終末の吸血鬼

奥田たすく

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第一章 再会、そして日常

1.再会-1

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 バイト帰りに寄った夜のコンビニの照明に、人知れず目を細めた吸血鬼がいる。生まれながらに黒い髪と瞳を持つソータはすっかり日本に馴染んでいるが、正真正銘ヨーロッパから渡ってきた物珍しい吸血鬼だった。ソータは長い手足を少し持て余す様な歩き方で缶ビールを一本掴んだあと弁当売り場の前に立つ。昨日は何を選んだのだったかどうしても思い出せなくて、溜息を吐きながら結局一番手前の弁当を手に取った。
 それから、いつも通り必要最低限の電灯に照らされた帰り道を歩く。最後の曲がり角はあくびをしている間に足が勝手に右折した。カン、カンと音を立てながら薄っぺらい金属製の階段を上がって、あとどれくらいで自分は死ぬんだろうと考える。そんな生活を長いこと繰り返していた。
 この時までは。
 
「よっすよっす、元気してた?」

 ボロいアパートには不釣り合いなほど美しい金髪の、しかし肩より少し上くらいでバッサリと切られた斬バラ頭の若い男が彼の部屋の前に立っている。その軽い口調と同じ調子で手に持つタバコの煙が揺れた。白いワイシャツに黒のスラックス、なのに足元は裸足という彼の出で立ちにソータは一瞬眉をひそめたが、あまり顔に出るたちではなかったからすぐに持ち直す。止まっていた足を踏み出しながらポケットから鍵を取り出した。

「おーい、十年ぶりの再会だってのに相変わらずつれねぇなぁ」

 取り繕うようなケラケラとした彼の笑い声に聞き覚えがなくて、ソータはそっと視線を投げかける。彼はそれを目を細めて避けたので、ソータはとりあえず彼の言葉を訂正した。

「32年ぶりだ」
「すご、なんで覚えてんの」
「アカデミー卒業してから会ってないだろ」

 自分の家の扉を開くと年季の入った金切り音がして、金髪の男は顔を歪めて耳を塞いだ。それにソータは「ああ」と一人納得し、謝罪を口にしながら彼の持っていたタバコを握り潰して消した。

「タバコなんて吸うんだな」
「ん。 かっこいいデショ」
「入る? レオ」
「……うん。 入る」

 レオと呼ばれた彼が部屋に入っていくと、ソータは今度はできるだけ音が立たないように扉を閉めた。レオもまた、吸血鬼である。
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