どうか『ありがとう』と言わないで

黄金 

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19 玉砕覚悟


「え………、なんて?」

 郁磨は思わず聞き返した。今なんと言いましたか?
 
「告白しようと思う。」

 ……………はぁ、ほんき?
 七組の劇を見終わりゾロゾロと第二体育館から人混みにまぎれて出ながら、ボソッと呟いた 紫垣しがき郁磨いくとは聞き返した。
 それにもう一度同じ返事が返される。
 告白って、勿論聡生そうにだよな?

「…………え~と、振られるの確定だと思うけど?」

「分かってる。」

 目が本気だ!
 静かな決意が垣間見えた。
 夏休みの間に聡生と千々石ちぢわ稜流いずるは付き合いだした。学校が休みであまり会えない間の出来事で、紫垣のショックは相当なものだったようだ。
 最近ずっと大人しく、郁磨がたまに遊びに行くパソコン部員が三組にいるので大丈夫かどうか確認したところ、なんとオタクと馬鹿にされるパソコン部員のグループに混ざっていると聞いて驚いた。
 紫垣には好きなアニメやゲーム、アイドルなどがいるわけではない。単に居やすいのだろうと郁磨は察した。
 パソコン部員には、最近紫垣は疲れることがあって、あまり騒がしいグループにいたくないようだから、仲良くしてあげて欲しいとお願いし、時々様子を確認していた。
 ちょっとその自信ありげな鼻っ柱が折れたらいいな!…くらいだったのに、完全に折れて修復出来ない紫垣に対して、郁磨はかなり後ろめたい気持ちになっていた。

 ………が。
 落ち込んでいると思ったら、告白ぅ?
 むむ、と郁磨は考えた。つまり玉砕覚悟で告白し、きっぱり振られてさっぱり乗り越えようと言うことだな?
 その思考回路が正統派すぎて僕には相容れない!
 とは思うが、紫垣はそれがいいのかもしれない。それにそうやって過去を綺麗に清算する行為には郁磨も賛成だ。
 だからこそ無自覚に幼馴染を好きだった紫垣に、態々聡生が好きなことを理解させたのだから。
 現実を知り、ちゃんと行動を起こせる紫垣は立派だと思う。自分の性格では到底無理。
 だから応援することにした。

「よし、僕もその方がいいと思う。聡生の呼び出し僕がやってやるよ。紫垣が呼び出したら千々石がついてくるだろうから。」

 郁磨が手伝うと伝えると、紫垣は緩く微笑んだ。元気は無いが笑顔が出たことに郁磨も安心した。

「よろしく……。流石に朝のバスの中では言えねーもんな。」

 うーん、確かに。そーいやコイツらバス一緒なんだな。大変だな、幼馴染も。

「いつがいい?」

「今日。」

「きょう!?」

 急だな!
 ………大丈夫かな?

「………あのさ、…………隠れて見ててくんない?」

 郁磨はポカンと隣を歩く紫垣を見た。付き添い告白なんてまるで女子の告白だなと思ったが、現在セーラーにスカート履いてる自分が言えたことではないなと思った。
 とりあえず文化祭は二日間あるので、最終日の方が片付けなどがあって千々石は忙しいはずなので、聡生を呼び出すなら明日の方がいいだろうと説得した。
 



 文化祭二日目。閉会式も終わり、各教室では殆どの片付けも終わり、委員の集まりに出ている千々石がいない隙を狙って聡生を呼び出した。
 時刻は十六時半。
 まだ片付けを行う生徒もチラホラといるが、千々石を待っている聡生は、当然のように学校に残っていた。
 聡生を呼び出した場所はパソコン室だ。
 パソコン部も文化祭の展示を行なっていたが、今は全ての電源が落とされシンと静まり返っている。
 花籠井かごい高校の告白場所としては、よく校舎裏や中庭の木の下などが使われているが、そんなある意味目立つ場所で目立つ紫垣が立っていれば、下校後の校内であろうと注目を集めてしまうに違いない。
 だから普段誰も来ないパソコン室を使うことにした。今は生徒全員タブレットが支給されている為、パソコン室の需要は少ない。ほぼパソコン部が集まる部屋と化しているので、ここに来る人間は滅多にいなかった。だからちょうどいい。パソコン室があることを知らない生徒が多いくらいだ。文化祭でもここまで見に来る人間は少なかった。

