21 / 23
13歳 しあわせになるための「I」ter
6
しおりを挟む
周りの人々が誰も気づかないくらいひっそりと駆けて行ったその人は、薄汚れたフード付きのケープから黒髪を覗かせていた。治安の良くないところから迷い込んでしまった孤児だろうかと一瞬思ったが、ここは貴族が多く訪れる通りだ。スリの可能性もある。
何より気になるのが、彼の身体からは黒い靄のようなものが出ていた。あれは一体何なのだろうかと顎に手を当てる。
ちらり、とアイテールはテディ達の方を見た。2人の会話はさらに盛り上がっているようだ。スケッチブックを取り出し、ドレスのデザイン案まで話し合っている。
「……すこし、様子を見るだけしておこう」
厄介ごとに自分から首を突っ込む気はないが、それを差し置いてもあの人影は怪しすぎた。
近くにいたメイドに一言声をかけ店を出る。すぐに従者が慌てて後を追ってきたが、手で制した。クリスティアが全力で逃げ出す可能性がまだある分、こちらに人手は割けない。食い下がる従者に「すぐ戻るから」と言い残し、半分逃げるように駆け出す。
コートの中に隠し持った小振りのナイフを確認し、先ほどの人影が消えていった細い路地へ足を踏み入れた。アイテールは剣術のついでに体術も習っている。ナイフ一本だけでもそこらのコソ泥には余裕で勝てる自信があった。
「……どこまで行った?」
路地はかなりの距離だ。高い壁に囲まれ、昼にもかかわらず薄暗い上に障害物も多い。突き当たりどころか、手を伸ばした先まで見えづらかった。
一歩大通りから外れただけで、纏う空気が全く違う。もしかすると、治安が悪い場所と繋がる抜け道があるのかもしれない。貴族が行き交う表の通りは絶好の狩場だ。
それにしても、この暗さ。このまま進むにはあまりにも危険すぎる。
「……光よ」
ボソリとそう言うと、アイテールの拡げた手のひらに球体の光が浮かび上がった。光魔法だ。
3年前から訓練の始まったそれは、アイテールは今でも明かりを灯す程度しか扱うことができない。光魔法の醍醐味でもある治癒が、全くもって使えないのだ。レシュノルティア家で時折すれ違うカール――クリスティアの家庭教師――にも時折助けをもらっているが、なぜか少しも進歩しないのだ。……クリスティアの得意魔法は水だが、もう光魔法も殆どマスターしてしまっている。
ぼんやりと光に灯され浮かんだ路地は、どこか薄気味悪く感じる。
「……あの人影……もう、かなり離れてしまったか」
障害物に邪魔をされながら、アイテールは慎重に路地を進んでいく。足音を立てないように、どこから襲い掛かられても撃退できるようにと意識を割いているからか、手のひらの光はゆらゆらと消えたりついたりを繰り返していた。
……集中が切れてきた。
路地はまだ続いているが、戻ったほうがいいだろうか。安定しない光を見ながら、ふうと息をついたその時。
「……、」
微かだが、話し声が聞こえた。
何より気になるのが、彼の身体からは黒い靄のようなものが出ていた。あれは一体何なのだろうかと顎に手を当てる。
ちらり、とアイテールはテディ達の方を見た。2人の会話はさらに盛り上がっているようだ。スケッチブックを取り出し、ドレスのデザイン案まで話し合っている。
「……すこし、様子を見るだけしておこう」
厄介ごとに自分から首を突っ込む気はないが、それを差し置いてもあの人影は怪しすぎた。
近くにいたメイドに一言声をかけ店を出る。すぐに従者が慌てて後を追ってきたが、手で制した。クリスティアが全力で逃げ出す可能性がまだある分、こちらに人手は割けない。食い下がる従者に「すぐ戻るから」と言い残し、半分逃げるように駆け出す。
コートの中に隠し持った小振りのナイフを確認し、先ほどの人影が消えていった細い路地へ足を踏み入れた。アイテールは剣術のついでに体術も習っている。ナイフ一本だけでもそこらのコソ泥には余裕で勝てる自信があった。
「……どこまで行った?」
路地はかなりの距離だ。高い壁に囲まれ、昼にもかかわらず薄暗い上に障害物も多い。突き当たりどころか、手を伸ばした先まで見えづらかった。
一歩大通りから外れただけで、纏う空気が全く違う。もしかすると、治安が悪い場所と繋がる抜け道があるのかもしれない。貴族が行き交う表の通りは絶好の狩場だ。
それにしても、この暗さ。このまま進むにはあまりにも危険すぎる。
「……光よ」
ボソリとそう言うと、アイテールの拡げた手のひらに球体の光が浮かび上がった。光魔法だ。
3年前から訓練の始まったそれは、アイテールは今でも明かりを灯す程度しか扱うことができない。光魔法の醍醐味でもある治癒が、全くもって使えないのだ。レシュノルティア家で時折すれ違うカール――クリスティアの家庭教師――にも時折助けをもらっているが、なぜか少しも進歩しないのだ。……クリスティアの得意魔法は水だが、もう光魔法も殆どマスターしてしまっている。
ぼんやりと光に灯され浮かんだ路地は、どこか薄気味悪く感じる。
「……あの人影……もう、かなり離れてしまったか」
障害物に邪魔をされながら、アイテールは慎重に路地を進んでいく。足音を立てないように、どこから襲い掛かられても撃退できるようにと意識を割いているからか、手のひらの光はゆらゆらと消えたりついたりを繰り返していた。
……集中が切れてきた。
路地はまだ続いているが、戻ったほうがいいだろうか。安定しない光を見ながら、ふうと息をついたその時。
「……、」
微かだが、話し声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。
宵のうさぎ
BL
異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。
しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。
漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。
「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」
え、後天的Ω?ビッチング!?
「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」
この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!
騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
※未完
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる