銃擲弾班! 各個に砲撃開始! 攻城兵器中心に狙え!」
下から「了解!」の声を聞き、再び双眼鏡で平原を眺める龍海。
ドカーン! ドオン! ドゴォーン!
城壁からの06式小銃擲弾による砲撃が始まった。ロケットランチャーや迫撃砲等に比べると正確さは当然低下するが今の段階では十分だ。直撃できなくても周辺の兵力を削いで無力化できればいい。
ドォン! ドガン! バッカーン!
擲弾のつるべ撃ちが続く。直撃した攻城兵器は少数ではあるが、とにかく担当砲兵が死傷、若しくは逃亡していて事実上壊滅状態だ。
「シノノメはん、打って出てええですかの?」
「ああ、通常兵装でも優位であるって思いこませたいからねぇ。ただし、洋子の指揮下で宜しく」
「承知! おう、クラウド大佐!」
「は!」
ウエルドが後ろに控えていた副官のハブ・クラウド大佐に下命。
「歩兵連隊はサイガの姐さん指揮下で打って出て、皇軍の外道ども追撃したれ! 武器捨てて降参したもんはそれ以上の虐待は無しじゃ。姐さんの意向じゃけぇの、気を付けぇ」
「ポータリアの弓が届くとこまでは行くなよ? 俺たちがやってるのはあくまで防衛戦争だからな? 必ず生きて戻って来い!」
「了解いたしました、では!」
クラウドは勢いよく敬礼した後、櫓から降りて行った。
「気合入ってんねぇ。小耳には挟んでたけど、ポータリアには結構な恨みがあるようだなぁ」
ウエルドにしてもクラウドにしても矢鱈と目がギラギラしている感じを受け、龍海は確認も兼ねてウエルドに聞いてみた。
「先の戦ではポータリアからの支援があったんはご存じでっしゃろ? それ自体は別にまあ、有り難い話なんですがのぅ。連中それを鼻にかけてわしらを格下に見とるんですわ。そんでプロフィットの町でも物壊したり、暴力沙汰やら強姦事件犯してもまともに裁けんかったりしてましてのう」
「ロイも言ってたなぁ。 捕まえる事も出来ないのかい? 治外法権みたいな?」
「それに近うおますな。ポータリアに逃げられたら、引き渡し要求しても無しのつぶて。運良くこちらで収監しても外交官が、ポータリアの法で裁くっちゅうて連れて行きよるんですわ。国に帰れば当然、放免やし」
「そりゃあ……腹立つな。なるほど士気が高いわけだ」
「積年の恨みっちゅうやつですわ。おまけにシノノメはんには、とんでもねぇ威力の異世界の武器用意してもろて、みな感謝しておりまっせ」
「ああ」
事ここに至り、龍海は腹を決めていた。
以前、魔導国のサミットで示した兵力の配置。通常兵力の8割強を東方に向かわせてアンドロウムを撃退。そしてポータリア戦線はシーケン侯軍と魔導国のオーバハイム軍を主力とし、近代兵器を貸与してこれに当たるというものだ。
龍海はこの一ヵ月間、再現による兵器の生産をフル稼働した。
問題のMPの消費と回復時間。今までのMP消費に対して回復にはどれくらいかかるか? これまでの消費と回復サイクルの記録から、通常時にも回復――魔素の吸収は行われているが、やはり睡眠中が一番それが早いことが分かっていた。仮にすべての魔力を消費しても一時間の睡眠で限界数値の20%が回復する。睡眠の質にもある程度左右されるものの、大体6~7時間も十分に眠れば翌日にはMPは完全回復するのである。そのペース自体はこちらの魔導士らと大差は無い様だが、龍海の場合は最大値が桁外れに大きいだけに、正にチート。女神さまに感謝。
会議でも提案した2個中隊規模の選抜兵約500名に加え、東部への支援隊1個中隊200名。彼らを完全に近代兵器による武装および機械化するために、龍海は火器と車輌を生産していたのだ。生産がてら、ポリシック領の深いところで装備の操作を覚えさせるため、700名に徹底的な訓練を受けさせた。