 そろそろ聡生が来る頃だろうと、郁磨は端っこの机の下に隠れた。違う教室で待っていると言ったのだが、紫垣に同じ部屋にいて欲しいと頼まれたからだ。
 ちょこんと座って待つこと五分。
 カラカラと扉が開いて聡生がやって来た。

「あれ?和壱は何でここにいるの?郁磨見なかった?」

 呼び出したのは郁磨なので、勿論聡生は郁磨がいると思ってやって来ている。

「………あぁ、うん。実は俺が聡生を呼び出してもらったんだ。」

「ええ?なんで?」

 そりゃ何でと思うだろう。毎朝一緒のバスで登校して来ているのに、態々呼び出す必要はない。
 うん……と歯切れ悪く相槌を打つ紫垣の声は聞こえるが、なかなか話し始める勇気がないようだ。
 僕はコレを聞いていていいのだろうかと緊張してくる。他人の告白でも緊張するものなのだなと思った。
 
「…………どうしたの?もしかして何か相談?」

 流石、幼馴染。紫垣の様子で何かを悟ったらしい。声しか聞こえないが、二人のごく普通の会話から様子が窺えた。

「うん、相談って言うか……。聡生に伝えたいことがあって、野波に呼び出してもらったんだ。千々石には聞かれたくないからさ。」

稜流いずるに聞かれたくないこと?」

 聡生の声はいたって普段通りで、最近名前呼びになった恋人の名前を何気なく出していた。
 だがきっと紫垣は聞きたくなかっただろうなぁと思ってしまう。聡生の言葉に何も返事を返さない紫垣から、なんとなくそう思ってしまった。
 
「あのさ……。」

「うん。」

 聡生は優しい。なかなか言い出さないでいる紫垣相手に、静かに待つつもりのようだった。
 暫く沈黙が続き、漸く紫垣が話し始めた。

「聡生は千々石と付き合ってるんだよな?」
 
「うぇ!?ぇえ!え、あ、う、うん。そう、だよ?」

 驚き上擦った聡生の声がパソコン室に響く。
 聡生と千々石が付き合いだしたことは、郁磨も紫垣も分かっていたが、本人達から直接報告を受けたわけではない。
 こっちも男同士だし言いにくいよなと、何となく聞かずにいたので、聡生も今ここでそれを言われるとは思っていなかっただろう。

 うう……、ちょっとだけ覗きてぇ~。

 しかし我慢だ。もし郁磨がいることを聡生にバレたら、全てが台無しになる。
 
「隠す必要はねーよ。知ってるし……。」

「………え。そうなの?あの、気持ち悪いとか思わない?」

「…………なんで?思わねーよ。」

 意外と紫垣の声は落ち着いていた。
 まぁ過去何人も彼女はいたのだから、恋愛初心者のような聡生より、本当は場慣れしていてもおかしくはない。

「だって、中学生の時、ラブレターもらって凄く嫌そうにしてたし……。男同士とか嫌なのかなって……。」

 暫く二人は沈黙していた。

「………ああ~、確かに。でもあれは男同士がとかではなくて…。…………あ~、もうっ!あれは聡生と遊ぶ時間をとられるのが嫌だっただけだよ。ただでさえ積極的な女子をさばくのも大変だったのに、なんかジワっとアピールしてくる男子が鬱陶しかっただけで……!」

 机の下で郁磨は必死に口を抑えた。男子のアピールをジワっとしてると評する紫垣に笑いそうになる。
 男子の方がねちっこいのかな?初耳だ。

「そうだったの?なんだ……、そうだったんだ。」

「あ~~、うん、そう。それでさ、彼女作ってたのも次々くる告白とか面倒だったから作ってただけで、………その、本当は聡生といたかったんだ。」

「……え?」

 よしっ!頑張れ!と郁磨は握り拳を作った。

「だけどモテたり彼女作ったりすると周りが羨ましがるし、なんか人より優れてるって気がして、結局聡生といられなくなったんだ。」

「俺と?」

「…………うん、聡生と。俺はさ、聡生が離れて行って初めて聡生が一番好きだって気付いたんだ。」

「……………。」

「聡生が好きだったんだよ。」

 聡生の息を呑む声が聞こえた。
 
「あ、聡生が千々石を好きなことは知ってるから、コレは俺の自己満足。気持ちを切り替えたくてスッパリ振って欲しい。」

「…………うっ………。」

 聡生の声がくぐもって聞こえることから、口を押さえでもしているのだろうか。ここで紫垣が聡生に抱き付いてたら……。いや、流石にそこまではしないかと思い直す。振られる覚悟で告白しているのだから。
 しかし紫垣は本当に真っ直ぐ育った人間だなぁと思ってしまう。

