少女は6日間の自由を旅する

唯野絵

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2日目①

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 屋根の隙間から差し込む光で目を覚ます。時計がないから正確な時間は分からないが、おそらくまだ日が昇ってすぐくらいだろう。
家の裏手にある井戸で顔を洗い、昨日の残りのパンを口に押し込む。

 もしかしたら毒霧が消えているかもしれないと淡い期待を胸に村の外に出てみたが、やはり霧は消えていなかった。試しに霧の中に手を突っ込んでみるが、手先からしびれが広がっていく感覚に慌てて手を引っ込める。
やはり進めそうにない。諦めて村に戻ろうとした時、霧の奥で何かが動くのが見えた。

「あれ?君、この村の人?」

 膝丈まで破られた青いドレスに泥まみれの長靴、胸元に白いバラのブローチを付けた、ちぐはぐな格好の少女が毒霧から姿を現した。
腰まで伸びる金髪は何日も洗っていないのかべったりと首や服に張り付いており、ドレスも木の枝に引っ掛けたのか、ところどころ破れている。
「あなたは誰?どうして毒霧の中にいられるの?」
夜空のような深い青色の瞳の少女はにこりと笑って言った。
「私はレイ。ここからずっと遠いところから来たの。この毒霧は異常耐性のポーションで防げるよ」
そう言って、レイと名乗る少女は丸いガラス瓶に入った赤色の液体を見せた。ポーションと呼ばれるそれは獣の血のように赤黒くドロッとしていて、人が飲むものには見えなかった。

「あれ、これ鏡文字?」
 レイが村の入り口に建つ看板を指さして聞く。看板には大陸文字で『始まりの村』と記されていた。
「これは大陸文字だよ。始まりの村って書いてあるの」
 大陸文字はこの国のほとんどの場所で使われている。大陸文字を知らないとは、よほど辺境の地から来たのだろう。
「ううん、違うよ。これは鏡文字」
レイは木から細い枝を折り、地面に文字を書く。それは私が知っている文字とは左右が逆転していた。
「これが大陸文字。あの看板に書かれているのは……まあいっか。そういえば、君の名前は?ここで何してたの?」
私が困惑していたからか、レイは話を変えた。

「私はこの村の住民。名前はない。毒霧のせいで村から出られなかったの」
レイは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐにまた笑顔に戻った。
「ここを出たいの?」
出たい。出たいに決まっている。約5年間もの間、ずっとこの村で殺されるだけの生活だったのだ。いくら生き返るといっても、殺される恐怖も痛みもすべて本物だ。こんな場所、早く出ていきたい。それに――

「出たい。一人は寂しい」

 誰もいない村。親も隣人もいないこの場所に、私はずっと一人だった。
「そっか。じゃあいっしょに行こう。はい、これ飲んで」
満面の笑みでポーションを渡される。どうしても飲む気になれないが、村の外に出るためには飲むしかない。なるべく液体を見ないようにしながら一気に飲み干した。ドロリと喉を通るそれは甘酸っぱくて案外おいしかった。
「それじゃあ早く行こう!」

 レイが私の手を引いて森に入る。今度は霧の中でも平気だった。
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