もちろん一カ月程度の短期間では一人前、とまでは行かない。基礎的なところを教えて後は実戦で鍛える覚悟であったが、先ほどの件もあってか特にシーケン軍の士気は非常に高く、近代兵器を使いこなせるまで必死に訓練してくれたのは嬉しい誤算だった。
更に、自分にブーメランが来ないように、当初は火器の乱用・乱発を控えた事で、ポータリア軍は近代武器に関しての情報はほぼゼロ。当然敵は対応策を微塵も取っていなかったと言う事も大きかった。まあ全くの結果論だが。
「とは言え本来この世界にゃ存在しないもんだからな。事が終ったら全部回収させてもらうけどね。さてと、洋子? 聞こえる?」ザッ
龍海は通信機で洋子を呼び出した。
「感度良好よ。何?」
「ついに勇者さまの出番だ。男爵んとこの連隊が付くから先導してくれ」
「……あたしの好きにやっていいのね?」
「勇者はお前だ。おまえの思う様に好きにやって来な! 後始末が要るならいくらでもやってやんよ」
「わかった、ありがと。城門開けー!」
洋子の号令に頑強に閉じられていた城門の扉が解錠され全開された。
ブロン、ブロロロロ……
洋子を乗せた、イーミュウが操縦するフルオープンの高機動車が城門を通過する。
50mほど進むと一旦止まり、シーケン軍の歩兵を中心とした2千名が高機動車中心に左右に広がる展開を始めた。
「戦場にいる全てのポータリア軍に告げる!」キーン
高機動車に取り付けた拡声器のマイクを握り、洋子は大声で警告した。
「だ、だれだ?」
「わからねぇが……女の声だ、な?」
皇軍の砲兵の一人が遠眼鏡を取り出して確認した。着弾観測員か何かだろうか?
「間違いない、女だ。しかも……若いな、17~8歳くらいじゃないか?」
「はぁ? 小娘じゃねぇか!?」
「ああ、妙な荷車の上に乗って……増幅魔法かな? 拡声魔道具にしちゃ小さいが」
「そんな小娘が何を?」
ポータリア兵たちは、声を上げる洋子を若干見下す様な心持で耳を傾けた。それを知ってか知らずか洋子は続けた。
「これから勇猛なる我が軍がこの平原を掃討します! 降伏する者の命は保証しますが刃向かって来る者、武器を捨てない者は容赦なく討伐します!」
「なんだとぉー!」
「降伏はハンカチでも下着でもいいから白い布を旗として降ればよし! それ以外の行為は今日が自分の命日になるものと思いなさい!」
――言うね~
「うるせー!」
異議あり! と言わんばかりの声がポータリアの方から飛んできた。
「弱小アデリアの、それも小娘如きが調子こいてんじゃねぇ!」
「そうだ! こっちはまだ主力がこの3倍以上いるんだ! 偶さかまぐれで叩けたからって図に乗るなー!」
オオオー!
劣勢であったにもかかわらず、洋子のような小娘が先頭に立って指揮を執っていると分かり、その小娘に良いようにやられてしまった恥を塗り替えようと逆上しているのか、ポータリア兵は怒りをあらわにし始めた。よほどプライドを傷つけられたか?
しかしプライドを傷つけたのは己らも同罪である。何せ洋子サンは……
「小娘ぇ~? あたしのことぉ~?」
洋子さん怒りのオーラが爆発。周辺の魔素が洋子に収束し始め、付近の空気の色が赤に変色しているかの様相を呈し始めた。
「そんならかかってきなさいよぉ~! その小娘の力、見せてやんよぉ~!」
ハアァァー!
洋子が気合を入れ始めた。魔素の輝きと共に。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる