終末の吸血鬼

奥田たすく

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プロローグ 穏やかなディストピア

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 そもそも俺は死ぬほど時間を持て余していたのだ。
 朝の八時、何かの力に引っ張られているみたいにして駅へと入っていく人間の集団の中に俺は目当ての相手を見つけて、安堵と一緒に煙を吐いた。

 俺はこの辺じゃ一番高いビルのてっぺんに陣取っているはずだってのにタバコの煙が雲になって空へ飛んでいくことは無い。何事もなかったように、何事もなくなるだけ。そっと吹いた横風に煽られて視界に自分の髪が写りこんだ。中途半端に肩につくくらいの長さまで切ってしまった金髪は、もう二度と伸びることがないのを知って寂しくなって、なんとなくそのままにしている。

 吸血鬼が人間に恋をした。そこまでは、まあ、ままあることだ。少し違ったのはその吸血鬼が俺たちの王、全ての吸血鬼を統べるだけの力を持った吸血鬼だった、ということだ。王は人に恋をし、そしてそれは悲恋に終わった。王はもう二度とそんな悲劇を繰り返さないようにと、まじで余計なお世話なことにすべての吸血鬼にもう成長も繁殖も、吸血もできない呪いをかけた。あと俺たちに残されているのは緩やかに、飢餓で眠るように息絶えるだけだ。お偉いさんたちは王を説得しようと必死に動き回っているらしいが、モブの頭数にも数えられないような俺にはもう頑張れーと心の中で義務的に唱えることしかできない。

 いつかに見た人間の真似をして、ポイと落としたタバコの火を靴の底で踏み消した。途方もなく長く続く吸血鬼の時間の中で俺たちに課されたのは種の存続という使命だけで、それを失った今、俺にはアイツに会いに行くこと以外の暇つぶしが思いつかなかった。
 俺はそのまま横になって空を見上げ、アイツが仕事から帰ってくるまでの暇つぶしを考えた。


 吸血鬼が人に恋をすることと、俺がお前に恋をしたこと。どっちの罪の方が重いんだろうか。

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