失踪した婚約者が、別の姿になって現れました

秦朱音|はたあかね

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第3話 不機嫌な殿下

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「……で? 貴方様はライオネル王太子殿下ご本人だと。そう仰るのですね」
「そうだ!」
「なぜそんなお姿に? どこからどう見ても子供に見えますが」
「お前こそおかしいだろう! エレナはまだ五歳のはずだ。そんな大人になって、しかもその瓶底メガネと前髪はどうした!」
「……はっ!!」


 ああ、油断していた。
 この図書館ではいつも誰にも見られないのをいいことに、瓶底メガネと前髪オールバックで過ごしていたのだった。慌てて眼鏡とヘアバンドを外したが、前髪には既に癖がついていて、そのまま空高くそびえ立っている。


「……どうやら俺は、時を越えて未来にやって来てしまったようだな」
「そんなことありますか? もしかして貴方様はライオネル殿下ご本人ではなく、殿下の隠し子なのでは……っ!」
「隠し子とは失礼な! 私はライオネル本人だ。母から聞いたことがある。王城裏の森に住む魔女は、時を超える魔法を使えるのだという」
「森に住む魔女……?」


 目の前にいるチビ殿下の言うことも、あながち嘘ではなさそうだ。
 見た目は子供の頃のライオネル殿下そっくりであるし、どうやらこの子は十九歳になった私のことを初めて見たようである。

 森に住むという魔女が本当に実在するのなら、チビ殿下がその魔女の力を使って、未来の世界に飛んできたということもあり得るのではないだろうか。

 犬猿の仲であるライオネル殿下とは最近ほとんど会話らしい会話もなかったのだが、このチビ殿下と喋っていると昔の殿下と喋っているような、懐かしさを感じる。


「殿下。とりあえず、森の魔女のところに行ってみますか?」
「そうだな。早く元の世界に戻らねばならない。急ぎ、森に案内しろ」
「……小さな子供のくせに、随分と上から目線ですね」
「前髪がそびえたっている者に言われたくはない!」
「ヘアバンドを取ったばかりですから、この前髪はすぐに落ち着きます」


 どうでもいい会話をしながら、私とチビ殿下は二人並んで森に向かった。
 ……はずが、森に入ったところでふと気が付くと、ライオネル殿下の姿がない。


「あら、殿下? どこに行かれたのです?」


 すると、遠く後ろの方から、殿下の甲高い声が響いてきた。


「エレナ! 歩くのが速すぎる!」
「あら、失礼致しました。ライオネル殿下の足が、私の想像以上に短かったようですわ」
「ふざけるな! 大人になったら、お前に俺の長い足を見せつけてやるからな」
「ええ、それでは楽しみにお待ちしています。今は急いでおりますので、殿下を抱っこして差し上げますわね」
「抱っこか……まあ、許す」


 しょうもない口論の末、素直に私の抱っこを受け入れた殿下と共に、私たちは森の奥まで進む。しばらく歩いたところに、殿下の言う通り古い小屋があって、中には明かりが灯っていた。


「ライオネル殿下、魔女の家に着きましたわよ」
「……」


 返事がないので顔を覗いてみると、殿下はすっかり私の腕の中で眠りこけてしまっている。

(眠くて機嫌が悪かったのね。やっぱり子供だわ)

 先ほどのふてぶてしい態度とは真逆の可愛い寝顔に、私の口からはクスっと笑いが漏れた。
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