「ごめんな。こんなこと今言われてもな…。」

 聡生はどんな表情をしているのだろう。勇気を出して告白している紫垣は辛い顔をしていないだろうか。
 黙って郁磨は時間が過ぎるのを待った。

「……そんなふうに思ってくれてたなんて知らなかった。」

「うん、もっと早く言えば良かったって後悔してる。」

 紫垣の声がほんの僅かに震えている。

「…………そっか。いつも相談に返事して『ありがとう』って言われるたびに、実は俺苦しかったんだよ。」

 今度は紫垣が黙る番だった。

「お礼を言われるたびに、和壱が離れていくから、悲しかったんだ。……俺さ、和壱のこと好きだったんだよ。稜流と付き合ってるのでわかると思うけど、女性には興味がもてないんだ。一時期噂されてた通り、本当はゲイだし和壱のこと好きだったんだよ。」

「そう、なんだ……?」

「ふふ、そう。おかしいね。もっと早くお互い喋ってればよかったのかな。でも俺が今好きなのは稜流なんだ。………だから、ごめん。」

「…………、……………、………うん、俺の方こそ、ごめん。聞いてくれて、ありがとう。」

 二人の会話を郁磨は息を殺して聞いていた。
 聡生のことは好きだ。勿論郁磨の好意は友達としてだし、紫垣への評価は聡生より下だった。
 だけど今は早く紫垣の為に会話が終わって欲しいと思う。
 きっと苦しいだろう。

「こっちこそ、ありがとう。今の俺がいるのも和壱のおかげと思ってるよ。」

 聡生が穏やかに告げるお礼の言葉に、暫く間が開いた。そしてなんでもないように紫垣の明るい声が返事をする。

「…………そうか?とりあえず話はコレだけ。千々石には内緒な。」

「分かった。じゃあもうそろそろ戻ってくると思うし、先に行くな。」

「ああ、バイバイ。」

「バイバイ。」

 カラカラと扉が開く音がして、バタンと閉まった。聡生が出て行った。
 
 そうかぁ~実は両思いだったのかぁ。
 お互い一年生の段階で分かってれば、また違っただろうなぁと郁磨もしみじみ考えさせられる。
 郁磨から見て、聡生の恋愛感情は分かりにくかった。幼馴染に対する特別だと言ってしまえば、そうなのかなという感じもあり、それが恋心だとはハッキリ思えなかった。
 それに紫垣も自覚なさそうだったので、強カードっぽい千々石に郁磨は賭けたのだ。だから千々石の方に情報提供してたし、紫垣の方は負け込んできたから助言めいたことを教えた。郁磨からは全体像が見えていただけに、今は紫垣に対して後ろめたさがある状況だった。
 ヒョイと顔を出して机の下から紫垣の方を見上げると、紫垣は呆然としていた。
 声が僅かに震えていたから、泣いてやしないかと心配だったが、涙は出ていなかった。
 ゴソゴソと這い出して紫垣に近付く。
 イケメンな顔の前でフリフリと手を振った。

「おーい、大丈夫か?」

 色素の薄い茶色の瞳が郁磨の方を向いた。

「俺のこと好きだったって。」

「……そーだな。」

 肯定すると、紫垣はヘナヘナと座り込んだ。
 郁磨は少し考え座り込んだ紫垣の隣に座る。上から紫垣が震えているのが見えて、暫くは立ち上がれないだろうと思ったからだ。
 五時半までに持ち直してくれるだろうか…。壁に掛かった丸い時計を見ながら、郁磨はうーんと考える。
 人を慰めるのは苦手だ。
 浅く広く。それが郁磨の人との付き合い方だった。







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